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2024年3月 8日 (金)

ひばり弦楽四重奏団~ベートーヴェン全曲演奏会vol.9

昨今、日本人による弦楽四重奏団の活躍が顕著だ。今や牽引する立場とも言えるベテランのクァルテット・エクセルシオや、若手ではウェールズ弦楽四重奏団、カルテット・アマービレ、クァルテット・インテグラ等々、優秀な演奏を聴かせてくれている。

その中でも、ひばり弦楽四重奏団は極めて優秀にして、パッション溢れる音楽を聴かせてくれるカルテットで、下記のとおり、構成メンバーにおいても特色ある存在だと思う。

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特色に関して

世代論のような事を強調する気はないが、多くのプロオケも世代交代が進み、アマオケも若い人を中心とした優秀なオケが増えており、特にアマオケにおいては、様々な世代から構成されたオケは少数派になりつつあるような気がする。

弦楽四重奏団でも、ベテラン組や若いメンバー組を問わず、多くは、それぞれ「同世代同士で結成された団」が主流と思えるが、2018年に結成された「ひばり弦楽四重奏団」は違う。

漆原啓子(第1ヴァイオリン)、漆原朝子(第2ヴァイオリン)姉妹という、今や指導的立場にもあるベテラン奏者に加わったのが、神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ヴィオラ奏者の大島 亮さんと、NHK交響楽団首席チェロ奏者の辻本 玲さんだ。

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美しく明るく艶やかな音の啓子さんと、シックで充実の内声で応じる朝子さんによる演奏は、「風格」と評したいほどの完璧な安定感と、清らかで瑞々しい魅力がある。

これに、パワフルでパッションに溢れた辻本さんのチェロと、存在感溢れる充実の音を奏でる大島さんのヴィオラが加わる魅力と効果は絶大で、ベテラン世代と若手世代という異なる2つの世代による最良にして最高の融合、強い説得力を持つコラボレーションであり、アンサンブルを生み出す要因の一つであると強く感じる。この「2つの世代がぶつかり合い、協調する中から生まれて来る音楽」は実に力強く、魅力的だ。

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ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏を行うコンサートを、あと1つ残すのみとなった第9回のコンサートを3月8日夜、Hakuju Hallで拝聴した。プログラムは、

1.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ヘ長調 Hess 34

2.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 op.95「セリオーソ」

3.ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ」

4.ベートーヴェン:大フーガ 変ロ長調 op.133

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1.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ヘ長調 Hess 34

この編曲が演奏されるのは珍しい。正規の作品番号が無いのは、1798年作のピアノソナタ第9番ホ長調Op.14-1を、1802年に自ら編曲した作品のため。

当時、ドイツ=オーストリア圏では、ピアノ作品から他の楽器への編曲が流行していたが、ベートーヴェンはこれに対して批判的でありながらも、「是非にという求めがあり、ただ1曲だけ応じた」とされるもの。ホ長調から半音上げてヘ長調とし、当然ながら、単純な編曲というより、弦楽器の特性や語法に応じた編曲がなされている。

第1楽章は爽やかな曲想と演奏。第2楽章は爽やかさと穏やかさに、哀愁が加わる。終楽章である第3楽章も、滑らかさと颯爽とした若々しさがある曲想。

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2.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 op.95「セリオーソ」

ベートーヴェンの傑作の1つ。1810年の作品。

迫力ある第1楽章。スフォルッツァンド効果も抜群。辻本さんのチェロによる牽引力も見事。

第2楽章は、チェロの伴奏型音進行で開始することもあり、辻本さんは入念にチューニングをし直したくらいだ。

その第2楽章は神秘的にして、アクセントとその直後の「P」あるいは「PP」による演奏が印象的。

第3楽章は、迫力はもちろん、充実の音によるアンサンブルの素晴らしさを堪能。

第4楽章は、各奏者の自発性と、アンサンブルとのバランスが素晴らしかった。

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3.休憩後の後半開始は、

ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ」

ヤナーチェクは、どの作品もユニークで面白い。トーンもリズムも、語られる語法や展開も。

トルストイの小説『クロイツェル・ソナタ』は、主人公の妻=ピアニストが、男性ヴァイオリニストとベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を演奏したことがきっかけで不倫に陥り、嫉妬した夫が妻を刺殺するという内容。

当時、69歳のヤナーチェクは、なんと38歳年下の人妻と不倫関係にあったそうで、トルストイのこの作品を基にした作品は、他にも既に2作あったとのこと。

第1楽章は、個性的なテーマ(パッセージ)が、4パートそれぞれによる奏されるのが印象的。

第2楽章は、トレモロやリズムに特色がある他、「スル・ポンティチェロ」(という特殊奏法)による曲想が印象的。

第3楽章は、第1ヴァイオリンとチェロがメロディーを奏すると、第2ヴァイオリンとヴィオラが、激しい「スル・ポンティチェロ」で応じる場面が印象的。他の部分でも、情熱的な展開がある。

第4楽章は、東洋的(あるいは、東欧的と言うべきか)なトーンが興味深く、激しさと抒情性の共存も印象的な曲。

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ベートーヴェン:大フーガ 変ロ長調 op.133

最後は、第13番としての演奏ではなく、独立しての「大フーガ」の演奏。

無機質とも言える素材を基にしながらも、堂々たる曲想と展開を構成していく、ベートーヴェンの作曲能力を示した傑作の一つ。

迫力ある演奏だったことは言うまでもないが、とかく「賑やかさだけが強調され、結局は、いささか退屈してしまう演奏も稀ではない」この曲を、ひばり弦楽四重奏団は、徹底した「美しい音」による、充実したアンサンブルを聴かせてくれたので、係るリスクは完全に排除され、素晴らしい演奏で終えた。

作品が傑作であることを示した演奏は、そのまま、ひばり弦楽四重奏団が如何に優れた弦楽四重奏団であることかを示したのだった。

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