「Gross National Happiness」「国民総幸福量」という言葉、
概念はある種、衝撃的なものだ。
GNPが中国に抜かれて慌てている前に、こういう状況下
だからこそ、もっと根源的なことに関心を寄せてもよいと思う。
実際、今回のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王と
新婚のジェツン・ペマ王妃の来日に対して、
多くの日本国民は大きな関心と好意的心象を抱いたに
違いない。
フェイスブックなどでも、「ブータンに関心を持った」、
「行ってみたい国、と思った」という感想が結構出ていた。
東日本大震災の直後から、ブータン国内では各地の寺院や
家々で、日本国民に対して祈りが長期間継続されてきたという。
ネパールと中国の間、九州とほぼ同じ面積の国土に
約70万人が暮らす国。
いわゆる経済的レベル、近代的発展度合い等に関しては、
日本とは比べられないほどの「違い」があるが
(「違い」と敢えて言う。「差」というのは「おこがましい)、
しかし、それは毎年3万人以上の自殺者を出しているこの国
における「個人として幸福感」においては、
比較すること自体、あまり意味の無いことに違いない。
結局、「幸福と感じる」ことに比較論は無意味だし、
対比してどうこう言うとしたらそれこそ「傲慢」以外の
何もでもないだろう。
ブータンと日本とを結ぶ「キーマン」の1人に、
故・西岡京治(けいじ)氏がいる。
1964年に海外技術協力事業団の農業指導者として
夫人とともに赴き、依頼、1992年に亡くなるまで
同国に深く注力した人で、1980年には、当時の国王から
「国の恩人」として同国での民間人に与えられる最高の爵位
である「ダショー」を授与されている。
1992年の逝去に際しては、国王および政府から
ブータンの国葬が行われ、夫人の意向により同国の地に埋葬
されたのだった。
今回の国王ご夫妻は福島県相馬市への慰問のほか、
国会での演説がまた良かった。
「天皇皇后両陛下、日本国民と皆さまに深い敬意を表します
とともにこのたび日本国国会で演説する機会を賜りました
ことを謹んでお受けします。衆議院議長閣下、
参議院議長閣下、内閣総理大臣閣下、国会議員の皆様、
ご列席の皆様。世界史においてかくも傑出し、
重要性を持つ機関である日本国国会のなかで、
私は偉大なる叡智、経験および功績を持つ皆様の前に、
ひとりの若者として立っております」
(中略)
「ブータン国民は常に日本に強い愛着の心を持ち、
何十年ものあいだ偉大な日本の成功を心情的に
分かちあってまいりました。
3月の壊滅的な地震と津波のあと、ブータンの至るところで
大勢のブータン人が寺院や僧院を訪れ、日本国民に
なぐさめと支えを与えようと、供養のための灯明を捧げつつ
ささやかながらも心のこもった勤めを行うのを目にし、
私は深く心を動かされました」
(中略)
「皆様が生活を再建し復興に向け歩まれるなかで、
我々ブータン人は皆様とともにあります。
我々の物質的支援はつましいものですが、我々の友情、
連帯、思いやりは心からの真実味のあるものです。
ご列席の皆様、我々ブータンに暮らす者は常に日本国民を
親愛なる兄弟・姉妹であると考えてまいりました。
両国民を結びつけるものは家族、誠実さ。
そして名誉を守り個人の希望よりも地域社会や国家の
望みを優先し、また自己よりも公益を高く位置づける
強い気持ちなどであります。
2011年は両国の国交樹立25周年にあたる特別な年
であります。しかしブータン国民は常に、公式な関係を
超えた特別な愛着を日本に対し抱いてまいりました。
私は若き父とその世代の者が何十年も前から、
日本がアジアを近代化に導くのを誇らしく見ていたのを
知っています。
すなわち日本は当時開発途上地域であったアジアに
自信と進むべき道の自覚をもたらし、以降日本のあとに
ついて世界経済の最先端に躍り出た数々の国々に
希望を与えてきました。
日本は過去にも、そして現代もリーダーであり続けます。
このグローバル化した世界において、日本は技術と
確信の力、勤勉さと責任、強固な伝統的価値における模範
であり、これまで以上にリーダーにふさわしいのです。
世界は常に日本のことを大変な名誉と誇り、そして
規律を重んじる国民、歴史に裏打ちされた誇り高き伝統を
持つ国民、不屈の精神、断固たる決意、そして
秀でることへ願望を持って何事にも取り組む国民。
知行合一、兄弟愛や友人との揺るぎない強さと気丈さを
併せ持つ国民であると認識してまいりました。
これは神話ではなく現実であると謹んで申しあげたいと
思います。それは近年の不幸な経済不況や、
3月の自然災害への皆様の対応にも示されています。
皆様、日本および日本国民は素晴らしい資質を示されました。
他の国であれば国家を打ち砕き、無秩序、大混乱、そして
悲嘆をもたらしたであろう事態に、日本国民の皆様は
最悪の状況下でさえ静かな尊厳、自信、規律、
心の強さを持って対処されました。
文化、伝統および価値にしっかりと根付いたこのような
卓越した資質の組み合わせは、我々の現代の世界で
見出すことはほぼ不可能です。
すべての国がそうありたいと切望しますが、これは
日本人特有の特性であり、不可分の要素です。
このような価値観や資質が、昨日生まれたものではなく、
何世紀もの歴史から生まれてきたものなのです。
それは数年数十年で失われることはありません。
そうした力を備えた日本には、非常に素晴らしい未来が
待っていることでしょう。
この力を通じて日本はあらゆる逆境から繰り返し立ち直り、
世界で最も成功した国のひとつとして地位を築いて
きました。
さらに注目に値すべきは、日本がためらうことなく
世界中の人々と自国の成功を常に分かち合ってきた
ということです。
卓越性や技術革新がなんたるかを体現する日本。
偉大な決断と業績を成し遂げつつも、
静かな尊厳と謙虚さとを兼ね備えた日本国民。
他の国々の模範となるこの国から、世界は大きな恩恵を
受けるでしょう。
日本がアジアと世界を導き、また世界情勢における
日本の存在が、日本国民の偉大な業績と歴史を反映
するにつけ、ブータンは皆様を応援し支持してまいります。
ブータンは国連安全保障理事会の議席拡大の必要性
だけでなく、日本がそのなかで主導的な役割を果たさ
なければならないと確認しております。
日本はブータンの全面的な約束と支持を得ております」
ここまで言われると、感動する、感銘を受けると同時に
「いやいや、そんなに立派なのか、判らないです」
と言いたくなるような「気恥ずかしさ」すら感じるが、
演説の最後がまた良かった。
「ご列席の皆様、ブータンは人口約70万人の小さな
ヒマラヤの国です。国の魅力的な外形的特徴と、
豊かで人の心をとらえて離さない歴史が、
ブータン人の人格や性質を形作っています。
ブータンは美しい国であり、面積が小さいながらも
国土全体に拡がるさまざまな異なる地形に数々の寺院、
僧院、城砦が点在し何世代ものブータン人の精神性を
反映しています。
手付かずの自然が残されており、我々の文化と伝統は
今も強靭に活気を保っています。
ブータン人は何世紀も続けてきたように人々のあいだに
深い調和の精神を持ち、質素で謙虚な生活を続けています。
「両国民の絆をより強め深めるため不断の努力を行う」
今日のめまぐるしく変化する世界において、国民が何よりも
調和を重んじる社会、若者が優れた才能、勇気や品位を
持ち先祖の価値観によって導かれる社会。
そうした思いやりのある社会で生きている我々のあり方を、
私は最も誇りに思います。
我が国は有能な若きブータン人の手のなかに委ねられて
います。
我々は歴史ある価値観を持つ若々しい現代的な国民です。
小さな美しい国ではありますが、強い国でもあります。
それゆえブータンの成長と開発における日本の役割は
大変特別なものです。
我々が独自の願望を満たすべく努力するなかで、
日本からは貴重な援助や支援だけでなく力強い励ましを
いただいてきました。
ブータン国民の寛大さ、両国民のあいだを結ぶより
次元の高い大きな自然の絆。
言葉には言い表せない非常に深い精神的な絆によって
ブータンは常に日本の友人であり続けます。
日本はかねてよりブータンの最も重大な開発パートナーの
ひとつです。それゆえに日本政府、およびブータンで暮らし、
我々とともに働いてきてくれた日本人の方々の、
ブータン国民のゆるぎない支援と善意に対し、
感謝の意を伝えることができて大変嬉しく思います。
私はここに、両国民のあいだの絆をより強め深めるために
不断の努力を行うことを誓います」
素晴らしい演説だったと思う。
なお、今回の国王夫妻を迎える晩餐会に、天皇陛下がカゼで
体調を崩され、ご欠席されたのは残念だったが、
一番 残念に思われていらっしゃるのは陛下ご自身に違いなく、
こればかりはやむを得ないことだと誰もが思った。
しかし、誰もがそう思ったかどうか よく判らないのは、
雅子妃殿下がご欠席されたことで、これはまた違った意味で
実に残念なことだった。
いや、政治的な見地からはたぶん
「残念では済まされないレベル」のことかと想うが、
一民間人としてはこれ以上の言及はここでは控えたい。
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