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2023年1月29日 (日)

マリコとオペラ!~林真理子のトーク・コンサート

作家で、昨年7月に、日本大学の理事長に就任して話題になった林真理子さんが主催するコンサート、「マリコとオペラ!」~林真理子のトーク・コンサートを1月29日午後、つくば駅近くのノバホールで拝聴した。以前から聴いてみたいと思っていたコンサート。同ホールも初めてで、思いのほか遠くには感じなかったし、駅らかも徒歩数分でホールに着く。内装も独特の雰囲気があり、音響もなかなか良い。

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林さんは、昨年7月1日、日大の理事長就任の記者会見で、カザルスホールの復活を新理事長の3つの案の中の一つとして挙げ、「卒業生の力も借りて、寄付を募っていく」として、音楽ファンを喜ばせた。

この(他の)サイトでも、期待したい旨の投稿があり、私は、「林さんは、自らオペラ歌手とのコンサートを企画して、全国各地で開催するほど、クラシックファンなので、期待できます」、と応じさせていただいた。

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私が知る限りでは、林さんの企画コンサートは2018年ころから開始され、2019年に「マリコとオペラ!」と題されてから、年に2回ほど、国内各地で開催されている。

出演者は、ソフラノの小林沙羅さんが毎回出演されており、テノールは、西村悟さんか望月哲也さん~今回は望月さん、ピアノは、ほぼ毎回、河野紘子さん、ナビゲーターが浦久俊彦さん、というメンバー。

沙羅さんファンの私としては、彼女が林真理子さんに気に入られていることは、とても嬉しい。

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この日のコンサートのことを書く前に、もう少し、カザルスホール関係について記載しておきたい。

カザルスホールは、1987年完成。2003年に日大が取得したが、音楽ホールとしての使用は2010年を最後におこなわれていない(実質、閉鎖)。林さんが先述の記者会見で語った具体的発言(の一部)はこうだ。

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「新理事長として三つの案を発表します。(中略)三つめはオール日大のサポート要請。100万人を超える校友会の心をひとつにして、新しい日大に力を貸してもらうことを考えている。そのひとつとして、カザルスホールの復活を考えています」、と語り、更に、

「先日、見に行ったところ、椅子はまだ使える状態だったが、音響設備が全くダメで、パイプオルガンも運び出した後だった。私も、就任早々、大金を使うのはどうかと思うので、できましたら、オール日大によるサポートを要請したい。校友の方とか卒業生の方とか回って寄付のお願いをしたいと思っている」、と語っている。

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また、昨年7月17日付の朝日新聞(声)の欄に、京都の69歳の男性が「カザルスホールの復活を期待」と投稿すると、林さんは3日後の同月20日、同投稿欄に「作家 林真理子」として「名ホール復活、みなさんの支援で」と応じている。

このように、林さんは「本気」なので、あとは、OB諸氏の協力如何により、遠からず、カザルスホールは再開されると思われる。

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さて、いつもながら、前置きが長くなってしまったが、この日のコンサートの出演者は、

林真理子さん、ナビゲーターとして浦久俊彦さん。

ソプラノの小林沙羅さん、テノールの望月哲也さん。

ピアノは河野紘子さん。

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プログラム全体は、最下段に記載のとおりだが、概要と、特に印象的だった歌唱等を記したい。

第1部は、トーク・ステージ

「林真理子さんが語る~本とオペラのある人生」として、浦久さんが、林さんの近著や、オペラを好きになったきっかけ等のトークが行われた。

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第2部~コンサート・ステージ

「林真理子さんがセレクトする~オペラの名曲たち」

1曲目は、小林沙羅さんによるプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」より「わたしのお父さん」。

沙羅さんは、デビュー間もないころから応援し、親しくさせていただいている。

この曲の歌唱も、10年ほど前から聴かせていただいているが、あの頃の初々しいピュアな歌唱と少し違うように感じた。

というのは、ラウレッタが情感豊かに、父親を説得する感情移入の素晴らしさは変わらないが、それと同時に、なぜか、母性を感じさせる「大人の女性」の歌唱と感じたのだ。

沙羅さんが、実際に母親として、歌手活動を両立させていることが関係しているのかも、などという短絡的な推測は、いかがなものかと思うが、しかし、娘が父親を説得する歌というよりは、母親が娘の側に立って、夫(父親)を説得するが如く、母性的にして、大きな揺さぶりを伴う、スケール感のある「私のお父さん」として聴かせていただいた感があり、とても印象的だった。

3曲目グノーの「私は夢に生きたい」では、フレージングの流麗さが良かった。

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望月哲也さんは、特にグノーの歌劇「ロメオとジュリエット」より「目覚めよ、きみ」が良かった。

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河野紘子さんのソロで、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲が美しく弾かれた。河野さんは、昨年10月の望月哲也さんのリサイタルでの伴奏がとても素晴らしく、とても魅了されたのだが、この日も、全曲において、沙羅さんと望月さんを、ニュアンス豊かにサポートし、素晴らしい支えをされていた。

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そして、プログラム前半の最後は、

プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」より「冷たき手を」~望月哲也さん、「私の名はミミ」~小林沙羅さん、「愛らしい乙女よ」~二重唱と続いた。

この演目が、この日の白眉と言えるし、林さんも「ラ・ボエーム」が大好きと語り、「沙羅さんの歌声は、ミミ役にピッタリだと思う」と絶賛。私も全く同意見。

沙羅さんがミミ役を歌い演じる「ラ・ボエーム」全曲を聴ける公演が企画されることを、強く希望する。

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休憩の後半。第3部~クロストーク・ステージ

「オペラに生きる人たちとの対話」

まず、林さん、浦久さん、小林沙羅さん、望月哲也さんが登場。

第1部での浦久さんによるQ&Aの対象が、小林沙羅さんと望月哲也さんに移り、ホールとリハーサルを含めた歌唱とのコンディション調整の話題や、冬の乾燥時期とノドの保全等の話題など、興味深い会話が展開された。

次に、沙羅さんと望月さんが歌の準備でソデに下がって、河野さんが登場。

歌手の、リハと本番での即興的変化等の違いに対応する阿吽の呼吸的な話題や、林さんが亡き佐藤しのぶさんとの思い出を語り、河野さんは佐藤しのぶさんからも絶大な信頼を得ていたことが紹介された。

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第4部~プレゼント・ステージ

最初に、小林沙羅さんが林さんに贈るプレゼント曲として、カタラーニの「ラ・ワリー」より「さよなら故郷の家よ」。私は初めて聴いたと思うが、とても素晴らしい曲。これからも何度も聴きたい。

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続いて、望月哲也さんが林さんに贈るプレゼント曲として、プッチーニの歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」。

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そして、林真理子さんの「秘蔵の一曲」として、「今年は、明るい年に、という思いから」として、ヴェルディの歌劇「椿姫」より「乾杯の歌」の二重唱。

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アンコールが、レハールの喜歌劇「メリー・ウィドウ」よりワルツ「唇は語らずとも」の二重唱。

いつ聴いても、ジーンと来る素晴らしい曲だ。

なお、この4曲は、ステージに林さんと浦久さんが残ったかたちで歌われた。

今後も、この企画コンサートを聴かせていただきたいと思う。

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プログラム

第1部~トーク・ステージ

「林真理子さんが語る~本とオペラのある人生」

第2部~コンサート・ステージ

「林真理子さんがセレクトする~オペラの名曲たち」

1.プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より

「わたしのお父さん」~小林沙羅さん

2.グノー:歌劇「ロメオとジュリエット」より

   「目覚めよ、きみ」~望月哲也さん

3.グノー:歌劇「ロメオとジュリエット」より

   「私は夢に生きたい」~小林沙羅さん

4.プッチーニ:歌劇「トスカ」より

「星は光りぬ」~望月哲也さん

5.マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より

    間奏曲~河野紘子さんのピアノ独奏

6.プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」より

(1)「冷たき手を」~望月哲也さん

(2)「私の名はミミ」~小林沙羅さん

(3)「愛らしい乙女よ」~二重唱

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 (休憩)

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第3部~クロストーク・ステージ

「オペラに生きる人たちとの対話」

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第4部~プレゼント・ステージ

1.小林沙羅さんさが林さんに贈るプレゼント曲

  カタラーニ:「ラ・ワリー」より「さよなら故郷の家よ」

2.望月哲也さんさが林さんに贈るプレゼント曲

プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」より

「誰も寝てはならぬ」

3.林真理子さんの「秘蔵の一曲」として。

  ヴェルディの歌劇「椿姫」より「乾杯の歌」~二重唱

アンコール

レハールの喜歌劇「メリー・ウィドウ」より

ワルツ~「唇は語らずとも」~二重唱

 

https://www.tcf.or.jp/exhibition/020899/

 

https://www.tcf.or.jp/exhibition/res/2022/11/4/20221104161839.pdf

 

カザルスホール復活への素早い反応に期待

朝日新聞投書欄での応答

https://blog.goo.ne.jp/ryu19518/e/cf5cef3b9fefae678b0a18d943f44bf8

 

「連載いくつかやめます」林真理子氏、日大をどう変えるか 一問一答

https://mainichi.jp/articles/20220701/k00/00m/040/448000c

2023年1月28日 (土)

東京シティ・フィル+小林愛実さんのコンサート

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の第357回定期演奏会を1月28日午後、東京オペラシティで拝聴した。

指揮は、常任指揮者の高関健さん。
話題再燃の小林愛実さんが出演するとあってか、3階まで満席に近い入りだった。
多くのコンサートが重なるこの日、私がこの公演を聴こうと思った理由は、第一には小林愛実さんだった。ただし、例の話題は関係ない。早い段階でチケットは購入済だった。
もう1つは、以前このオケを聴かせていただいたとき、とても素晴らしいオケと感心し、そのオケが、「英雄の生涯」を演奏する、ということが第2の、というか、愛実さんと同じくらい関心を抱いたことによる。
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1曲目は、ベートーヴェンの「献堂式」序曲Op.124
リズムが単純な場面が多いが、中間部から後半、エンディングという展開と構成感は、「さすが、ベートーヴェン」と感じ入った曲と演奏。
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2曲目は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.37
愛実さんは、赤く長いコート風の上と赤いズボン、胸元は黒、という衣装で登場。ちょっと「ヅカガール」ぽくって格好良かった。
ピアノ協奏曲第3番は、技術的には難しくなく、国内の中学生でも弾ける人は少なからずいるだろう。
逆に言えば、そうした曲で、聴衆を納得させなければならいという点では、シビアな曲かもしれない。
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第1楽章
ハ短調のキリリとした格調だけでなく、愛実さん特有のまろやかな音と、ソフトなタッチ、フレージングが随所にあり、特に違う曲想に移行する部分などに、それが顕著だった。
カデンツァがとても印象的で、ショパン的な流動感に加えて、アグレッシブ感ある追い込みあり、聴き応え十分だった。
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第2楽章
愛実さんの個性からして、演奏前から期待できたし、実際、素敵な演奏だった。
ただし、深遠でシリアスなアプローチというのではなく、自然体による抒情性と詩的な歌が続き、日本庭園的な美観を想像したりもした。
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第3楽章
当然、アタッカで入る。愛実さんは特定の音~例えば「As」~を強調したりすることはほとんどなく、全体としての流動感、躍動感、チャーミングさを基調とする演奏。音量のある人ではないが、ソフト感、キリリ感、流動感と抒情性など、彼女の魅力が随所に表れた好演だった。
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万雷の長い拍手と、4回だかのカーテンコールだったが~当然、アンコールを期待しての拍手でもあったが~なぜか、愛実さんはアンコールを弾かなかった。体調ということは関係ないだろう。
「ベートーヴェンが2曲続いた後で、ショパンというのも」と思ったのかもしれないが、聴衆が少しガッカリしたのは事実だろう。
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昨年は、愛実さんを協奏曲で3曲、リサイタルで1回と、4つのライヴを聴かせていただいた。
今年は出産を控えているから、ライヴの回数は減るかもしれないが、今後も楽しみなピアニストであることは言うまでもない。5月には、ラヴェルのピアノ協奏曲を聴かせていただく予定だが、安定期だろうから、キャンセルは無いと想像している。
日本人のオペラ歌手、ピアニスト、ヴァイオリニスト、チェリスト等の器楽奏者、プロ合唱団員等を問わず、ママさん音楽家は、当たり前の様に沢山いらっしゃる時代だし、外国では、古くは、クララ・シューマンを始め、現代においても、アルゲリッチを含めて、当然、大勢いる時代だ。
個人的には、ご主人にも増して、愛実さんのピアニズムが好きなので、今後の活躍を益々期待したい。
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休憩後の後半は、R・シュトラウスの「英雄の生涯」
期待に違わず、いや、期待以上の素晴らしい演奏だった。
戸澤哲夫さんのヴァイオリンソロが完璧なのは言うまでもなく、エレガント感があり、とても良かった。コーダでのソロでは、もう少し音量があれば、更に良かった。
金管の全てのパート、パーカッションの全てのパートが充実。「英雄の戦場」での場面も迫力十分。聴き応え十分の連続だった。
首席フルートは竹山愛さん。先月、水戸で、「東京六人組」の上野由恵さんの代演として、至近距離で拝聴したばかりだから、親近感が増した。
高関さんも、随所で微妙なテンポ変化を付けながら、ストレートな演奏にして、ふくよかさと余裕のある演奏に導いていた。
万雷の長い拍手が続いたのは言うまでもない。
優秀なオケ。今後も聴かせていただくのが楽しみだ。

 

2023年1月23日 (月)

フライハイト交響楽団 第50回記念演奏会   マーラー交響曲第9番

フライハイト交響楽団の第50回記念演奏会を1月22日午後、すみだトリフォニーホールで拝聴した。
ただし、プログラム前半の、バッハ(シェーンベルク編曲)の「前奏曲とフーガ 変ホ長調BWV552『聖アン』」は、所用の関係で間に合わず、後半のマーラー交響曲第9番のみの拝聴。指揮は、これまでこのオケを何度も指揮している森口真司さん。
初めて聴かせていただいたフライハイト交響楽団は、1996年4月に結成。1つの大学OBとか地域的な要素を基盤とするオケではなく、かつて存在した「ジュネス」でお馴染みのJMJ(青少年日本音楽連合)で知り合った人たちにより結成されたとのこと。
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「ジュネス」は、各一般大学のオケに所属する人の中から、オーディションで選抜された学生により毎年、臨時に結成され、年1回、「青少年音楽祭」として「春の祭典」を含めて色々な曲を演奏し、NHKでも放送されていた。よって、スタートの時点で、ハイレベルな奏者たちが集まった団体と言える。なお、「ジュネス」は、2001年7月8日の「第74回 青少年音楽祭」を最後に、活動を終えた。
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このオケの第1回の演奏会は、結成年の1996年7月で、この日と同じ、マーラーの交響曲第9番。その後、これまでに、マーラーは、1番、2番、3番、5番、6番、7番を演奏しており、1、6、7番のときの指揮も森口さん。
他、演奏履歴を見ると、R・シュトラウスの「英雄の生涯」や、バルトークの管弦楽のための協奏曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲などがあるから、自ずとハイレベルなアマオケだと分かる。
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この日の演奏も、確かに優れた立派なアンサンブルによる演奏だった。ただ、「上手かったのだが」と、私はどうしても「だが」を付けたくなる演奏でもあった。
象徴的な部分を言うと、第4楽章の、というより、全曲の最後、終わりから2小節目のヴィオラによる2分音符での3連符の表情付けが、素っ気なく弾かれて終わったこと。確かに「PPP」だが、各2分音符にはアクセントがある。ここは、たっぷりと、テヌート+アクセントのように余韻をもって演奏する例が多いし、私はそうすべきだと思う。
この、良く言えば「自然体」だが、悪く言うと「表情付けの薄さ」が、各楽章全体に共通して感じたことだ。
敢えて「演出」をしない演奏としたのかもしれないが、マーラーの様々な思いが内包された、最晩年の偉大な傑作なのだから、マーラーの「強い思い入れ」に深く感じ入り、もっと「演出」して然るべき曲だと私は思う。
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もう少し具体的なイメージで言うと、強弱の振り幅(ダイナミクスレンジ)が、「FFF~PPP」ではなく、「F~mP」という印象を受けたし、細かな緩急の変化も、もっとあったほうが良かった。
少し厳しい表現をすると、全体的に、「堅実だが、リスクを避けた安全運転過ぎる演奏」、「冒険のない、優等生的演奏」。もっとスリリングな、リスクのギリギリを攻めたマーラーを私は聴きたい。
係る点から、「とても巧い演奏だったのだが」と、「だが」を付けたくなる演奏だった。
以上の点は、当然、指揮者の個性に関わる点なので、オケ自体に関しては、とても優秀な、立派なオケであり、演奏であったことは明記しておきたい。
臨時編成のオケでなく、常設の単体のアマオケで、このレベルで、この曲を演奏できる団は、決して多くはないだろう。立派なオケだと思う。

 

2023年1月21日 (土)

井上道義さんの自作自演~ミュージカルオペラ『A Way from Surrender〜降福からの道〜』op.4

亡き両親へのオマージュと、生い立ちのカミングアウトの作品

井上道義さんの作曲4作目、『A Way from Surrender〜降福からの道〜』を1月21日午後、すみだトリフォニーホールで鑑賞した。管弦楽は、新日本フィルハーモニー交響楽団。

この日は「オペラ形式」としての公演で、指揮だけでなく、脚本、演出、振付も井上さんによるもの。なお、23日には、サントリーホールで、演奏会形式での公演も予定されている。

台本に着手してから、約15年を経過したというこの作品の内容は、太平洋戦争を挟んだ激動の時代を生き抜いた井上さんの両親の人生を描き、自身のルーツを通して、愛、平和、国籍を含めたアイデンティティとは何かを問う作品。全3幕で、合計105分ほど。

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作曲を思い立った事情等を知らないで聴いた私は、当初、「感想が難しい作品。小林沙羅さんによる、アクロバティックなポーズ付きのクラシックバレエを、久しぶりに見ることができただけでも、良しとしよう」と思った。音楽自体が、様々な要素が混在し過ぎていて、統一感が希薄だったから、ということが一番の理由。

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しかし、道義さんが作曲を思い立った事情を知ってからは、感想はだいぶ変わった。

この作品は、井上道義さんの出生の秘密をカミングアウトした内容だったのだ。

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父と思い込んでいた正義さんが亡くなった数年後、道義さん45歳のとき、母、迪子(みちこ)さんから真実を聞いた。それはこうだ。

フィリピンのジャングルで死線をさまよった後、正義さんと迪子さんは、戦後、日本に戻り、迪子さんは英語力を買われて、進駐軍の基地で働く。そして、1946年12月23日に道義さんが生まれた。しかし、実は、道義さんは、迪子さんと進駐軍の基地にいた米軍中尉との間に出来た子供だったのだ。生まれた道義さんを見て、正義さんは「自分の子供ではない」と言い、3日間、家に帰らなかったという。

母からその真実を聞いた道義さんは、「もっと早くに知りたかった」とショックを受けるも、事実を受け止め、こう考えるようになった。2015年のインタビューでも、はっきりとこう述べている。

「育ての父を主題としたオペラを作曲したい」

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この作品の主役の3人のうち、

テノールの工藤和真さんが歌い演じる絵描きの「タロー」は、道義さんの分身であり、バリトンの大西宇宙(たかおき)さんが歌い演じる「正義」は(育ての)父親と同じ名前だし、ソプラノの小林沙羅さんが歌い演じる「みちこ」は、母親と同じ名前だ。両親の名を、そのまま使っているのだ。

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ミュージカルとも、オペラともせず、「ミュージカルオペラ」とした理由の一つに関して、道義さんはこう述べている。

「僕の作品は、様々な引用の嵐だが、それは生きてきた環境の中に存在していたものだから、全く恥ずかしくない」。

実際、第1幕は、ジャングルを想像させる不思議な雰囲気で始まり、休憩後の第2幕も含めて、20以上の打楽器系を中心とした特殊楽器を使用しながら、ラテン音楽、日本の童謡、昭和初期の流行歌、チンドン屋、阿波踊りのリズム、「ゴジラ」で使用されたテーマ等々、多種、多岐にわたる素材が引用され、混在する。繋がり、集約されたというよりも、混雑として音楽の連続と言える。

この「ごっちゃ混ぜ感」を、会場で聴いていた満員の聴衆が、面白いと受け止めて楽しめたか、困惑とともに否定的に受け止めたかは、各人それぞれだと想像する。

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また、第1幕と第3幕は、1970年代の日本、とのことだが、舞台設定上は、アトリエがメインのため、あまり「日本」を感じさせなかった。

第1幕では、タロー役の工藤和真さんも良かったが、特に、モデルのマミ役の宮地江奈さんと、エミ役の鳥谷尚子が素敵だった。

宮地さんの高音の魅力。この日、初めて聴かせていただいたメゾ・ソプラノの鳥谷尚子(とや しょうこ)さんの低音の魅力。2人の声質の違いを含めて、お2人の魅力を十分に堪能させていただいた。

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第2幕は、いきなり1945年のフィリピンのマニラに飛ぶが、両親の戦時下での物語が、第1幕と第3幕の間に入れられた形だ。

この幕では、まず、フィリピン娘ピナ役、コロンえりかさん の歌唱が素晴らしかった。

そして、戦争が終結していない状況での、米軍からの艦砲射撃があり、悲惨な状況の中から、それに続くシーンとして、米軍救護班役のユリィ・セレゼンさんと、みちこ役の小林沙羅さんとのダンスが見ものだった。

沙羅さんの「飛ぶ鳥ポーズ」というアクロバティックな要素を取り入れたバレエ。

クラシックバレエ経験者ならではの柔軟さ。失敗が許されない中で、見事に成功させた。

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音楽として一番「まとまり」を感じたのは第3幕。

エンディングに向かう中で、国籍、愛、許すこと等々のテーマに関しながらも、みちこ、正義、タローが、偽らざるそれぞれの心情を吐露し、最後は、全員での清らかな合唱で終わる展開。

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このように、題材は、道義さんの極めて個人的な物語をベースにしている。

そこから、両親、戦争、平和、国籍というアイデンティティ等々、普遍的な、時代を超えた根源的なテーマに置き換えた作品と言えるが、何よりも、育ててくれた両親、とりわけ、自身の子ではないことを知りながらも、道義さんを大事に育ててくれた正義さんに対する、心揺さぶらされるオマージュと言うべき作品だと思う。

単に、音楽がどうとかを超えて、色々な事を考えさせられる作品の公演だった。

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キャスト

タロー(テノール):工藤和真

正義(バリトン):大西宇宙

みちこ(リリック・ソプラノ):小林沙羅

マミ(ソプラノ):宮地江奈

エミ(メゾ・ソプラノ):鳥谷尚子

ピナ(ソプラノ):コロンえりか

茂木鈴太(少年タロー~タローの分身)

大山大輔(朗読)

(アンサンブル)

ソプラノ:中川郁文、太田小百合

メゾ・ソプラノ:蛭牟田実里、芦田琴

テノール:斎木智弥、渡辺正親

バリトン:今井学、高橋宏典、山田大智

バス:バッソプロフォンド:仲田尋一

バッソプロフォンド:石塚勇

米軍救護班(ダンス):ユリィ・セレゼン

洗足学園メモリアル合唱団

2023年1月19日 (木)

高野百合絵さん&黒田祐貴さんデュオコンサート

若手で大活躍中のソプラノ、高野百合絵さんと、同じく活躍目覚ましいバリトンの黒田祐貴さんによるデュオコンサートを1月19日夜、Hakuju Hallで拝聴した。2人はこれまでも、オペラも含めて、度々共演されている。なお、コンサートのタイトルは「Opus One :Live @Hakuju Hall」。

「Opus One :Live @Hakuju Hall」とは、日本コロムビア(株)が2019年にスタートした若手アーティスト限定の新レーベル「Opus One」と、Hakuju Hallによるコラボレーションのコンサートで、そのvol.6。

よって、当然、主催が日本コロムビア(株)で、共催がHakuju Hall。

ピアノは、石野真穂さんと、1994年生まれの追川礼章(あやとし)さん。

ソロ曲においては、高野さんの曲を石野さんが、黒田さんの曲を追川さんが伴奏された。

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全体のプログラムは最下段に記載のとおりだが、特に印象的な歌唱や曲、事柄等を、曲演奏順に少し記載したい。

また、演奏会終了後に、コロナ禍以降、ほとんどで中止されているCDサイン会が開催されたので、そのことも最後に触れたい。

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1曲目は、高野さんによる、平井康三郎の「うぬぼれ鏡」。

先日も、砂川涼子さんがリサイタルのアンコールで歌われたように、ソプラノ歌手がしばしば歌われる、ユーモラスな歌。

この曲に限らず、あるいは、この曲に象徴されていたように、この日の高野さんの歌声は、伸びやかさ、明朗な美しさと声量の豊かさが際立っており、以降も絶好調で、素晴らしい歌唱の連続だった。

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2曲目は、黒田さんによる、大中恩の「ところがトッコちゃん」。

ユーモラス歌曲の連続による公演開始、というところ。

黒田さんの声は、バリトンと言っても、重厚な声ではなく、明るく格調高い声。後述するが、「ウエスト・サイド・ストーリー」では、テノールを思わせる高音での美しい歌声が印象的だったくらいだ。

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3曲目は、高野さんによる、クルト・ヴァイルの「ユーカリ」。

哀愁ある曲で、後半の盛り上がりも魅力的だった。

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4曲目として、来月から1年間、ドイツに行かれるという黒田さんにより、マーラーの「若き日の歌」第3巻から、(1)自意識、(2)夏に交代、(3)別離。

(1)「自意識」は2人の登場人物の声色を巧みに描き分けていた。

(2)「夏に交代」は、マーラーの交響曲第3番の第3楽章の冒頭の旋律そのまま。マーラーにおける歌曲と交響曲との密接な関連性を改めて認識できた。

(3)「別離」も曲想に則した表現と技術が秀逸だった。

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続けて、黒田さんにより、コルンゴルトの「6つの素朴な歌」より「セレナード」。

印象的な曲。

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次も、高野さんにより、同じくコルンゴルトの「四つのシェイクスピアの歌」より、第3曲「吹けよ 吹け 冬の風」と、第4曲「小鳥たちが歌う時に」。

2曲とも魅力的で、「小鳥たちが歌う時に」はユーモラスなエンディグだった。

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前半最後は、歌手もピアノも総出により、バーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」より「プロローグ」~石野さんと追川さんの連弾、「アイ・フィール・プリティ」~高野さん+連弾、「チャチャ」~石野さんと追川さんの連弾、「トゥナイト」~高野さん&黒田さん+連弾。

2人のピアニストの連弾も素敵だったし、高野さんによる「アイ・フィール・プリティ」も実に魅力的。

そして、「トゥナイト」は正に前半の白眉と言え、盛大な拍手が送られた。

先述のとおり、ここでの黒田さんの声は、ほとんどテノールに近いと言えるような明瞭な高音の美声を披露しており、高野さんとともに、素晴らしいデュオを聴かせてくれた。

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休憩後は、バーンスタインの「アリアと舟歌」。

歌い手2人と4手ピアノのために書かれたというユニークな珍しい曲で、演奏前のMCで、黒田さんも触れていたが、「たぶん」を前提に、2021年に2人が歌われたのが「日本初演」で、その後も(多分)誰も歌われていないようなので、この日が、国内で2回目の演奏とのこと。

1曲とはいえ、30分以上はかかったと思える、2人と連弾による、「旋律付きの長大な対話劇」という内容。

結婚後の倦怠期を想像できる内容で、2人のセリフ(歌詞)も相当シュールというか、Q&Aになっていない(敢えてそうしていない)チグハグさも伴うやりとりが主で、この点からも、既に2人の心の状態が連想できる内容。

やりとりが、字幕スーパーにされていたので、私はタイトルだけを以下のとおり、メモした。

(1)プレリュード、(2)愛の二重唱、(3)スメリーちゃん、(4)俺の生涯の恋人、(5)あいさつ、(6)私の結婚式で、(7)ウェッブ夫妻のおやすみ、(8)後奏曲。

(4)「俺の生涯の恋人」は黒田さんのソロ。(5)「あいさつ」は高野さんのソロ。(7)「ウェッブ夫妻のおやすみ」の中では2回、ピアノの2人が「子供たちのスキャット」として、おしゃべりするような場面もあった。(8)後奏曲は、高野さんも黒田さんも、「ム~」という、歌詞の無い、ハミングだけによる内容。

というように、相当、シュールな作品。音楽は、バーンスタイン特有のロマンティックな曲想も含みつつ、基本的には、前衛的な印象を受ける音と音楽だった。

今後、このデュオ作品を、他の歌手もプログラムに乗せていくと面白いのに、と思った。

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アンコールとして、

最初に、黒田さんによる、ロッシーニの歌劇「セヴィリアの理髪師」より「私は町の何でも屋」。

黒田さんの得意中の得意な曲なので、表情、演技も含めて実に素晴らしかった。

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次いで、高野さんにより、レハールの喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」。

高野さん特有の妖艶さと、メゾ的な情感深い歌声が、とても魅力的だった。

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最後は、デュオで、武満徹さんの「小さな空」。

今や、合唱だけでなく、むしろ、それ以上に、多くのオペラ歌手~男声、女声を問わず~により、アンコール等で歌われるようになった曲だが、デュオで歌われるのは珍しいので、あらためて新鮮さを感じた。

素晴らしいデュオコンサートだった。

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久しぶりのサイン会

なお、終演後、ロビーでは2人が登場されて、それぞれのCDのサイン会が開催された。

高野百合絵さんとは、コロナ禍以降は、FBで度々やりとりをさせていただいているが、直接お会いし、お話できたのは、2019年10月以来かと思う。

昨年から、いわゆるミニコンサートやレクチャーコンサートの類では、終演後、田部京子さんや宮谷理香さんはCDサイン会を再開されたが、もう少し大きい規模の、通常のコンサートでは、お2人も含めて、未だほとんどの演奏家はサイン会を中止したままだ。コロナ禍以前は、ユジャ・ワンやヒラリー・ハーンなど、サイン会などしなくても、世界中どこの大ホールでも満席にできる奏者も含めて、当たり前のように行われていたのに。

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これは、アーティストが嫌がっているのではむろんなく、主にホールが警戒心を依然として解かず、あるいは躊躇しているためだ。

しかし、ロビーでの「密を避けるため」と言ったって、今では、電車内やロビーを含めた駅、スーパー、百貨店等のが、よほど「密」状況であることを考えれば、実に奇妙な事が継続されていると言える。

CDという「モノ」の受け渡し(接触)のリスクと言ったって、コンビニやスーパー、あるいは、会社等で日常茶飯的に行われていることだ。

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ホール会場内での「ブラヴォー禁止」という滑稽なことも含めて、サイン会も、いい加減、そろそろ解禁すべきだろうし、今年はようやく、そうなっていくような気がする。そのことも強く感じさせてくれたコンサートでもあった。これを決断した日本コロムビアと許可したホールに拍手を送りたい。

ただし、Hakujuは、未だ、終演後の演奏者との面会や、演奏者がロビーに出ての、来場者との歓談は中止したままなので、今回の措置は、まだ例外的な、あるいは、試み的な、特別な開催だったのかもしれない。

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プログラム

1.平井康三郎(詞:小黒恵子):「うぬぼれ鏡」~高野さん

2.大中恩(詞:阪田寛夫):「ところがトッコちゃん」~黒田さん

3.K・ヴァイル:「ユーカリ」~高野さん

4.マーラー:「若き日の歌」第3巻 より

(1)自意識 (2)夏に交代 (3)別離~黒田さん

5.コルンゴルト:「6つの素朴な歌」より

「セレナード」op.9-3~黒田さん

6.コルンゴルト:「四つのシェイクスピアの歌」op.31より

(1)第3曲「吹けよ 吹け 冬の風」

(2)第4曲「小鳥たちが歌う時に」~2曲とも高野さん

7.バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」より

(1)「プロローグ」~石野さんと追川さんの連弾

(2)「アイ・フィール・プリティ」~高野さん+連弾

(3)「チャチャ」~石野さんと追川さんの連弾

(4)「トゥナイト」~高野さん&黒田さん+連弾

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 (休憩)

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8.バーンスタイン:「アリアと舟歌」~高野さん&黒田さん+連弾

アンコール

1.ロッシーニ:歌劇「セヴィリアの理髪師」より「私は町の何でも屋」~黒田さん

2.レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より「熱き口づけ」~高野さん

3.武満徹:「小さな空」~高野さん&黒田さん

 

https://hakujuhall.jp/concerts/detail/3300

2023年1月14日 (土)

オーケストラ・ルゼル 第27回演奏会

オーケストラ・ルゼルの第27回演奏会を1月14日午後、ティアラこうとうで拝聴した。

初めて聴かせたいただいたオケだが、出向いた目的は1つ。シベリウスの交響曲第6番がプログラムにあったからだ。この素晴らしい曲をライヴで聴くのは初めて。

指揮は、スティーブン・孝之・シャレットさん。

オーケストラ・ルゼルは、2003年、電気通信大学管弦楽団等のOB・OGを中心に結成されたが、現在は広く門戸を開いており、出身大学等は様々とのこと。

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シベリウスの交響曲第6番

どのパートも安定感があり、素敵なアンサンブル。申し分ない演奏で、この素晴らしい曲を堪能させていただいた。

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休憩後の後半は、

ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」

第4楽章が特に良かったが、第2楽章が、もっと高い完成度、精度を求めたいと感じた。

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コンサートマスターの衣装について

この演奏会で、演奏以外の点で、とても驚き、アンケートにクレームを書かせていただいたことがあった。

後半で、コンマスが2人体制と判ったのだが、1曲目では女性、コンサートミストレスが登場し、このときは、コンマスは、この人だけだと思った。

他の団員は、男女を問わず黒色で、女性は肌の露出などの無い衣装だったにもかかわらず、コンミスは。黒には近いながら、深緑のような色であるだけでなく、両肩と背中の半分の肌を露出したワンピースの「ドレス」だったのだ。これではまるで、ソリストの衣装なので、仰天した。こんなオケは、プロアマ問わず。見たことが無い。

アンケートには、「この人だけでなく、団としての品位が疑われるので、止めたほうが良いです」と書いた。

このシベリウスの演奏のとき、ファースト・ヴァイオリンの第5プルトの表で、動作がとても大きな~大き過ぎるくらいの、カッコイイと言えば格好良い~男性奏者がいた。「彼がコンマスなら良いのに」と内心思っていた。

そして、後半にコンマスとして登場したのが、その男性だった。

これ自体は納得なのだが、他の男性団員は、黒と言っても礼服ではなく、黒シャツで統一していたのに、コンマスだけは、白ワイシャツに黒礼服という、いわば、普通のコンサート衣装だった。ただし、黒色の蝶ネクタイではなく、白いネクタイだったと思う。

このことから、「2人のコンマスが、他の団員と違う衣装で演奏する」という決め事をしている~今回だけの事なのか、これまでも同じく慣例としているのかは知らないが~ことが分かった。

私はアンケートに、「そんな必要がありますか?他の団員と同じで良いですよね?」と書かせていただいた次第。

https://www.lezele.org/

2023年1月 8日 (日)

豊島区管弦楽団~武満徹「系図」

豊島区管弦楽団によるニューイヤーコンサートを1月8日午後、豊島区立芸術文化劇場<東京建物 Brillia HALL>で拝聴した。指揮は常任指揮者の和田一樹さん。

このオケを聴くのは、いつ以来か思い出せないくらい久しぶり。目的はただ一つ。プログラムに、武満徹の「系図-若い人たちのための音楽詩-」~「Family Tree」があったから。

アマオケがこの曲を演奏するのは珍しい。私が所属するオケでも、岩城宏之さんと演奏する計画があったが、諸事情で延期になる中、岩城さんが逝去されてしまったのは、本当に残念だった。

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オケについて、簡単に触れておくと、1975年に、豊島区教育委員会の主幹により、東京都23区では初の区設置の管弦楽団として創立されたアマオケ。その関係で、定演の他、区が主催するイベント~成人式等~で、賛助演奏されたりしている。

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プログラムは以下のとおりだが、いわゆる「メイン(曲)」と呼ばれがちの性質の曲~この日は、ベートーヴェンの交響曲第7番~が、1曲目に演奏されたのは珍しいこと。

1.ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92

 (休憩)

2.武満徹:「系図-若い人たちのための音楽詩-」

3.ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

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オケの配置は、流行りの対抗配置だが、少し違うのは、7人のコントラバスが、金管楽器群の後ろ、すなわち、最後列に横並びに置かれたこと。ウィーン・フィルがムジークフェラインで演奏するときに、しばしばとる配置だが、奥行きが狭いムジークフェラインならともかく、特別には狭くないステージ~私はこの日、初めて行ったホールで、建物自体、2019年11月にオープンしたばかり~での、コントラバスのこの配置には賛成しない。

以前も、こうした配置で、どこかのオケが演奏した際に書いたことがあったが、金管群の後ろに置くと、コントラバスの役割としての、正に土台たる効果が薄れてしまうからだ。この日もそれは強く感じた。

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1.ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調

第1楽章の序奏から速めのテンポで軽やかな足取り。アレグロに入っても同じテイスト。ベートーヴェンというより、モーツァルトの曲に聞こえた。

間を置かずアタッカで第2楽章に入ったが、同じく速めのテンポなだけでなく、ここぞという「溜め」が無い、「ドラマ性」の無い演奏。これでは、この楽章の良さが伝わってこない。

第3楽署は、安定感があり、なかなか良く、トリオでの木管の強弱にもユニークな工夫があった。

第4楽章も、第1楽章と同じことが言え、悪くはないが、特別、感動もしなかった。

(休憩)

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2.武満徹「系図」~「Family Tree」。

この曲を聴くたびに、いつも1曲目から最後の6曲目に至る間、私は、なぜか感涙が続く。理由は私にも説明できないのだが、とのかく、これは噓偽りの無い事実なのだ。

アコーディオンは、大田智美さんで、とても良かった。

語りは、谷川俊太郎さんの6つの詩に合わせて、東京都立千早高等学校の演劇部から6人の女生徒が、それぞれ1つずつ担当する、という面白いカタチを採った。プログラムには、6名の個人名も記載されているが、女子高生ゆえ、ここに書くのは控えたい。

「アマオケがこの曲を演奏するのは珍しい」と先述したが、その大きな理由の一つに、弦楽器にハーモニクス(フラジオレット)がとても多いことが挙げられる。武満の曲の多くに、ハーモニクスは多用されているが、この曲では、冒頭から最後まで、その特色が顕著だ。

調性音楽への回帰の典型たる美しく親しみ易いメロディと、美しく透明でソフトな質感のオーケストレーションゆえ、一見ならぬ、一聴だと、演奏し易い曲に想像してしまうが、実際は逆で、極めて繊細にして高い技量が求められる曲だ。プロはともかく、アマオケでは大変な曲で、実際、オケのデキは100点とは、とても言えない内容だったが、でも、鑑賞には十分耐え得る、健闘したと言える演奏だった。

6人のナレーターも、それぞれ、とても良かった。もちろん、6名とも、テキストを見ることなく、暗記しての語り。

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3.ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

オケのデキとしては、この曲が一番良かった。特に「子守唄」でのファゴット奏者(女性)のソロが魅力的だった。

アンコールとして、もう一度「終曲」(フィナーレ)が演奏されて、コンサートが終わった。

2023年1月 7日 (土)

東京ユヴェントス・フィルハーモニー      ショスタコーヴィチ「レニングラード」他にもユニークな前半のプログラムに関心と感心

東京ユヴェントス・フィルハーモニーの第23回定期演奏会を1月7日夜、ミューザ川崎シンフォニーホールで拝聴した。今年、創立15周年記念を迎える、そのシリーズ第1回目としての演奏会でもある。

指揮は、創設者で音楽監督の坂入健司郎さん。

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ショスタコーヴィチの交響曲第7番 ハ長調「レニングラード」が傑作か否かは別として、凄惨、凄絶を極めた独ソ戦、レニングラード攻防戦の最中に作曲され、初演されたこの曲を、この時期に、若い指揮者とオーケストラによるパワフルな演奏を聴く意義と感動は大きい。

今のロシアは、このときのナチスによる地獄の様な悲しい体験を忘れ、ナチスと立場を入れ替えて他国に侵略し、多くのウクライナ人を殺戮し、自国の兵士も多く死んでいるというのに、為政者だけでなく、ロシア国民の多くがそれに異を唱えない、少なくとも、大きな批判的運動として表れてこないのはどうしたことだろう。それはともかく、この曲と演奏については、後ほどまた触れるとして、前半のプログラムがユニークだったので、その点から紹介したい。

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その前に、オケの紹介。

東京ユヴェントス・フィルハーモニーは、2008年「慶應義塾ユースオー ケストラ」という名称で、慶應義塾創立150年を記念する特別演奏会のために慶應義塾の高校生・大学生を中心として結成されたオーケストラで、2014年からは、より広く門戸をひろげて幅広い年齢層や出身のメンバーが加わり、団体名称を「東京ユヴェントス・フィルハーモニー」に変更。

2018年9月には創立10周年を記念して、マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を演奏したが、私はその折、合唱の一員として参加させていただいた。

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その前後にも、ユヴェントスは数回聴かせていただいているので、坂入さんがどういう指揮をされるのかはよく知っている。なお、坂入さんも慶應義塾大学経済学部卒業生で、音大出身者ではない。

パワフルな坂入さんと同化しているとも言えるオケの若々しさとパワフル感は魅力的で、その技術(力量)は、もしかしたら既に、先輩オケのワグネルソサイエティOBオーケストラのお株を奪っているかもしれないし、アマオケ最高峰の新交響楽団の地位さえ奪っているかもしれない。少なくとも、荒々しさはあるが、それも含めて、若さ溢れる魅力という点では、既に国内屈指のアマオケと言えると思う。

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なお、この日は、2021年に京都大学のOB・OGが中心となって結成された「オーケストラ・リベルタ」も加わっての演奏で、京大と慶大の(たぶん学生)オケは、コロナ禍前は、4年に一度、合同演奏会を開催していたというから、その縁での賛助出演、コラボ演奏と言えるのだろう。

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前置きが長くなったが、今回の公演に関して、坂入さんは当初、「ソヴィエト音楽の諸相」をテーマとして選曲を開始されたそうだが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった状況を踏まえて、再検討されたようだ。

前半にその特色が出ており、4人の作曲家の生まれが、ポーランド、モンゴル、アゼルバイジャン、キーウ。演奏曲も、各曲短いながらユニーク。プログラムを列記すると、

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1.アンジェイ・パヌフニク:『平和への行列』

2.ゾンドイン・ハンガル:交響詩《海燕》

~ショスタコーヴィチの思い出に捧げる詩~(日本初演)

3.オグタイ・ズルファガロフ:ホリデー序曲(日本初演)

4.アレクサンドル・モソロフ:交響的エピソード『鉄工場』

 (休憩)

5.ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 ハ長調「レニングラード」

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1.アンジェイ・パヌフニク:『平和への行列』

アンジェイ・パヌフニク(1914~1991)は、ポーランドの作曲家。野外コンサートのために作曲され、1983年7月に作曲者自身の指揮で初演。7分ほどの、パーカス群が活躍する7分ほどの曲で、パヌフニクは、この作品に、献辞としてこう記している。

「平和を愛するあらゆる人種、宗教、政治的、哲学的信条を持つ人々へ。あらゆる政治的、哲学的信条の平和を愛する人々へ」。

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2.ゾンドイン・ハンガル:交響詩《海燕》

~ショスタコーヴィチの思い出に捧げる詩~(日本初演)

ゾンドイン・ハンガル(1948~1996)は、モンゴルの作曲家で、この曲は1979年の作。尊敬し、1975年に他界したショスタコーヴィチに捧げられている。5分ほどの野性的な曲で、私は伊福部昭さんを連想した。

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3.オグタイ・ズルファガロフ:ホリデー序曲(日本初演)

オグタイ・ズルファガロフ(1929~2016)は、アゼルバイジャンの作曲家の作品で、1962年の作品。

トランペットのファンファーレを含み、リズミックな5分ほどの曲。

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4.アレクサンドル・モソロフ:交響的エピソード『鉄工場』

アレクサンドル・モソロフ(1900~1973)キーウ生まれの作曲家。この曲は1926年にモスクワで初演。ホルン群の咆哮を含め、いわゆるロシア・アヴァンギャルドの賑やかな3分ほどの曲。

なお、モソロフは、1937年、「反ソヴィエトのプロパガンダ」を理由に逮捕され、白海運河建設現場で強制労働させられた後、8年後に生還できたが、不遇のまま生涯を終えた。

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このように、前半は、ロシア周辺等、旧ソヴィエト連邦に何らかの関りを持つ作曲家の、それも2つの日本初演を含めた、極めて意欲的でユニークなプログラムで、坂入氏の、このコンサートに託す思いの強さ、深さを感じ入った次第。

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休憩後の後半は、

5.ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 ハ長調「レニングラード」

1941年6月に始まった「独ソ戦」。その中でも、壮絶、凄惨、凄絶を極めたとされる900日に及ぶ「レニングラード攻防戦」の最中の1941年7月19に作曲開始し。12月27日に完成。

長大、壮大な曲。有名なボレロ的曲想等があるが、ショスタコーヴィチの交響曲の中では、特別に傑作というわけではないかもしれない。

それでも、長大な第3楽章は、美しさも伴う一つの「レクイエム」とも言えるだろうし、この作品が誕生した時代を鑑みても、特別に特異な、ある種、エポックメーキング的な作品であることは間違いないだろう。

演奏も迫力満点の、美しく見事な演奏で、とりわけ、弦楽器群の完成度が抜群だった。

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これだけの凄まじいプログラムだったのに、何とアンコールとして、ショスタコーヴィッチのバレエ組曲「ボルト」より「荷馬車引きの踊り」が演奏され、この素晴らしい演奏会の幕が閉じられた。

2023年1月 1日 (日)

年賀状を拝読する楽しさ

後日記載します。

大晦日と元旦のテレビ番組から

後日記載します。

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