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2023年11月29日 (水)

パユ&ラングラメ~デュオ・リサイタル

フルートのエマニュエル・パユさんとハープのマリー=ピエール・ラングラメさんによるデュオ・リサイタルを11月29日夜、浜離宮朝日ホールで拝聴した。チケット完売公演。

2人ともフランス人で、ともに1993年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者になったという共通点がある。追加すると、2人とも2009年にフランス芸術文化勲章「シュヴェリエ」を受賞している。なお、ご承知のとおり、パユ氏は2000年6月に一度退団して、ジュネーヴ音楽院の教授になったが、2002年4月に復団した。プログラムは以下のとおり。

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1.バッハ:フルート・ソナタ 変ホ長調 BWV1031

2.N.ロータ:フルートとハープのためのソナタ

3.シューマン:3つのロマンス Op.94

4.プーランク:フルート・ソナタ

5.ドビュッシー:ロマンティックなワルツ《ハープ独奏》

6.デスプラ:エアラインズ(2018)《フルート独奏》

7.ピアソラ:《タンゴの歴史》より

(1)酒場1900、(2)カフェ1930、(3)ナイトクラブ 1960

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1.バッハ:フルート・ソナタ 変ホ長調 BWV1031

1曲目から、明るく温かくソフトな音が会場の隅々まで響き広がる。私は後ろから数えて3列目の端の席で聴いたのだが、おそらく前から3列目で聴いても、ほとんど同じ音量で聞こえただろうと想像する。特に大きな音量で吹くぞとかいう気負いは全く感じられず、自然体にして豊麗な音が会場に広がり、それ自体、誠に素晴らしい。

第2楽章の有名なシチリアーノも素敵だった。

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2.N.ロータ:フルートとハープのためのソナタ

「本業はクラシック」としたニーノ・ロータ(1911~1979)の思いとは別に、映画音楽で有名になったロータ26歳のときの作品。映画音楽作品が増す時期よりも以前の作品とあって、「映画音楽的な感じ」は皆無と言ってよく、端正でシンプルな感じだった。

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3.シューマン:3つのロマンス Op.94

原曲は1849年にオーボエとピアノのために作曲された作品で、濃厚なロマン性という点では、この日ダントツの、極めて印象的な曲だった。名曲だと思う。

第1曲は短調。第2曲は長調だが、中間部では転調に転じる。第3曲は短調で開始するが、エンディングでは長調に転じて、ゆったりとした雰囲気で終わるというユニークさも魅力的だった。

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休憩後の後半最初は、

4.プーランク(1899~1962):フルート・ソナタ

初演は1957年に、ジャン=ピエール・ランパルとプーランク自身のピアノにより行われた。

第1楽章は割と端正な感じだったが、第2楽章と第3楽章は、いかにもプーランクらしい個性満載の曲。

その第2楽章は、短調の素朴な旋律で開始するが、後半は斬新な曲想に転じ、エンディングは、主音に対して五度上のロングトーンで終わったのが印象的。

第3楽章は、合図のように奏される出だしからして個性的。最後は主音の長三度(上)の音で優しく終わった。

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5.ドビュッシー:ロマンティックなワルツ《ハープ独奏》

ラングラメさんによるソロ。原曲はピアノのための作品だが、明るい曲で、あまりドビュッシーという感じはしなかった。

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6.デスプラ:エアラインズ(2018)《フルート独奏》

パユさんによるソロ。アレクサンドル・デスプラ(1961~)は、フランスの映画音楽で知られる作曲家。

この作品はパユ氏に献呈された作品で、尺八のムラ息的な奏法が多用される現代的な曲で面白かった。

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7.ピアソラ:《タンゴの歴史》より

(1)「1900年酒場」(2)「1930年代のカフェ」(3)「1960年代のナイトクラブ」

アストル・ピアソラ(1921~1992)の「タンゴの歴史」は、1985年に、フルート奏者のグローウェルスとギタリストのルコウスキーの委嘱により作曲された。

「1900年酒場」は即興的な雰囲気のある曲。

「1930年代のカフェ」は短調が主体の抒情的な曲。とても魅力的。

「1960年代のナイトクラブ」も同様で、抒情性と秘めた情熱を感じさせる曲。

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盛大な拍手の応えてのアンコールは、

1.サン=サーンス:「死の舞踏」

2.イベール:「間奏曲」

いずれもユニークな曲で、演奏も「粋」で素敵だった。

2023年11月25日 (土)

ヘンツェ作曲、三島由紀夫原作「午後の曳航」

歌手陣と演出の素晴らしさ~作品自体には思う所多々あり

ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ(1926~2012)作曲のオペラ「午後の曳航」のダブルキャストのうち、11月25日の公演を同日午後、日生劇場で鑑賞した。主催が東京二期会で、NISSAY OPERA 2023との提携公演。

三島由紀夫の小説を原作とし、ハンス=ウルリッヒ・トライヒェルのドイツ語による台本。全2幕、休憩を除けば2時間に満たない作品。

演奏はアレホ・ペレス指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団。

演出は宮本亞門氏。

以下、「作品上演の経緯、変遷」、「作品の概要と展開」、「歌手陣と演出の素晴らしさ」、「作品自体(全体)に関する感想」の順で記したい。

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【作品上演の経緯、変遷】

ヘンツェは「午後の曳航」を基に、「裏切られた海」とのタイトルで作曲し、1990年にベルリン・ドイツ・オペラで初演。

その後、2003年に、ゲルト・アルブレヒト指揮の読売日本交響楽団により、セミ・ステージ形式で上演された際に、猿谷紀郎氏と藁谷郁美氏により歌唱テキストが日本語訳され、また、ヘンツェも新に6つの個所を付け加え、題名も原作どおり「午後の曳航」として上演された。

アルブレヒトはイタリア国立放送(RAI)管弦楽団と、日本初演の歌手メンバーとで、2006年、ザルツブルク音楽祭でも演奏会形式で再演(欧州初演)した。

その後、2020年にドイツ語に戻され、シモーネ・ヤング指揮によりウィーン国立歌劇場で(当時の状況ゆえ)無観客で舞台上演された。

よって今回の公演は、内容的には2003年の改訂版によるもので、言語としてはドイツ語だから、2020年のウィーン上演版による日本舞台初演ということになる。

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【作品の概要と展開】

主役の13歳の少年=黒田登(のぼる)は、33歳の母=房子を母としてだけでなく、明らかに性的も含めて一人の女性として意識している。三島独特の近親相姦性の世界が最初から舞台上に蔓延している。

そこに、二等航海士の塚崎竜二が登場し、母の恋人となる。

登は、塚崎に母を奪われても、彼を憎むこと以上に、塚崎竜二の男らしい魅力に惹かれる。竜二も登を言葉だけでなく、身体的接近で親しくなろうとする。三島独特のホモセクシュアルな世界が物語の中で交錯する。しかし、最後は、「格好良い船員」ではなくなる竜二に対する失望と、母を奪われまいとする心情からのアクションを描きながら幕が下りる。

登は塚崎に憧れたというより、母を奪った塚崎のように、自分が(そう)なりたかったのだ。

強くなれない少年登は、母房子と竜二がいる寝室を覗き見る程度のことしかできない。これは、一種のマスターベーションとも言えるだろう。その小心性、歪な心情の哀れさ。

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【歌手陣と演出の素晴らしさ】

音楽は、管弦楽も歌唱パートも全て完全無調。

しかし、歌は、「ヴォツェック」のようなシュプレヒゲザング、あるいは、シュプレヒシュティンメのような断片的な話法の連続(展開)ではなく、無調だが、あくまでも広い音域たえまなく上下行き交う「旋律」を感じさせる、粘りのある旋律線なので、ベルクよりも時折ワーグナーに似た心象を覚えた。

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主役の登を歌い演じた山本耕平さんの、演技を含めた歌唱の充実度が見事。揺れる少年も心情を、余すところなく歌い、演じられていた。

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塚崎竜二役の与那城 敬さんは、普段は、歌も体躯(スタイル)も、スタイリッシュな印象があるが、この役では、性的な魅力を含めたマッチョ系な逞(たくま)しさが終始充満しており、歌声だけなく肉体も含めた存在感自体が実に素晴らしかった。

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房子役は、私の大ファンの林 正子さん。妖艶な歌声もスタイルも「危険な魅力」に溢れていて素晴らしかった。

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同級生ギャング団の皆さんも素晴らしく、特に「1号」役の友清 崇さんが充実していたし、「2号」役でカウンターテナーの久保法之さんの声が印象的だった。

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演出は宮本亞門氏。

狭い舞台において、頻繁に変化する舞台を効率的かつ効果的に設定し、展開していて見事だった。

第1幕冒頭と第2幕冒頭では、三島由紀夫~本名、平岡公威の学習院中等科時代の顔写真が映し出されて開始した点も印象的だった。

これまでは、宮本氏の演出で良かったと思ったことはあまり無いのだが、今回の舞台演出はとても良かった。

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【作品自体(全体)に関する感想】

第1幕におけるオーケストレーションに関する私の心象は「音が多すぎる」。

過剰な無調の音の連続で、最初の登と房子の会話の場面でも、直後の二人が竜二と出会う場面とその後も含めて、「歌唱とは関係性のない音」とリズムにより、ほとんど途絶えることがないと言えるくらい、木管の不協和音や、各種パーカス、金管等による小刻みなリズムによる音が連続する。

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「歌唱とは関係性ない音」は、「ヴォツェック」も同じだが、「ヴォツェック」は密かに巧みに有機性を設定しているのに対して、この作品ではそれがあまり感じられない。現代における混乱をアヴァンギャルド的音の連続として表しているだけに過ぎないと感じてしまう。

歌手の皆さんの声が、その音たちに対して「負ける」ということはないものの、「もっとオケが黙ったほうが、歌手の皆さんだけでなく、ドラマ全体としても、逆に印象的になるのになあ」、という思いは否めなかった。

ゆえに、稀に生じる静かな場面こそ、逆に印象的だった。

例えば、竜二が「俺はまた帆を上げ~」と歌う場面。ここでは、ハープがこの日唯一とも言える美しい音、それも和風な感じのオブリガート的な音を波立たせて印象的だった。

あるいは、竜二が登に、「もう(家に)帰れ」と言う場面での静けさ。

あるいは、ギャングごっこする友人が登に、「もう子供じゃない(のだから)。夢を見るのは止めろ」と諭す場面での静けさ。

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第2幕は、「音の賑やかさ」は、第1幕ほどではなくなる。しかし、本来、音が少なくなった分、ドラマの内的緊迫度は、更に濃厚に、更に高まっているはずなのだが、私は逆に退屈してしまった。

この点でも、「ヴォツェック」における全体の「したたかな統一性」と比べると、いささか「劣勢感」を覚えた。

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「言語について」

私は「この作品は、日本語による上演こそ強い衝撃を聴衆に与え、作品の整合性としても合理的ではないか?」との思いを強く抱いた。

せっかく、アルブレヒトが日本語訳で2003年に日本で、2006年にはザルツブルク音楽祭で演奏したのだから、そのヴァージョンを優先したほうが良い、優先するべきではないか?との思いを強く抱く。

少なくとも、今度この作品が上演される際には、私は、その日本語ヴァージョンで聴いてみたいと思う。

私は黛敏郎の「金閣寺」でも同じ印象を持っていて、いくら、ベルリン・ドイツ・オペラからの委嘱作とはいえ、日本の伝統的文化背景を基盤にするドラマにおいては、日本語による作曲と展開こそが強いメッセージ性を有すると想像している(確信までには至っていない)。

日本語による創作オペラでは優れた作品が少ないことや、外国オペラの日本語上演では、旋律と言葉との齟齬、違和感を強く感じることが多い等々、日本語によるオペラ上演自体に、難しさが存在することは知っている。

しかし、そろそろ、日本語によるオペラを、「世界に打って出る」ことがあっても良い時期に来ているのではないか?とも強く思うし、この作品には、その「チャンス」があると思う。

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ダブルキャスト

11月23日、25日  24日、26日

黒田房子   林 正子      北原瑠美

登/3号   山本耕平       新堂由暁

塚崎竜二  与那城 敬      小森輝彦

1号     友清 崇       加耒 徹

2号     久保法之       眞弓創一

4号     菅原洋平       髙田智士

5号     北川辰彦       水島正樹

航海士   市川浩平       河野大樹

2023年11月16日 (木)

高野百合絵さん~歌ものがたり~第1章

20代にして佐渡裕さんとのオペラや第九等々で大活躍中のソプラノ歌手、高野百合絵さんが「歌ものがたり」と題したサロンコンサートを開始され、その初回=第1章を11月16日夜、渋谷のタカギクラヴィア松濤サロンで拝聴した。ピアノは山中麻鈴さん。

30席限定のアットホームな雰囲気の中で、演奏とトークの1時間のコンサート。

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2018年デビュー以来、既に多くのステージを経験されている高野さんが、係る企画を立ち上げた心境を1曲目の後、語られた。

「2019年に大学院を卒業しましたが、翌年はコロナ禍になり、お客様との距離感が生じたり、その後、ある事で落ち込んでいる時期にコンサートがあり、直前まで歌えるか不安でしたが、ステージに出て、お客様の温かい表情を見た瞬間、自信を取り戻して歌えました。そうしたことから、トークは苦手だけれど、お客様のことをもっと知りたい、自分のことをもっと伝えたいという思いが強まり、こうして直接お客様に接して歌う事をしてみたいと思いました」。

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この日の曲と感想は後段とさせていただき、それに先んじて、私が高野さんを知ったきっかけや、聴いてきたコンサート等について書かせていただく。

私は、彼女が東京音楽大学大学院在学中にオーディションで勝ち取った2018年の日生オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」でのドラベッラ役から拝聴している。あの公演の演出は最悪だったが、歌手の皆さんは素晴らしく、とりわけ、私は高野さんを「発見」として強い印象を覚えた。

その後は、2019年の神奈川での「カルメン」、兵庫県立芸術文化センターでの「メリー・ウィドウ」のハンナ・グラヴァリ役の堂々たるステージ(2021年)、同年、浦安での「コジ・ファン・トゥッテ」、神奈川フィルとの「レ・ミゼラブル」(演奏会形式)のエポニーヌ役での号泣したくなるような「On my own」の素晴らしい歌唱。

2022年9月の東京シティ・フィルとの「オール・スパニッシュコンサート」。

今年2月の富士市での彼女の初ソロリサイタル、7月は兵庫県立芸術文化センターでの「ドン・ジョヴァンニ」のドンナ・アンナ役等々、多くを聴かせていただいてきた。

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CDも、2020年に日本コロムビアから『CANTARES』をリリース。2022年11月にはセカンド・アルバム『Cantar del Alma  魂の歌』をリリースされている。

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20代をもうじき終えようとしている高野さんの、初サロンコンサートのプログラムは以下のとおり。

1.グノー:歌劇「ファウスト」より「宝石の歌」

2.武満徹:「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」

3.武満徹:「めぐり逢い」(詩:荒木一郎)

4.武満徹:「うたうだけ」(詩:谷川俊太郎)

5.川江美奈子:「優しさをおしえて」

6.フォーレ:「レクイエム」より「ピエ・イエズ」

7.プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」

アンコール:ガーシュウィン:「I Got Rhythm」

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グノーの「宝石の歌」を伸びやかに歌われて、先述の(最初の)トークが始まり、続いて、私が大好きな武満徹のソングを3つ。「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」の「粋」で爽やかな歌声や「うたうだけ」のシャンソン風なニュアンスも素敵だったが、特に「めぐり逢い」では、独特の抒情性があって、とても印象的で素晴らしかった。

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続いて、セカンド・アルバムにも収録されている2曲。

川江美奈子さんの作詞作曲「優しさをおしえて」は優しさに満ちた、しっとり感のある魅力的な曲。

フォーレの「レクイエム」より「ピエ・イエズ」が清らかに歌われ、プログラム最後は、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」。なんと、この曲を歌うのは、この日が初めてとのこと。良い意味でオーソドックスにして、十分魅力的な歌唱だった。

アンコールは、ガーシュウィンの「I Got Rhythm」。ボストン留学経験もあり、先述のとおり、「レ・ミゼラブル」でも素晴らしい歌唱を披露されたように、高野さんらしさ全開の魅力的な歌唱でプログラムを締めくくられた。

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なお、トークは冒頭だけでなく、プログラムの途中、MC女性と対談のカタチで行われたり、来場者からの質問コーナーもあり、企画どおり「アットホーム感」ある素敵なサロンコンサートだった。

次回2月14日が今から楽しみだ。

2023年11月14日 (火)

The 4 Players Tokyo~4つのオケから結集

指揮者の藤岡幸夫さんがプロデュースする音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東~毎週土曜8:30〜)から誕生した弦楽四重奏団である「The 4 Players Tokyo」の、杉並公会堂における第4回コンサートを、11月14日夜、杉並公会堂で拝聴した。

私は8月9日にHakuju Hallで聴いたのに続く2回目の拝聴。8月は、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、シベリウスの弦楽四重奏曲という「攻め」のプログラムだったが、今回は下記のとおり、いわば「王道」のプログラム。

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1.ハイドン:弦楽四重奏曲 第79番《ラルゴ》ニ長調 作品76-5 Hob.Ⅲ-79

2.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番《セリオーソ》ヘ短調 作品95

3.シューベルト:弦楽四重奏曲 第13番《ロザムンデ》イ短調 作品29 D.804

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藤岡さんから指名を受け集結した4つのオーケストラのトッププレイヤーは以下のとおりで、2019年秋にデビュー。これまで、全ての公演を藤岡さんがプロデュースして司会進行を行い、東京の他、広島、富山、山口、姫路など全国的に活動を広げている。敬称略で、

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第1ヴァイオリン:戸澤哲夫(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター)

第2ヴァイオリン:遠藤香奈子(東京都交響楽団第2ヴァイオリン首席奏者)

ヴィオラ:中村洋乃理(NHK交響楽団次席ヴィオラ奏者)

チェロ:矢口里菜子(山形交響楽団首席チェロ奏者)

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室内楽向けのHakuju Hallに比べると、杉並公会堂は~室内楽としては~大き過ぎるので、いくら名手の集まりとはいえ、音響的には、いささか物足りないのは事実。

それでも、内的志向の曲を、正に、各プレイヤーの内面からの思いが、温かなアンサンブルとなって醸成される素敵な音楽に満ち溢れたコンサートだった。

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1.ハイドン:弦楽四重奏曲 第79番《ラルゴ》ニ長調 作品76-5 Hob.Ⅲ-79

ハイドン(1732~1809)の1797年の作。第3楽章は明るいメヌエットだが、トリオの部分は短調に転じ、チェロの音階的な旋律も印象的。

第4楽章は、第2ヴァイオリンとヴィオラのキザミに乗って、第1ヴァイオリンが軽やかなテーマを歌い出し、チェロがそれを弾き継ぐなど、さすがハイドンたる作曲の巧さを感じさせる魅力的な楽章。

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2.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第11番《セリオーソ》ヘ短調 作品95

第1楽章は短いが内省的な考察を感じさせる。第2楽章は、各パートの歌と対話。

第3楽章は印象的なリズムが特徴の有名な曲想。発想標語として「アレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ・マ・セリオーソ(serioso)」と書かれ、この曲のニックネームの由来がこの楽章。

正に「これぞベートーヴェン」とも言うべき、魅力的な楽章だ。

第4楽章は短い序奏からアレグロに入る。短調によるシリアスな物語が展開するが、コーダでは長調に転じて終わる。

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3.シューベルト:弦楽四重奏曲 第13番《ロザムンデ》イ短調 作品29 D.804

第1楽章は、既に十分ロマン派の音楽だ。旋律においても自由な構成においても。そして、短調部分も長調部分も、いずれも魅力的に様々な要素が表れる楽章。

第2楽章が「ロザムンデ」の主題を中心に、しっとりと温かく歌われる。

第3楽章は、チェロの呼びかけで開始されるのが印象的。

第4楽章は、愛らしく開始し、第1楽章同様、様々な要素が盛り込まれながら展開する。

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カーテンコールでは、Hakuju同様、藤岡さんも登場し、4人の奏者一人ひとりがマイクを手に挨拶。

そして、アンコールは、「ロザムンデ」の原曲たる劇音楽「ロザムンデ」の第3幕から間奏曲が、しっとりと美しく演奏され、素敵なコンサート終演した。

2023年11月12日 (日)

日生オペラ~ヴェルディ「マクベス」

マクベス夫人役の岡田昌子さんが圧巻

ヴェルディの歌劇「マクベス」の、ダブルキャストの内、11月12日の公演を同日午後、日生劇場で鑑賞した。

指揮は沼尻竜典さん。演出は粟國 淳(あぐに じゅん)さん。

管弦楽は読売日本交響楽団。合唱がC.ヴィレッジシンガーズ。

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タイトルは「マクベス」でも、岡田昌子(しょうこ)さんの圧巻の歌唱により、歌劇「マクベス夫人」にタイトルを置き換えたほうが良いと思ったほど、この日の公演は、岡田昌子さんの圧巻の歌唱と圧倒的な存在感に尽きる公演だった。

私は、2012年2月のバッティストーニ指揮による「ナブッコ」で、アビガイッレを歌い演じた岡田昌子さんに感動して、それまで面識が無かったにもかかわらず、詳しい自己紹介を含めた「ファンレター」を書いてメッセで送り、今では親しくさせていただいている。

アビガイッレ役でもそうだったが、岡田さんには、強靭な意志を感じさせる歌声がある。

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この日のマクベス夫人においても、豊かな声量による意志的な強さだけでなく、第2幕での「盃を満たしましょう」での嬉々とした感情の表出や、第4幕における、不安定な内面からの激しい感情の揺れの表出等々、場面に応じた様々なニュアンスの色分けも巧みで見事だった。

今年5月のケルビーニの歌劇「メデア」日本初演におけるタイトルロール役では、私は岡田さんについて、「『憑依』とさえ言える圧倒的な存在感」と書いたが、今回も正にそのまま、その言葉を引用して絶賛したい。

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マクベス役の大沼 徹さんは、マクベスのイメージからだと、ソフトな優し過ぎる感じもしたが、第2幕での、心揺れる小心の表出が良かったし、第4幕における自嘲と嘆きの歌である「罵りの言葉だけだ、お前(私)を弔う歌は(挽歌は)」と歌うアリアでの感情移入も印象的だった。

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マクダフ役の大槻孝志さんは、第4幕での、妻子を殺された悲しみと憤りと復讐心が伝わる歌唱が素晴らしかった。

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この歌劇には詳しくないが、物語として少し奇妙に思えるのは、マクベスは将軍のくせに、終始「小心者」だし、第1幕と第2幕では、あれほど強気で権力志向の申し子の様な魔女的だったマクベス夫人が、第4幕では、「どうしたことか?」と思うほどに、心を乱し、別人のように弱々しく変化していることが不思議だった。

原作を知らずに言うのも何だが、少なくとも、このオペラでは、物語の展開に関しては、筋の論理性が弱いと感じた。

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合唱は、どの場面も良かったが、特に第1幕でのエンディングが素晴らしかった。

演出では、第2幕での、マクベス夫人が、国王の地位(権力の象徴)を表すイスだけを使っての歌唱が印象的だったが、そのほかは、特に優れた点や魅力は、あまり感じなかった。

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        11日     12日

マクベス:  今井 俊輔   大沼 徹

マクベス夫人:田崎 尚美   岡田 昌子

バンクォー: 伊藤 貴之   妻屋 秀和

マクダフ:  宮里 直樹   大槻 孝志

マルコム:  村上 公太   髙畠 伸吾

侍女:    森 季子    藤井 麻美

(両日)

マクベスの従者・第一の幻影 他:後藤 春馬

マクベスの従者・第一の幻影 他:金子 慧一

第二の幻影:田浦彩夏、第三の幻影:大木美枝

2023年11月 9日 (木)

澤江衣里さん&中嶋俊晴さん DUO重唱の芸術

ソプラノの澤江衣里さんと、カウンターテナーの中嶋俊晴さんによるオール・ヘンデル・プログラムを11月9日夜、新大久保の日本福音ルーテル東京教会で拝聴した。

プロムジカ使節団主催による公演で、「DUO 〜重唱の芸術~ヘンデル作品を集めて〜」というタイトルが付けられている。

前半はオラトリオから、後半はカンタータとオペラからの選曲で、以下のとおり。

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1.トリオ・ソナタ ト長調より

2.「アレクサンダー・バルス」(1747年)より「ああ、結ばれた愛、不思議な法則」

3.「ヨシュア」(1747年)より「比類なき乙女よ、美しさに恵まれ」

4.「デボラ」(1733年)より「微笑みの自由、愛する者よ」

5.トリオ・ソナタ ニ長調

6.「テオドーラ」(1749年)より

(1)「変わることなく流れ続ける喜びの小川」(アルト)

(2)「我らの心は惹かれる」

7.「ソロモン」(1748年)より「夜明けの陽を」

8.「スザンナ」(1748年)より「私の純潔なスザンナをタタエルために」

 (休憩)

9.二声のカンタータ「悩み、苦しみ」

10.チェンバロのソロ~組曲第5番ホ短調より

11.二声のカンタータ「君はこの胸にたくさんの矢を放つ」

12.トリオ・ソナタ ト長調より

13.「タメルラーノ」(1724年)より「私はあなたの中に生きている、愛しい人よ」

14.「ジュリオ・チェーザレ」より「愛する人、美しい人」

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澤江さんの清涼感と透明感のある、ピュアで伸びやかな歌声の素晴らしさは言うまでもないこと。

この日も、長調での愉悦感、短調での深い感情移入も含めて、魅力的な歌声を堪能させていただいた。

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そして、初めて聴かせていただいたカウンターテナーの中嶋俊晴(としはる)さんに、嬉しい驚きを強く深く感じた。優れたカウンターテナーが続々と出て来ている中、中嶋さんのソフトで温かく、自然体にして端正なフレージングと、歌う喜びが伝わる歌唱は素晴らしかった。

京都市立芸術大学卒業後、東京藝術大学大学院古楽器科バロック声楽を専攻。その後、ウィーン国立音楽大学大学院リート・オラトリオ専修およびアムステルダム音楽院大学院を、共に満場一致の栄誉賞付き最優秀で修了されたというが、納得の歌声。現在はアムステルダムに在住し、欧州を中心にオラトリオ、オペラのソリストとして活動をされているとのこと。これからが、益々楽しみだ。

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曲について少し書いてみるが、私はヘンデルに全く詳しくないので、今回聴いた印象をメモ程度に記すことに止めたい。

前半のオラトリオからの曲は、歌詞が英語。

歌が入る6曲の内、「テオドーラ」と「ソロモン」以外の4曲は、3拍子を基本としていたのが興味深かった。調性は「ヨシュア」が短調で、他の3曲が長調。4拍子系の2曲は、「テオドーラ」でのアルト・ソロ=カウンターテナーによる「変わることなく流れ続ける喜びの小川」が長調、デュオによる「我らの心は惹かれる」が短調。「ソロモン」も短調が主体。

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後半はイタリア語の作品。

二声のカンタータの2曲も、とても素敵だったし、「タメルラーノ」の「私はあなたの中に生きている、愛しい人よ」は、悲劇的な状況における感情と、それでも毅然とした気品を湛えた情感深い、感動的な曲。

「ジュリオ・チェーザレ」の「愛する人、美しい人」は、2人の純な喜びが直に伝わってくる清涼感ある曲。

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澤江衣里さんと中嶋俊晴さんのデュオ・リサイタルは、今後も定期的に継続されていくことを強く希望する。

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プロムジカ使節団

ヴァイオリン:池田 梨枝子、秋葉 美佳

チェロ:山本 徹、チェンバロ:圓谷 俊貴

2023年11月 7日 (火)

中 恵菜さん~ヴィオラ~B→Cに登場

演奏家と作曲家の幸福な関係性のひとときを堪能

東京オペラシティのリサイタルホールにおける企画公演「B→C」~バッハからコンテンポラリーへ~の第256回は、ヴィオラ奏者の中 恵菜(めぐな)さん。

新日本フィルの首席、カルテット・アマービレ等、アンサンブルでの活躍が目覚ましいヴィオラ奏者だが、自身初めての無伴奏リサイタルに挑み、素晴らしい成果を挙げた見事なリサイタルだった。

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「可愛いだけのヴィオラ奏者じゃない」などと、当然にして失礼なことを今更言うわけはないのだが、その当然の事を改めて強烈に実感した、素晴らしいリサイタルだった。

「今、こんなに上手くヴィオラを弾ける奏者は他にいないのではないか?」控えめに言っても、「ごく少数に限定されるのではないか?」とさえ思うほどの、素晴らしい演奏を披露された。

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もし、私が作曲家なら、彼女に献呈する曲を必ず書くし、献呈作品ではないながら、来場され、素晴らしい演奏による自作を目の前で聴くことができた細川俊夫さんと野平一郎さんは、作曲家冥利に尽きたと想像する。プログラムは以下のとおり。

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1.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調BWV1009

2.ブリテン:無伴奏チェロ組曲第3番op.87(1971/74)

 (休憩)

3.細川俊夫:哀歌―東日本大震災の犠牲者に捧げる(2011)

4.ペンデレツキ:無伴奏ヴィオラのための《カデンツァ》(1984)

5.ノックス:無伴奏ヴィオラのための《フーガ・リブレ》(2008)

6.野平一郎:トランスフォルマシオンⅢ―J.S.バッハの5つの断片による(2018)

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1.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009

中さんは、桐朋学園大では当初ヴァイオリンとヴィオラのいずれをも専攻し、ヴィオラ独特の奥行きのある音色や室内楽での役割に惹かれ、大学3年の時に正式転向を決めまたという。

1曲目のバッハは、全体としては端正にして、しなやかな、自然体による演奏で、各所のテヌートを含めて豊かな音楽性を示した。

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2.ブリテン:無伴奏チェロ組曲第3番op.87(1971/74)

ベンジャミン・ブリテン(1913~1976)は1960年の9月に、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番がロンドンで西側初演された際に、ショスタコーヴィチからロストロポーヴィチを紹介され、以降、親交を結び、ロストロポーヴィチのためにチェロ・ソナタやチェロと管弦楽のための交響曲、3曲の無伴奏チェロ組曲集などを作曲した。

この無伴奏チェロ組曲第3番は、以下の9つの楽章から構成されている。

1.Introduzione(Lento)

2.Marcia(行進曲:Allegro)

3.Canto(歌:Con moto)

4.Barcarola(舟歌:Lento)

5.Dialogo(対話:Allegretto)

6.Fuga(Andante espressivo)

7.Recitativo(Fantastico)

8.Moto perpetuo(Presto)

9.Passacaglia(Lento solenne)

いろいろな技術を用いながら、断片的な曲想が多く、正直な感想としては、「なんだかなあ」という感じがした。ブリテンにしては、成功している感じがあまりしない。演奏は素晴らしかった。

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3.細川俊夫:哀歌―東日本大震災の犠牲者に捧げる(2011)

細川俊夫さん(1955~)が、第2回東京国際ヴィオラコンクールの課題曲として委嘱されて作曲。

レクイエム的というよりは、特殊奏法を多用しての波や人の叫びを連想させる、印象的な作品。

中さんの技術の素晴らしさに感動。

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4.ペンデレツキ:無伴奏ヴィオラのための《カデンツァ》(1984)

クシシュトフ・ペンデレツキ(1933~2020)が、前年1983年に書いたヴィオラ協奏曲が基になっているが、その(ための)カデンツァ部分を発展させた曲というより、協奏曲の縮小版という曲想。特殊奏法はもちろん使うが、全体として、楽器を豊かに響かせることに重きを置いた作品に思えた。無調だが、豊麗な音で魅了する作品。

中さんの技術の素晴らしさに感動。

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5.ノックス:無伴奏ヴィオラのための《フーガ・リブレ》(2008)

アイルランド生まれで、スコットランドで幼少期を過ごしたガース・ノックス(1953~)自身、ヴィオラ奏者であったことからか、特殊奏法を多用するだけでなく、ペンデレツキ同様、楽器を響かせることに力点が置かれている感じがした。激しさのある前半。特殊奏法を用いての瞑想的な中間部。エンディングでは再び激しさを伴う曲想。

中さんの技術の素晴らしさに感動。

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6.野平一郎:トランスフォルマシオンⅢ―J.S.バッハの5つの断片による(2018)

野平一郎さん(1953~)が、第4回東京国際ヴィオラコンクールの課題曲として委嘱されて作曲。

「トランスフォルマシオン」シリーズは、「バッハを現代に変換する試み」として、バッハ作品を基に展開したシリーズで、ⅠとⅡは、バッハの「シャコンヌ」による〜4つのヴィオラのための作品。ピアノによるバッハによるIVは、平均律クラヴィーア曲集第1巻の前奏曲第1番を基に作曲。4つのチェロによるⅤは、無伴奏チェロ組曲第5番を基に作曲。

今回演奏された、トランスフォルマシオンⅢ―J.S.バッハの5つの断片による~は、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のフーガを基に作曲された。

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ブリテン、細川、ペンデレツキ、ノックス、野平に共通する要素は、楽器の重音の多用と言う点だが、とりわけこの作品の前半では、重音の連続による無調と特殊奏法による迫力ある展開が印象的だったし、中間部での瞑想的曲想、後半での、バッハの旋律を断片的に用いながらの「現代性への変換」も印象的だった。

中さんの技術の素晴らしさに感動。

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このように、中さんの技術の素晴らしさを認識し、確信、感動したと同時に、演奏家と作曲家の幸福な関係性のひとときを大いに堪能させていただいた、素晴らしいリサイタルだった。

アンコールでは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007より「プレリュード」が端正に、しなやかに、ピュアに演奏され、この魅力に満ち溢れた無伴奏ヴィオラによるリサイタルが終演した。

2023年11月 4日 (土)

児玉麻里さん&児玉 桃 さん~「春の祭典」他

児玉麻里さんと児玉 桃さん姉妹によるピアノ・デュオ・リサイタルを11月4日午後、神奈川県立音楽堂で拝聴した。プログラムは以下のとおり。

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1.チャイコフスキー(ラフマニノフ編曲)「眠りの森の美女」組曲より

(1)序奏 リラの精(2)アダージョ パ・ダクシオン(3)長靴をはいた猫(4)ワルツ

2.チャイコフスキー(ランゲリ編曲):「白鳥の湖」より

(1)情景(2)四羽の白鳥の踊り(3)パ・ド・ドゥ(グラン・アダージョ)

3.チャイコフスキー(ドビュッシー編曲):「白鳥の湖」より

(1)ロシアの踊り(2)スペインの踊り(3)ナポリの踊り

(休憩)

4,ストラヴィンスキー:「春の祭典」(2台ピアノ版)

アンコール:「くるみ割り人形」より、「金平糖の踊り」、「花のワルツ」

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前半のチャイコフスキーは、麻里さんが主旋律あるいは高音を受け持ち(客席から見て左)、桃さんが低音域(同右)を担当。

演奏はもちろん良かったが、ラフマニノフ編曲による「眠りの森の美女」の譜面があることは知らなかったし、もっと驚いたのは、ドビュッシー編曲の「白鳥の湖」の譜面があること。その点でも興味深く、印象的なデュオ演奏だった。

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休憩後の後半はストラヴィンスキーの「春の祭典」。

役割を変えて、桃さんが主旋律あるいは高音を受け持ち(客席から見て左)、麻里さんが低音域(同右)を担当。作曲家自身による2台ピアノ編曲で、初演と同年の1913年にオーケストラ・スコアに先立って出版されている。

録音では、これまで数組の演奏を聴いているし、ライヴでは昨年2022年7月31日に、小川典子さんと、イリヤ・ラシュコフスキー氏による演奏をミューザ川崎シンフォニーホールで聴いた。

そのときが、初めてのライヴ拝聴と思ったのだが、違った。

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今回の麻里さん&桃さん姉妹の「春の祭典」を聴いていると、「あっ、確か、だいぶ以前、「ラ・フォル・ジュルネ」で聴いたよな」と思い出した。

終演後のサイン会で、「私の記憶違いでしたら、すみませんですが」と前置きして確認すると、麻里さんが「演奏しました」と答えてくれたので、「あのときも聴かせていただきました。だいぶ前ですが」と伝えると、桃さんが麻里さんに「春の祭典を演奏したんだっけ?」と確かめていた。そのくらい前のこと。

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肝心の演奏は、迫力十分~特に低音を担当した麻里さんの打鍵の見事さ~だが、むしろ、全体としては、明るさと温かさ、そして、エレガントささえ感じられる魅力的な演奏だった。

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アンコールでは、前半に演奏されなかった「くるみ割り人形」から、「金平糖の踊り」と「花のワルツ」が演奏され、素敵な姉妹デュオのリサイタルが終わった。

2023年11月 3日 (金)

俊友会管弦楽団~創立40周年記念シリーズ②指揮者・堤俊作の足跡を偲ぶコンサート

「指揮者・堤俊作の足跡を偲ぶコンサート」

創立40周年を迎えるとともに、音楽監督だった故・堤俊作さん逝去後10年が経った俊友会管弦楽団のコンサートを11月3日午後、すみだトリフォニーホールで拝聴した。

奏者としては、コントラバスの名手であった堤さん。また、松山バレエ団、牧阿佐美バレヱ団、井上バレエ団等のバレエ公演の多くを指揮し、アマチュアオケである俊友会管弦楽団においても2007年から、日本バレエ協会の関東支部神奈川ブロック公演に毎年のように参加、演奏してきた堤俊作さんと俊友会管弦楽団に相応しいプログラムであり、素晴らしい演奏によるコンサートだった。まず、演奏曲等は以下のとおり。

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指揮:中田延亮

1.ヒナステラ:バレエ組曲「エスタンシア」

  共演:井上バレエ団、ゲストダンサー:浅田良和

2.クーセヴィツキー:コントラバス協奏曲

  コントラバス・ソロ:石川 慈

3.バルトーク:管弦楽のための協奏曲

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俊友会管弦楽団は、2013年9月1日に66歳の若さで逝去された堤俊作さんが生前、指導された全国各地の学生オーケストラ等の出身者によって1983年に結成。

「音楽にはプロもアマチュアもない」という堤さんの信条のもと、1985年から春秋 2回の定期演奏会の他、第20回記念演奏会(1995年)では、ウィーンのムジークフェライン (楽友協会大ホール)で、ブルックナーの交響曲第8番を演奏している。

マーラー「千人の交響曲」、R・シュトラウス「アルプス交響曲」、 メシアン「トゥランガリラ交響曲」、シェーンベルク「グレの歌」など、ほとんどのアマチュア・オーケストラは、滅多に演奏する機会がない大曲も演奏してきている。

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堤俊作さんは、私も少しだけ関係があった。

1979年に大学のオケに客演され、「第九」を演奏した際は、私は合唱で出演し、1981年の客演の際にはオケに移っていた私は、堤さんの指揮で、マーラーの交響曲第1番とシューベルトの「未完成」を演奏した。

私との繋がりはその程度だが、今回のプログラムには、俊友会管弦楽団の団長だけでなく、元団長、顧問のほか、1975年から2011年6月までの36年間、毎年、指揮をされたという九州大学フィルハーモニーの関係者2名も寄稿されるなど、記念公演らしい盛り沢山のプログラムになっている。

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演奏に関する感想等

1.ヒナステラ:バレエ組曲「エスタンシア」

アルゼンチンの作曲家、アルベルト・エバリスト・ヒナステラ(1916~1983)による1幕もののバレエ。1941年作。1978年のジュネーヴ国際指揮者コンクールで堤さんが優勝したときの審査員の一人がヒナステラだったことから縁ができたと思われ、「エスタンシア」の日本初演は堤さんが指揮している。組曲は次の4曲。

(1)開拓者たち、(2)小麦の踊り、(3)大牧場の牛追い人、(4)終幕の踊り(マランボ)

堤さんと縁が深かった井上バレエ団から16名の女性ダンサーと3名の男性ダンサーに加え、ゲストダンサーとして、東京シティ・バレエ団のプリンシパル、浅田良和さんによるバレエダンス付き。

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(1)開拓者たち~パーカッションを中心に、ラテン感溢れるリズミックで賑やかな曲。

(2)小麦の踊り~一転して、ゆったりとした、抒情的な曲。

(3)大牧場の牛追い人~ティンパニが叩き続け、バスドラムも時折加わる、活力ある曲。

(4)終幕の踊り(マランボ)~前半はタンバリンや木管が中心だが、後半は小太鼓等、パーカッション群と金管も活躍する賑やかな曲。

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2.クーセヴィツキー:コントラバス協奏曲

セルゲイ・クーセヴィツキー(1874~1951)はロシアで生まれ、アメリカで指揮者として活躍したが、当初は指揮を学ぶ機会も無かったこともあり、コントラバス奏者として音楽活動を開始している。

この曲は1904年に作曲され、翌年、クーセヴィツキー自身のソロで初演されたが、実際の作曲はソロパートのみで、オーケストレーションはトルミンという人が行ったとされる。

この日のソリスト、石川 慈さん(読売日本交響楽団ソロ・コントラバス奏者)は、堤さんの直弟子としてコントラバスを学んだ人。

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第1楽章:開始は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を連想するが、直ぐにコントラバスのソロが入る。5弦ではなく、4弦によるコントラバスは、低音はあまり使われず、高音をメインとした旋律。全体としては短調を基本としている。

第2楽章は長調による抒情的な曲想。よって、この楽章でも、ソロは高音が主としていた。

第3楽署は、第1楽章と同じように入り、やがて長調に転じ、抒情的な曲想で終わった。

アンコールとして、石川 さんは、オケの伴奏にのって、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」を演奏された。

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休憩後の後半は、

3.バルトーク:管弦楽のための協奏曲

バルトーク(1881~1945)に新作の委嘱をしたのはクーセヴィツキー。バルトークは体調が良くなかったにもかかわらず、2か月足らずで、この音楽史に残る傑作を完成させた。

名曲中の名曲にして、大変な難曲だが、俊友会管弦楽団の演奏は、各パートも含めて、どの楽章も驚くほどの完成度の高さで見事だった。全く申し分ない素晴らしい演奏だった。

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アンコール

チャイコフスキー:「眠りの森の美女」より ワルツ

ワルツの前半はオケだけだが、後半は予想どおり「エスタンシア」に出演したバレエダンサー全員が再登場して、聴衆を大いに沸かせ、楽しませてくれた。

衣装も「エスタンシア」では割と地味系だったが、この曲では、男性の上は白、女性は水色の衣装で踊った。

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なお、最後となったが、決然的にして明瞭なタクトで指揮した中田延亮さんも、桐朋学園では、楽器としてはコントラバスを専攻された人で、その師匠は堤さんの弟子(いわば孫弟子)、という関係性も含めて、今回のコンサートは、あらゆる点で、堤俊作さんを偲ぶコンサートに相応しいコンサートと言えた。素晴らしい公演だった。

2023年11月 1日 (水)

新倉瞳さん~Trio Barocco

もう一度、新倉瞳さんのフィールドの広さについて

チェロの新倉瞳さん、ヴァイオリンの原田陽(あきら)さん、アコーディオンの佐藤芳明さんによる「Trio Barocco」の演奏を11月1日夜、東武東上線、中板橋駅近くの「マリーコンツェルト」で拝聴した。

「ゆがんだ真珠の音楽会2023~王様からの宿題」というユニークなタイトルが付けられたコンサート。

バロック系のトリオ演奏~それも楽器構成がユニーク~を聴いて改めて思ったことは、以前も書いたが、新倉瞳さんのフィールドの広さということだ。

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今年9月には、椿三重奏団としてチャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」を中心としたセカンドアルバム・リリース・コンサート。ピアノの佐藤卓史さんとのブランチコンサートではポピュラーな曲に加え、クレズマー(東欧の伝承曲)のソロ歌唱から開始する「ニグン」の演奏。私は行けなかったが、オンディーヌ室内管弦楽団とのエルガーのチェロ協奏曲の演奏。

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10月は「アラブ音楽への誘い」と題してウード奏者、レク奏者とのトリオによる、ライヴ・ハウスでのライヴ。私は行けなかったが~来年3月にも聴ける~パーカッション奏者の渡辺庸介さんとの、お寺におけるライヴ等々、そのフィールドの広さは驚異的で、留まることを知らない。このようなチェリスト、いや、音楽家は、過去においても現在でも、極めて稀有な演奏家と言えるだろう。

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この日の演奏曲は以下のとおり。

1.ガングリオン:シン・チャッコーナ

2.ビーバー:ロザリオのソナタ集より第1番「受胎告知」

3.コレッリ:ヴァイオリン・ソナタ第12番「フォリア」Op.5-12

 (休憩)

4.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より

(1) 3声のリチェルカーレ、(2)5度のフーガ・カノニカ、(3)トリオ・ソナタ

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1.ガングリオンの「シン・チャッコーナ」

カングリオンは現存のスイス人作曲家とのことだが、曲も含めて詳細は不明。新倉さんはスイス在住だから、現地で知り合った人と作品と思われる。

ゆったりしたテンポで、「移動ド」で言うと、「ラ→ソ→ファ→ミ」という下降音型をピッツィカートで奏しながら、「ニグン」のように新倉さんがスキャット風の無言歌を歌による開始。アコーディオン、ヴァイオリンが入り、短くも印象的な曲だった。

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2.ビーバー:ロザリオのソナタ集より第1番「受胎告知」

ハインリヒ・ビーバー(1644~1704)による作品。

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3.コレッリ:ヴァイオリン・ソナタ第12番「フォリア」Op.5-12

アルカンジェロ・コレッリ(1653~1713)による充実した曲。

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4.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より

(1) 3声のリチェルカーレ、(2)5度のフーガ・カノニカ、(3)トリナタ

1747年5月7日にフリードリヒ大王の宮廷を訪ねた際、ハ短調のテーマを大王から与えられたバッハは、これを用いてその場で即興演奏をしたほか、後に、大王の主題を全曲で用いて作曲した曲集が「音楽の捧げもの」。

特に4楽章制をとる「トリオ・ソナタ」が充実した作品。

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なお、新倉瞳さんはこれまでも、原田陽さんとも、佐藤芳明さんとも、それぞれ共演されているし、このトリオも今回が初めてではないそうなので、今後も継続を期待したい。

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