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2022年12月29日 (木)

鐵 百合奈さんによる研究発表コンサート

鐵 百合奈さんによる、「19世紀におけるピアノ協奏曲の少人数演奏形態の再現研究」、と題されたコンサートを12月29日夜、渋谷美竹サロンで拝聴した。

活躍中の若手ピアニスト、鐵 百合奈さんは、桐朋学園の大学院(富山県)の専任講師も務め、教授の田部京子さんからの信任も厚く、田部さんのアシスタントも務めているが、鐵さんの大きな特色というか、個性の一つが、研究者としても知られていることだ。

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東京藝術大学の博士後期課程修了論文は、「演奏解釈の流行と盛衰、繰り返される『読み直し』:18世紀から現在に至るベートーヴェン受容の変遷を踏まえて」、というタイトルによる論文で博士号を取得。

その後、2017年には、論文「『ソナタ形式』からの解放」で、第4回柴田南雄音楽評論賞(本賞)を受賞され、なんと、その翌年も、「演奏の復権:『分析』から音楽を取り戻す」で、第5回同本賞を連続受賞されている。

この日は、私立大学共済事業団の助成による「研究発表」として、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と第4番を、室内楽との共演として演奏された。

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1.ピアノ協奏曲第3番(Vinzenz Lachner編)

室内楽のメンバーは、いずれも古楽オケを中心に活動されている若手奏者で、第1ヴァイオリンが丸山 韶(しょう)さん、第2ヴァイオリンが廣海史帆さん、ヴィオラは佐々木梨花さん、チェロが島根朋史さん、コントラバスは諸岡典経さん。

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演奏に先立ち、第3番の完成から3年後の初演の1803年4月や、第4番が1806年に完成され、1807年の非公開初演、1808年の公開初演されたころ、弦楽器の本体や、弓も大きく変化しつつある時代だったということで、島根さんを中心に、弓を含めた楽器の形態の変遷や、今回使用する弓の特徴に関する解説がなされた。

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演奏に際しても、第1ヴァイオリンだけは、協奏曲という性質上、現代のスチール弦だが、他の奏者は、弓も古楽から現代への移行期(中間期)の弓だったり、ファースト以外はガット弦を使用しての演奏、等々、当時もその辺が自由、というか、いろいろな状況が入り混じった楽器での演奏を可としていたということで、その点も踏襲されての演奏となった。

ピアノの譜面における、こんにち一般的に演奏される版との違いについては、後述する4番ほど、特別、目立った違いは感じられなかった。休憩後は

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2.ピアノ協奏曲第4番(Hans-Werner Küthen編)

室内楽は、コントラバスは除かれ、ヴィオラが2人体制となって、第2ヴィオラとして勝森菜々さんが加わった。

演奏に先立ち、鐵さんから、版の違いの説明と、本日弾くカデンツァの解説がなされた。

Küthen氏による版は、完成楽譜や、非公開初演、公開初演等々を研究されての版のようだが、初めて聴いた率直な感想としては、特に第1楽章は、こんにちの版と随分違っていて、3分の1は違うのではないかと思えるほどで、具体的には、飾りの音やトリル等の多用、あるいは、三連符を含めた上行下降音階(音型)の違いも含めて、多くの「彩(いろどり)」の工夫がなされていたので、驚いた。

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良く言えば、「野性的で野心的で、アグレッシブな面白さが多々ある曲想」だが、悪く言うなら、「全く洗練されていない」感は否めなかった。

こんにちでの、あの美しいフォルムと抒情的な曲想に満ちた第4番の第1楽章と比べてしまうと、「完成度」という点では、明らかに~好き嫌いを(関係なく)超えて、こんにちに演奏されている楽譜こそ美しく、バランス良く、完成度が高い。

もし、この「Küthen」版がそのまま残ったとしたなら、第4番が名作とは言われなかったかもしれない、とさえ思えた。もちろん、その分、初めて聴かせていただいた楽しさは十分堪能した次第。

鐵さんの多才な活動に、今後も期待し、応援していきたい。

2022年12月25日 (日)

クリスマス・キャロル・コンサート

さすが、活躍中の歌手8人が揃ったクリスマス・コンサートは、一味も二味も違うな、と感心し、大いに楽しませていただいたコンサートを12月25日夜、西国分寺駅すぐの国分寺市立いずみホールで拝聴した。

ピアノの箭内明日香さんが伴奏だけでなく、演奏曲全体の構成だけでなく、演奏曲の多くを、それぞれ重唱用等に編曲されたのだが、このコンサートの成功というか、楽しい内容になった大きな要因が、箭内さんの編曲とプログラミングにあったことは間違いない。下記の演奏曲紹介欄で、編曲者名を記載していない曲は全て箭内さんによる編曲。歌手等の出演者は、

ソプラノ:澤江衣里さん、中江早希さん

メゾ・ソプラノ:長田惟子さん、小野綾香さん

テノール:新海康仁さん、渡辺大さん

バリトン:寺田功治さん

バス・バリトン:松井永太郎さん

ドラム:阿部拓也さん

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プログラムは、

1.クリスマス・キャロル・メドレー

出演者10人全員による演奏

(1)もろびとこぞりて「Joy To The World」編曲:ローウェル・メーソン

(2)ああ、ベツレヘムの小さな町よ「O Little Town of Bethlehem」

(3)おめでとうクリスマス「We Wish You a Merry Christmas」

(4)メンデルスゾーン:「天には栄え」「Hark! The Herald Angels Sing」

(5)荒野の果てに「Angels We Have Heard on High」

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2.世界のクリスマス・キャロル~ドラム参加は(7)のみ

(1)ウクライナ:8人とピアノで

キャロル・オブ・ベル(鐘のキャロル)「Carol of the Bells」

原曲:ウクライナ民謡、編曲:マイコラ・レオントーヴィッチュ

英語歌詞:ピーター・J・ウィルウフスキー

(2)イタリア:新海さんと渡辺さんとピアノで

あなたは空から降りてくる「Tu scendi dalle stelle」

(3)オーストリア:寺田さんと松井さんとピアノで

静かに、静かに、静かに「Still,still,still」

(4)日本:女声4人とピアノで、

中田喜直「六つの子供の歌」(女声合唱版)より「おやすみ」

(5)フランス:男声4人とピアノで

クリスマス・キャロル「Cantique de Noёl」

(6)イギリス:澤江さんと中江さんとピアノで

御使いうたいて「What Child Is This?」原曲:Greensleeves

(7)プエリトリコ:10人全員で

メリークリスマス「Feliz Navidad」~ドラムのロングソロ付き

 (休憩

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3.「ザ・キングズ・シンガーズ」のレパートリーから

歌手8名の「ア・カペラ」による演奏

(1)お眠り、わが愛しの「Lullay my liking」

(2)フロスティとルドルフ「Frosty vs.Rudolph:The Re-boot」

(雪だるまのフロスティ、赤鼻のトナカイ・ルドルフ)

編曲:ロバート・ライス

(3)ホルスト:寒々とした冬のさなかに「In the Bleak Mid-winter」

編曲:アレクザンダー・レストレンジ

(4)ホワイト・クリスマス「White Christmas」

編曲:ロバート・ライス

(5)ピアノも加わり:牧人ひつじを「The First noel」

アンコール:10人全員で「きよしこの夜」

2022年12月24日 (土)

水戸芸術館でのクリスマス・コンサート

「クリスマス・プレゼント・コンサート2022」と題されたコンサートを12月24日夜、水戸芸術館で拝聴した。

水戸市出身の作曲家、池辺晋一郎さんの企画と司会によるコンサートで、出演者、演奏曲ともにヴァラエティに富んだ、とても魅力的な内容だった。

私が以前、このホールに来たのは、2013年5月に、ヒラリー・ハーンが現代作曲家に委嘱した作品群を演奏するリサイタル以来。終演後はサイン会もあった。

この日の全体のプログラム一覧は、最下段に記載のとおりだが、出演者順に概要と感想等を記したい。

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第1ステージは、「彼方に届け、はじける歌声」と題され、

NHK水戸児童合唱団~指揮:原田昌江さん、ピアノ:田中直子さん~で、(1)「サンタがまちにやってくる」、(2)「ジングルベル」、(3)「赤鼻のトナカイ」の3曲が、女子を中心とした小学校低学年による可愛らしく、清らかな歌声で開始。

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次の2曲は、やや難しい曲とあって、半数以上が、男子を含めた小学校高学年と中学生もいたであろうメンバーに入れ替わり、まず、

(4)村松宗継:Far Away[彼方の光]。

これは、英国の作曲家、ロバート・プライズマンが主宰する、ボーイ・ソプラノ・ユニット「リベラ」のために作曲され、作詞もプライズマンによる。

(5)次いで、ウクライナの作曲家、ミコラ・レオントヴィチ(1877~1921):「鐘のキャロル」。

哀愁ある3拍子の曲で、魅力的な曲だった。日本語の訳詞は海野洋司さんによる。

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(6)最後は、この日の合唱メンバー全員で、岡野貞一(信長貴富編曲)「故郷」。2番歌詞を、ウクライナのバンドゥーラ奏者、ナターシャ・グジーさんのウクライナ語版の翻訳により歌われた。

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池辺晋一郎さんが登場して挨拶。

「本来、僕が最初に挨拶すべきでしょうが、最初に聴いていただくのが僕の声より、児童の歌声のほうが、皆さんの幸福度が増すと思って、児童合唱からスタートしました」。

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第2ステージは、「琴線に触れる深き音色」と題され、

チェロの新倉瞳さんと、ピアノの三浦友理枝さんによる初共演での演奏。

1.まず、サン=サーンスの「白鳥」がエレガントに奏された。

2.次は、ピアソラの「タンティ・アンニ・プリマ」

「昔々」という意味だが、「ピアソラ」という名前から連想するイメージの曲とは全く違う、抒情的で繊細な、素敵な曲。CDとしては、新倉さんのデビュー10周年記念アルバム「祈り~チェロとハープ珠玉の名曲集」の第1曲目に収録されている。

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3.ラフマニノフのチェロ・ソナタト短調(作品19)より第3楽章。

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4.この日の格別な聴き物と言える、無伴奏チェロによるクレズマー(東欧系ユダヤの伝承音楽)の「Nign(ニーグン)」

新倉さんは、ピッツィカートで伴奏しながら、自身でスキャット的に歌う部分を交えた曲。もちろん、弓で弾く~低音を中心とした~旋律もある。

CDとしては5人の作曲家に委嘱した作品のライヴ録音で「11月の夜想曲」と題された最新アルバムの最後に、アンコール的に収められている。もっとも、そこでの演奏は、無伴奏ではなく、当日の共演者だったマリンバ、アコーディオン、和太鼓とのコラボによる演奏なので、この日、水戸で演奏されたイメージとは随分違うのが面白い。

たぶん、新倉さんが「Nign(ニーグン)」に限らず、「クレズマー」の色々な曲を演奏する際は、都度々々、アレンジして自由な趣で演奏されているのだろうな、と想像できる。

この日の演奏は、無伴奏ということや、新倉さんがチェロだけでなく、自ら可愛らしい声で歌う、という極めて珍しい曲であったことも含め、作品の素朴さ、哀感と希望などが、一層強く伝わる素敵な演奏で、聴衆~会場~が、最も静まり返った曲となった。

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5.最後は、ポッパーの有名な「ハンガリー狂詩曲」作品68

新倉さんの、抜群に冴える技巧が楽しめた。

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クリスマス・プレゼント・コーナー

出演者総出により、座席番号が書かれた紙を引くことで、当たった人に、出演者陣や協力企業が用意したクリスマス・プレゼントを贈呈する、という企画。毎年、やっているコーナーのようだ。

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休憩

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第3ステージは、「聖夜に響くメゾ&テノール」と題され、

メゾ・ソプラノの小林由佳さん(茨城県出身)と、テノールの大槻孝志さんが登場。ピアノは新国立劇場や二期会オペラ研修所のピアニストでもある木下志寿子さん。

1.サン= サーンス:オペラ〈サムソンとデリラ〉より “私の心はあなたの声に花開く”

メゾ・ソプラノ歌手のリサイタルやアルバムでの~アンコール・ピースでの歌唱を含む~ソロヴァージョンではなく、オペラの~オリジナルな~二重唱での演奏だったのが、とても良かった。

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2.小林さんによるマスカーニの「アヴェ・マリア」が、しっとりと、美しく歌われた次は、

3.大槻さんによるビゼーの「アニュス・デイ」(神の子羊)が、格調高く歌われた。

4.二重唱で、フランク(リーバーゲン編曲)の「天使の糧」。とても印象的な曲。

5.二重唱で、フンパーディンク(リーバーゲン編曲):オペラ〈ヘンゼルとグレーテル〉より “夜、私が眠るとき”により、締め括られた。

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この日、最後となる第4ステージは、

「名手6人が魅せる多彩な音色のパレット」と題され、

「東京六人組」の登場。以前から聴きたいと思っていたユニット。

メンバーは、上野由恵さん(フルート)、荒絵理子さん(オーボエ)、金子平さん(クラリネット)、福士マリ子さん(ファゴット)、福川伸陽さん(ホルン)、三浦友理枝さん(ピアノ)だが、

フルートの上野由恵さんが体調不良とのことで、急きょ、東京シティ・フィル首席の竹山愛さんが代わって参加し、演奏された。竹山さんは、長身でカッコイイ、素敵な美人奏者。

1.ルーセル「ディヴェルティスマン」作品6

2.ラヴェル(磯部周平編曲)の「亡き王女のためのパヴァーヌ」

3.チャイコフスキー(岩岡一志編曲):〈くるみ割り人形〉組曲 より、「小さな序曲」、「行進曲」、「金平糖の精の踊り」、「トレパーク」、「葦笛の踊り」、「花のワルツ」の6曲。

アンコールとして、ブラームスのハンガリー舞曲第5番。

急な代役とは、とても思えないほど見事なアンサンブル演奏をされた竹山さんを含め、各人の技術とトーンの素晴らしさも含め、編曲の素晴らしさも含めて、コンサートの最後を飾るに相応しい、充実の素敵なアンサンブルだった。

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プログラム

1st Stage「彼方に届け、はじける歌声」

NHK水戸児童合唱団 原田昌江(指揮) 田中直子(ピアノ)

クーツ:サンタがまちにやってくる

ピアポント:ジングルベル

マークス:赤鼻のトナカイ

村松宗継:Far Away[彼方の光

レオントヴィチ:鐘のキャロル

岡野貞一(信長貴富編曲)「故郷」(2番歌詞はウクライナ語版の翻訳)

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2nd Stage「琴線に触れる深き音色」

新倉瞳(チェロ)、三浦友理枝(ピアノ)

サン=サーンス:白鳥

ピアソラ:タンティ・アンニ・プリマ

ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 より 第3楽章

無伴奏チェロによるクレズマー(東欧系ユダヤの伝承音楽)「Nign(ニーグン)」

スキャット的にピッツィカートで弾きながら歌う

ポッパー:ハンガリー狂詩曲 作品68

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クリスマス・プレゼント・コーナー

クリスマス・プレゼントが当たる抽選会です。皆様の座席番号でくじ引きを行います。

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休憩

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3rd Stage「聖夜に響くメゾ&テノール」

小林由佳(メゾ・ソプラノ)、大槻孝志(テノール)、木下志寿子(ピアノ)

サン= サーンス:オペラ〈サムソンとデリラ〉より “私の心はあなたの声に花開く”[二重唱]

マスカーニ:アヴェ・マリア(聖母マリア)[メゾ・ソプラノ]

ビゼー:アニュス・デイ(神の子羊)[テノール]

フランク(リーバーゲン編曲):天使の糧[二重唱]

フンパーディンク(リーバーゲン編曲):オペラ〈ヘンゼルとグレーテル〉より “夜、私が眠るとき”[二重唱]

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4th Stage「名手6人が魅せる多彩な音色のパレット」

東京六人組

ルーセル:ディヴェルティスマン 作品6

ラヴェル(磯部周平編曲):亡き王女のためのパヴァーヌ

チャイコフスキー(岩岡一志編曲):〈くるみ割り人形〉組曲 より抜粋

2022年12月22日 (木)

「ル・ヴェール」~森の木漏れ日~vol.1

4人の歌手と4人のホルン奏者による珍しいコンサートを12月22日夜、新大久保駅近くの日本福音ルーテル東京教会で拝聴した。

「ル・ヴェール」は、フランス語で「緑」を意味し、「森」としてのホルン群、「木漏れ日」としての歌声が、教会から降り注がれるイメージでサブタイトルが付けられた。

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出演者は、歌手チームが、

岡田 愛さん(Sop.)、瀬戸優貴子さん(Mezzo.)

堺 裕馬さん(Br.)、堀越俊成さん(Ten.)

ホルンが、根岸伊智郎さん、木原英土さん、芝崎康和さん、徳永美幸さん

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プログラムは以下のとおりだが、曲によっては、ホルン群と声楽チームとの音量的なバランスという課題は残しつつも、企画自体ユニークだし、特にプログラム最後の「ヘンゼルとグレーテル」~ハイライトでは、歌手は、それまでと衣装もガラリと変え、とても楽しい内容だった。

歌手では、これまで何度も聴かせていただいている岡田愛さんの魅力は言うまでもないが、他の3名は初めて聴かせていただき、それぞれが個性ある魅力的な歌手。特に、堺 裕馬さんの「菩提樹」は印象的だった。

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演奏曲

1.ホルン四重奏で、H・ノイリング作曲

狩の四重奏~ドイツの狩の合図・歌による~

2.モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス~8人で

3.J・ラター:「神よ、私の頭の中に」~歌手4名

4.バッハ:カンタータ140番より

  「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ~堀越さん+Horn全員

5.シューベルト:「冬の旅」より「菩提樹」

   堺さん+Horn全員

6.三村総撒:「『愛の挨拶』の主題による3つの変奏曲」

   ホルン四重奏~編曲:根岸伊智郎

 (休憩)

7.ホルン四重奏で、「もろびとこぞりて」編曲:木原英土

8.J・ラター:「羊飼いの角笛のキャロル」~8人で

   編曲:木原英土

9.「荒野の果てに」~歌手4名

10.フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」

ハイライト~8人で

アンコール

1.ウェーバー:「狩人の合唱」~8人で

2.「O Holy Night」~8人で

2022年12月17日 (土)

大村博美さんによる公開レッスンを拝聴して

海外のオペラハウスでも活躍中のソプラノ、大村博美さんによる公開レッスンを12月17日午後から夜にかけて、自由が丘駅近くの月瀬ホールで拝聴しまた。ホールと言っても、マンションの個人宅の広間のような空間で、私は、大村さんが座した位置から2メートル程の至近距離で拝聴しました。

15時から19時30分までの間での受講生は4名のお弟子さんで、教え始めて6か月の人から6年目のお弟子さんとのこと。

私は、別途アップしたサントリーホールでのコンサートに行っていた関係で、後半のお二人に対するレッスンだけの拝聴でした~到着したとき、前半2人目の「ルチア」の歌唱も少し聴くことができました~が、私のような素人には、「勉強になりました」というレベルではなく、茫然とするくらいの、素晴らしい内容で、レッスンとはいえ、私にとっては、「一生忘れられないような音楽体験の一つ」と感じた次第です。

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私自身は、ここ40年間はアマオケでのヴァイオリン演奏が主でしたが、合唱歴も、中断時期があるにしても、通算では25年前後は有りますから、合唱はそこそこの経験者ですが、ソロの声楽レッスンはほとんど受けたことがなく、ピアノのマスタークラスの拝聴は経験していますが、声楽の、それも国際的な一流歌手による公開レッスンを聴かせていただいたのは初めてでした。

よって、以下は、大村さんが言及した指導コメントの10分の1、いや、100分の1も、お伝えできないと思いますし、そもそも私の理解度は、「たぶん、こういうこと(をおっしゃっているの)であろうなあ」という程度に止まることを最初にお伝えしておきますので、その点をご留意してお読みいただけたらと思います。

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まず、生徒二人のレッスンを拝聴しての、全体としての感想ですが、時にユーモアを交えながらの大村さんの指摘やアドバイスは、専門的な用語の多用というのではなく~もちろんそれも有りましたが~如何に体を楽器とした演奏者としての、好ましい発声法、呼吸法、その姿勢等を、それぞれの歌手自身に伝えると同時に、その生徒が今、足りていないと大村さんが感じた点を中心に、その修正と、如何に更に良い声を引き出すか、そのテクニックや気持ちの持ち様等に重点が置かれていたと思います。

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そうした呼吸法、発声法等を説明した後、大村さんが、その一節を歌われる、というシーンは当然、多々あり、私は至近距離にいたとはいえ、その「FFF」のような声量に都度、衝撃を受けるわけです。明らかに生徒さんが出せていない、全く次元の違う声量とトーンです。もちろん、ベテランの国際的な歌手と、勉強中の若い生徒を比べること自体、酷なことではあるのですが、その差は歴然としているわけです。

それでも、大村さんは、「今、大きな声で歌おうとしたわけではなく、説明した呼吸法や発声法や姿勢等で歌えば、こういう声が出る」という主旨の説明、アドバイスを、丁寧に論理的にされていたのですが、実際、声を出される直前に、大村さんは、特に目立ったような大きな動作をしている感じはなく、自然体の、説明されたような技術で歌われていた、と思いました。

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具体的な状況

私が聴いた一人目~全体では3人目~のKさんは、「トゥーランドット」のリューのアリアと、「ラ・ボエーム」の「私の名はミミ(私は、ミミと呼ばれています)」を歌われた後、後者に関してのレッスンが始まりました。

Kさんは、悲し気な、眉間にシワを寄せて歌う傾向が顕著だったので、大村さんは「何か悲しいことがあった?」と当人と会場を笑わせ、「舞台(本番)はともかく、レッスンでは、悲しい顔ではなく、ナチュラルに」と伝えました。

そして、特に印象的だったのは、「歌う前に『語るりかける』ことを考えて」、「今、目の前にいる(ある)好きな人や動物、モノ、何でも良いから、それを抱きしめるかのように歌ってみて」、という主旨のコメントでした。

以下、センテンス的にメモを示すと、「胸から上ではなく、胸からお腹の間で歌う」、「ストローか点滴の管を入れるかのように、息を深い所に入れる」(これは何度も言及されました)、「そうすると胸郭が広がる」、「練習のときは、聴衆側は凝視せず、ぼんやり見るくらいでよい。顔(頭)の前で歌わず、顔が、お腹の所にあると思って歌って」、「オペラは、本来は庶民的なもの。大きな声で歌うことだけがオペラでも、ベルカントでもない」、「真面目になりすぎず、難しく考えず、リラックスした練習をしていくように」等々。

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後半二人目(全体で最後)の生徒、Oさんが歌ったのは、トマの「ハムレット」より、オフィーリアのアリアと「コジ・ファン・トゥッテ」のフィオルディリージのアリア。

主に前者に時間を費やし、フランス語の発音の修正を中心に、如何に効率的で、自然体で美しいフレージングで歌えるかについて、Kさんのときと同様、呼吸、発声等について、基礎的、基本的なことが重要として、丁寧に指導された。

「コジ・ファン・トゥッテ」のアリアに関しては、「確かに、フィオルディリージは怒っている内容の歌だが、それを出し過ぎると、歌として(良い声になりにくいという点で)もったいない」とし、Kさんのときと同様、深刻(な表情や表現)になり過ぎない範囲での、いわば自然体による歌唱が~少なくとも練習においては~大事、という主旨のアドバイスをされていた(と思います)。

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その他では、最後に、「私はカバリエさんから、こういうことを教わった」とか、「大好きなコレルリ~私、伊藤も大好きです~や、全盛期のテバルディ等、往年のイタリアの名歌手の歌唱が、今、ユーチューブで見、聴ける時代なので、そういう勉強もお薦めます」。

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以上、本当に素晴らしい公開レッスンの拝聴で、私にとっても大きな音楽体験の一つになりました。

記載内容は、ごく一部というか、私の理解の範囲での概要に止まりますが、公開レッスンとは言え、あまり詳しくお伝えする事は、問題なしとは言えないかもしれません。

それでも、若い歌手の皆さんや、私を含めて、合唱等、歌をやっている人に、何らかの参考になれば、としてアップさせていただきました。録音ではないし、あくまでも私が感じたこと、という点では、コンサート感想に近いので、アップに問題ないと思いますが、私は大村さんと面識があるので、怒られたら即、削除します(笑)ので、今のうちにお目通しいただけたら幸いです。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。

パイプオルガン&佐渡裕+新日本フィルの第九

年末に第九を聴く趣味は特にないが、10月に続き、高野百合絵さんがソリストの一人ということで、佐渡裕さん指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団による演奏を12月17日午後、サントリーホールで拝聴した。

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プログラム前半は、室住素子さんによるオルガン演奏で2曲。

考えてみると、このホールで、あの立派なパイプオルガンのソロ演奏を聴いたのは初めてかもしれない。それ自体、感動的で、1曲目の有名なバッハの「トッカータとフーガニ短調BWV565」と、続く、ギルマン(Alexandre Guilmant)という人による「ヘンデルの『頭を上げよ』の主題による行進曲」Op.15も、とても楽しめた。

この広くゴージャスなホールで、ほぼ満員の聴衆が、オルガン1台だけによる演奏をじっくり聴くシーン自体、厳かな雰囲気があって、とても良かった。

なお、「頭を上げよ」の主題は、「カロ・ミオ・ベン」にそっくりだったのが面白かった。

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休憩後は第九。

最初に、個人的な事だが、新日本フィルに親近感を覚えるのは、数年前、ある機会に、同オケの第2ヴァイオリンのフォアシュピーラー(次席)、佐々木絵理子さんのソロ拝聴と、お話をしたことがあり、加えて、何と、ヴァイオリン用の簡易の肩当てをいただいたりしたことがあったこと。加えて、開演時間になり、オケの入場の際、全ての弦パートの中で、いつも真っ先にステージに入ってくるのが彼女であることが面白いのだ。なぜ直ぐ判るかということ、小柄な日本人だが、金髪に染めているため(笑)。お会いしたときもそうだった。

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演奏について

まず、好感が持てる点は、昨今、流行りの「対抗配置」でもなく、やたら速いテンポによるピリオド奏法的な演奏でもなく、ベーレンライター版でもないことだ。

第1楽章からオーソドックスなテンポによるブライトコプフ版での演奏。427小節から453小節におけるチェロとコントラバスのピッツィカートの強調も良かった。

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第3楽章の有名なホルンソロによる変ハ長調(ロ長調)の音階メロディで、登り切った音が完璧な音程ではなかった点は「いただけない」。言っときますが、今時、アマオケでも、完璧に吹けるホルン奏者は、普通にゴマンといますので。プロがトチルとは、みっともなさすぎ。

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第4楽章のソリストで一番印象的だったのは、初めて聴いた歌手、バリトンの平野 和(やすし)さん。温かで格調高い、良い声。素敵な歌手。

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テノールは、大活躍中の宮里直樹さんだが、10月の「佐渡裕さん+さだまさしさん」コラボ・コンサートのときの西村 悟さんのときと、全く同じことを感じた。

すなわち、せっかくの美声と声量豊かなテナーなのに、「alla Marcia」のソロで、彼の美質を存分に生かすなら、もうほんの少しだけ、ゆったりしたテンポにしたほうが良かった、ということだ。西村さんと同じく、「テンポに遅れまい」の気持ちが感じられてしまっただけでなく、宮里さんにしては珍しく完璧な音程とは言えない部分もあった。これは、832小節から842小節での四重唱でも感じた。

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メゾの清水華澄さんは、いつもながらの余裕。

ソプラノの高野百合絵さんも良かったが、この曲に「強靭さもあるソプラノソロ」を求める人には、やや「優しさ」を感じさせ過ぎるかもしれない。もちろん、それが高野さんの個性であり、魅力でもあるのだ。

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合唱は、二期会合唱団と栗友会合唱団。私には終始「カタカナのドイツ語」に聞こえる合唱だったのが残念。

2022年12月11日 (日)

江東フィル「スターバト・マーテル」

江東フィル&合唱団~ドヴォルザーク「スターバト・マーテル」

開演冒頭に江東区長が挨拶したように、区が支援し、今年で結成27年目という「ふるさとこうとう音楽連盟」が主催するコンサートを12月11日午後、ティアラこうとう大ホールで拝聴した。コンサートのタイトルとしては「ふるさとこうとう音楽のつどい」第29回演奏会。

オケは江東フィルハーモニー管弦楽団、合唱が江東区民合唱団。指揮は、同フィルの常任指揮者で、連盟の音楽監督でもある土田政昭さん。

プログラムは最下段に記載の3曲だが、オケが優秀なので、まず、そのことから書きたい。

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1曲目は、フンパーディングの歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より前奏曲。

冒頭のホルン群のアンサンブルが滑らかで優雅で美しい。突出したブレが無いのが良い。個々の奏者も皆、巧いのだろうけれど、アンサンブルとしても、とても優秀。

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2曲目は、スメタナの連作交響詩「わが祖国」より第4番「ボヘミアの森と草原から」。

冒頭からの強音によるトゥッティが終わり、最初の静かな部分における、チェロパートによるオスティナートの音型演奏が一糸乱れず、とても巧い。まるで一人で弾いているかのようだった。

それに続く、ファースト・ヴァイオリンによる高音域での弱音でスタートし、セカンド・ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと順次受け継いで行く場面でも、正確な音程が美しく、とても見事だった。こういう「怖い」場面では、どこのパートとは言わず、微妙な音が聞こえがちになることも少なくないが、それが全くない。

クライマックスでのティンパニとシンバルの音量も、強すぎず、弱すぎず、抜群の音量配分だった。

指揮者の土田さんは、下~スコア~を見たままの姿勢が多い指揮をされているのだが、団員一人ひとりは、自分が指揮者から見られていようと、いまいと、自分の仕事(役割)をキチンとやっている、という感じがして、とても好感が持てた。

今、当たり前のような事をあっさりと言ったが、このことが、如何に難しいことであるかは、オーケストラ経験者なら皆、知っているはずだ。

人数はやや少ないオケだが、とても優秀なオケであることに感心した。

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休憩後の後半は、ドヴォルザークの大作「スターバト・マーテル」(悲しみの聖母)。

ドヴォルザークが、生後間もない長女(第2子)の死をきっかけに作曲した、10曲から構成される大作。

ソリストは、ソプラノが冨平安希子さん、アルトが川合ひとみさん、テノールが高柳 圭さん、バスが狩野賢一さん。

冨平さんのファンなので、この演奏会を知り、聴かせていただいたのが、4人のソリストは実際、素晴らしかった。

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冨平安希子さんは、ヴィブラートがかかる歌声自体に哀感と慈愛を感じさせ、牽引力と説得力のあるロングトーンも含めて、この曲の素晴らしさを十分伝える歌唱だった。オペラアリアでの冨平さんも素敵だが、こうした宗教的声楽作品でも素晴らしい歌唱をされることを知り、大きな喜びを感じた次第。

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川合ひとみさんは、名前は存じていたが、初めて聴かせていただいたと思う。プロフィールによると、現代曲も得意なようだが、バッハの曲が似合いそうな、端正で魅力ある歌唱だった。

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高柳 圭さんも、こうした形での、ソロを多く歌われるコンサートとしては、実質、初めて聴かせていただいたと思う。明朗で伸びやかな声で素晴らしい。正統派にして若々しさのある美声で、とてもステキだった。

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狩野賢一さんは、とても活躍されており、毎年、多くのオペラ公演で名を見ているし、実際、色々な役としての歌唱を度々聴かせていただいている。この日も、格調高い、純度の高い、正に正統派的な美声のバリトンとして、聴衆に十分に魅力を伝える見事な歌唱だった。

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江東区民合唱団の演奏について

江東フィルと一緒に活動する合唱団とのことで、この日の人数は、ソプラノ15名、アルト16名、テノール12名、バス8名、と、バランスも比較的良い。

マスク着装での合唱はやむを得ないとして、問題は歌った配置場所。

ティアラこうとうは、大ホールと言っても、ステージはオケだけで一杯いっぱいの、やや狭い面積なので、ステージのスペース的には、実質、中ホールと言える。

このため、合唱団が歌った場所は、ステージの上ではなく、客席の舞台に向かって左側の前3列を男声、5列を女声が、それぞれ横に6~7人くらいにならんで歌われた。よって、顔の向きも、ステージに対してでもなく、後ろの客席にでもない、客席の右横を見ることを中心とした、ちょっと中途半端な態勢での合唱だったので、その点ではお気の毒な感じがした。

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演奏以前に問題だったのは、楽譜に「かぶりつき」の人が多かったことで、特に女声に目立った。郡司博さんだったら、激怒するに違いない。

特に、ソリストが長く歌う場面では、原則的には、合唱団員は、楽譜を目で追うのではなく、次に自分たちが歌い出す部分に楽譜を(飛ばして)めくって待ち、視線は~本来、指揮者に対してだが、今回の場合は配置的に~客席に向けられていなければならず、それが「常識」なのに、ソリストが長いソロを歌っている最中も、「楽譜にかぶりつきの人」が女声パート内に少なからずいた。これは、合唱の基本姿勢としては「論外」である。合唱指導者の名前がプログラムにないので、たぶん、合唱も土田氏が普段、指導されているのだろうけれど、この点は今後、十分配慮して欲しい。

男声は、この点の対応は、ほぼキチンとできていた。男声にできて、女声にできないはずはない。見た目では、女声よりも男声の平均年齢が高い感じがしたので、合唱として歌い慣れ、ステージ慣れしている人が、女声よりも男声に多かったのかもしれないが、これは理由にならない。

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演奏は、曲の性格に相応しく、穏やかで統一感と安定感があり、特にソプラノパートが美しかった。

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プログラム

1.フンパーディング:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より前奏曲

2.スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より第4番「ボヘミアの森と草原から」

3.ドヴォルザーク:「スターバト・マーテル」

2022年12月 9日 (金)

TRAGIC TRILOGY「トスカ」~迫力の公演

昨年12月の「椿姫」を初回としてHakuju Hallを舞台に開始された「TRAGIC TRILOGY(トラジック・トリロジー)」と題された2回目の公演「トスカ」を、12月9日午後、同ホールにて拝聴した。正式なタイトルは、TRAGIC TRILOGYトラジック・トリロジーⅡ「トスカ」。

指揮者として活躍中の園田隆一郎さんがピアノ演奏と音楽監督を務め、演出家の田尾下 哲さんが脚本と演出を担当し、出演する歌手は前回も今回も同じで、ソプラノの青木エマさん、テノールの城 宏憲さん、バリトンの大西宇宙さんの3人だけによるオペラ。この5人によるシリーズプロジェクトの第2弾が今回の「トスカ」。

歌手は3人だけなので、完全全曲ではないが、全3幕での3人がかかわる場面はほとんど歌われるので、内容的にも充実しているのは昨年と同じ。よって今回は、

トスカが青木エマさん、カヴァラドッシが城 宏憲さん、スカルピアが大西宇宙さん。3人に共通している点は、「声量の豊かさ」ということ。

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青木エマさんの「トスカ」の素晴らしさについて

前回は、大西さんの声量の凄さについて真っ先に書いたが、今回は、なんと言っても、トスカを歌い演じた青木エマさんの声量の凄さと、激情と言えるほどの、気迫ある感情移入のドラマティックな歌唱が素晴らしく、正に圧巻だった。

これまで、私が数回聴かせていただいた青木エマさんのオペラやリサイタルの中で、声量と感情移入のいずれにおいても最高に素晴らしい歌唱と演技だった。

前回の「椿姫」のヴィオレッタ役に関して、私は、「彼女の歌声自体に、美人薄命を感じさせる哀感があり、同時に少女のような質感もあり、声量も十分で、激しい思いのこもった歌唱であった。3幕を通じて圧巻の歌唱で素晴らしかった」、と書かせていただいたが、今回はそれを上回る、というより、役的に、トスカこそ、より一層、エマさんに合っていると思った。

想像を遥かに超えるほどに、私がこれまで、青木エマさんに抱いていたイメージを完全に覆すほどの、激情の表出の連続で驚いた。トスカに乗り移ったかのような、トスカそのもののような、直截的で激烈なまでの感情の表現。太い声ではないが、哀感ある声質によるドラマティックな歌唱が、トスカという役所にピッタリだと感じ入った。本当に見事で、素晴らしかった。

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城 宏憲さんの「カヴァラドッシ」について

今回は、エマさん同様、前回以上に感動したのが城 宏憲さんの歌唱だった。人気のあるテナーだが、私がこれまでに聴かせていただいた回数は割と少なかったので、その声量の豊かさと、演技力、堂々としたステージでの存在感と言う点で、今回、私は完全に城さんに魅了され、ファンになった。

城さんの魅力、どうして人気があるのかが、よく解かり、納得の素晴らしい歌唱の連続だった。

これからは、どんどん聴かせていただこうと思う。

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大西宇宙さん「スカルピア」について

大西さんの声量の凄さについては、これまで何度も書かせていただいているので、その点においては、今回は新しい驚きはなかったが、余裕あるスカルピアで立派な歌唱だった。マイナス要因などないが、強いて何かを言うなら、大西さんの声には「温かさ」あるいは「ジェントルマン」的な質感があるので、冷酷なスカルピアというより、「少し優しさもあるスカルピア」を感じたくらいで、これは個性の範囲であって、オペラ鑑賞として楽しむことにおいては、特別マイナス要因などはなく、立派なスカルピアだった。

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園田隆一郎さんのピアノが見事だったことは言うまでもない。

田尾下 哲さんの演出も、舞台に向かって右側の通路とステージ寄りの出入り口のドアを巧みに利用する~例えば、ドアを開けた状態で、トスカが、通路からステージに向かって重唱する~など、広くない空間を効率的に工夫した演出で、なかなか良かった。

来年12月は、当然同じメンバーでの、今度はプッチーニの「蝶々夫人」。エマさんのケイト役は先日拝聴したが、蝶々夫人も得意な役とのことだから、今から楽しみだ。

https://hakujuhall.jp/concerts/detail/3297

2022年12月 5日 (月)

オペラ歌手~紅白対抗歌合戦

後日記載します。

田部京子さん~ピアノ・リサイタル

田部京子さんが浜離宮朝日ホールで展開してきた「シューベルト・プラス」のシリーズ第10回を12月4日午後、同ホールで拝聴した。

プログラム最後にシューベルトのソナタ第21番を置くリサイタルは昨年もあったし、前半のブラームスも含めて、最下段に記載の演奏曲やその構成は、「以前、見たような、似ているような」という印象を受けるが、それもそのはず。この日は、「シューベルト・プラス第10回・最終回特別編」と銘打ち、来年CDデビュー30周年を迎える田部さんが、これまでのシューベルト・プラスのシリーズの中からアンコール・セレクションとして組まれたプログラムだった。

田部さん自身がその思いをプログラムに寄稿されているので、それは最後にご紹介します。

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1曲目は、ブラームス「4つの小品」Op.119

第2曲ホ短調、第3曲ハ長調の「間奏曲」、第4曲変ホ長調の「ラプソディ」は、いずれも「動き」が顕著な曲で、特に「ラプソディ」では集中力と熱量のある演奏で聴衆を魅了したが、最も田部さんらしい美点を示していたのは、第1曲のロ短調の「間奏曲」かもしれない。

開始から詩情と夢想があり、即興的でもあると同時に、入念で確固たる譜面の読み込みから来る格調の高さがあって、素晴らしかった。

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2曲目は、ベートーヴェンのソナタ第32番 ハ短調Op.111

第1楽章は、最後のピアノ・ソナタだからと言って、冒頭から特別な気負いを全面に出すのではなく、譜面の音を丹念に、そして情熱的に奏していく中で、田部さんの個性とベートーヴェンの曲に込めた思いが繋がっていくような、律儀にして揺るぎない構成感のある演奏だった。

第2楽章がとりわけ充実の名演。

静寂さとダイナミズム。場面ごとの曲想に応じたニュアンスの変化とその多彩さ。クライマックスに至るドラマと、その静寂にして気品あるエンディグへの着地。

ライヴ録音(リリース)に値するにとどまらず、控えめに言っても、過去の巨匠たちの名演にも伍する、ベートーヴェン最後のピアノ・ソナタの最良の表現としての見事な演奏だった。

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休憩後の後半は、

シューベルトのソナタ第21番 変ロ長調D960

最晩年にして大作、傑作であり、田部さんと言えばこの曲、と言えるほど、曲と演奏者の強い関係性を感じさせる曲でもある。

第1楽章

田部さん特有の、冒頭にたっぷりとしたテヌートを置いての、しかし、さりげない開始。まるで1分くらいで終わるかのような曲を、即興的に開始したのだが、小節を追うごとに、譜面の中に散りばめられた複数の逸話やドラマを丹念に描く出すことで、喜びや安寧や不安を表現し、清らかさやドラマティックな盛り上げ等により、様々な曲想、シューベルトの感情を描き出して行く。

田部さんがこの曲で示したのは、最晩年の曲というよりも、シューベルトはまだこれからも沢山、傑作を書いていくのだ、という「希望」を根底に置いた演奏だったと感じた。

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第2楽章

短調による哀しみの曲想においては、控えめなペダリングによる低音の丁寧な打鍵と、落ち着いた祈りの表出も素敵だったが、中間部の長調による場面が特に印象的だった。平穏な日常の静かな喜びと未来に繋がる希望。その表出と対比が見事だった。

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第3楽章

シューベルトがまるで、「大丈夫。僕は元気だよ」、とでも言っているかのような、嬉々とした表現がとても魅力的だった。

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第4楽章

さりげなさを基盤においている点で、先日聴いたピリスに似た印象を覚えたが、田部さんは、流麗なフレージングやダイナミズムの強調により、積極果敢に喜びを打ち出している感があった。

音の美しさも含めて、多彩な曲想を弾き分けて描いて行く力量の見事さ。全体としての格調の高さ。

この曲全体、いや、プログラム全体において言えることは、音の粒立ちの密度の濃さと多彩なニュアンス。それにもかかわらず、「ブレ」の無さ。気品と格調の高さ。

あらためて世界的なレベルの、日本を代表するピアニストであることを強く実感できた演奏だった。

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デビュー間もないことからの、ご年配となられた多くの常連集を含めて、客席の9割近くは埋まった会場からの盛大な拍手に応えてのアンコール1曲目は、

シューベルトの即興曲 第3番 変ト長調。

エレガントな長調の部分における魅力だけでなく、短調の場面における感情移入とその起伏が素晴らしく、アンコール・ピースとしての演奏ということを忘れ(超えて)、この1曲を聴けただけでも価値のあるリサイタルだったと言えるほどの充実した演奏。

最高のお手本としての演奏とも言える。

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2曲目(この日、最後の曲)は、この日も(いつもどおり)来場されていた吉松 隆さん編曲による、シューベルトの「アヴェ・マリア」。

この時期に、係る世界の状況の中にあって、田部さんが弾くこの曲の清らかさと熱い祈り、思いのこもった演奏を聴く喜びは格別なものがあった。

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田部京子さんの寄稿文

「今回は、これまでのシューベルト・プラス・シリーズの中で取り上げた作品の中から、最終回に聴いていただきたい特別な3曲でプログラミングしました。「生涯にわたり敬愛したクララ・シューマンに贈られ「灰色の真珠」と評されたブラームス最後のピアノ曲「4つの小品」op.119、革新と共に変遷を遂げたベートーヴェン最後のピアノ・ソナタとなった第32番op.111、そのベートーヴェンを崇拝し、自ら松明を持って葬儀に参列した翌年、後を追うように生涯を終えたシューベルトが死の直前に遺した最後のピアノ・ソナタ第21番D.960。ピアノ音楽の中でも金字塔ともいえるこの3つの晩年作品には、それぞれに人生の濃密な時を経て至った境 地が広がり、孤独、苦悩、焦燥、絶望すら時に超越しているかのような静かな諦観、崇高な祈り、希望、慈愛、そして魂の救いを感じます。遺された傑作に刻まれた楽聖最後のメッセージに耳を澄ませ、皆様にお届けしたいと思います」

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演奏曲

1.ブラームス:4つの小品Op.119

2.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番Op.111

3.シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調D960

アンコール

1.シューベルト:即興曲 第3番 変ト長調Op.90-3 D 899

2.シューベルト:「アヴェ・マリア」(編曲:吉松 隆)

2022年12月 3日 (土)

東響コーラスのフォーレ「レクイエム」他

プログラムの前半に、東響コーラスが歌う2曲を置いたコンサートを12月3日午後、ミューザ川崎シンフォニーホールで拝聴した。正式には、ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団の名曲全集第182回演奏会。

指揮は藤岡幸夫さん。全演奏曲は最下段に記載のとおりだが、東響コーラスが出演する前半は、フォーレの「パヴァーヌ」と、同「レクイエム」。

「レクイエム」のソリストは、ソプラノが砂川涼子さん、バリトンが与那城 敬さん。

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フォーレの「パヴァーヌ」(合唱付き)

合唱なしのオリジナルは1887年に完成、翌年に初演されたが、その後、フォーレは、バレエ版を想定して、詩をロベール・ド・モンテスューに依頼した。その合唱付きの初演は、1888年4月28日に行われている。

美しく歌われた合唱だが、団および合唱についての感想は、次の「レクイエム」にて、詳細に書きたい。

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フォーレの「レクイエム」(ラター校訂版)

こんにち一般的に演奏されるのは、1900年に初演されたフル編成版だが、フォーレはそれに先立ち、小編成によるものを1893年に創っている。この日の演奏は、その原曲とも言える版を、更にジョン・ラターが部分的にアレンジした版による(1893年版を基にしたラター校訂版)。

当然、弦はヴィオラ、チェロ、コントラバスを主体としており、ラターの工夫で分かり易かった点としては、第3曲「SANCTUS」で、ヴァイオリンによるオブリガート的旋律を、指揮者の左側に陣取ったヴィオラ群の後ろに座した一人による、ソロだけで演奏された。

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ソリストの立ち位置に関しては、バリトンは、第6曲の「LIBERA ME」だけでなく、第2曲の「OFFERTOIRE」においてもソロがあるためか、指揮者のすぐ右横。

ソプラノは、第4曲の「PIE JESU」だけの出番ということもあってか、左奥(オケの後ろ)。

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合唱はオルガンを背にした2階客席。

コロナ禍でなければ、ステージのオケの直ぐ後ろで歌っても良かったかもしれない。より密度の濃い合唱の響きになっただろうから。もっとも、2階席にゆったりと陣取ったことで、教会の空間のような、響きが広々と伝わる良さもあったので、これは一長一短のことかもしれない。

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ソリストの歌唱について

この曲においても、バリトン歌手の声質や個性によって、曲全体のイメージは随分と違うものになる。

太めの、バスに近いバリトンによるソロが好きな人もいるだろうけれど、私はこのコンサートでの与那城敬さんによるトーンと歌唱にとても魅せられ、大いに気に入った。

太過ぎず、細過ぎず、言わば「ハンサムな声」。格調高い与那城さんのソロは、実に魅力的だった。

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砂川涼子さんが、「PIE JESU」を、どういうトーンで、どう歌われるのか、大いに興味があった。

結果は、繊細な優しさがあり、母性を感じさせる慈愛のある歌声。とても素敵だった。

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東響コーラスについて

アマチュアの混声合唱団だが、東京交響楽団の専属合唱団として1987年に創立され、公演ごとに、その曲を歌うメンバーをオーディションで決める、という、非常に珍しく、シビアな団体だ。

よって、当然、レベルは高く、運営においても、演奏する曲に相応しい人数や4パートの構成比率を調整(確定)できるという大きな利点があり、その点で、アマチュアといっても、いわゆる市民合唱団に類する一般的な団体とは、性格が大きく異なる団体。

この日も、曲的に、あるいは、依然としてコロナ禍の中でもあるということもあってか、多過ぎず、少な過ぎない人数で、4つのパートも、ほぼ同じ人数と思われるバランスの良さによる合唱だった。

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フォーレの「レクイエム」では録音とライヴを含めて、私にとって不満を感じることの多くの原因に、テノールパートの「レガート感の無さとソフト感の欠如」がある。具体的に2か所挙げるなら、

第1曲「REQUIEM」の20小節目からのパートソロ。

第5曲「AGNUS DEI」におけるパートソロ。

しかし、この日の東響コーラスのテナーパートのトーンは、いずれにおいてもソフトで美しかった。

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限りなくプロに近い実力による立派な演奏だったし、ほとんど申し分無いけれど、思う事が全く何も無かった、というわけでもない。優秀な団体だからこそ、敢えて言わせていただくなら、以下のようなことを感じた。

「美しい合唱演奏だが、いささか整然とし過ぎる感じはする。とても真面目で、優等生の集まりの合唱。もちろん、それ自体は素晴らしいことなのだが、欲を言えば、もう少し、個々の自発的な柔軟さ、自在な発露が感じられる歌声が聴きたい。それが加われば、更に素晴らしい合唱になると想像するが、これを求めることは、「学び取り、真面目に演奏することが第一とされる傾向が強い日本の合唱団」ゆえに、この団に限らず、いささかハードルが高いことなのかもしれない。また、今回は、曲的に、もしやソプラノには、童声に近いトーンを求めたのかもしれない(と想像する)が、スラーで繋がった音から、次の音域が含むフレーズに移るときなど、硬さを感じた場面が少なからずあった。それでも、国内屈指の優れた合唱団であることは、疑う余地がない。見事な合唱団だ」。

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なお、自分が活動しているオケの練習開始時間の関係で、後半のプログラムは聴かずに会場を後にした。むろん残念ではあったが、東響コーラスと、お2人のソリストを聴きたくて出向いたので、十分満足した次第。

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プログラム

1.フォーレ:パヴァーヌop.50(合唱付き)

2.フォーレ:レクイエムop.48(1893年版に基づくラター校訂版)

 (休憩)

3.ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」

4.ラヴェル:ボレロ

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