« 2024年1月 | トップページ | 2024年3月 »

2024年2月24日 (土)

シンフォニア・ズブロッカの「レニングラード」

シンフォニア・ズブロッカの第16回演奏会を2月24日の夜、すみだトリフォニーホールで拝聴した。

指揮は、ハンガリーを拠点に活躍している金井俊文さん。プログラムは、

1.R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

2.ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

初めて聴いたオケと指揮者

オケは、2005年結成。「ポーランド原産のウォッカ『ズブロッカ』のように、力強く独特の香りを放つオーケストラを目指して都内で活動中。20代後半を中心に、学生から社会人まで様々なバックグラウンドを持つ演奏家が集うアマチュアオーケストラ」、とのこと。

第16回とした演奏会は、本来、2020年3月に予定されていたが、コロナ禍入り直後で中止になり、それ以来のコンサートとのこと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とても優秀なオケ。

今まであまり接したことにないような、独特の個性を感じた。

良い意味でハデさがなく、抜群のアンサンブルから生じる全体の音に「芯」のような重心と支えがある。それでいて、地味ということではなく、重々し過ぎることもなく、端然としている。

弦はもちろん、金管が素晴らしいし、木管も良い。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新交響楽団が「アマオケ一強」だった時代は、ここ20年の間でとっくに終わり、過去の事になった。

かつての新交響楽団のレベルと同じか、それ以上のオケは、私が知る限りでも5つ以上、いや、10以上は在ると思う。

プロのオケやオペラ歌手も30~50年前とは比べ物にならないくらいレベルアップしているが、アマオケにもそれは言えると思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1曲目の「ドン・ファン」は、弦もホルン群も含めて申し分ない技術とアンサンブルだった。

「レニングラード」は変わった曲だ。

第1楽章の有名なボレロ調は、まるでピクニックにでも行くかのような陽気さで行進して行く。

しかし、それが終わった後半から曲想はガラリと変わり、第3楽章以下、シリアスな世界が転換する。

この曲だけでなく、ショスタコーヴィチ自体、私は詳しくないので、詳細は書けないが、終楽章のエンディングの迫力は素晴らしかったし、ショスタコーヴィチの交響曲では、第4番、第10番、第13番「バビ・ヤール」とともに、この「レニングラード」も語らないわけにはいかない秀作に違いないと思う。演奏も本当に素晴らしかった。

金井さんの指揮も的確にして、巧みな采配だった。

2024年2月17日 (土)

インバル+都響~バーンスタイン『カディッシュ』

エリアフ・インバル指揮による東京都交響楽団の第994回定期公演の翌日、同じプログラムにより「都響スペシャル」とした公演を2月17日午後、サントリーホールで拝聴した。

曲はショスタコーヴィチの交響曲9番とバーンスタインの交響曲第3番『カディッシュ』。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ショスタコーヴィチの交響曲9番 変ホ長調 op.70

マーラーさえ当初は恐れて『大地の歌』と題して作曲したほど、交響曲における「第九番」という「プレッシャー番号」を、まるでニヤリと微笑む如く、意表を突く形で、敢えて軽妙な、彼としては「小品」とも言える形式と内容で1945年8月30日に完成した曲。

初演は好評だったものの、案の定、ソ連当局から批判され、スターリン時代での演奏が禁じられた。

都響の木管、金管等の巧さにより、とても楽しく聴かせていただいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

休憩後の後半が、この日の聴きモノである

バーンスタインの交響曲第3番『カディッシュ』

英語による語り、ヘブライ語によるソプラノソロと合唱、児童合唱を伴う作品。

1963年に完成し、1977年に改訂され、バーンスタイン自身の指揮により1977年8月に録音されたCDも持っているが、実演は初めて聴いた。

語り:ジェイ・レディモア

ソプラノ:冨平安希子

合唱:新国立劇場合唱団

児童合唱:東京少年少女合唱隊

・・・・・・・・・・・・

私には作品自体が難曲で、何をどう書いてよいか迷うが、演奏が凄かったことは解ったので、まずは、演奏について少し書いた後、作品について考えてみたい。

・・・・・・・・・・・・

ジェイ・レディモアさんによる語りは、明瞭で落ち着いた、聞き易い語りで、とても良かった。

・・・・・・・・・・・・

冨平安希子さんのヴィブラートを伴う繊細な歌声自体に、この曲に必要な(と思える)「悲しみ」と「祈り」が常に感じられ、その点において(多分)最良のキャスティングと感じた。素晴らしかった。

・・・・・・・・・・・・

冨平恭平さん指揮(指導)による新国立劇場合唱団。

凄い迫力と難曲を歌いこなす技術。これぞプロフェッショナルな最高の合唱。完成度として、これ以上は考えられないような見事な合唱だった。

・・・・・・・・・・・・

長谷川久恵さん指揮(指導)による東京少年少女合唱隊。

出番は多くないものの、難しい言語をしっかりと歌っていた。

・・・・・・・・・・・・

オケの力量の素晴らしさと、細やかな配慮や指示を含め、的確にして自信を持って指揮したインバルも素晴らしかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

作品に関する心象について

『ウェストサイド物語』だけでも十分に魅力的で、高度な作曲技法を示したバーンスタイン。マーラー以降、指揮と作曲の2つにおいて、天才を世に知らしめた唯一の人物と言えるだろう。

フルトヴェングラーも実は作曲家として名をなしたいと思っていたが、結果的には圧倒的に偉大な指揮者として名を遺した。

いわゆる無調音楽には関心を持たなかったバーンスタインだが、このシリアスな作品には、少なくとも無調の要素や、変拍子の要素が大量に盛り込まれている。

・・・・・・・・・・・・

私は聴きながら、終始、三善晃の『レクイエム』を連想していた。

多種大量の打楽器に「叫ぶ合唱」がぶつかり、混じり入る。終始「どこか似ている」と思った。三善さんの『レクイエム』は1972年作だから、もし『カディッシュ』をどこかで聴くか、スコアを見る機会があったとしたら、何らかの刺激は受けているかもしれないとも思った。

もちろん『カディッシュ』を知らないで、聴いていないで『レクイエム』を作曲したことも十分に有り得るが、むしろその場合こそ、2人の天才が、人類の哀しみと祈りを、似た曲想をイメージして作曲したように想え、それ自体、とても関心を覚える事と感じる。

・・・・・・・・・・・・

それはともかくとして、私が「感想を書くのが難しい」と感じる点、要素は「ユダヤ教に深く関わる曲だから」という一点に尽きる。

私の宗教に関する乏しい知識から、この作品を論じることは、とてもできない。私に限らず日本人、いや、国籍を問わず、ユダヤ教に関して深く知る人でない限り、「ちゃんと」論じることはできないように感じる。どこか「知ったかぶり」論になってしまう危険を感じる。

・・・・・・・・・・・・

マーラーが、幾つかの作品の中で主にドイツ語やラテン語を用い、ユダヤ人であることを意識の底に深く沈めて、広く普遍的で人間そのものの喜怒哀楽を表現し、創作したように想えるのに対し、バーンスタインは、自分がユダヤ人であることの意味を強く認識し、誇りを抱いて、この作品を作曲したように強く感じる。これは、聴く人全てが感じることだろう。

・・・・・・・・・・・・

そうしたことを感じつつも、『カディッシュ』は、ユダヤ教を通してであっても、全ての人間の生きる意義と尊厳、神への祈り、平和への希求という事が底辺にあることは確かだろう。

だからこそ、聴く人全てに、衝撃とともに深く感情を揺さぶる作品たり得るのだ。

・・・・・・・・・・・・

なお、バーンスタインは、自身が書いた語りのテキストに満足しきれなかったようで、ホロコーストの生存者、サミュエル・ピサール(1929~2015)にそれを依頼したが、ピサールは断った。しかし、「9.11」の惨状後、考えを変えて書き下ろした。

評判は良かったそうだが、サミュエル亡きあと、バーンスタイン財団により、夫人のジュディスと娘のリアのみに朗読が許され、その2人を迎えて2016年3月24日に、インバル指揮、東京都交響楽団により「ピサール版」が演奏され、今回もその再演の予定だったが、2人が来日できなくなったとのことで、バーンスタインによるオリジナルのテキストをジェイ・レディモアが朗読した。

・・・・・・・・・・・・

いつか、「ピサール版」も聴いてみたいが、今回は、ジェイ・レディモアさんの朗読と、冨平安希子さんの歌唱による演奏が聴けて、とても良かったと感じた次第。

2024年2月16日 (金)

能登半島地震チャリティーコンサート

桐朋学園~宗次ホール~ゲストは亀井聖矢さん

桐朋宗次奨学生による「2/16 能登半島地震チャリティーコンサート」を2月16日夜、桐朋学園音楽部門仙川キャンパス内に2021年3月に完成した桐朋学園宗次ホールで拝聴した。

入場料は無く、入場の際に、受付の募金箱に任意の募金をする形。全額が被災地に寄付される。

「桐朋宗次奨学生による」主催チャリティーコンサートということから、CoCo壱番屋の創業者、宗次德二さんが、株式上場後、いわゆる創業者利潤を基に、2007年に名古屋市内に「宗次ホール」を建設したほか、NPO法人イエローエンジェルを立ち上げ「宗次コレクション」として、演奏家支援のためのストラディヴァリウスほかヴァイオリンやチェロ等の名器を~例えば、新倉瞳さんらに~貸与していることは知っていたが、奨学金も拠出していることは今回初めて知った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名古屋で、ご夫婦で始めた喫茶店で提供したカレーライスの評判が良かったことから、カレー専門店を起業し、今や国内外に多くを出店する上場企業となり、名古屋市内だけでなく、東京の桐朋学園からの要請により、同学園内に、もう一つ「宗次」を冠したホールを建設して、提供するまでに至ったとは、たいしたものだと改めて感心する。

宗次德二さんは、15歳まで生活保護を受けるなど、極貧の環境の中で育ち、高校1年の時に『N響アワー』でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聞いて以来、クラシック音楽が好きなり、そのときの音楽との出会いが、今日に至る原点となられた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

桐朋学園宗次ホール初拝聴の印章等

名古屋の宗次ホールにはこれまで、田部京子さんのリサイタル等、複数回行ったが、桐朋学園宗次ホールは今回初めて行ったので、まずは、ホールに関して感じた印象も含めて記載したい。

ホールの設計事務所等は、隈研吾建築都市設計事務所、前田建設様、住友林業。

席数215(固定席 188席、スタッキングチェア27席)。木造一部RC造(地下)地下1階地上3階建て延べ2392㎡。宗次德二さんは、このホールの名誉館長とされている。

気品ある木造建築、折り紙のような折板構造を用いた難易度の高いレベルの施工で「CLT(クロス・ラミネーティド・ティンバー、直交集成板)採用した音楽ホールとしては世界初」とのこと。

竣工式で梅津学長は、「このホールは革新的であり伝統的でもあります。このホールは桐朋生だけの場でなく、若い音楽家の将来の活躍のための場としても無償で提供していきたいと思っています」と挨拶された。

・・・・・・・・・・・・

名古屋の宗次ホールは310席なので、215のこのホールは客席数が少ないが、桐朋学園在学生を中心とした若い音楽家を育てることを第一としたコンセプトゆえ、収益至上主義を目的としていない潔さを感じる。

それでもステージが素晴らしいので、「もう少し客席数を増やしても良かったかもね」とも正直思い、やや残念な気もする。そのくらいステージが良いのだ。

名古屋の宗次ホールは、やや響き過ぎて、ホワーンとする心象、音が少し「加工」されて響く心象を受けるのに対し、このホールは、音が直接的に客席に届く。

ステージの広さは名古屋と同じくらいだが、木目調の設計が気品あって美しく、客席と接する距離感のアットホーム感は、水戸芸術館や浦安音楽ホールを少し連想したりもする。

マネジメント会社からしたら、「客席数がもっとあれば、ここでの室内楽コンサートや声楽リサイタル等をどんどん企画して開催するのになあ」と思うかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このチャリティーコンサートに話を戻そう。

出演者と演奏曲は以下のとおり。

ピアノ: 秋山桃子、荒井薫子、本多美瑞紀

ヴァイオリン:北川千紗、栗原壱成

ソプラノ: 中本椋子、由本 菖

スペシャルゲスト〈ピアノ〉 亀井聖矢

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第一部

1.海 日娜:祈り~ヴァイオリン:栗原 壱成

2.ラヴェル:カディッシュ~ヴァイオリン:栗原 壱成、ピアノ:荒井 薫子

3.ショパン:マズルカOp.56-3~秋山 桃子

4.シューマン:ピアノソナタ第2番~第1楽章~荒井 薫子

5,トスティ:暁は光から~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

6.シューベルト:アヴェ・マリア~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

7.R・シュトラウス:私は花束を編みたかった~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

8.R・シュトラウス:明日に!ソプラノ:中本 椋子、ヴァイオリン:北川 千紗、ピアノ:本多 美瑞紀

 (休憩)

第二部

1.クライスラー:レスタティーヴォとスケルツォ~ヴァイオリン:北川 千紗

2.香月 修:少年~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

3.小林秀雄:麦藁帽子~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

4.グノー:私は夢に行きたい~ロミオとジュリエットより~ソプラノ:由本 菖、ピアノ:荒井 薫子

5.バーンスタイン:きらびやかに着飾って~キャンディードより

~ソプラノ:中本 椋子、ピアノ:本多 美瑞紀

スペシャルゲスト~ピアノ: 亀井聖矢(まさや)

6.ショパン:「お手をどうぞ」の主題による変奏曲Op.2

7.リスト:ラ・カンパネラ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第一部

1.海 日娜:祈り~ヴァイオリン:栗原 壱成

中国からの留学生という海さんが、この日のために作曲。中国風で短い、聴き易い曲。

2.ラヴェル:カディッシュ~ヴァイオリン:栗原 壱成、ピアノ:荒井 薫子

ラヴェルが1914年に作曲した『2つのヘブライの歌』の第1曲。前半は東洋的でもあるが、全体としては、正に「祈り」の曲。

3.ショパン:マズルカOp.56-3~秋山 桃子

しなやかな、新鮮な演奏だった。

・・・・・・・・・・・・

4.シューマン:ピアノソナタ第2番~第1楽章

荒井薫子さんは、外見が小菅優さんに似た感じがするが、演奏もパッションある演奏で、とても良かった。演奏終了直後のアクションも、既にステージ慣れした感があり、「大物」になる予感がした。

・・・・・・・・・・・・

ソプラノの中本椋子さんとピアノの本多美瑞紀さんによる4曲。

(1)トスティ:暁は光からを歌い出した瞬間から、既に実績を積んできた正に「プロの歌唱」で、器楽、声楽の違いはあれど、これまで登場した3人は「未だ学生」と感じてしまうほど、その「違い」を感じた。さすが、中本さんだ。

これまで、大阪音楽大学出身と思っていたので、終演後、ご本人に確認すると、「だいぶ経ってから」桐朋学園の大学院で学ばれたとのこと。あらためて確認すると、2008年大阪音楽大学選抜学生オペラ『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナ、2009年東京国際芸術協会オペラ『魔笛』パミーナ、2010年高槻音楽コンクール第2位、2011年イタリア声楽コンコルソ・ミラノ部門フィナリスタ、2012年日生劇場開場50周年記念オペラ『フィガロの結婚』バルバリーナ役で本格デビュー。2013年は、佐渡裕プロデュースオペラ2013『セビリャの理髪師』にてロジーナ役・森麻季さんのカヴァーを務める。

そして、2019年桐朋学院大学大学院修了。

・・・・・・・・・・・・

1曲目の後、中本さんが幼少時に体験された阪神・淡路大震災について語られた。

中本さん自身も避難所生活を体験したことや、親しかった人も複数亡くなり、その一人は、当時、近隣にいた東京音楽大学でピアノを学んでいた女性で、ピアノの下敷きとなって亡くなられたこと。

会場が静まり返る瞬間だった。そして、

(2)シューベルトの「アヴェ・マリア」がしっとりと歌われ、

(3)R・シュトラウスの「私は花束を編みたかった」は、シュトラウスらしく、音域やニュアンスの変化が頻出する難しい曲を見事に歌われた。

「Morgen(明日に)!」では、ヴァイオリンの北川千紗さんも加わり、三重奏として、抒情的で感動的な演奏だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

休憩後の第二部

1.クライスラー:レスタティーヴォとスケルツォ

ヴァイオリンの北川千紗さんによる演奏。レスタティーヴォの部分は、ほとんどが重音(2本弦)により進行する難曲。スケルツォも、もちろん高度な難曲で、面白かった。

・・・・・・・・・・・・

ソプラノの由本 菖さんとピアノの荒井薫子さんにより3曲

(1)香月 修の「少年」は初めて聴いた。「三好達治の詩による四つの歌」の中の第1曲。ピアノが活躍する。

(2)小林秀雄:麦藁帽子

「麦藁帽子」と言えば、三善晃さんの素晴らしい曲があるが、小林秀雄による曲は、ダイナミズムにおいては、もう少し控えめで、静かな叙情性が強調された曲だった。

(3)グノー:私は夢に行きたい

ソプラノの定番曲。スケール感があって良かった。

・・・・・・・・・・・・

中本椋子さんと本多美瑞紀さんによるバーンスタインの「きらびやかに着飾って」は、中本さんの得意の曲で、私はこれまで何度も聴いている。

この日も見事な技巧で、魅力的な歌唱を披露された。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、スペシャルゲスト、亀井聖矢(まさや)さんの登場。

スペシャルの意味の一つとしては、多分、宗次奨学生ということではない、ということもあるのだろう。

改めて主な経歴を先に記すと、

2001年生まれ。4歳よりピアノを始める。桐朋学園大学1年在学中の2019年、第88回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、及び聴衆賞受賞。同年、第43回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、及び聴衆賞受賞。2022年、マリア・カナルス国際ピアノコンクール第3位受賞。同年11月、ロン=ティボー国際音楽コンクールにて第1位を受賞。併せて「聴衆賞」「評論家賞」の2つの特別賞を受賞。2023年3月に同大学を首席で卒業。現在、カールスルーエ音楽大学、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに在籍中。

・・・・・・・・・・・・

1.ショパン:「お手をどうぞ」の主題による変奏曲Op.2

亀井さんは決して大柄ではないのだが、彼がピアノを弾きだすと、なぜかピアノが小さく見えた。

まるで身体の一部として全体を支配し、自在に操る中で、それぞれの場面に応じた音を選び出して弾いているような、自然体にして、抜群の対応力のようなものを感じた。

格調高いショパンの演奏だった。

2.リスト:ラ・カンパネラ

高音の素晴らしさ。しかし、決して派手とかではなく、端正でさえある演奏で、ショパン同様、気品あるリストの演奏だった。

前後するが、演奏前、「狭い日本なので、いつ、誰もが困難な状況になるとは限らない。それでも、互いに支え合う社会であって欲しいと思うし、自分もそうした一員でいたいと思う気持ちから、このチャリティーコンサートに出演させていただいた」という主旨の挨拶も、とても良かった。

こうして、この意義深く、魅力的なチャリティーコンサートが終演した。

2024年2月14日 (水)

高野百合絵さん~歌ものがたり~第2章

高野百合絵さんが、昨年11月16日に第1回=第1章を渋谷のタカギクラヴィア松濤サロンで開始した「歌ものがたり」の2回目=第2章を、2月14日の夜、麹町の紀尾井町サロンホールで拝聴した。

ピアノは前回同様、山中麻鈴さん。

第1回は会場の関係で30席限定、1時間のコンサートだったが、今回は60名様限定、90分のコンサート。アットホームな雰囲気の中での演奏とトークによる進行という点は同じ。

後述でも触れるが、高野さんには女性ファンが多く、この日も会場の約半数は女性だったと思う。デリケートな問題なので、一言だけ書くと、「この事実は、若い女性歌手においては、必ずしも当たり前の事ではない」。第2章のプログラムは、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.アルディーティ:口づけ

2.アーン:クロリスに

3.サティ:ジュ・トゥ・ヴ

4.ピアソラ:私はマリア ~オペラ「ブエノスアイレスのマリア」より

(休憩)

5.ロウ:踊り明かそう ~ミュージカル「マイ・フェア・レディ」より

6.C・M・シェーンベルク:オン・マイ・オウン ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より

7.ソンドハイム:センド・イン・ザ・クラウンズ 〜ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」より

8.ロジャース:私のお気に入り ~ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より

9.アーレン:虹の彼方に 〜ミュージカル「オズの魔法使い」より

アンコール~レハール:熱き口づけ~オペレッタ「ジュディエッタ」より

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1曲目が終わってトーク開始。最初は、前回でも語られた「この企画を考えた思い」について。

前回、詳細に記載したので、ここでは短く書くと、「2019年に大学院を卒業後、翌年コロナ禍になり、お客様との距離感が生じ、またその後、落ち込んでいる時期でのコンサートでは、直前まで不安だったが、ステージに出た瞬間、お客様の温かい表情を見て自信を取り戻して歌えた。そうしたことから、トークは苦手だけれど、お客様と直に接していう歌う事をしてみたいと思いました」。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

前半の「口づけ」、「クロリスに」、「ジュ・トゥ・ヴ」では、特に中音域でのソフト感ある温かさが印象的。

ピアソラの「私はマリア」は、ピアノが、短いシンコペーションを繋いでいくような音型に乗っての歌で、アルゼンチン版シャンソンという様な趣があって印象的だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後半も最初の「踊り明かそう」を魅力的に歌われた後、トーク開始。

「ミュージカル」に関心を持たれたいきさつは、第1回(第1章)でも語られたとは思うが、今回はより印象深く聞いた。

「高校~大学と、自分なりに(技術的)成長を感じてきたが、様々な悩みや思い等から思う様に歌えなくなり、大学3年次に1年間休学して、語学学習を兼ねてボストンに行った。半年ほどは音楽から遠ざかっていたが、そこで知り合った各国からの留学生~母国で戦争、紛争が絶えない~彼ら彼女らの難しい状況に比べたら、自分が思い悩んでいた事がなんて小さいことかと思った。また、私が歌った動画を彼ら彼女らが母国の家族らに配信すると、とても喜んでくれたことから、「もう一度歌ってみよう」と思った。現地で探した先生の得意分野がミュージカルで、クラシックとは違う多くの曲の楽しさや、同門の学生たちの~楽譜も読めない人もいた~自分を表現することにおけるパワーに驚き、歌において何が大切かを感じた。東京音楽大学に戻り、留学前とは全く違う気持ちで歌い、勉強する日々に入った」。

というような内容。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「オン・マイ・オウン 」は、2021年12月に神奈川フィルとも歌われ、号泣したくなるような素晴らしい歌唱を聴かせてくれたが、この日も、切々とした感情移入が素晴らしかったし、「センド・イン・ザ・クラウンズ」では、大人な女性による、人生回顧的なしっとり感が魅力的だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

会場とのQ&Aコーナーでは、男性3名、女性2名(だったと思う)から質問があったし、時間の関係で当たらなかったが、未だ数人が挙手していたなど、ファンの積極的で「熱い」雰囲気の中、進行した。

冒頭で、「高野さんには、女性ファンが多い」と書いたが、質問に立った女性の一人は、「関西から来ました。『メリーウィドウ』からのファンです」。

質問者5名の中では、オペラ・アリアでの外国語歌詞に関して、習得法等に関して複数あったが、私には「オペラでの歌唱と、実際のその言語マスター度合いは別問題、ということを、あまり理解されていないのだな」と感じたが、それはやむを得ないというか、素朴な疑問なのだろうなと思った次第。

また、デビュー時に「メゾ・ソプラノ」としていた件に関しては、「(現在だけでなく)それ以前もソプラノとして歌っていました」と語られつつも、「ソプラノだからこの曲を、とか、メゾだからこの曲をではなく、私が歌いたい曲を(役を)歌っていきたい」、と、とても立派な正論を語られていて、印象的だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「私のお気に入り」の軽快感、「虹の彼方に」での魅力的な抒情性の後、アンコールは、レハールの「熱き口づけ」を情熱的に歌い、大喝采の中、「第2章」が終演した。

« 2024年1月 | トップページ | 2024年3月 »

ブログ HomePage

Amazon DVD

Amazon 本

最近のコメント

最近のトラックバック