日下紗矢子リーダーによる室内合奏団
読響アンサンブル・シリーズの第38回《日下紗矢子リーダーによる室内合奏団》のコンサートを7月28日夜、トッパンホールで拝聴した。
日下紗矢子さんは、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスター、同室内管弦楽団のリーダーでベルリン在住だが、読響の特別客員コンサートマスターとしても、一定数、同オケの定演に出演されている。もちろんソロ活動もあり、私はこれまで2回リサイタルを拝聴し、サインもいただいた。
今回改めて感じたのは、室内合奏団のコンサートマスターゆえ、指揮者としての役目も兼ねた立場から、オケで弾く以上の、ソリストのような大きな身振りと決然たる見事なボーイングで全員を牽引していたこと。とても素晴らしかった。ベルリンで活躍されているだけのことはある~国内では、なかなかここまでのリーダー感を感じさせる人は少ないと思うほどの~傑出したリーダーだと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今回の室内合奏団は、ヴァイオリンが10名、ヴィオラが4名、チェロが3名、コントラバスが2名のほか、ハイドンの交響曲では、フルート1名、オーボエ2名、ファゴット2名、ホルン2名が参加している。
なお、ヴァイオリンはファーストとセカンドがそれぞれ5名ずつだが、日下さん以外の9名は、ファースト、セカンドに固定されず、9人は4曲とも違う配置で弾いていた。
そして、ヴァイオリンとヴィオラは座らずに立ったままでの演奏。これは、後述のとおり、ハイドンにおける管楽器でもなされていた。演奏曲は、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.ハイドン:交響曲第1番 ニ長調 Hob.I-1
2.ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番《クロイツェル・ソナタ》(弦楽合奏版)
3.シュレーカー:弦楽オーケストラのためのスケルツォ
4.ハイドン:交響曲第80番 二短調 Hob.I-80
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1曲目は、ハイドンの交響曲第1番 ニ長調
古典派における交響曲の第1番というイメージを覆すほど新鮮にして構成がしっかりした、もはや中期の作品のイメージすらある立派な曲。もっとも、ウィキペディアによれば、1757年頃、ハイドンが最初に作曲した交響曲と伝えられているだけで、確固たる証拠はないとのこと。
それでも、いかにもハイドンのような溌剌さと自由で機知にとんだ展開のある曲で、十分楽しめた。
管楽器としては、オーボエとホルンがそれぞれ2人、弦楽器の後ろ横一列で立ったまま演奏し、ファゴットは1人で、チェロの横に座っての演奏。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2曲目は、ヤナーチェク(1854~1928)の弦楽四重奏曲第1番《クロイツェル・ソナタ》の弦楽合奏版
ヤナーチェクは、どの作品もトーン、和音、旋律、リズム等々、構成の全てがユニーク。この曲もそう。オリジナルの弦楽四重奏は1923年の作品。
後の無調音楽や、それまでの調性音楽を含めて、有調無調とかの区別とは違う次元で見事な音世界を創ったのがヤナーチェクであり、バルトークだったと思う。民族性の要素はあるにしても、民族楽派的な音楽ではない極めてユニークな作曲家がヤナーチェクであり、バルトークだった。
この、場面により、コントラバスを除く4パートのソロもある弦楽合奏版は、現在、オーストラリア室内管弦楽団のリーダー、リチャード・ドネッティによる編曲。
各楽章が個性的で、静かに終わるエンディングも印象的。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
休憩後の後半最初は、
フランツ・シュレーカー(1878~1934)の弦楽オーケストラのためのスケルツォ
1900年ころの作品。
シュレーカーについては詳しくないが、シェーンベルクとほぼ同世代ながら、無調とは無縁な、親しみ易い曲が多いようで、青年時代に書かれたこの6分ほどの作品もそう。
8分の6の快活な短調旋律で開始し、4分の4の長調による親しみ易い、あるいはロマンティックとも言える場面を交えた素敵な曲だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
プログラム最後はハイドンの交響曲第80番 二短調
管楽器は、フルート1人、オーボエ、ファゴット、ホルンがそれぞれ2人という編成。全員が弦の後ろ横一列で立ったまま演奏。
第79番、80番、81番とセットで1784年に完成され、慣例により1曲が短調を基調とした作品とすることから、この80番がニ短調という調性を採っている。
第1楽章は三拍子で決然と開始するが、エンディングはなんとニ長調の、それもワルツ調の優雅な曲想だったので驚いた。天才ハイドンが、如何に自由な発想で作曲していたのかがよく解る。
第2楽章のアダージョは2分の2拍子だが、イメージとしてはワルツのような優雅さがあって印象的だった。
第4楽章の4分の2拍子プレストが特に個性的で、様々な要素を含んで展開する。
良い意味でシンフォニックな統一感は感じさせず、自由でオペラティックな展開によるユニークな楽章。
盛大で長い拍手とブラヴォーにより、魅力的なコンサートが終わった。
最近のコメント