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2023年1月19日 (木)

高野百合絵さん&黒田祐貴さんデュオコンサート

若手で大活躍中のソプラノ、高野百合絵さんと、同じく活躍目覚ましいバリトンの黒田祐貴さんによるデュオコンサートを1月19日夜、Hakuju Hallで拝聴した。2人はこれまでも、オペラも含めて、度々共演されている。なお、コンサートのタイトルは「Opus One :Live @Hakuju Hall」。

「Opus One :Live @Hakuju Hall」とは、日本コロムビア(株)が2019年にスタートした若手アーティスト限定の新レーベル「Opus One」と、Hakuju Hallによるコラボレーションのコンサートで、そのvol.6。

よって、当然、主催が日本コロムビア(株)で、共催がHakuju Hall。

ピアノは、石野真穂さんと、1994年生まれの追川礼章(あやとし)さん。

ソロ曲においては、高野さんの曲を石野さんが、黒田さんの曲を追川さんが伴奏された。

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全体のプログラムは最下段に記載のとおりだが、特に印象的な歌唱や曲、事柄等を、曲演奏順に少し記載したい。

また、演奏会終了後に、コロナ禍以降、ほとんどで中止されているCDサイン会が開催されたので、そのことも最後に触れたい。

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1曲目は、高野さんによる、平井康三郎の「うぬぼれ鏡」。

先日も、砂川涼子さんがリサイタルのアンコールで歌われたように、ソプラノ歌手がしばしば歌われる、ユーモラスな歌。

この曲に限らず、あるいは、この曲に象徴されていたように、この日の高野さんの歌声は、伸びやかさ、明朗な美しさと声量の豊かさが際立っており、以降も絶好調で、素晴らしい歌唱の連続だった。

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2曲目は、黒田さんによる、大中恩の「ところがトッコちゃん」。

ユーモラス歌曲の連続による公演開始、というところ。

黒田さんの声は、バリトンと言っても、重厚な声ではなく、明るく格調高い声。後述するが、「ウエスト・サイド・ストーリー」では、テノールを思わせる高音での美しい歌声が印象的だったくらいだ。

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3曲目は、高野さんによる、クルト・ヴァイルの「ユーカリ」。

哀愁ある曲で、後半の盛り上がりも魅力的だった。

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4曲目として、来月から1年間、ドイツに行かれるという黒田さんにより、マーラーの「若き日の歌」第3巻から、(1)自意識、(2)夏に交代、(3)別離。

(1)「自意識」は2人の登場人物の声色を巧みに描き分けていた。

(2)「夏に交代」は、マーラーの交響曲第3番の第3楽章の冒頭の旋律そのまま。マーラーにおける歌曲と交響曲との密接な関連性を改めて認識できた。

(3)「別離」も曲想に則した表現と技術が秀逸だった。

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続けて、黒田さんにより、コルンゴルトの「6つの素朴な歌」より「セレナード」。

印象的な曲。

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次も、高野さんにより、同じくコルンゴルトの「四つのシェイクスピアの歌」より、第3曲「吹けよ 吹け 冬の風」と、第4曲「小鳥たちが歌う時に」。

2曲とも魅力的で、「小鳥たちが歌う時に」はユーモラスなエンディグだった。

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前半最後は、歌手もピアノも総出により、バーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」より「プロローグ」~石野さんと追川さんの連弾、「アイ・フィール・プリティ」~高野さん+連弾、「チャチャ」~石野さんと追川さんの連弾、「トゥナイト」~高野さん&黒田さん+連弾。

2人のピアニストの連弾も素敵だったし、高野さんによる「アイ・フィール・プリティ」も実に魅力的。

そして、「トゥナイト」は正に前半の白眉と言え、盛大な拍手が送られた。

先述のとおり、ここでの黒田さんの声は、ほとんどテノールに近いと言えるような明瞭な高音の美声を披露しており、高野さんとともに、素晴らしいデュオを聴かせてくれた。

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休憩後は、バーンスタインの「アリアと舟歌」。

歌い手2人と4手ピアノのために書かれたというユニークな珍しい曲で、演奏前のMCで、黒田さんも触れていたが、「たぶん」を前提に、2021年に2人が歌われたのが「日本初演」で、その後も(多分)誰も歌われていないようなので、この日が、国内で2回目の演奏とのこと。

1曲とはいえ、30分以上はかかったと思える、2人と連弾による、「旋律付きの長大な対話劇」という内容。

結婚後の倦怠期を想像できる内容で、2人のセリフ(歌詞)も相当シュールというか、Q&Aになっていない(敢えてそうしていない)チグハグさも伴うやりとりが主で、この点からも、既に2人の心の状態が連想できる内容。

やりとりが、字幕スーパーにされていたので、私はタイトルだけを以下のとおり、メモした。

(1)プレリュード、(2)愛の二重唱、(3)スメリーちゃん、(4)俺の生涯の恋人、(5)あいさつ、(6)私の結婚式で、(7)ウェッブ夫妻のおやすみ、(8)後奏曲。

(4)「俺の生涯の恋人」は黒田さんのソロ。(5)「あいさつ」は高野さんのソロ。(7)「ウェッブ夫妻のおやすみ」の中では2回、ピアノの2人が「子供たちのスキャット」として、おしゃべりするような場面もあった。(8)後奏曲は、高野さんも黒田さんも、「ム~」という、歌詞の無い、ハミングだけによる内容。

というように、相当、シュールな作品。音楽は、バーンスタイン特有のロマンティックな曲想も含みつつ、基本的には、前衛的な印象を受ける音と音楽だった。

今後、このデュオ作品を、他の歌手もプログラムに乗せていくと面白いのに、と思った。

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アンコールとして、

最初に、黒田さんによる、ロッシーニの歌劇「セヴィリアの理髪師」より「私は町の何でも屋」。

黒田さんの得意中の得意な曲なので、表情、演技も含めて実に素晴らしかった。

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次いで、高野さんにより、レハールの喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」。

高野さん特有の妖艶さと、メゾ的な情感深い歌声が、とても魅力的だった。

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最後は、デュオで、武満徹さんの「小さな空」。

今や、合唱だけでなく、むしろ、それ以上に、多くのオペラ歌手~男声、女声を問わず~により、アンコール等で歌われるようになった曲だが、デュオで歌われるのは珍しいので、あらためて新鮮さを感じた。

素晴らしいデュオコンサートだった。

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久しぶりのサイン会

なお、終演後、ロビーでは2人が登場されて、それぞれのCDのサイン会が開催された。

高野百合絵さんとは、コロナ禍以降は、FBで度々やりとりをさせていただいているが、直接お会いし、お話できたのは、2019年10月以来かと思う。

昨年から、いわゆるミニコンサートやレクチャーコンサートの類では、終演後、田部京子さんや宮谷理香さんはCDサイン会を再開されたが、もう少し大きい規模の、通常のコンサートでは、お2人も含めて、未だほとんどの演奏家はサイン会を中止したままだ。コロナ禍以前は、ユジャ・ワンやヒラリー・ハーンなど、サイン会などしなくても、世界中どこの大ホールでも満席にできる奏者も含めて、当たり前のように行われていたのに。

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これは、アーティストが嫌がっているのではむろんなく、主にホールが警戒心を依然として解かず、あるいは躊躇しているためだ。

しかし、ロビーでの「密を避けるため」と言ったって、今では、電車内やロビーを含めた駅、スーパー、百貨店等のが、よほど「密」状況であることを考えれば、実に奇妙な事が継続されていると言える。

CDという「モノ」の受け渡し(接触)のリスクと言ったって、コンビニやスーパー、あるいは、会社等で日常茶飯的に行われていることだ。

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ホール会場内での「ブラヴォー禁止」という滑稽なことも含めて、サイン会も、いい加減、そろそろ解禁すべきだろうし、今年はようやく、そうなっていくような気がする。そのことも強く感じさせてくれたコンサートでもあった。これを決断した日本コロムビアと許可したホールに拍手を送りたい。

ただし、Hakujuは、未だ、終演後の演奏者との面会や、演奏者がロビーに出ての、来場者との歓談は中止したままなので、今回の措置は、まだ例外的な、あるいは、試み的な、特別な開催だったのかもしれない。

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プログラム

1.平井康三郎(詞:小黒恵子):「うぬぼれ鏡」~高野さん

2.大中恩(詞:阪田寛夫):「ところがトッコちゃん」~黒田さん

3.K・ヴァイル:「ユーカリ」~高野さん

4.マーラー:「若き日の歌」第3巻 より

(1)自意識 (2)夏に交代 (3)別離~黒田さん

5.コルンゴルト:「6つの素朴な歌」より

「セレナード」op.9-3~黒田さん

6.コルンゴルト:「四つのシェイクスピアの歌」op.31より

(1)第3曲「吹けよ 吹け 冬の風」

(2)第4曲「小鳥たちが歌う時に」~2曲とも高野さん

7.バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」より

(1)「プロローグ」~石野さんと追川さんの連弾

(2)「アイ・フィール・プリティ」~高野さん+連弾

(3)「チャチャ」~石野さんと追川さんの連弾

(4)「トゥナイト」~高野さん&黒田さん+連弾

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 (休憩)

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8.バーンスタイン:「アリアと舟歌」~高野さん&黒田さん+連弾

アンコール

1.ロッシーニ:歌劇「セヴィリアの理髪師」より「私は町の何でも屋」~黒田さん

2.レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」~高野さん

3.武満徹:「小さな空」~高野さん&黒田さん

 

https://hakujuhall.jp/concerts/detail/3300

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