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2023年7月28日 (金)

日下紗矢子リーダーによる室内合奏団

読響アンサンブル・シリーズの第38回《日下紗矢子リーダーによる室内合奏団》のコンサートを7月28日夜、トッパンホールで拝聴した。

日下紗矢子さんは、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスター、同室内管弦楽団のリーダーでベルリン在住だが、読響の特別客員コンサートマスターとしても、一定数、同オケの定演に出演されている。もちろんソロ活動もあり、私はこれまで2回リサイタルを拝聴し、サインもいただいた。

今回改めて感じたのは、室内合奏団のコンサートマスターゆえ、指揮者としての役目も兼ねた立場から、オケで弾く以上の、ソリストのような大きな身振りと決然たる見事なボーイングで全員を牽引していたこと。とても素晴らしかった。ベルリンで活躍されているだけのことはある~国内では、なかなかここまでのリーダー感を感じさせる人は少ないと思うほどの~傑出したリーダーだと思う。

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今回の室内合奏団は、ヴァイオリンが10名、ヴィオラが4名、チェロが3名、コントラバスが2名のほか、ハイドンの交響曲では、フルート1名、オーボエ2名、ファゴット2名、ホルン2名が参加している。

なお、ヴァイオリンはファーストとセカンドがそれぞれ5名ずつだが、日下さん以外の9名は、ファースト、セカンドに固定されず、9人は4曲とも違う配置で弾いていた。

そして、ヴァイオリンとヴィオラは座らずに立ったままでの演奏。これは、後述のとおり、ハイドンにおける管楽器でもなされていた。演奏曲は、

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1.ハイドン:交響曲第1番 ニ長調 Hob.I-1

2.ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番《クロイツェル・ソナタ》(弦楽合奏版)

3.シュレーカー:弦楽オーケストラのためのスケルツォ

4.ハイドン:交響曲第80番 二短調 Hob.I-80

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1曲目は、ハイドンの交響曲第1番 ニ長調

古典派における交響曲の第1番というイメージを覆すほど新鮮にして構成がしっかりした、もはや中期の作品のイメージすらある立派な曲。もっとも、ウィキペディアによれば、1757年頃、ハイドンが最初に作曲した交響曲と伝えられているだけで、確固たる証拠はないとのこと。

それでも、いかにもハイドンのような溌剌さと自由で機知にとんだ展開のある曲で、十分楽しめた。

管楽器としては、オーボエとホルンがそれぞれ2人、弦楽器の後ろ横一列で立ったまま演奏し、ファゴットは1人で、チェロの横に座っての演奏。

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2曲目は、ヤナーチェク(1854~1928)の弦楽四重奏曲第1番《クロイツェル・ソナタ》の弦楽合奏版

ヤナーチェクは、どの作品もトーン、和音、旋律、リズム等々、構成の全てがユニーク。この曲もそう。オリジナルの弦楽四重奏は1923年の作品。

後の無調音楽や、それまでの調性音楽を含めて、有調無調とかの区別とは違う次元で見事な音世界を創ったのがヤナーチェクであり、バルトークだったと思う。民族性の要素はあるにしても、民族楽派的な音楽ではない極めてユニークな作曲家がヤナーチェクであり、バルトークだった。

この、場面により、コントラバスを除く4パートのソロもある弦楽合奏版は、現在、オーストラリア室内管弦楽団のリーダー、リチャード・ドネッティによる編曲。

各楽章が個性的で、静かに終わるエンディングも印象的。

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休憩後の後半最初は、

フランツ・シュレーカー(1878~1934)の弦楽オーケストラのためのスケルツォ

1900年ころの作品。

シュレーカーについては詳しくないが、シェーンベルクとほぼ同世代ながら、無調とは無縁な、親しみ易い曲が多いようで、青年時代に書かれたこの6分ほどの作品もそう。

8分の6の快活な短調旋律で開始し、4分の4の長調による親しみ易い、あるいはロマンティックとも言える場面を交えた素敵な曲だった。

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プログラム最後はハイドンの交響曲第80番 二短調

管楽器は、フルート1人、オーボエ、ファゴット、ホルンがそれぞれ2人という編成。全員が弦の後ろ横一列で立ったまま演奏。

第79番、80番、81番とセットで1784年に完成され、慣例により1曲が短調を基調とした作品とすることから、この80番がニ短調という調性を採っている。

第1楽章は三拍子で決然と開始するが、エンディングはなんとニ長調の、それもワルツ調の優雅な曲想だったので驚いた。天才ハイドンが、如何に自由な発想で作曲していたのかがよく解る。

第2楽章のアダージョは2分の2拍子だが、イメージとしてはワルツのような優雅さがあって印象的だった。

第4楽章の4分の2拍子プレストが特に個性的で、様々な要素を含んで展開する。

良い意味でシンフォニックな統一感は感じさせず、自由でオペラティックな展開によるユニークな楽章。

盛大で長い拍手とブラヴォーにより、魅力的なコンサートが終わった。

2023年7月21日 (金)

ラ・ルーチェ弦楽八重奏団 Vol.8

2013年6月に当時、東京藝術大学で学んでいた4名、桐朋学園大学で学んでいた4名の弦楽器奏者によって結成され、今年10周年目を迎えたラ・ルーチェ弦楽八重奏団のコンサートを7月21日夜、東京文化会館の小ホールで初めて拝聴した。

弦楽八重奏曲を中心に五重奏以上の編成の室内楽作品をレパートリーとして2014年から1年1度の「La Luceシリーズ」として継続されてきているその第8回目のコンサート。

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チェロは、葵トリオにして都響首席の伊東裕さんや、先日聴いたばかりのカルテット・アマービレをはじめ、ソロ、室内楽等で活躍目覚ましい笹沼樹さん。ヴァイオリンは東響コンマスの小林壱成さん、今年4月に神奈川フィルのコンマスに就任した大江馨さんら、活躍中の以下のメンバー。

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ヴァイオリン:大江馨、城戸かれん、小林壱成、毛利文香

ヴィオラ:有田朋央、田原綾子

チェロ:伊東裕、笹沼樹

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演奏曲は

1.ショスタコーヴィチ:弦楽八重奏のための2つの小品 Op.11

2.ピアソラ(山中惇史編曲):『ブエノスアイレスの四季』

3.エネスコ:弦楽八重奏曲 ハ長調 Op.7

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ショスタコーヴィチの作品で好きな曲は限定されるが、この日初めて聴いた弦楽八重奏のための2つの小品は冒頭からして魅力的で、終始、唖然とするくらい「凄い作品」。全体として無調を基本とし、リズムといい、全体のダイナミズムといい迫力満点で、「これぞ天才の作品だ」と感心し、大いに気に入った。第1ヴァイオリンを受け持った毛利文香さんの技術も実に素晴らしかった。

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ピアソラがヴィヴァルディの「四季」からヒントを得て作曲した『ブエノスアイレスの四季』を、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団の第1回公演から、アンコール曲のアレンジを担当してきた山中惇史さんが編曲。「冬」「春」「秋」「夏」の順で構成され、特殊奏法や、第1ヴァイオリンを受け持った小林壱成さんによる抒情的演奏等、様々な曲想とそのアレンジを大いに楽しませていただいた。

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休憩後の後半は、エネスコの弦楽八重奏曲 ハ長調

第2楽章のスケルツォ的楽章と第4楽章が魅力的で、特に第4楽章は、様々な要素を重層的に構成して進行していく作曲技法が見事で、この楽章だけでも類のないほどユニークで魅力的な傑作だと思った。第1ヴァイオリンを受け持った城戸かれんさんは、端正な演奏が印象的。

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アンコールは、實川 風さんの編曲によるR・コルサコフ「熊蜂の飛行」。

編曲も演奏も素晴らしかった。

2023年7月17日 (月)

佐渡裕さん指揮「ドン・ジョヴァンニ」

佐渡裕さんによるプロデュースオペラは、兵庫県立芸術文化センターが竣工した2005年10月直後の12月に、「ヘンゼルとグレーテル」で第1回が開始されて以来、今年で18周年迎えた。2020年はコロナで中止(延期)になったものの、東京以外で連続するオペラ企画公演は、他に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでのシリーズがあるが、ごく少数に限定されるだろう。

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私は小林沙羅さんや佐々木典子さんが出演された2011年の「こうもり」と、高野百合絵さんが見事なハンナ役を歌い演じた2021年の「メリー・ウィドウ」を鑑賞しているので、今回が3回目。

今年の演目はモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。7月14日から23日まで、主に外人歌手組と日本人歌手組に分けられるダブルキャストにより各4回、合計8公演ある中で、私は日本人歌手にこそ興味があるので、17日の公演をKOBELCO大ホールで鑑賞した。

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このオペラは、主役のドン・ジョヴァンニだけでなく、レポレッロとドンナ・エルヴィーラが進行における要として重要な役であることを改めて実感した。

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レポレッロ役の平野 和(やすし)さんは今年3月びわ湖ホールでの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」に出演されていたとはいえ、夜警役ということで歌う場面が少なかったので、本格的に聴かせていただいたのは今回が初めてと言えるが、充実のデキで、あらためてプロフィールを確認すると、ウィーン国立音楽大学の大学院オペラ科を首席で卒業し、グラーツ歌劇場の専属歌手の後、ウィーン・フォルクスオーパーの専属歌手として約500の公演に出演されたというから、なるほど納得の素晴らしいバス・バリトン歌手。声も演技もとても良かった。この人のドン・ジョヴァンニを聴く機会があるのを楽しみにしたい。

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ドンナ・エルヴィーラ役の池田香織さんは、ワーグナーだけが池田さんではないということを証明した素晴らしい内容で、声量の豊かさを含め、苦悩する女性の役を見事に歌い、演じた。池田さんが歌い始めると、舞台が毎回「締まる」という存在感が素敵だ。どの場面も良かったが、特に第2幕の「あの恩知らずは約束を破って」における悲しみの感情移入が素晴らしかった。

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主役ドン・ジョヴァンニ役の大西宇宙(たかおき)さんも、いつもながらの充実した見事な歌唱。とても良かった。「憎たらしい役」感と実は「小物」感を自然体で演じおていたし、声量も含めて歌声の立派さも申し分なかった。

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ドンナ・アンナ役の高野百合絵さんが素晴らしかった。

2年前の「メリー・ウィドウ」における堂々たるハンナ役も、伸び伸びとして圧巻と言えるほどに見事だったが、今回のドンナ・アンナは、ドンナ・エルヴィーラにも共通する苦悩を抱える役に相応しく、悲しみ、寂しさと同時に、毅然とした気品が常に感じられていたし、何よりもブレのない、均一感、統一感ある歌声が美しかった。

第1幕の「もう分かったでしょう」と第2幕「おっしゃらないで」のいずれも歌い終えたときに盛大なブラヴォーがかけられたことが、聴衆の満足度と高野さんの完成度を証明していた。

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ツェルリーナ役の小林沙羅さんは、可憐にして実は「したたかな」役であるツェルリーナ役にピッタリの感があった。「ジャンニ・スキッキ」のラウレッタもそうだが、ピュアなだけなく、実は心の奥底で色々な計算もしているという役を演じたら小林沙羅さんは天下一品、と言ったとしても、沙羅さんに怒られないだろう。そのくらい、今回のツェルリーナのハマリ役感があって、とても良かった。

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ドン・オッターヴィオ役の城 宏憲さんは、プラハの初演の翌年にウィーンで演奏された際に追加された第1幕のアリア「彼女の安らぎこそ僕の願い」が素晴らしかった。ブラヴォーが起きたのは第2幕の「僕の恋人を慰めてください」。確かに立派な技術だった。

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マゼット役の森 雅史さんも、ツェルリーナに翻弄される役をよく演じていた。

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騎士長役の妻屋秀和さんもサスガの充実。終わり近くでの石造=騎士長の登場により、それまでのオチャラけた、インモラルな内容と展開が一変する。音楽好きの作家、村上春樹さんは、この騎士長の存在に関心を持ったことから小説『騎士団長殺し』を書いたくらい、不思議な存在として設定されている。この、ある種ドンデン返し的な展開こそ、モーツァルトの天才の証でもある。

そして、何より、ドン・ジョヴァンニが地獄に落ちた後の六重唱によるエンディングの素晴らしさ。

「フィガロの結婚」もそうだが、最後に素晴らしい音楽で締めくくられてしまうと、それまで、どんなにショーモナイ物語が展開されていようとも、作品の素晴らしさ、モーツァルトの天才につくづく感心し、フィナーレで感動に浸ることになるのだ。

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演出について

場面ごとに丹念な設定で良かった。決してムリをせず、奇を衒(てら)わず、幕を下ろさないで暗い舞台にしたままでの度々の設定し直しも、それ自体が、誠実で真面目な舞台設営を証明していた。

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キャスト

[指揮] 佐渡 裕

[管弦楽]兵庫芸術文化センター管弦楽団

[合唱]ひょうごプロデュースオペラ合唱団

[演出]デヴィッド・ニース

[出演]     7月14、16、19、22日  15、17、20、23日

ドン・ジョヴァンニ:ジョシュア・ホプキンズ   大西宇宙

騎士長: デヴィッド・リー             妻屋秀和

ドンナ・アンナ:ミシェル・ブラッドリー     高野百合絵

ドン・オッターヴィオ:デヴィッド・ポルティーヨ 城 宏憲

ドンナ・エルヴィーラ:ハイディ・ストーバー   池田香織

レポレッロ:ルカ・ピサローニ          平野 和

マゼット :近藤 圭                 森 雅史

ツェルリーナ: アレクサンドラ・オルチク      小林沙羅

2023年7月16日 (日)

田部京子さん~宗次ホールでのリサイタル

田部京子さんのCDデビュー30周年&浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念の連携企画である、名古屋の宗次ホールにけるリサイタルを7月16日午後、拝聴した。

演奏曲は6月25日の浜離宮朝日ホールと同じだが、ホールでの響きの違いも含めて改めて楽しめた。

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1曲目の吉松隆さんの「プレイアデス舞曲集」からの4曲は、浜離宮では、青空の清々しさを感じたが、宗次では小さなホールにおける残響の(あり過ぎる位)豊かな響きが、そのまま宇宙と繋がって響いている趣が印象的。

グリーグの「ノクターン」が、浜離宮では正に北欧の冷え冷えとしたノクターンをイメージさせたのに対し、ここではもっと温かな土地での予想曲に感じられた。続くシベリウスの「もみの木」も同じで、温かな森の独白と人の悲しみを湛えていて印象的だった。

グリンカ=バラキレフ「ひばり」の抒情と鮮やかな技術、シューマン=リストの「献呈」の充実度。 特に後者での盛大な拍手も印象的。

前半最後のドビュッシーの「月の光」は、浜離宮での演奏よりもCD録音での演奏のイメージに近く、幾分速めのテンポで、月夜というよりも朝焼けに薄っすらと見える月明かりをイメージさせるとともに、純音楽的なアプローチが個性的。ブラヴォーが起きて前半が終了。

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後半はシューベルトのピアノ・ソナタ 第18番「幻想」

第1楽章のロマン性、第2楽章の抒情性とダイナミズム、第3楽章の立体感とダイナミズム、第4楽章における様々な要素(場面)に応じたニュアンスの弾き分けの見事さ。ブラヴォーの声とともにプログラムが終了し、アンコールは新アルバムから3曲。

シューベルトの「ハンガリー風のメロディー」を弾き終えた後のカーテンコールで、田部さんがマイクなしで挨拶。

「今日はお暑い中、ご来場いただき、ありがとうございます。今弾いたのは、シューベルトの「ハンガリー風のメロディー」と言う曲です。次に弾くのはウクライナの作曲家スコリクの「メロディー」です」として情勢豊かに演奏。

宗次ホールで田部さんを聴く特典は、アンコール時に田部さんが挨拶されること。浜離宮と違って小さなホールなので、ご自身の控えめな声でも、客席に届くことを承知されているということもあるのだろう。

そして、アンコール最後の曲という「合図」的になっている感のある吉松 隆さんが編曲し、更に田部さん自身がアレンジを加えたシューベルトの「アヴェ・マリア」が演奏され、盛大なブラヴォーの中、リサイタルが終演した。

宗次ホールでもやっとサイン会が復活したが、ロビーではなく、ステージの客席との境にイスとテーブルが置かれて田部さんが座して行われた。宗次のロビーは狭いので、一応「密対策」がなされたのかもしれない。

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プログラム

1.吉松隆:プレイアデス舞曲集より

(1)前奏曲の映像(2)線形のロマンス(3)鳥のいる間奏曲(4)真夜中のノエル

2.バッハ=コルトー:アリオーソBWV.1056 より

3.メンデルスゾーン:無言歌集より

(1)ないしょ話 0p.19-4(2)ベニスのゴンドラの歌 第2番 Op.30-6

4.グリーグ:ノクターン Op.54-4

5.シベリウス:もみの木 Op.75-5

6.グリンカ=バラキレフ:ひばり

7.シューマン=リスト:献呈 S.566

8.ドビュッシー:月の光

9.シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番「幻想」 D.894 Op.78

アンコール

1.シューベルト:「ハンガリー風のメロディー」

2.スコリク:「メロディー」

3.シューベルト:「アヴェ・マリア」編曲:吉松隆、田部京子

2023年7月12日 (水)

日本の現代音楽、創作の軌跡

後日記載します。

2023年7月11日 (火)

カルテット・アマービレを初めて聴いて

以前から聴いてみたかった活躍中の若い弦楽四重奏団、カルテット・アマービを7月11日夜、Hakuju Hallで初めて拝聴した。2020年に開始した同ホールでの、ブラームスを主軸としたコンサートの第4回目ということで「BRAHMS Plus〈 Ⅳ 〉」という副題がプログラムに置かれている。

フレッシュ感だけでなく抜群に優秀で、実に魅力的なカルテット。2016年、ミュンヘン国際音楽コンクールの弦楽四重奏部門第3位の実力を堪能した。メンバーは

ヴァイオリン:篠原悠那、北田千尋

ヴィオラ:中 恵菜、チェロ:笹沼 樹

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まず、第1ヴァイオリンの篠原悠那さんが素晴らしい。完璧な技巧。明るいトーン。魅力的な表現力。彼女が牽引し、第2ヴァイオリンの北田千尋さんが入念に奏していく。

ヴィオラの中 恵菜(めぐな)さんは新日本フィル首席ヴィオラ奏者で、この弦楽四重奏団だけでなく、様々な室内楽でも活躍しているし、11月7日には「B→C」にも登場する。優勝な奏者。

チェロはソリストとしても活躍中の笹沼 樹(たつき)さん。長身で、端正にしてソフトなトーンが魅力的だし、篠原さん同様、演奏中の表情も素敵だ。

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ゲストに2021年10月からN響の首席ヴィオラ奏者を務めている村上淳一郎さん~それ以前は、ケルン放送交響楽団のソロヴィオリスト~を迎えてのプログラムは以下のとおり。

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1.モーツァルト:弦楽四重奏曲 第21番 ニ長調 K.575

2.モーツァルト:弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K.516

3.コズマ:枯葉~編曲:武満 徹

4.ブラームス:弦楽五重奏曲 第1番 ヘ長調 op.88

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モーツァルト:弦楽四重奏曲 第21番 ニ長調 K.575

名曲。どのフレーズ、どの場面も素晴らしい曲を、フレッシュにしてピュアで魅力的な演奏に終始した。

アンサンブルとしてのトーンにも統一感があり、しかも全体にソフト感があるのが素敵。

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モーツァルト:弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K.516

第1ヴィオラが村上淳一郎さん。第2が中 恵菜さん。

小林秀雄が「疾走する悲しみ」と評したことでも知られる名曲だが、アマービレによる第1楽章の主題は、疾走する孤独な悲しみと言うより、個々の内面にある日常の寂しさを密やかに語る感があり、それが良かったし、そうした短調の部分にも増して、長調に転じた場面こそが更に魅力的だった。寂しさを笑いながら吹き飛ばす愉悦感さえあった。

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第2楽章では、4人による短調和音の奥行のある響きが印象的で魅力的だった。優秀な4人だからこそ生み出すことができる充実の合奏和音の響き。

第3楽章のアダージョは、短調の場面における哀感が素敵だった。

第4楽章では、短調の序奏で立体感を創り、長調に転じたアレグロにおける喜び溢れる演奏は、他の楽章における短調コードに在る悲しみを一掃するかのような愉悦感に満ちていて素晴らしかった。

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休憩後の後半1曲目は

シャンソンとして有名な「枯葉」を、シャンソン好きだった武満 徹さんが弦楽四重奏のために編曲した作品。私は武満作品の多くを知っているが、このアレンジは初めて聴いた。

主題が出る前に短い前奏があるが、既に武満独特のトーン。主題は第1ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→再びヴィオラと奏されるが、それぞれがデリケートで、物憂げな、アンニュイなニュアンスを出すように書かれているし、主題以外の各3奏者によるオブリガートも、独特の和音やフレージングで常に彩られている。

終わり近くに「スル・ポンティチェロ(sul ponticello)」という特殊奏法による波の様な効果音が奏された後、長調和音で終わるという粋な工夫がなされていた。

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ブラームス:弦楽五重奏曲 第1番 ヘ長調 op.88

第1ヴィオラが中 恵菜さん。第2が村上淳一郎さん。

第1楽章は、第1ヴァイオリンと第1ヴィオラが主体だが、他の奏者も伴奏などという内容ではなく、全楽器群がそれぞれの役割を演じる役者であり、そして個々のアピールだけでなく、全楽器群が束になってブラームス独特のロマンを描き出していくという感のある魅力的な音楽。

第2楽章もユニークな構造と曲想だが、特に抒情的な場面での曲想が魅力的だった。

第3楽章の主題がヴィオラ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリンと受け継がれて開始するが、エネルギッシュなこの楽章は、第1楽章にも増して、全楽器群がそれぞれの役割を演じる役者として立ち回り、全楽器群が束になってブラームス独特の世界を創出していく。見事な作品だ。

長く盛大な拍手とブラヴォーに応えてのアンコールは、プログラム2曲目のモーツァルトの弦楽五重奏曲第4番の第3楽章から、長調の部分が優しく温かく密やかに演奏され、この素晴らしいコンサートを締めくくった。

2023年7月 7日 (金)

オルガ・シェプス~ピアノ・リサイタル

オルガ・シェプスさんというピアニストは、この日まで一度も聴いたことがなかった。ライヴだけでなくCDでも。その来日リサイタルを7月7日夜、トッパンホールで拝聴した。CDのジャケット買いならぬ、フライヤー(ちらし)のチケット買いに近い。

1986年モスクワ生まれ。6歳のときにドイツに移住し、現在もケルン在住。この日のプログラムは、前半がベートーヴェン、後半がショパン。

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ベートーヴェン

1.ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」

2.ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110

ショパン:

3.バラード第1番 ト短調 Op.23

4.バラード第2番 ヘ長調 Op.38

5.バラード第3番 変イ長調 Op.47

6.バラード第4番 ヘ短調 Op.52

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ベートーヴェンの「悲愴」は全楽章、テンポはオーソドックスだが、1つの音、1つのフレーズの強調を起点にダイナミックレンジが広がることが多いと感じた。アクセントおよび敢えてアクセントを付けないことも含めて随所に個性が出ていた。

優等生的なフレージングやキザなディティールのフレージング等は皆無で、直情的なスタイル。

何よりも「こう演奏したい」ということが明瞭なのが良い。「このフレーズはこう弾きたい」、「私はこう思う」が終始明瞭なのが素敵だ。

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ソナタ第31番 変イ長調も同じだが、第1楽章は、気負いがなく、自宅で即興的に弾いて楽しんでいる雰囲気があった。

第2楽章Allegro moltoは、ゆったりと丁寧に演奏。スケルツォ感よりも悲しみの表出を含めたアプローチで印象的だった。

第3楽章冒用の抒情性と、それに続くフーガも落ち着いたテンポでじっくりと進み、巨大なクライマックスを創り出していた。

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休憩後の後半、ショパンの4曲も基本は前半と同じ。

ショパン的とかショパンらしさということからのアプローチではなく、あくまでもシェプスさんが感じたイメージのまま、思いのまま弾いていく。

第1番から第3番までは、特にエンディングに向かう中での迫力が見事だったし、第4番では、喜びと悲しみの交錯。そして全体のスケール感が素晴らしかった。

個性的なショパンだし、テイストとしては、優しさや素朴さ、温もりなどから、シューベルトを想像したりもした。

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アンコールの1曲目は、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番「戦争」より第3楽章。ジャジーなこの曲のアグレッシブ感満載の演奏。2曲目=この日最後の曲は、シェプスさん自身の編曲による“Theme from Unravel 2”という曲。ゲームにおける音楽のようだが、編曲が良いのだろう、とても抒情的でメランコリックで素敵だった。しっとりとした余韻をもって、リサイタルを終えた。

終演後はサイン会もあり、私を含めて多くが列を作っていた。

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