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2023年6月25日 (日)

中本椋子さん~6月の夜に愛を歌う

ソプラノの中本椋子さんによる恒例化した「やりたい放題コンサート」として今回は「6月の夜に愛を歌う」と題したコンサートを6月25日夜、紀尾井町サロンホールで拝聴した。

ピアノは前回と同じ坂本恵梨さん。

なぜ「やりたい放題コンサート」という副題が付いているかと言うと、歌だけでなく、中本さん自身がピアノのソロ等を披露したりするコーナーがあるからで、今回も驚くべき多才を発揮し、披露された。

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1.ヘンデル:バロック・オペラ「アルチーナ」より

  モルガーナのアリア「また私を喜ばせて」

完璧な歌唱。十分な声量。高音の伸びやかさ。申し分なし。

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2.シューマン:「ミルテの花」より

(1)献呈(愛の歌)(2)ズライカの歌(3)くるみの木

いずれも名曲の名唱。

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3.坂本さんのソロ~ランゲ:花の歌

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4.中本さんのピアノ弾き歌いで

(1)ドビュッシー:星の輝く夜…ドビュッシーらしい美しい曲。

(2)團 伊玖磨:紫陽花…ピアノの和音に特徴があった。

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5.中本さんの趣味:耳コピピアノコーナー

(1)カプースチン:コンサートエチュードより

  「プレリュード」

完全に見事なジャズ曲。見事な演奏。ジャズピアニストとしての才能発揮。

(2)ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」より

「Mia and Sebastian’s Theme」「Another Day of Sun」

これまた見事な演奏。

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6.モーツァルト:コンサートアリア

「ああ優しき星たちよ、もしも天にいて」

1曲目のヘンデル同様、声量、技巧、伸びやかさ等々、申し分なし。素晴らしい歌唱。力量。

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 (休憩)

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7.ビゼー:歌劇「カルメン」より

(1)第3幕の間奏曲…坂本さんのソロ

(2)第4幕の間奏曲「アラゴネネッサ」

この「カルメン」のコーナーでは、中本さんが前半の衣装ではなく(この後の衣装でもなく)、スペインダンサーぽい衣装で、カスタネットを叩きながら、踊りを披露。いずれも見事。

(3)第1幕のハバネラ「恋は野の鳥」

「一生に一度、メゾの曲を歌ってみたかった」として披露。十分、魅力的な歌唱。

なお、合唱の合いの手は、坂本さんがピアノを弾きながら歌って応じた。

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8.ミュージカル「美女と野獣」より「メドレー」

坂本さんが弾き歌い、次いで、中本さんが登場してハモリを披露。素晴らしい二重唱。

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9.平井夏美:瑠璃色の地球

ピュアで清楚で魅力的な歌唱。

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10.サティ:ジュ・トゥ・ヴ

フランス語の発音も含めて、とても見事で素敵な歌唱。

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11.中本さんの趣味:耳コピピアノコーナー

この日、2回目で、前半と同じく

カプースチン:コンサートエチュードより

「トッカティーナ」~「プレリュード」同様ジャジーだが、トッカータの要素である連打が入る点が特徴で、「プレリュード」同様、見事なジャズピアニスティックな技術を披露された。

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12.ドニゼッティ:歌劇「シャモニーのリンダ」より

「ああ遅すぎた!~この心の光」

プログラム最後を飾るに相応しい充実の歌唱。素晴らしい力量を披露された。

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アンコール:

1.「You Raise Me Up」

大好きな曲。いつ聴いても感動する曲の名唱。

2.ガスタルドン:禁じられた音楽

これまた有名な歌と名唱。

田部京子さん~ピアノリサイタル

田部京子さんのCDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念リサイタルを6月25日午後、浜離宮朝日ホールで拝聴した。客席は9割が埋まり、田部さんの根強い人気を証明していた。

ステージには新アルバム同様、ベーゼンドルファーが置かれ、これまでスタインウェイを弾かれてきた田部さんの新境地の一面を表していると感じた。

前半は4月にリリースされたCDデビュー30周年アルバムに収録された曲を中心とし、後半は、シューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」という以下に記載のプログラム。

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1.吉松 隆:プレイアデス舞曲集より

(1)前奏曲の映像(2)線型のロマンス(3)鳥のいる間奏曲(4)真夜中のノエル

2.J. S. バッハ~コルトー編曲:アリオーソ

3.メンデルスゾーン:無言歌集より

(1)ないしょ話 Op.19-4(2)ベニスのゴンドラの歌 第2番 Op.30-6

4.グリーグ:抒情小曲集より ノクターン Op.54-4

5.シベリウス:もみの木 Op.75-5

6.グリンカ~バラキレフ編曲:ひばり

7.シューマン~リスト編曲:献呈 S.566

8.ドビュッシー:月の光

9.シューベルト :ピアノ・ソナタ第18番「幻想」 D894 Op.78 

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最初は、新アルバムからではなく、今回も含めて、田部さんのリサイタルには毎回来場されている吉松隆さん作曲の「プレイアデス舞曲集」より4曲。

ステージに、屋外の暑さとは無縁の青く清涼な宇宙が広がる。その美しさと優しさに心が洗われる。

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バッハのチェンバロ協奏曲第5番の第2楽章を、アルフレッド・コルトーが編曲した「アリオーソ」。

新譜よりも更に幾分ゆったりとした印象。聴く人の心の温かさが増す。

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メンデルスゾーンの2曲は、新譜にはない「ないしょ話」と新譜に収録された「ベニスのゴンドラの歌 第2番」が抒情的に演奏された。

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グリーグの有名な「ノクターン」 。これぞグリーグ、これぞ北欧の自然の最も美しく、最も印象的な情景、詩情と言える素晴らしい世界。田部さんによる、神秘的なまでにしっとりとした美しい演奏に浸る。

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シベリウスの「もみの木」は、新譜で感じた森の木々の精霊の対話と少し違い、人間の悲しみを湛えた内面の心情を表出された演奏。

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グリンカの歌曲「ひばり」をバラキレフが見事に編曲。前半の抒情性と、中盤のヴィルトゥオジティが鮮やか提示された田部さんの鮮やかな技術に惚れ惚れする。

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シューマンの「献呈」をリストが編曲。内面の誠実で温かな愛情と外に向かう絢爛な技術のバランスの見事な曲を、全てにおいて万全にして愛に溢れた演奏を披露された。この日一番とも言える盛大な拍手。

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ドビュッシーの「月の光」。新譜では、幾分速めのテンポにより、イメージにとらわれない純然とした新しいアプローチとも言える音楽を描き出されていたが、この日は、良い意味でオーソドックスなイメージに即した抒情に徹した演奏ながら、月夜の光と言うより、月の光に揺れ煌(きら)めく夜の海の波を連想させ、エンディングでは、あたかも朝を迎えた温かな陽光を連想させる美しい演奏。「ブラヴォー」の掛け声と盛大な拍手ともに前半が終了。

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休憩後の後半は、

シューベルト のピアノ・ソナタ第18番ト長調「幻想」 。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の冒頭を連想する曲想で開始。長い第1楽章は、幾つもの即興的を曲想が繋がり、まとまっていくという自由さが有るが、シューベルト特有の短調と長調との頻繁な行き交い、交錯はほとんど現れず、明るく穏やかな長調を基本としている。

第2楽章も自由で即興的なテイストという基本は同じだが、3拍子の中において、より多彩な要素や色彩等が盛り込まれている。

第3楽章は、メヌエットと言うより終始ワルツを感じせ、ポロネーズ的なリズムにも特徴があり、しかも、短調の色彩を主体とした哀感あるテイストから受ける心象としては、あたかもバラードの様にも感じられる曲。

第4楽章は、第1楽章の自由さを更に進めた曲で、特徴的なリズムも印象的。

こうした、即興的で自由自在な多様な曲想と、純な青春の心情を併せ持つような曲を、田部さんは自然体にして抒情性豊かに格調高い演奏を披露された。

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アンコールは新アルバムから3曲。

シューベルトの「ハンガリー風のメロディー」は、楽興の時 第3番を連想させるリズムが印象的な曲。

2曲目はスコリクの「メロディー」。哀愁あるメロディーに、ウクライナへの思いが重なる。

そして、もはやアンコール最後の曲という「合図」的な曲になっている感のある吉松 隆さんが編曲し、更に田部さん自身がアレンジを加えたシューベルトの「アヴェ・マリア」。後半での盛り上がりは、いつも以上の感情移入がなされた感があった。心が清められたリサイタルだった。

2023年6月24日 (土)

クァルテット・エクセルシオ第44回東京定期演奏会

クァルテット・エクセルシオ(以下「エク」とする。自らがプログラム等で使用している略称)の第44回東京定期演奏会を6月24日午後、東京文化会館の小ホールで拝聴した。演奏曲は、

1.モーツァルト:弦楽四重奏曲第18番 イ長調 K464

2.ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」

3.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番 ヘ長調 Op.135

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1曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲第18番は、モーツァルトにしては特別、際立った特徴は希薄かもしれないが、その分、全体として清々しい曲で、ロマン派の音楽を予感させる温かさ明るさがあり、とても魅了的な曲。「エク」の演奏も終始しなやかで穏やかで品が有り、素敵だった。

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2曲目は、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」

冒頭から終始、個性的な音と構成、展開で、すこぶるユニーク。近代的で、斬新な音やリズムが展開するが、実はヤナーチェク最晩年の作品で、若い人妻へのラブレターとして書かれ、初演の1か月後に没している。4楽章制だが、いずれの楽章においても、ヴィオラの活躍が顕著な作品でもある。とても面白い曲。「エク」の演奏は、丁寧にして自信に満ちた格調高い演奏だった。

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後半は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番 ヘ長調

作品135のとおり、最期の弦楽四重奏曲というだけでなく、まとまった作品としても人生最後の曲。

3つのピアノ・ソナタ、「ミサ・ソレムニス」、交響曲第9番などを完成させた後、ベートーヴェンは12番以降の5曲の弦楽四重奏曲に注力した。

最期の16番は、ヴィオラから開始し、終始シンプルさを基調とする。構造も展開も音自体も複雑な要素はほとんど無く、余計な気負いもなければ、特別な諦念が支配するわけでもない。そこにあるのは、素朴な喜びと平穏な世界への憧れに満ちた夢と言えるかもしれない。

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第3楽章のレントは、変ニ長調による祈りと愛の音楽。マーラーの交響曲第9番は、ニ長調で開始するのに、終楽章では半音下の変ニ長調による素晴らしいアダージョで開始し、終わる。

この第16番のレント楽章が、それを予感させる、というのは言い過ぎにしても、逆に、マーラーが9番の終楽章を書いているとき、このベートーヴェンの音楽が心のどこかに宿っていたかもしれない、と想像してみると面白いかもしれない。

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第4楽章の序奏部分には、「ようやくついた決心(Der schwergefasste Entschluss)」、「そうでなければならないか?(Muss es sein?)」、「そうでなければならない!(Es muss sein!)」という哲学的な、あるいは禅問答的な有名な書き込みがあるが、少なくともアレグロに入ってからは、とてもピュアで、純然たる音楽が展開する。表現(和音等)の工夫はあるが、それを誇示することのない無技巧の技巧、ベートーヴェンが行きついた先は、恣意的で作為的な構造でも展開でもなく、全てが平明で、真の名人芸、達人の領域の音楽だったことを、この作品が見事に示していると思う。

「エク」は余裕あるテンポでの自然体で瑞々しい演奏で、ベートーヴェンへの敬愛が感じられる素敵な演奏だった。

2023年6月18日 (日)

北区民混声合唱団

北区民混声合唱団の第32回定期演奏会を6月18日(日)午後、北とぴあ「さくらホール」で拝聴した。

初めて聴かせていただいた合唱団だったが、事前に(偶然)入手したチラシ(フライヤー)に、「谷川俊太郎を歌う」と題されていたのを見て、興味を持った次第。

北区民混声合唱団は、1990年に、北区の文化芸術の振興に寄与することを目的として北区在住・在勤・在学の合唱愛好者により創設されたとのこと。今回の人数は、ソプラノが11名、アルトが10名、テノールが6名、バスが5名と、バランスは良い。全体的にソプラノが伸びやかで美しく、テノールも明るいトーンが良かった。

指揮は2006年から常任指揮者を務めている名島啓太さん。ピアノは安 里佳子さん。第4ステージでは、シンバル奏者として佐野響平さんが加わった。プログラムは、

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オープニング:名島啓太 作曲「祝婚歌」

第1ステージ:武満徹 作曲

混声合唱のための「うたⅠ」より

(1)うたうだけ(2)恋のかくれんぼ(3)見えないこども

混声合唱のための「うたⅡ」より(4)死んだ男の残したものは

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第2ステージ:三善晃 作曲

混声合唱曲集「木とともに 人とともに」

(1)木とともに 人とともに(2)空(3)生きる

 (休憩)

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第3ステージ:木下牧子 作曲

混声合唱曲集「地平線のかなたへ」

(1)春に(2)サッカーによせて(3)二十億光年の孤独(4)卒業式(5)ネロ ―愛された小さな犬に―

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第4ステージ:市原俊明 編曲

(1)鉄腕アトム:髙井達雄作曲(2)世界の約束:木村弓作曲

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アンコール:「じゃあね」~作曲:奥 秀明

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オープニングの「祝婚歌」は、名島啓太さんが指揮者を務める他の合唱団の中で、団員同士で結婚した2人のために作曲した曲で、披露宴依頼の演奏とのこと。

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合唱の演奏として充実していたのは、三善作品で、とりわけ「生きる」が良かった。

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4パートとも声が良く出ていたのは、後半の木下牧子さんの作品で、それまでの曲では、アルトとバスの存在感が薄く、物足りなかったのだが、「地平線のかなたへ」の5曲は、その点、各パートの伸びやかさと、自由に楽しく歌っている感じがして良かった。

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団員の一人でもある市原俊明さん編曲による2作品では、「鉄腕アトム」が前衛作品的に開始し、第6変奏後に、エンディングとして、テーマ曲が素直に歌われるという展開が面白かった。

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アンコールの「じゃあね」は、楽しい曲。

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全体として好感の持てる合唱団。今後も継続的に聴かせていただきたいと思った次第。

2023年6月13日 (火)

菊池洋子さんピアノリサイタル

菊池洋子さんが出演された浜離宮ランチタイムコンサートvol.227を6月13日、同ホールで拝聴した。11時30分開演、休憩を挟んでアンコール3曲が終わったのが13時10分ころ。

2002年のモーツァルト国際コンクールで優勝した後、協奏曲等のCDのほか、ホルンの名手、ラデク・バボラークさんとも度々共演しており、CDも出ている。今年4月からは、ウィーン国立音楽大学の「アシスタント・プロフェッサー」に就任。日本人音楽家が、ウィーンで後進の指導者になるというのは極めて稀だろう。

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日本人として最初に国際的名声を得たピアニストと言える故・田中希代子さんは、膠原病罹患により1970年に引退し、その後は後進の指導に注力した。原則的には「子供は教えない」としたが、わずかな例外が、室蘭市の小学生だった田部京子さんであり、その約13年後に入門した当時中学1年生だった菊池洋子さんだ。菊池さんは~少なくとも有名ピアニストの中では~田中希代子さんの最後の(それに近い)お弟子さんの一人と言える。

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この日は、ウィーンをテーマにしたプログラムを披露。全曲は最下段に記載のとおり。

1.シューベルトの即興曲から4曲。

有名な「ロザムンデ」変奏曲である作品142-3は端正にして、表情豊かな演奏。

次に、これまた有名な、前半は三連符を主体とした変ホ長調作品90-2。

愛らしい長調で開始するのに、劇的な短調コードで終わるという印象的な曲。その終盤からエンディングにかけての力感が素晴らしかった。

同じく有名な変ト長調90-3の優雅さ。そして4曲目に作品142-4という「ヘ短調」の曲を置いたのは、明らかに後半の演奏曲「熱情」とのリンクを考えてのことだろうし、実際、近似性を感じさえる演奏だった。

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2.ベッリーニ(ビゼー編曲):オペラ『ノルマ』より「清らかな女神よ」

ベッリーニはウィーンに縁があったわけではないが、3曲目のショパンが尊敬し、「ベッリーニのオペラでのベルカント歌唱のように、ピアノを弾きなさい」と弟子に教えたという点と、菊池さんはイタリアでも学んでいるし、コンサートで、この曲を演奏したら喜ばれたことからの選曲。

「イタリア人なら、多分ほとんどの人が口ずさめるアリアだと思います」として披露。ビゼーによる編曲も良い。

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3.ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズop.22

ショパンは20歳から21歳の時期、10か月ほどだが、ウィーンに滞在したことからの選曲。

特に後半の「華麗なる大ポロネーズ」は、この日の白眉とも言えるほどの圧巻の演奏で、素晴らしかった。休憩後の後半は、

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4.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」

全体的に速めの演奏。第1楽章は、個々の鋭い音によるのではなく、フレーズや、一定区間の中でドラマティックに盛り上げる演奏。その部分での迫力は見事。

特に終楽章での劇的な追い込みは凄まじかった。

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アンコールの3曲は、「クールダウンとして」の1曲目が、

草川信(斎藤高順 編曲)の「ゆりかごのうた」。次いで、ゴドフスキーの「古きウィーン」。最後は、8月に公演が予定されているバッハの「ゴルトベルク変奏曲」よりアリアで締めくくった。

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プログラム

1.シューベルト:即興曲

(1)作品142-3、(2)作品90-2、(3)作品90-3、(4)作品142-4

2.ベッリーニ(ビゼー編曲):オペラ『ノルマ』より 「清らかな女神よ」

3.ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズop.22

 (休憩)

4.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」

アンコール

1.草川信(斎藤高順 編曲):ゆりかごのうた

2.ゴドフスキー:古きウィーン

3.J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲よりアリア

2023年6月 9日 (金)

森谷真理さん&大西宇宙さん~デュオコンサート

森谷真理さんと大西宇宙(たかおき)さんのデュオコンサートを聴くたびに、所ジョージさんのセリフ「スゴイですねえ~」を思い出す。その言葉しか出てこないくらい圧倒される。この日も正にそうだった。

トッパンホール主催公演として森谷真理さんが開始した「Viva Verdi!」の第3回目、「Viva Verdi! III 後期」を6月9日夜、同ホールで拝聴した。大西宇宙さんとは、昨年5月の「Viva Verdi! II中期」に続いての共演。ピアノは今回も河原忠之さん。

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大西宇宙さんの声量と威厳ある歌声は、バリトン歌手の中でも抜きんでた一人。

プログラム最初の歌劇「運命の力」より「私はペレーダ」と「この中に私の運命がある」からして既に圧巻で、惚れ惚れずる声量と密度の濃い格調高い歌声。

後半の「ドン・カルロ」より「わが最後の日が来た」では、盛大なブラヴォーと長い拍手が送られた。

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森谷真理さんはドラマティックな歌声だけでなく、むしろ、根底には、メゾに似た情感豊かで繊細さを併せ持つ抒情性があると感じる。それをベースに、高音の揺るぎない美声とトーン変化を自在にコントロールする。その中から、場面に応じた圧巻のドラマティックな歌声が披露されるのだ。

歌劇「アイーダ」より「おお、わが故郷」でのトーン変化や情感豊かな歌唱と、それ続く、今回唯一の二重唱、歌劇「アイーダ」より「ああ、お父様!」でのドラマティックな歌声が素晴らしく、第2回ではデュオが多かったが、今回はこの1曲だったのは残念で、二重唱ももっと聴きたかった。

「繊細な叙情性」という特質が遺憾なく発揮されたのは歌劇「オテッロ」より「泣きぬれて野のはてにひとり(柳の歌)~アヴェ・マリア」。うっとりするくらい素晴らしく、盛大なブラヴォーと長い拍手が送られた。

歌劇「ドン・カルロ」より「世のむなしさを知る神」では、ベルカントに満ち溢れた格調高い歌声を披露。

「メゾ的なトーン」が最もよく出ており、抒情性と高音の素晴らしいという3つの要素が見事に揃った歌唱が、アンコールで歌われたシャルパンティエの歌劇「ルイーズ」より「その日から」。

森谷さんの魅力が全て盛り込まれていたと感じ入り、「これぞ森谷真理さんの特性、歌声だ」と思った。

ヴェルディシリーズは今回で終わりかもしれないが、この2人のよるデュオ公演は、これからも是非継続して欲しい。

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プログラム

1.ヴェルディ:歌劇「運命の力」より

(1)私はペレーダ~大西さん

(2)神よ、平和を与えたまえ~森谷さん

(3)この中に私の運命がある~大西さん

2.ヴェルディ:歌劇「アイーダ」より

(1)おお、わが故郷~森谷さん

(2)ああ、お父様!~森谷さん&大西さん

 (休憩)

3.ヴェルディ:歌劇「オテッロ」より

(1)イアーゴのクレド-無慈悲な神の命ずるままに~大西さん

(2)泣きぬれて野のはてにひとり(柳の歌)~アヴェ・マリア~森谷さん

4.ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」より「これは夢か?まことか?」~大西さん

5.ヴェルディ:「ドン・カルロ」より

(1)わが最後の日が来た~大西さん

(2)世のむなしさを知る神~森谷さん

アンコール

1.ヴェルディ:歌劇「オテッロ」より「さあ乾杯だ」~大西さん

2.シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」より「その日から」~森谷さん

2023年6月 7日 (水)

21世紀音楽の会~第19回演奏会

昨年9月18日に逝去された作曲家、野田暉行(てるゆき)さんが2001年に創設した「21世紀音楽の会」の第19回演奏会を6月7日夜、東京文化会館の小ホールで拝聴した。客席は老若男女問わず、7割くらい埋まっていた。知る人ぞ知るコンサートということで、現代音楽に関心ある常連のファンが多く来場されていたのだろうと想像する。

コロナ禍以前も必ずしも毎年開催ではなかったため(ほぼ毎年だが)今回が19回目。私は今回初めて拝聴した。

現在「21世紀音楽の会」は21人の作曲家が会員として入会し、演奏会では、都度4~6人の作品が演奏されるという運営が続いて来た。当然、毎回、その演奏会のために書き下ろした初演作品で構成されるプログラム。この日の演奏曲をまず記載し、感想の欄において演奏者名も記すこととします。

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1.高畠亜生:縄文奇想曲〜ヴァイオリンとピアノのための

2.大胡 恵:ウッドウインド・フィンガリングの行方

3.国枝春恵:〈そしてまた、唱えながら〉〜ヴァイオリン、チェロとピアノのための

4.糀場富美子:フラグメンツⅤ

5.平川加恵:ピアノ五重奏曲

6.追悼演奏~野田暉行:バラード(1978年作品)

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以下、曲順で感想を記すが、当然ながら、野田さんを除く5名は来場されて(リハーサルにも当然立ち会っただろうし)初演を聴かれ、演奏後はステージに登壇して拍手を受けたし、平川加恵さんは、ピアニストとして自作を演奏された。

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1.高畠亜生:縄文奇想曲〜ヴァイオリンとピアノのための

ヴァイオリン:佐藤まどか、ピアノ:田中翔一朗

基本は無調だが、ピアノによる断片的音句の流れをベースに、ヴァイオリンが情熱的に約20分間、演奏し続ける。なかなか聴き応えのあるドラマティックな曲で、演奏後は長く盛大な拍手が続いた。

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2.大胡 恵:ウッドウインド・フィンガリングの行方

  フルート:山本 葵、オーボエ:宮村和宏、クラリネット:有馬理絵、ファゴット:河村幹子

木管四重奏による演奏だが、メロディは皆無で、不協和音や特殊奏法による短いフレーズが(休符を入れながら)連続する、という形式的には退屈な形態を採るが、その単調な構造が、かえって聴衆に集中力を生じさせるような感じがしてユニーク。すなわち、最も眠たくなるような形式と曲想なのに、否が応でも聴き入ってしまうような音の連続だった。特殊奏法としては、オーボエが聞き慣れない音で度々奏されていたのが印象的だった。これも20分くらいの曲。客受けするような曲ではないので、拍手は長くは続かなかった。

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3.国枝春恵:〈そしてまた、唱えながら〉〜ヴァイオリン、チェロとピアノのための

  ヴァイオリン:花田和加子、チェロ:松本卓以、ピアノ:田中翔一朗

この日、最も(いわゆる)「ゲンダイオンガク」的な無機質な曲で、ヴァイオリンのハーモニクスを主体とした高音の頻出、チェロも特殊奏法を多く交えての15分くらいの曲。1970年前後くらいなら「受ける」かもしれないが、私には「もはや古いスタイルと曲想」に思えた。

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休憩後の後半は、

4.糀場富美子:フラグメンツⅤ

  ファゴット:河村幹子 チェロ:松本卓以

短い4つの楽章から構成。チェロの特殊奏法は当然として、ファゴットもリードだけによる面白い音を奏したり、完全五度ではない倍音とでも言えるような不思議な重音を響かせるような特殊奏法が印象的だった。全体で10分ほどの曲。全体的には明るいトーンによるユーモラスな曲想で、聴き易かった。

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5.平川加恵:ピアノ五重奏曲

  ヴァイオリン:佐藤まどか、花田和加子、

ヴィオラ:安藤裕子、チェロ:松本卓以、

ピアノ:平川加恵

3楽章制で、第1楽章はバルトークやショスタコーヴィチを連想させるようなエネルギッシュな曲。

第2楽章は、チェロのソロとピアノによるソロで、それぞれ抒情的な歌が奏され、この日、初めてロマン的な曲が登場した。

第3楽章も有調によるパワフルでドラマティックな演奏が続き、現代における新ロマン派と呼びたくなるような豪快で聴き易い、魅力的な曲だった。3つの楽章全体で15分くらいの曲。

当然の如く、この日一番の盛大な拍手が長く続いた。この曲は今後も、折々、演奏されていくことを期待したい、そう強く感じた曲だった。

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6.追悼演奏~野田暉行:バラード(1978年作品)

  フルート:山本 葵、ヴァイオリン:佐藤まどか、ピアノ:田中翔一朗

「バラード」のイメージとは随分違い、無調による賑やかさで、複雑なリズムに基づく動的な曲。ゆったりした部分でのフルートのソロは、武満徹の遺作「エア」(Air)を連想した。全体的には親しみ易い曲とは言えないが、さすが野田さんと言うべき、充実した作品だと思う。

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プログラム終演後、「21世紀音楽の会」代表の安良岡章夫さんが挨拶され、野田さんの逝去と、「バラード」について述べられた後、「当会としては初めてのことですが」としてアンコールが演奏された。

いずれも、野田暉行さんによる作品で、

1曲目は、野田さんの編曲による「宵待草」。

フルートの山本 葵さんとピアノの田中翔一朗さんによる演奏。これまた、さすが野田さんと言える美しく抒情的な見事な編曲で、とても素晴らしかった。

2曲目は、野田さん作曲の「スマイル」。

ヴァイオリンの佐藤まどかさんとピアノの田中翔一朗による演奏。有調での独特の抒情があり、ロマン的と言うよりは、ピュアで粋な曲と感じた。

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今回、それぞれユニークな曲を堪能したし、各曲を演奏した素晴らしい演奏者を知ったことも大きな収穫だった。

今後も、このシリーズを聴いていきたいと思う。

2023年6月 4日 (日)

大西宇宙さん&中江早希さんデュオ・リサイタル

大活躍中のお2人、バリトンの大西宇宙(たかおき)さんと、ソプラノの中江早希さんによる《華麗なるオペラの世界》と題したデュオ・リサイタルを6月4日午後、神奈川県立音楽堂で拝聴した。

大西さんは、この2年位で10回近く聴いていると思うが、中江さんは多くは拝聴していなかったので、この日、よくやく、じっくりと中江さんの歌声を拝聴し、堪能し、楽しませていただいた。

ピアノは村上寿昭さん。プログラムは、

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第1部<名作オペラ・アリア選集>

1.モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より

(1)シャンパンの歌から~大西さん

(2)窓辺においで~大西さん

(3)薬屋の歌~中江さん

(4)手を取り合って~二重唱

2.グノー:歌劇「ファウスト」より「祖国を離れる前に」~大西さん

3.カタラーニ:歌劇「ワリー」より「さよなら我がふるさと」~中江さん

4.ヴェルディ:歌劇「リゴレット」より「いつも日曜日に教会で」~二重唱

第2部<コメディ風オペラ>

メノッティ:歌劇「電話」

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第1部はモーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」からの4曲で開始。

来月、大西さんは西宮で、佐渡裕さん指揮により、タイトルロールを歌うから、いわば、その前哨戦的なショートステージとも言える。

特に「窓辺においで」が良かったし、続く、中江さんによる「薬屋の歌」も実に魅力的。

「手を取り合って」の二重唱では、中江さんがツェルリーナの揺れる感情を、トーン変化を交えながら巧みに表現されていたし、大西さんも「ふてぶてしさ」がよく出ていて秀逸だった。

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大西さんによるグノーの歌劇「ファウスト」より「祖国を離れる前に」

格調高い曲と歌声で魅了。

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中江さんによるカタラーニの歌劇「ワリー」より「さよなら我がふるさと」

アルフレード・カタラーニ(1854~1893)の歌劇「ワリー」は、1892年にミラノ・スカラ座で初演されて大成功を収めたが、現状は、ほとんど上演されなくなり、アリア「さよなら我がふるさと」~日本では、「さようなら、ふるさとの家よ」とも訳される~が単独でしばしば演奏される。

2種の和訳タイトルはともかく、イタリア語の歌詞的には「私は(一人で)ここから遠くに行きましょう」が要にある曲だと思う。

ホ短調による素晴らしい曲で、中江さんによる歌唱も、次の二重唱とともに、この日の白眉とも言える感動的な名唱だった。

中江さんの声量豊かな歌声は瑞々しく、清らかで温かさが常にあるが、サラサラ流れていくだけではなく、1つのフレーズや単語自体に、まろやかで熟成した骨格と、明瞭で安定感のある発音が常にある感じがして、とても魅力的。そういうことをこの曲に限らず、この日、強く感じた。

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前半の最後は、ヴェルディの歌劇「リゴレット」より「いつも日曜日に教会で」

ドラマティックな曲想を、2人とも十分な感情移入により、凛とした二重唱として聴衆を魅了し、盛大なブラヴォーと長い拍手が続き、前半を終えた。

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休憩後の後半は、メノッティの歌劇「電話」

「歌劇」と言っても、歌手2名のみの、いわば「2人芝居」的な内容。

ジャン=カルロ・メノッティ(1911~2007)は、イタリア出身だが、アメリカで活躍。「電話」は1947年初演作。男性ベンが、女性ルーシーにプロポーズしようとやって来たのに、いざ、というときに電話が鳴り、ルーシーはベンに構うことなく、度々長電話の興じる、という「長電話との三角関係」ドラマで、原曲はオーケストラによる演奏。

私は今年3月に、駒込のソフィアザールサロンで、辰巳真理恵さんと竹内利樹さんによる演奏を聴いているので、初めてではなかったが、今回は古い「電話」ではなく、パソコン画面やスマホによる現代版に置き換えての展開と、「ご当地、横浜」関係の要素も幾つか引用(導入)したり、大西さんが、場面によりステージ端(客席との境)に座って歌ったり、最後は、客席後方から登場してステージに上がるなど、広いホールを効率的に使ってのステージ演出も加え、ユーモア抜群の中江さん演じるルーシーとともに、大いに聴衆を沸かせて、この日のコンサートが終了した。

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最後になったが、村上寿昭さんによるピアノ演奏も、全曲において、ダイナミズムの振り幅の広さや、巧みなリズム変化を含めて、とても素晴らしかった。

今後も、この3人によるコンサートが継続されていくようなので、これからも益々楽しみだ。

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