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2024年2月16日 (金)

能登半島地震チャリティーコンサート

桐朋学園~宗次ホール~ゲストは亀井聖矢さん

桐朋宗次奨学生による「2/16 能登半島地震チャリティーコンサート」を2月16日夜、桐朋学園音楽部門仙川キャンパス内に2021年3月に完成した桐朋学園宗次ホールで拝聴した。

入場料は無く、入場の際に、受付の募金箱に任意の募金をする形。全額が被災地に寄付される。

「桐朋宗次奨学生による」主催チャリティーコンサートということから、CoCo壱番屋の創業者、宗次德二さんが、株式上場後、いわゆる創業者利潤を基に、2007年に名古屋市内に「宗次ホール」を建設したほか、NPO法人イエローエンジェルを立ち上げ「宗次コレクション」として、演奏家支援のためのストラディヴァリウスほかヴァイオリンやチェロ等の名器を~例えば、新倉瞳さんらに~貸与していることは知っていたが、奨学金も拠出していることは今回初めて知った。

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名古屋で、ご夫婦で始めた喫茶店で提供したカレーライスの評判が良かったことから、カレー専門店を起業し、今や国内外に多くを出店する上場企業となり、名古屋市内だけでなく、東京の桐朋学園からの要請により、同学園内に、もう一つ「宗次」を冠したホールを建設して、提供するまでに至ったとは、たいしたものだと改めて感心する。

宗次德二さんは、15歳まで生活保護を受けるなど、極貧の環境の中で育ち、高校1年の時に『N響アワー』でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聞いて以来、クラシック音楽が好きなり、そのときの音楽との出会いが、今日に至る原点となられた。

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桐朋学園宗次ホール初拝聴の印章等

名古屋の宗次ホールにはこれまで、田部京子さんのリサイタル等、複数回行ったが、桐朋学園宗次ホールは今回初めて行ったので、まずは、ホールに関して感じた印象も含めて記載したい。

ホールの設計事務所等は、隈研吾建築都市設計事務所、前田建設様、住友林業。

席数215(固定席 188席、スタッキングチェア27席)。木造一部RC造(地下)地下1階地上3階建て延べ2392㎡。宗次德二さんは、このホールの名誉館長とされている。

気品ある木造建築、折り紙のような折板構造を用いた難易度の高いレベルの施工で「CLT(クロス・ラミネーティド・ティンバー、直交集成板)採用した音楽ホールとしては世界初」とのこと。

竣工式で梅津学長は、「このホールは革新的であり伝統的でもあります。このホールは桐朋生だけの場でなく、若い音楽家の将来の活躍のための場としても無償で提供していきたいと思っています」と挨拶された。

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名古屋の宗次ホールは310席なので、215のこのホールは客席数が少ないが、桐朋学園在学生を中心とした若い音楽家を育てることを第一としたコンセプトゆえ、収益至上主義を目的としていない潔さを感じる。

それでもステージが素晴らしいので、「もう少し客席数を増やしても良かったかもね」とも正直思い、やや残念な気もする。そのくらいステージが良いのだ。

名古屋の宗次ホールは、やや響き過ぎて、ホワーンとする心象、音が少し「加工」されて響く心象を受けるのに対し、このホールは、音が直接的に客席に届く。

ステージの広さは名古屋と同じくらいだが、木目調の設計が気品あって美しく、客席と接する距離感のアットホーム感は、水戸芸術館や浦安音楽ホールを少し連想したりもする。

マネジメント会社からしたら、「客席数がもっとあれば、ここでの室内楽コンサートや声楽リサイタル等をどんどん企画して開催するのになあ」と思うかもしれない。

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このチャリティーコンサートに話を戻そう。

出演者と演奏曲は以下のとおり。

ピアノ: 秋山桃子、荒井薫子、本多美瑞紀

ヴァイオリン:北川千紗、栗原壱成

ソプラノ: 中本椋子、由本 菖

スペシャルゲスト〈ピアノ〉 亀井聖矢

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第一部

1.海 日娜:祈り~ヴァイオリン:栗原 壱成

2.ラヴェル:カディッシュ~ヴァイオリン:栗原 壱成、ピアノ:荒井 薫子

3.ショパン:マズルカOp.56-3~秋山 桃子

4.シューマン:ピアノソナタ第2番~第1楽章~荒井 薫子

5,トスティ:暁は光から~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

6.シューベルト:アヴェ・マリア~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

7.R・シュトラウス:私は花束を編みたかった~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

8.R・シュトラウス:明日に!ソプラノ:中本 椋子、ヴァイオリン:北川 千紗、ピアノ:本多 美瑞紀

 (休憩)

第二部

1.クライスラー:レスタティーヴォとスケルツォ~ヴァイオリン:北川 千紗

2.香月 修:少年~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

3.小林秀雄:麦藁帽子~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

4.グノー:私は夢に行きたい~ロミオとジュリエットより~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

5.バーンスタイン:きらびやかに着飾って~キャンディードより

~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

スペシャルゲスト~ピアノ: 亀井聖矢(まさや)

6.ショパン:「お手をどうぞ」の主題による変奏曲Op.2

7.リスト:ラ・カンパネラ

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第一部

1.海 日娜:祈り~ヴァイオリン:栗原 壱成

中国からの留学生という海さんが、この日のために作曲。中国風で短い、聴き易い曲。

2.ラヴェル:カディッシュ~ヴァイオリン:栗原 壱成、ピアノ:荒井 薫子

ラヴェルが1914年に作曲した『2つのヘブライの歌』の第1曲。前半は東洋的でもあるが、全体としては、正に「祈り」の曲。

3.ショパン:マズルカOp.56-3~秋山 桃子

しなやかな、新鮮な演奏だった。

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4.シューマン:ピアノソナタ第2番~第1楽章

荒井薫子さんは、外見が小菅優さんに似た感じがするが、演奏もパッションある演奏で、とても良かった。演奏終了直後のアクションも、既にステージ慣れした感があり、「大物」になる予感がした。

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ソプラノの中本椋子さんとピアノの本多美瑞紀さんによる4曲。

(1)トスティ:暁は光からを歌い出した瞬間から、既に実績を積んできた正に「プロの歌唱」で、器楽、声楽の違いはあれど、これまで登場した3人は「未だ学生」と感じてしまうほど、その「違い」を感じた。さすが、中本さんだ。

これまで、大阪音楽大学出身と思っていたので、終演後、ご本人に確認すると、「だいぶ経ってから」桐朋学園の大学院で学ばれたとのこと。あらためて確認すると、2008年大阪音楽大学選抜学生オペラ『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナ、2009年東京国際芸術協会オペラ『魔笛』パミーナ、2010年高槻音楽コンクール第2位、2011年イタリア声楽コンコルソ・ミラノ部門フィナリスタ、2012年日生劇場開場50周年記念オペラ『フィガロの結婚』バルバリーナ役で本格デビュー。2013年は、佐渡裕プロデュースオペラ2013『セビリャの理髪師』にてロジーナ役・森麻季さんのカヴァーを務める。

そして、2019年桐朋学院大学大学院修了。

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1曲目の後、中本さんが幼少時に体験された阪神・淡路大震災について語られた。

中本さん自身も避難所生活を体験したことや、親しかった人も複数亡くなり、その一人は、当時、近隣にいた東京音楽大学でピアノを学んでいた女性で、ピアノの下敷きとなって亡くなられたこと。

会場が静まり返る瞬間だった。そして、

(2)シューベルトの「アヴェ・マリア」がしっとりと歌われ、

(3)R・シュトラウスの「私は花束を編みたかった」は、シュトラウスらしく、音域やニュアンスの変化が頻出する難しい曲を見事に歌われた。

「Morgen(明日に)!」では、ヴァイオリンの北川千紗さんも加わり、三重奏として、抒情的で感動的な演奏だった。

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休憩後の第二部

1.クライスラー:レスタティーヴォとスケルツォ

ヴァイオリンの北川千紗さんによる演奏。レスタティーヴォの部分は、ほとんどが重音(2本弦)により進行する難曲。スケルツォも、もちろん高度な難曲で、面白かった。

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ソプラノの由本 菖さんとピアノの荒井薫子さんにより3曲

(1)香月 修の「少年」は初めて聴いた。「三好達治の詩による四つの歌」の中の第1曲。ピアノが活躍する。

(2)小林秀雄:麦藁帽子

「麦藁帽子」と言えば、三善晃さんの素晴らしい曲があるが、小林秀雄による曲は、ダイナミズムにおいては、もう少し控えめで、静かな叙情性が強調された曲だった。

(3)グノー:私は夢に行きたい

ソプラノの定番曲。スケール感があって良かった。

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中本椋子さんと本多美瑞紀さんによるバーンスタインの「きらびやかに着飾って」は、中本さんの得意の曲で、私はこれまで何度も聴いている。

この日も見事な技巧で、魅力的な歌唱を披露された。

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そして、スペシャルゲスト、亀井聖矢(まさや)さんの登場。

スペシャルの意味の一つとしては、多分、宗次奨学生ということではない、ということもあるのだろう。

改めて主な経歴を先に記すと、

2001年生まれ。4歳よりピアノを始める。桐朋学園大学1年在学中の2019年、第88回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、及び聴衆賞受賞。同年、第43回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、及び聴衆賞受賞。2022年、マリア・カナルス国際ピアノコンクール第3位受賞。同年11月、ロン=ティボー国際音楽コンクールにて第1位を受賞。併せて「聴衆賞」「評論家賞」の2つの特別賞を受賞。2023年3月に同大学を首席で卒業。現在、カールスルーエ音楽大学、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに在籍中。

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1.ショパン:「お手をどうぞ」の主題による変奏曲Op.2

亀井さんは決して大柄ではないのだが、彼がピアノを弾きだすと、なぜかピアノが小さく見えた。

まるで身体の一部として全体を支配し、自在に操る中で、それぞれの場面に応じた音を選び出して弾いているような、自然体にして、抜群の対応力のようなものを感じた。

格調高いショパンの演奏だった。

2.リスト:ラ・カンパネラ

高音の素晴らしさ。しかし、決して派手とかではなく、端正でさえある演奏で、ショパン同様、気品あるリストの演奏だった。

前後するが、演奏前、「狭い日本なので、いつ、誰もが困難な状況になるとは限らない。それでも、互いに支え合う社会であって欲しいと思うし、自分もそうした一員でいたいと思う気持ちから、このチャリティーコンサートに出演させていただいた」という主旨の挨拶も、とても良かった。

こうして、この意義深く、魅力的なチャリティーコンサートが終演した。

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