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2023年8月26日 (土)

坂本彩&坂本リサ~ピアノデュオ・リサイタル

2021年のミュンヘン国際コンクールのピアノデュオ部門において、日本人デュオとして初の第3位入賞および聴衆賞を受賞した坂本彩さん(姉、フラーヤーこちらから見て右)と、妹の坂本リサさん(同左)の姉妹デュオ・リサイタルを8月26日午後、Hakuju Hallで拝聴した。

姉妹とも東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程ピアノ科で学び、ドイツ国立ロストック音楽・演劇大学ピアノデュオ科修士課程を最優秀で修了し、現在は同大学の国家演奏家資格課程に在籍中。

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姉妹でのピアノデュオは児玉麻里さんと児玉桃さんの例があるし、姉妹ではないが姉妹のように仲の良い高橋多佳子さんと宮谷理香さんによる「デュオ・グレイス」等、日本人同士でも複数の例があるが、ほとんどが基本はソロをメインとされているのに対し、坂本姉妹は現状「デュオ1本」と決めての活動。

また、お父様の影響で、姉妹共に日本棋院・囲碁三段というのが面白い。ちなみに後述の作曲家、向井響さんも囲碁が好きで、その関係もあり~また、彩さんは、大学院は東京藝大だが、学部は桐朋学園大学で、向井さんとは桐朋学園同期となり~親しくなったとのこと。

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コンクール歴と国内の演奏を追記すると、二人は小学生のころからデュオを組み、地元の福岡県ほか当時から既に多くのコンクール入賞の常連。国際的にはまず2018年のポーランドにおける国際ピアノデュオコンペティションで第1位およびパデレフスキ賞受賞。2019年はチェコにおけるシューベルト国際ピアノデュオコンクールでも第1位。

国内活動では、2022年3月に久石譲「Variation 57 〜2台のピアノのための協奏曲」(管弦楽版)の世界初演。同年10月は、ジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団とモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲K.365で共演するなど、活躍が続いている。

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前置きが長くなったが、この日のプログラムは以下のとおり。

1.ラヴェル:マ・メール・ロワ(1台による連弾)

2.シューベルト:幻想曲ヘ短調D940 Op.103(1台による連弾)

3.向井響:交響的ソナタ(委嘱新作・世界初演)~2台ピアノ

4.リスト:悲愴協奏曲 ホ短調~2台ピアノ

5.リスト:ドン・ジョヴァンニの回想~2台ピアノ

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「マ・メール・ロワ」はエレガントで美しかった。

シューベルトの「幻想曲ヘ短調」は名曲中の名曲。本当に素晴らしい作品だ。演奏も迫力があり、見事。

なお、連弾では、リサさんが高音部を受け持ち、低音部分を彩さんが演奏。これは、2台ピアノでの演奏でも~向井さんの互いを「個」とした作品は別として~基本は同じ役割分担だった。

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前半最後はその向井 響さんの「交響的ソナタ」

姉妹による委嘱新作で世界初演。もっとも、この日に先んじて今月13日に名古屋市の宗次ホール、20日には北九州市の黒崎ひびしんホールで演奏しているので、本当の初演は宗次ホールではある。

先述のとおり、坂本彩さんと桐朋学園大学時代に親しくなったが、響さんには航(わたる)さんという双子の弟で、同じく作曲家がおり、2人は12歳のとき出場した連弾コンクールで坂本姉妹を初めて知り、そのときから姉妹の才能に驚いていたという。

委嘱初演作の「交響的ソナタ」は、10分くらいの曲で、無調と有調、抒情性とアグレッシブな超絶技巧等々が複雑に混じり入る、聴き応え十分な力作だった。凄い才能だと思う。

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休憩後の後半は、まず、

リストの「悲愴協奏曲」ホ短調

「悲愴」と言っても、チャイコフスキーやベートーヴェンとは何ら関係ない。1860年代半ばころに作曲された作品で、20分くらいの「大幻想曲」とでも言える様な曲だった。

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プログラム最後は同じくリストの「ドン・ジョヴァンニの回想」

モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」からのテーマを引用しながらの、いかにもリストという技巧的な曲で、15分くらいの曲。

大歓声後のアンコールは、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」により、しっとりと終わった。

これからも益々楽しみなピアノデュオだ。

芳賀あずささん2つのコンサート

芳賀あずささんトーク&ライヴ~Tonalite

先週18日の町田での芳賀あずささんと川越未晴さんとのデュオ・コンサートは都合悪く行けなかったので、情報を探したところ、8月24日夜、赤坂の「Tonalite」で、

「芳賀あずさトーク&ライブ」というイベントがあることを知り、拝聴した。

ピアノは田島葉子さん。芳賀さんへのインタビューを兼ねた進行は立花裕人さん。

曲数は以下のとおり少ないが、インタビューが盛り沢山だったので、普通のコンサートではまず聞けないであろう芳賀さんの幼少期からこんにちまでの歩みを~結構、苦労人でもあることを含めて~知ることができて、とても良い企画だった。

初めて聴かせていただいた芳賀さんの歌声は、声量豊かに朗々として明るく、ブレの皆無な見事な歌唱。素晴らしい歌手だと思う。今後が益々楽しみだ。

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プログラム

1.成田為三:「浜辺の歌」(詩:林古渓)

2.中田喜直:「サルビア」(詩:堀内幸枝)

3.スカルラッティ:「すみれ」

4.アルディーティ:「口づけ」

(休憩)

5.モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」より「愛の神よ」

6.チレア:歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」より「私は創造の神の卑しい下僕」

7.プッチーニ:歌劇「トスカ」より「歌に生き、愛に生き」

アンコール

プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私の愛しいお父さん」

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芳賀あずささん~サロンコンサート

1週間前に赤坂で聴かせていただいた芳賀あずささんのミニコンサートを8月31日午後、駒込のソフィアザールサロンで拝聴した。ピアノはここのオーナーでもある遠藤恵美子さん。

このサロンで(原則)毎月1回、木曜日に開催されている「午後の小さなコンサート」というマンスリー・コンサートのVol.11で、1時間のミニコンサート。よって、曲数は先日同様少ないが、今回も至近距離でじっくり聴かせていただいた。

芳賀あずささんの歌声には「厚み」があり、明るい温かさがある。細く繊細な声というのではなく、ヴィブラートも、良い意味であまり感じさせないほど控えめなので、声量豊かな美声がストレートに聴衆に伝わる。第一声からして魅力的な声だと確認でき、その確信は終始続き、その安定感も素晴らしい。

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最初に山田耕筰の「かやの木山の」と橋本國彦の「お菓子と娘」という、日本歌曲の大家2人の作品により、日本歌曲を~オペラティックな妙な発音ではなく~美しい自然体な日本語で歌えることを示した。

続くドイツ語によるブラームスの「君の青い瞳」は抒情的な歌唱。

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モーツァルトの「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」は、短い曲だが、短調によるドラマティックな、エスプレッシーヴォの曲で、感情移入の巧みさを披露された。

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モーツァルトの「すみれ」。短いが素晴らしい名曲。

長調を基本としながらも、短調コードでのレスタティーヴォ的な部分や、「魔笛」のパミーナのアリアを連想するような一節も含めて、詩の変化に曲想が応じて展開するのが見事。それを3分に満たない中でモーツァルトはやってのけたのだ。これこそ天才の証。名アリアと伍するほどの秀逸なこの歌曲を、芳賀さんの歌唱は、高音における伸びやかさと美しさの点では、この曲が最も印象的だったし、曲想に応じた表現により歌われて素敵だった。

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芳賀さんの小休憩も含めて、遠藤さんのソロで、リストのコンソレーション第1番が清々しく演奏された。

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モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」より「あの楽しい思い出はどこに」。

言うまでもなく、名アリア中の名アリア。

冒頭。小学生でも書けそうな位シンプルに開始するが、歌詞に応じて旋律とトーンが次々と展開する。情感は次第に高揚し、聴衆の心を揺さぶり、鷲掴みしながら、エンディングはベートーヴェンの「フィデリオ」の終幕さえ連想するドラマティックな展開で終わる。信じ難いほどの偉大なアリアだと思う。

芳賀さんは情感豊かにドラマティックに歌われ、大きな拍手が起きた。

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プログラム最後は、レハールの喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」。

芳賀さんは小さなタンバリンを片手に情熱的な歌唱を披露し、大歓声のうちに終了。

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アンコールは、芳賀さんが大好きな歌という~私も大好きな~ジーツィンスキーの「ウィーン、わが夢の街」。

芳賀さんは思い出も披露され、高校の修学旅行で行ったウィーンの~いくら音楽科を有する私立高校とはいえ、修学旅行でウィーンとは驚くが~ホイリゲで演奏されていたので、「歌わせてください」と名乗りを上げ、日本語で歌われたとのこと。この日も美しい日本語で情感豊かに歌われ、ミニコンサートを締めくくられた。

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プログラム

1.山田耕筰:「かやの木山の」~詩:北原白秋

2.橋本國彦:「お菓子と娘」~詩:西条八十

3.ブラームス:「君の青い瞳」~8つの歌曲op.59-8

4.モーツァルト:「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」K.520

5.モーツァルト:「すみれ」K.476~詩:ゲーテ

6.ピアノのソロでリスト:コンソレーション第1番

7.モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」より「あの楽しい思い出はどこに」

8.レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」

アンコール

ジーツィンスキー:「ウィーン、わが夢の街」

 

慶應の応援について

後日記載します。

2023年8月19日 (土)

東京ユヴェントス・フィルハーモニーのマーラー7番ほか~コーダでのカウベル大合奏演出が圧巻

東京ユヴェントス・フィルハーモニーの第24回定期演奏会を8月19日の午後、ミューザ川崎シンフォニーホールで拝聴した。関東圏だけでもプロに近いレベルの優秀なアマオケは少なくない数が在るが、その中でも今、このオケが一番上手いかもしれない。マーラーの交響曲第7番を聴いて、改めてそう思った。

2008年に「慶應義塾ユースオー ケストラ」という名称で、慶應義塾創立150年を記念する特別演奏会のために慶應義塾の高校生・大学生を中心として結成され、2014年、門戸を広げて幅広い年齢層や出身のメンバーが集い、団体名を「東京ユヴェントス・フィルハーモニー」に変更。それでも、見た目からも平均年齢が若いオーケストラだと判る。

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指揮は、このオケを結成した坂入健司郎さん。「創立15周年記念シリーズ~2」としての本公演は、以下のとおり魅力的にして長大なプログラム。

1.ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調

2.マーラー:交響曲第7番ホ短調『夜の歌』

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1曲目のブラームスのドッペル・コンチェルト=ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲のソリストは、

ヴァイオリン:青木尚佳(なおか)さん。チェロ:三井 静さん(男性)。

青木尚佳さんは1992年東京生まれ(公表)。2014年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位受賞し、2019年にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任。

2018年の東京ユヴェントス創立10周年記念演奏会でのマーラーの交響曲第8番「千人」には、私も合唱団の一員として参加させていただいたが、そのときも、ゲスト・コンサートミストレスとして青木さんが出演された。この日はそれ以来の来演。

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オケは少し人数を減らし、ファースト・ヴァイオリンからチェロまでをプルト数ではなく人数だと、12、10、8、7人。そしてコントラバスが5人。配置は流行りの、私が嫌いな対抗配置。なんでこんな配置をするのか、私には全く理解できないし、音量的にもマイナスだ。優秀なユヴェントスでも終始いささか控えめな音量で、通常配置なら、これより1.5倍の音量は出ただろう。モッタイナイことだ。

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第1楽章

序奏で感じたソリスト2人の共通点は「音量がやや弱いな」ということ。主部に入ってからも、2人の達者な技術と若々しさはよく伝わる演奏だったが、音量とスケール感がやや乏しい感じがした。

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第2楽章は爽やかで品があり、なかなか良かった。

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第3楽章には当然アタッカで入る。

この楽章が、2人の伸びやかな屈託のない爽やかな演奏が最も示されていたと思う。とても素敵な第3楽章だった。

盛大なカーテンコールの後、アンコールとして、ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタから第2楽章。「これぞプロの演奏」。

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休憩後の後半は、

マーラーの交響曲第7番ホ短調『夜の歌』

オケは人数を増やし、ファースト・ヴァイオリンからチェロまでをプルト数ではなく人数だと、17、16、13、10人。そしてコントラバスも1曲目の2倍の10人で、壮観と言える人数だ。

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第1楽章は「重々しく複雑で難解な曲想」というイメージがあるが、この若く優秀なオケが演奏すると、終始とても爽やかに、健康的に聞こえてくる。見事な演奏だ。第2楽章も然り。

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第3楽章は、ファースト・ヴァイオリンやヴィオラのソロを含めて、どのパートも優れた技術を披露。エンディングでのティンパニの一打も最高。

なお、ティンパニ奏者は女性。この曲と、ブラームスの交響曲第1番では、ティンパニストが女性だと目立つし、カッコイイ。ブラームスの交響曲第1番の開始冒頭や、この曲の第5楽章など、その最たる曲だ。ストラヴィンスキーの「春の祭典」の第1奏者の場合もそうだけれど。

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第4楽章で感じたのは~この第7番全体に言えることだが~楽器の扱いの問題点だ。

第7交響曲は、マーラーにしては、楽器の使い方に疑問を感じる点が多々ある。

第1楽章では、タンバリンの用い方は巧いと思うが、2台用いているハープは、第1楽章では2台の使用内容が単純過ぎるし、この第4楽章も2台使うほどの効果は生じていない。

ホルンは全ての楽章で活躍するが、第1奏者を偏重している感がする。なお、この日の第1奏者は終始素晴らしかった。

この第4楽章で起用されたマンドリンとギターも、決して効果的とも印象的とも言えない。マンドリンに関しては、録音ではよく聞こえても、ライヴだと難しい。第8番「千人」のほうが、よほど効果的に用いている。

このように、疑問点が多々ある第7番を象徴しているのが第4楽章という気がする。

ちなみに、第6番の終楽章で使用されるハンマーも、私は効果的と思った演奏をほとんど知らない。ライヴも録音もイマイチな演奏が多く、「こんなに効果薄なら、使う意味はないな」と思うこと度々だ。

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大好きな第5楽章。

指揮者は、やろうと思えば、終始とても派手に振ることができる楽章だと思うが、坂入さんは最小限の動きに留め、オケを信頼して任せることを前提とした指揮だったことが印象的だった。

そしてコーダでは、坂入さんはカウベルの大合奏という圧巻の演出を行った。

すなわち、ホールの2階、パイプオルガンがある正面の席に4人、その両サイドにそれぞれ3人の合計10人とステージ奥の奏者2名(だったと思う)が両手にカウベルを持ち、カウベル大合奏を加えてのエンディング演奏により、私を含めた聴衆を大いに驚かせ、沸かせた。

素晴らしいエンディング。全楽章、素晴らしい演奏の連続だった。

2023年8月13日 (日)

荒川区民オペラ「愛の妙薬」~充実の公演~ホールの音響の良さも素晴らしい

荒川区民オペラ第21回公演、ドニゼッティの歌劇「愛の妙薬」のダブルキャストの内、8月13日の公演を同日午後、サンパール荒川(大ホール)で鑑賞した。

指 揮:小﨑雅弘、荒川区民交響楽団、荒川オペラ合唱団、荒川オペラバレエ

演 出:澤田康子

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まず、ホールについて

サンパール荒川(大ホール)は「荒川バイロイト」を中心に何度も来ているが、こんなに音響が良かったかと改めて感心した。

最大975席の収容人数だから、特別大きくはなく、席数からすると中ホールに近いとも言えるが、ゆったりとした感じが良く、印象としては1,500人位の規模のホールに思える。

とりわけ好ましいのがステージの大きさで、大き過ぎず、狭過ぎない。

そして音響が良いので、ピット内のオケはむろん、ステージでの歌手の歌声、合唱の歌声がストレートに客席に届く。デッドでないのはむろん、響き過ぎることもないので、正に生声のまま、客席に良く届くのだ。

日生劇場のデッド感は論外で、比べるまでもなくこのホールのほうが良いし、先日行き、過去も含めて3回行った西宮市の兵庫県立芸術文化センターよりも、サンパール荒川のほうが音響は良い。

地理的な理由、事情からなのか、ここを使ってのプロオケの公演は少なく、二期会や藤原歌劇団等の公演が皆無に等しいのは「モッタイナイ」と思う。こんなに良いホールなのに。

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オケはアマチュアだが、団のホームページに「オペラをキーワードに活動を続けている私達」とあるように、オペラの演奏経験が豊富で、オペラを中心としたオケは、プロは別として、アマチュアの中では~他に皆無ということはないにしても~とても珍しく貴重な団体であり、当然レベルも高い。

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そして今回、特に言及すべきは合唱団。特筆に値する優秀な出来栄えで、アマチュアとは思えないほど素晴らしく、特に男声が良かった。プログラムを見ると、男声は賛助出演者が多いので、プロのかたも含まれていたのかもしれないが、とにかく申し分ない合唱が展開され、素晴らしかった。

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ソリストは皆さん良かった。新海さん以外の4人は、初めて聴かせていただいた歌手。

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ネモリーノ役の新海康仁さんは、若々しい青年そのもののような歌声で、ネモリーノに相応しい。ピュアと言えるほどに純な、混じりけの無いストレートで明瞭な歌声が素敵だった。

有名なアリア「人知れぬ涙」では、いわゆる2番歌詞フレーズを「piu piano」それも、ほとんど例が無いくらいの徹底した弱音で、「sotto voce」によるエスプレッシーヴォで歌い出されたことが、とても印象的で素晴らしかった。

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ベルコーレ役の野村光洋さんは、温かさと気品ある歌声で素敵だった。

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ドゥルカマーラ役の三神祐太郎さんは、会場に響きわたる声量と格調高い歌声が見事だった。

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アディーナ役の大井川由実さんは、キリリ感があり、特に第2幕が見事で、終わり近くの難しいアリアも充実の歌唱だった。

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ジャンネッタ役の井出千尋さんは、芯のある、凛とした感じが素敵で、声に強さもあり、とても魅力的だった。

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澤田康子さんによる演出は、奇をてらうことなく、明るく楽しい舞台進行に徹しており、合唱団員による演技も細部まで練られており、4人のバレエダンサーを効果的に起用するなど、創意工夫がなされ、好感が持てる演出だった。

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キャスト  :  8月12日(土)  13日(日)

アディーナ:   前川 依子     大井川 由実

ネモリーノ:   新堂 由暁     新海 康仁

ベルコーレ:   秋本 健      野村 光洋

ドゥルカマーラ: 鹿野 由之     三神 祐太郎

ジャンネッタ:  田谷野 望     井出 千尋

2023年8月12日 (土)

冨平安希子さんソプラノリサイタルVol.1

二期会の「ルル」ほか、多くのオペラ等で活躍中のソプラノ、冨平安希子さんが、ドイツを拠点とした活動から帰国されて約15年が経ち、日本での活動における感謝の気持ちをリサイタルという形で伝えたいという思いが叶った初リサイタルを、8月12日の午後、武蔵野公会堂で拝聴した。

ピアノはご主人で、指揮者の冨平恭平さん。

プログラムは以下のとおり、前半が珍しい曲を含めたドイツ語の歌曲、後半がドイツ語以外の言語によるオペラ・アリア集という、意欲的で盛りだくさんの選曲。

繊細にして可憐な、多くの場面で哀感を感じさせる個性的な歌声と、曲想に応じた多彩にして自然体なコントロールの見事な歌唱を堪能させていただいた。詳しくはプログラムの後に記載します。

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1.ツェムリンスキー:未発表作品集より

(1)愛と春

(2)乙女のなげき

(3)明けの明星

(4)私は夕暮れの森を彷徨う

(5)お嬢さん、ダンスに行こうよ

2.ピアノ・ソロでF・グルダ:アリア

3.R・シュトラウス:「4つの最後の歌」

(1)「眠りにつくとき」

(2)「九月」

(3)「春」

(4)「夕映えの中で」

 (休憩)

4.モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」より「岩のように動かず」

5.プーランク:歌劇「ティレジアスの乳房」より「いいえ、旦那様」

6.ピアノ・ソロでプッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」より間奏曲~編曲:冨平恭平

7.ドヴォルザーク:歌劇「ルサルカ」より「月に寄せる歌」

8.チャイコフスキー:歌劇「エフゲニー・オネーギン」より「手紙の場」

アンコール

プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」よりムゼッタのアリア「私が街を歩けば」

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感想

ツェムリンスキー(1871~1942)の未発表作品集は、没後50年以上経った1995年に出版された曲集からの選曲。

「愛と春」はシューマンも連想するが、総じて繊細な曲が多く、冨平さんの声質によく合っていると思った。曲として特に印象的だったのは「明けの明星」。

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冨平恭平さんが中学生のときにNHK教育TVで見、聴き、その後も何度も(録画を)繰り返し見たというフリードリヒ・グルダのリサイタルの最後、聴衆からのリクエストに応えての「アリア」を、この日は冨平恭平さんが弾かれた。複数の要素はあるが親しみ易さが一貫した、グルダらしい個性的な小品。

なお、恭平さんはプログラムの解説も書かれていて、「コジ・ファン・トゥッテ」のアリアで、上下幅広く行き来する音域がフィオルディリージの心の動揺を表している点や、「ルサルカ」のアリアでGes-dur(変ト長調)を用いている意図(効果)などの指摘は、とても勉強になるし、「エフゲニー・オネーギン」のアリアについては、ユーモラスな面白い文で、とても楽しく拝読した次第。

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リヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」

1948年に作曲され、こんにちの出版譜では「春」、「九月」、「眠りにつくとき」、「夕映えの中で」の曲順に配列されているが、今回は、1950年5月22日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、フルトヴェングラー指揮のフィルハーモニア管弦楽団とキルステン・フラグスタートにより初演された際の曲順で~「眠りにつくとき」と「春」を入れ替えて~演奏されたのが興味深かった。

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「眠りにつくとき」は、独白的であると同時に広がりのある曲で、冨平さんの歌声は、ツェムリンスキー同様、繊細さが魅力的だったが、「翼を得て羽ばたいてゆく」如く、広がりと奥深さを感じて素敵だった。

この曲から開始して正解のように思えた。なお、フルトヴェングラーの他、ベーム&アンナ・トモワ=シントウ&シュターツカペレ・ドレスデンも1976年にこの順で演奏している。

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「九月」は、音楽も詩もロマンティックで、抒情的な歌唱。

「春」では、ドラマティックな曲想がよく伝わる歌唱。

「夕映えの中で」は正に愛の歌。スケール感と「しっとり」感ある穏やかさが共存する歌唱が魅力的だった。

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前半は、白を基調とした清楚で美しいドレスで歌われた冨平安希子さんが、休憩後、濃紺のドレスに着替えての後半は、オペラ・アリア集。それも、イタリア語、フランス語、チェコ語、ロシア語と、曲想だけでなく、言語も様々な点が印象的だった。

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モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」からフィオルディリージのアリア「岩のように動かず」

当然ながら、前半での繊細な抒情性を基盤とした歌唱とはガラリと変わって、自在な表現力と音域の行き交う技術に魅せられた。

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プーランク(1899~1963)の歌劇「ティレジアスの乳房」よりティレジアスのアリア「いいえ、旦那様」

「ティレジアスの乳房」は1947年6月3日に、パリ・オペラ・コミック座で初演された作品で、男性中心主義社会に異を唱える女性によるユーモラスな、コミカルなフランス語の歌。

途中2回、旦那の声として合いの手が入るが、ピアノを弾きながらの恭平さんが美しいテノールのような声でその役を演じ、客席を沸かせた。

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ピアノ・ソロでプッチーニの歌劇「マノン・レスコー」より間奏曲。編曲も冨平恭平さん。

「マノン・レスコー」については、私は詳しくないが、良い編曲だったと感じた。

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ドヴォルザークの歌劇「ルサルカ」よりルサルカのアリア「月に寄せる歌」

私はライヴと録音を合わせたら、30人前後の歌唱を聴いていると思うし、アンコールも含めて、今やソプラノ(あるいはメゾも)歌手の定番的な曲とも言えるから、何気に聴き始めた。

ところが、聴き終わってみると、今まで感じたことのないような、独特の奥行深い抒情性、しっとり感に強く魅了された。

特別なまでに思い入れたっぷり、ということではなく、自然体に歌われたと思うが、想像するに、他の誰よりも、ほんの僅かにゆったとりとしたテンポ設定が良かったのかもしれない。オーソドックスなテンポより、1小節において0.5秒くらい、ゆったりとした間合い。余裕ある1小節間(の継続)の中で、冨平さんの歌唱の特性がピタリとハマリ、絶妙な情感が自ずと生じていたように感じた。

全体的な落ち着き感、余裕ある間合いが、スケール感と情感深い世界を表出していた。そんな印象を受けた。抒情的な歌唱という点では、この日の白眉と言えるかもしれない。

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プログラム最後は、チャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」よりタチアナのアリア「手紙の場」

高い音は多くないが、中音域による語りのようなフレーズが多い分、難しい歌だと思う。

冨平さんはメゾを想わせるヴィブラートたっぷりの情感深い声が個性の一つだと思うし、その点で、この曲にとてもマッチしていたと思う。ロシア語による長大なアリアにより初リサイタルを締めくくられたことは、冨平さんの多才さが示されたと同時に、今後の更なる進化を予感させるに十分な、とても印象的な選曲と歌唱だったと思う。

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カーテンコールで、この日初めて満員の聴衆に挨拶された後、アンコールは、プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」よりムゼッタのアリア「私が街を歩けば」

この曲に限らないが、冨平さんが歌うと、高音でも「あまり高音と感じさせない」という点も特質の一つとしてあると感じる。本当は難しい曲でも、それほど難しさを感じさせずに、サラッとその曲のキャラを聴衆に伝えることができる、良い意味での器用さもお持ちだと思う。

ムゼッタの「私が街を歩けば」は、それを如実に、端的に感じさてくれて興味深かった。

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ご夫婦による共演

冨平恭平さんは、新国立劇場ほか多くのオペラ公演に携わり、多くの作品を熟知され、コレペティトゥアの経験も豊富なので、さすがの安定感で安希子さんをサポートし、引き立てていた。

音楽家同士のご夫婦による共演というのは、私にとって羨ましい限りの理想的な関係性であり、この日の共演では、その幸福を少しだけ分けていただいたような幸せな気持ちで帰途についたのだった。

この日のリサイタルが「Vol.1」とあるように、今後も継続が予定されているようだし、できれば毎年開催していただくことを希望したい。

2023年8月11日 (金)

大河ドラマのテーマ曲のコンサート

「下野竜也プレゼンツ!音楽の魅力発見プロジェクト 第10回」として「大河ドラマのテーマ曲 徹底解剖!オーケストラ付きレクチャーその2」を、8月11日午後、すみだトリフォニーホールで拝聴した。

最下段に参考として記載のとおり、「その1」は2021年8月14日に開催され、今回は当然ながら、その時には演奏されなかった以下の曲が演奏された。

管弦楽は新日本フィルハーモニー交響楽団で、休憩なしの70分コンサート。

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1.大島ミチル:「天地人」(2009)

2.冨田勲:「花の生涯」(1963)

3.依田光正:「樅ノ木は残った」(1970)笛:福原寛瑞

4.林光:「国盗り物語」(1973)

5.山本直純:風と雲と虹と」(1976)~笛:福原寛瑞、琵琶:久保田晶子

6.湯浅譲二:「草燃える」(1979)

<ゲスト・トーク>

7.池辺 晋一郎:「峠の群像」(1982)

8.池辺 晋一郎:「元禄繚乱」(1999)

9.林光:「山河燃ゆ」(1984)

10.一柳慧:「飛ぶが如く」(1990)

11.三枝成彰:「花の乱」(1994)

12.小六禮次郎:「秀吉」(1996)

13.エバン・コール:「鎌倉殿の13人」(2022)

14.稲本響:「どうする家康」(2023)

アンコール

富貴晴美:「西郷どん」(2018)

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改めて聴く今回の曲の中で、特に印象的だったのが、依田光正さん作曲の「樅ノ木は残った」。

今、こういうシリアスな、重厚感のある曲を書く作曲家はほとんどいないのではないか、と思う。優れた、素晴らしい音楽だ。

それと、独特にしてサスガと思えたのは一柳慧さんの「飛ぶが如く」。

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面白かったのは「風と雲と虹と」で、山本直純さんはスコアに「粘土を板に叩きつける音」を要求していたとのことで、ステージ最前列(指揮者の背中の位置)には、台に粘土が2塊置かれ、「奏者」として、東京藝大指揮科の1年生、下野門下生である男性と女性1名ずつが登場。この効果音のことは初めて知ったが、ステージではよく響き、マーラーの6番でのありがちな「効果薄のハンマー」などより、よほど効果的に響いていた。

また、今年の大河「どうする家康」では、「そうか、手拍子音があったのだな」と、係るステージでの実演でこそ、よく判る事実が判明して興味深かった。

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下野さんの指揮は、総じて「溜め」がなくて、あまり良いとは思わなかった。例えば、「国盗り物語」や「風と雲と虹と」はテンポまったりしていて、もっとキビキビ感が欲しかったし、「国盗り物語」と「草燃える」における終わり近くでの場面転換でのテンポの違いの明確化=「溜め」が弱い。もっと明瞭な「転換の強調」が欲しい。

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ゲスト・トークは、池辺晋一郎さんの登場。ダジャレは3つで収めていた(笑)。

テーマ曲よりも、劇中での様々な場面で入れる曲の作曲のほうが、短いながら沢山必要となるので、そちらに要する時間と手間のほうが大変だったという話は、作曲者からでないと聞けない逸話なので貴重だ。もっとも、最近はそういう手法ではなく、あらかじめ幾つかの曲を作曲者が用意しておき、番組の音楽担当スタッフが、その中から場面に応じて選んで使用している、そういうやり方に変わっているとのこと。

今後も、この大河ドラマコンサートを継続して欲しい。

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参考:その1~2021年8月14日

演奏曲:「武田信玄」(山本直純)、「赤穂浪士」(芥川也寸志)、「元禄太平記」(湯浅譲二)、「花神」(林光)、「風林火山」(千住明)、「篤姫」(吉俣良)、「黄金の日日」(池辺晋一郎)、「独眼竜政宗」(池辺晋一郎)、「真田丸」(服部隆之)、「麒麟がくる」(ジョン・グラム)

2023年8月 9日 (水)

The 4 Players Tokyo~第3回コンサート

指揮者の藤岡幸夫さんがプロデュースする音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東~毎週土曜8:30〜)から誕生した弦楽四重奏団である「The 4 Players Tokyo」のHakuju Hallにおける第3回コンサートを、8月9日夜、同ホールで拝聴した。

藤岡さんから指名を受け集結した4つのオーケストラのトッププレイヤーは以下のとおりで、2019年秋にデビュー。これまで、全ての公演を藤岡さんがプロデュースして司会進行を行い、東京の他、広島、富山、山口、姫路など全国的に活動を広げている。

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第1ヴァイオリン:戸澤哲夫(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター)

第2ヴァイオリン:遠藤香奈子(東京都交響楽団第2ヴァイオリン首席奏者)

ヴィオラ:中村洋乃理(NHK交響楽団次席ヴィオラ奏者)

チェロ:矢口里菜子(山形交響楽団首席チェロ奏者)

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演奏曲は、いわゆるマニアックとも言える曲集だが、完売大入りだった。

1.ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第1番 ハ長調 op.49

2.プロコフィエフ:弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 op.92

3.シベリウス:弦楽四重奏曲 ニ短調 op.56 「親愛なる声」

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開演前に藤岡さんから、ショスタコーヴィチとプロコフィエフの作風や今回の演奏曲の特色、2人の旧ソ連政府に対するスタンスの違い等の解説、トークがあった。

1曲目のショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲 第1番 ハ長調は1938年作。

4楽章制で、第2楽章のヴィオラのソロが特に印象的だし、どの楽章も秀逸な作品。

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2曲目のプロコフィエフの弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調は1941年作で、3楽章制。

第2楽章のチェロが印象的だし、チェロと言えば、第3楽章の中間部でも、突如現れる音階的なパッセージを含めて、様々な要素、多彩な曲想や場面が展開され、プロコフィエフの優れた作曲技法が披露された。

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休憩後の後半は、シベリウスの弦楽四重奏曲 ニ短調「親愛なる声」で、1909年作。

5楽章制の、滅多に演奏されない曲。弦楽四重奏というよりも、シベリウス特有のシンフォニックな弦楽合奏曲というイメージ。

演奏前に藤岡さんの解説があり、「通常、弦楽四重奏曲では、ヴィオラが客席右手前(外側)に座るのに対して、この曲はチェロが外側に座る。これは、交響曲でも言えることだが、ヴィオラが第2ヴァイオリンと(外側の)チェロとの間(隣通し)で座したほうが演奏しやすい(効果的)」との言説が興味深かった。

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第1楽章は、第1ヴァイオリンとチェロによる対話で内省的に開始するが、全体として、とてもシンフォニックで、特にエンディング近くからユニゾンの多用が、そのイメージを強くする。

第2楽章は、シベリウスの交響曲でも多用される特有の、木の葉が揺れるような、あるいは波打つようなパッセージが印象的。

第3楽章は、独特の抒情性。温かさもあるが、クールな印象も受ける。

第4楽章は、速過ぎないスケルツォという印象。ラプソディックな面もある。

第5楽章は、第2楽章にも増しての「ざわめき」が連続し、終楽章に相応しい動的な曲。

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カーテンコールでは、藤岡さんも登場し、4人の奏者一人ひとりがマイクを手に挨拶。

そして、アンコールはシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。

初めて聴いたが、とても美しく素敵な曲だった。

2023年8月 3日 (木)

平野 和さん~バス・バリトン・リサイタル   欧州デビュー15周年記念

平野 和(やすし)さんの欧州デビュー15周年記念リサイタルを8月3日夜、渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールで拝聴した。先月の西宮での佐渡裕さんプロデュースオペラ「ドン・ジョヴァンニ」でレポレッロ役がとても良かったので楽しみにでかけた。

日本大学芸術学部音楽学科を首席卒業後、ウィーン国立音楽大学の大学院オペラ科を首席で卒業し、グラーツ歌劇場の専属歌手の後、ウィーン・フォルクスオーパーの専属歌手として約500の公演に出演され、現在も度々客演されている平野さんが、グラーツ歌劇場で「魔弾の射手」の隠者役でデビューして15周年の記念リサイタル。

ピアノは、奥さんでウィーン国立音楽大学の声楽科講師でもある平野小百合さん。

プログラムは以下のとおりで、平野さんいわく、前半は「ドイツの自然や神話」と「死」という2つのテーマ。後半はブラームスの歌曲という選曲。

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<プログラム>

1.レーヴェ:詩人トム Op. 135a

2.シューベルト:野ばら D 257

3.シューマン:リーダークライス Op. 39より 月の夜

4.シューベルト:冬の旅 D 911より 菩提樹

5.シューマン:リーダークライス Op. 39より 森の対話

6.レーヴェ:海を渡るオーディン Op. 118

7.レーヴェ:3つのバラード Op. 1より 魔王

8.シューマン:ロマンスとバラード集 Op. 49より 2人の擲弾兵

9.ベートーヴェン:6つの歌 Op. 75より 蚤の歌

10.シューベルト:死と乙女 D 531

11.シューベルト:トゥーレの王様 D 367

12.シューベルト:魔王 D 328

 (休憩)

13.ブラームス:8つのリートと歌 Op. 57より 動かぬ生ぬるい空気

14.ブラームス:6つのリート Op. 85より 夏の夕べ

15.ブラームス:6つのリート Op. 85より 月のあかり

16.ブラームス:5つの歌 Op. 72より おお、涼しい森よ

17.ブラームス:5つのリート Op. 47より 便り

18.ブラームス:バスのための4つの厳粛な歌 Op. 121

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平野さんの格調高く、ドラマティックな良さが前半でよく出ていたのは、1曲目のレーヴェの「詩人トム」、5曲目のシューマンの「森の対話」、6曲目のレーヴェの「海を渡るオーディン」、前半最後のシューベルトの「魔王」。

10曲目のシューベルト「死と乙女」や11曲目の「トゥーレの王様」の抒情性も良かった。

休憩後のブラームスはどれも良かったが、特に最後の「バスのための4つの厳粛な歌」が素晴らしかった。

多少の緊張もあったのかもしれないが、オペラのアリアのように「はじけて」自由に歌う要素が少ない分、慎重なアプローチを基本とされたからか、オペラで感じた豪快さは控えめで、改めてドイツリートの難しさという事を感じた。

立派な歌唱の連続だったが、曲によっては、もう少し自由なアプローチがあっても良い気もした。それでも、とても聴き応えのある魅力的なバス・バリトン歌手だと思う。今後が益々楽しみ。

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カーテンコール時に初めてマイクを手にし、挨拶等に続いてのアンコールは3曲。

ベートーヴェンの「君を愛す」、シューマンの「献呈」、シューベルトの「音楽に寄す」と、どれも大好きな曲で締めくくってくれた。

お2人の親族や友人衆もたくさん来場されていたようで、大きな歓声と拍手の中、リサイタルが終わり、終演後のロビーに登場したお2人を、多くの関係者らが取り囲んでいた。

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