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2024年3月20日 (水)

マタイ受難曲~メンデルスゾーン版演奏会を聴いて

リベラル・アンサンブル・オーケストラ第18回演奏会

今でこそ「至宝」、「最高の音楽遺産」と絶賛されるが、作曲後は約100年間も忘れられた状況が続いた。これを、メンデルスゾーンが1829年にベルリンで、1841年にライプツィヒで演奏して復活、復権させた。その功績は偉大だが、このときは、カットやアレンジ、楽器の変更等を施した内容による公演だった。

1841年の公演をベースとした「メンデルスゾーン版」は、近年ベーレンライター社から出版され、その最新版である2023年11月に出版された楽譜に基づく公演があったので拝聴した。

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結論的には「メンデルスゾーン版」には、下記のとおり、カットを含めた多くの問題があり、現在では逆にこの版が「忘れられた」状態であることが納得できた次第。

現在、広く一般に演奏されている全曲版による演奏こそ偉大なる「マタイ受難曲」だと再認識できた。もちろん今回、「メンデルスゾーン版」を演奏して知らしめていただいた意義は大きいし、その取り組みに対しては大いに敬意を表します。

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リベラル・アンサンブル・オーケストラ(Liberal Ensemble Orchestra)の第18回演奏会を、3月20日午後、第一生命ホールで拝聴した。ベーレンライター新版日本初演と銘打たれている。

指揮は、和田一樹さん。アマオケ等でマーラーもしばしば指揮されている。

合唱は、LEO合唱団。ソプラノ10名+下記ソリスト高橋美咲さん、アルト5名+下記ソリスト齊藤日向さん、テノール3名+下記ソリスト佐保佑弥さん、バス4名+下記ソリスト玉山彰彦さんの合計26名。

室内オケの「リベラル・アンサンブル・オーケストラ」は、2014年4月に設立。「立教大学交響楽団の卒業生を中心に、現在は社会人オーケストラとの協力関係、プロ・アマを問わない演奏家との出会いを通じて、メンバーを拡大中」とのこと。

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福音史家:小嶋陽太

イエス:木村雄太

ユダ、大司祭、ペトロ、ピラト:森 翔梧

ソプラノ:高橋美咲

アルト:齊藤日向

テノール:佐保佑弥

バス:玉山彰彦

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メンデルスゾーン版の問題点について

復活公演の意義は偉大だが、メンデルスゾーンは自身で率いていた市民オーケストラと合唱団により度々演奏していきたい、という観点からの変更だったということが基本にある。

その主な点は、カット、楽器の変更、役割分担の変更、と言える。

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1.カットについて

カットされた概要は以下のとおり。

第13曲ソプラノによるアリア「あなたに心を捧げたい~」。第17曲コラール「あなたの傍に居させてください~」。バスによる第22のレスタティーヴォと第23曲アリア「喜んで私は心を鎮め~」。第32曲コラール「この世は、私の目の前で、偽りの裁きをした~」。テノールによる第34のレスタティーヴォと第35曲アリア「耐え忍ぼう!~」。第40曲コラール「たとえあなたのもとを去ろうとも~」。エヴァンゲリストによる第43のレスタティーヴォの8割およびそれ以降ピラトとのやりとりの一部。第44曲コラール「あなたの道を委ねるのです~」。第45からのエヴァンゲリストとピラトとのやりとりの一部。第46曲コラール「なんと信じがたい罰を!~」。第52曲アルトによるアリア「涙に頬を濡らしても~」。バスにより第56のレスタティーヴォと第57曲アリア「おいで、甘き十字架よ~」。エヴァンゲリストによる第58のレスタティーヴォの7割。第60曲の合唱を伴うアルトによるアリア「見なさい!イエスが手を差し伸べている~」。エヴァンゲリストによる第63のレスタティーヴォの6割。エヴァンゲリストによる第66のレスタティーヴォの2割。

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このように、合唱がだいぶ削られているし、ヴィオラ・ダ・ガンバを用いていない関係で、テノールによる第35曲のアリアと、バスによる第57曲のアリアがカットされている。また、名アリアの一つである第52曲のアルトによるアリアもカットされているのは残念なことだ。

これにより、演奏総時間は短くなり、約2時間40分が2時間ほどの演奏となる。

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2.楽器の変更

メンデルスゾーンの時代では、既にこんにちの楽器とほぼ同じ(少なくともそれに近い)モダンな楽器がメインとなっていたため、使用(対応)楽器の変更がなされている。フラウト・トラヴェルソではなくフルート、通常のオーボエ、ファゴットのほか、オーボエ・ダモーレとオーボエ・ダ・カッチャに替わってクラリネットが使われているし、ヴィオラ・ダ・ガンバは用いていない。したがって、カットで述べたように、それを使用した第35曲と第57曲のアリアは演奏されない。

一番の問題点は、チェンバロを用いていない点だ。レスタティーヴォは2人のチェロが奏したが、これは全くもって「いただけない」。オルガンかチェンバロでないとダメだ。

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3.役割分担の変更

第39曲のアルトによる有名なアリア「どうかお憐れみくだい~」をソプラノが歌った。第42曲バスによるアリア「私のイエスを返してくれ!~」では、第2オケのヴァイオリントップではなく、第1オケのトップ=コンマスが演奏。アルトによる第59のレスタティーヴォ「ああ~ゴルゴタよ~」はソプラノに替わった。

これらに関しては強い違和感はなく、それはそれで、なかなか良かった。

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合唱について

とても良かった。特に男声。とりわけテノール。ソリストの佐保さんが加わっていたとはいえ、とても4人の声とは思えないほど、よく聞こえていた。

場面によっては、少人数ゆえ、オケの音に負けがちな場面も幾つかあったし~そういう場面では、むしろオケが大音量過ぎた~第27(a)「はなせ!やめろ!縛るんじゃない」では迫力あったが、第45(b)「十字架につけろ!」はやや弱いなど、場面での工夫の必要性を感じた点もわずかながら有った。それでも総じて立派な合唱だった。

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ソリストに関する感想

福音史家:小嶋陽太さん

最も重要な役だけに、残念ながら「役不足」と言わざるを得ない。声が子供っぽく優し過ぎる。幼い印象を受ける声で、声量も弱いから、全て「独り言」のように聞こえた。ドラマの展開を伝え、率いていく役としては弱すぎる。声のトーン自体には魅力もあるし、今回、恐らく初めての大役だっただろうから、今後もこの役に挑戦する機会があるとしたら、経験を積まれていけば、もっと役に相応しい語りになっていくかもしれない。

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イエス:木村雄太さん

誠実さと若々しさを感じるイエスで、どの場面も意志的な歌唱が良かった。

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ユダ、大司祭、ペトロ、ピラト:森 翔梧さん

よく響く、とても素晴らしい歌声。重厚感はあるが重過ぎず、気品がある歌唱だった。

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ソプラノ:高橋美咲さん

インパクトのある声。ややヴィブラートが多すぎる感もしたが、魅力的な歌唱だった。

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アルト:齊藤日向さん

素晴らしいアルトだと思う。役にも相応しかったし、今後が楽しみだ。

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テノール:佐保佑弥さん

声量ある、よく響く声。トーンだけで言うなら、この人こそ、エヴァンゲリストをやって欲しかったと思った。

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バス:玉山彰彦さん

威厳と品格のある、とても魅力的な声。声量は敢えて控えていたのかもしれないが、もっとあると更に良かったと思う。

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今後もこの版で聴いてみたいとは特に思わない。従来の全曲版こそ重要。

それでも貴重な、意欲的な演奏に、心から拍手を送りたい。

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