鐵 百合奈さんのライヴを初めて聴いて
2017年の第86回日本音楽コンクールで第2位になられたときの~TVを通してだが~演奏が印象的だったし、その後、美竹清花サロンでベートーヴェンシリーズを展開されているのは知っていたので、聴いてみたいと思いながら、タイミングが合わず、今まで聴けずにいたが、8月6日午後、東京都豊島区東長崎にある尾上邸音楽室で、初めてライヴを拝聴した。
音楽ネットワーク「えん」主催による今回の会場は、ウチから徒歩10分ほどの、文字どおり個人宅のフロアを利用してのサロンコンサートだが、初めて行く会場だったので、当然、事前に地図で確認していたので、迷わず到着。
鐵さんは演奏だけでなく、研究論文でも評価された実績があり、このことは後述する。
また、2020年4月から桐朋学園の大学院(富山県)の専任講師をされており、そこの教授は田部京子さんなので、このことも最後に記載する。
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これまで、ベートーヴェンやシューマンというイメージの強い鐵さんだが、この日は、前半が個性的なプログラムで以下のとおり。
1.L・オーンスタイン:森の朝
2.I・アルベニス:「イベリア」第1巻第1曲「エヴォカシオン」
3.I・アルベニス:「イベリア」第3巻第1曲「エル・アルバイシン」
4.L・ヤナーチェク:ピアノ・ソナタ「1905年10月1日の街角で」
(休憩)
5.シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番ト長調D894「幻想」
アンコール
リスト:コンソレーション第3番
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1曲目のレオ・オーンスタイン(1893~2002)の「森の朝」
鐵さんが楽譜を高く上げて、聴衆に、「譜面には、速度と強弱に関する記載がないので、音源なども参考に、自分のイメージで演奏します」。
曲はとてもカラフルで個性的でいて、いわゆる「ゲンダイ曲」的な要素のない、とても親しみ易い曲だった。今後、もっと演奏されてよい曲だと思う。
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2曲目はイサーク・アルベニス(1860~1909)の「イベリア」第1巻第1曲「エヴォカシオン」
「エヴォカシオン」は、スペイン語で「魂を呼び戻す」とか、瞑想するなどの意味とのことで、流麗感のある素敵な曲だった。
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3曲目もアルベニスの「イベリア」第3巻第1曲「エル・アルバイシン」
アルバイシンというのは、グラナダの古い地区で、「エヴォカシオン」の抒情性とはガラリと変わって、リズミックでダイナミックな曲。これも魅力的な曲。
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前半最後となる4曲目は、レオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)のピアノ・ソナタ「1905年10月1日の街角で」
まるで、ショスタコーヴィチ風のユニークなタイトルだが、曲想も極めて独創的、個性的で、曲自体の面白さとしては、この日、一番だったかもしれない。
迫力あるダイナミズム。民族色。カオス的とさえいるほどのリズミックな展開。
とても面白い曲。これこそ、もっと演奏されてよい曲だと思う。
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休憩後の後半は、
シューベルトのピアノ・ソナタ第18番ト長調D894「幻想」
今年の秋から2024年にかけて、美竹清花サロンにおいて、シューマンとシューベルトによるプログラムを展開されていくというから、その序奏的な演奏とも言える。
後述するが、桐朋学園の大学院の教授陣には田部京子さんがいて、今、親しくされているようだから、このプログラム、とりわけ、シューベルトに対する取り組みのキッカケの1つに、田部さんからの感化があったと想像することもできるだろう。このことは再度、後述する。それはともかくとして、
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第1楽章は、控えめな音量で開始。シューベルトと絶えず、穏やかな対話をしているような、内的でステキな演奏だった。
第2楽章は、自然体な歌と強弱の明瞭さ、明確化の共存があり、リズムのダイナミズムと、愛らしい叙情性が共存していた。そうした要素のニュアンスの変化を表出されていた。
第3楽章は、底辺におけるテイストとしては、第2楽章と共通基盤があるような曲想だと思う。すなわち、リズムの強弱や愛らしさの共存など、敢えて2つの楽章に分けなくてもよいほどの、親近性を感じたし、そうした様々な要素を、鐵さんは見事に弾き分けていた。
第4楽章は、リズムの明瞭さ、明確化が一層はっきりと打ち出され。同時に、自然体にして喜びを感じさせてくれる素敵な演奏だった。
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シューベルトが終わり、アンコールに入る前、鐵さんは、次のような主旨のことを語られた。
「これまでは、シューベルトは、どこで(曲想が)終わるか判らないようなところがあり、積極的には取り組んで来ませんでしたが、でも、それって(終わりが判らないことは)、何だか「人生」みたいですし(会場:笑)、シューベルトのピアノ曲は、歌の連続(という魅力)の曲でもあるので、「ここは何を表しているのだろう」というとは、敢えて、あまり考えず、これからは(自然体で)もっと弾いていこうと思っています」。
こうした心境の変化と、今後、美竹清花サロンにおいて、シューマンとシューベルトを展開されていくことも含めて、そのキッカケの一つに、桐朋学園大学院の教員に、大先輩の田部京子さんがいらっしゃることが、私には無関係とは思えないのだ。
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アンコールは、リストのコンソレーション第3番。
以前、ここで弾いた際のアンコールは、同第2番だったとのことで、いわば、その続きとしての選曲。
流麗感だけでなく、リストだからといって。いたずらに煌びやかにするのではなく、ソフトなテイストのある、素敵な演奏だった。
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先述のとおり、鐵さんは研究者としても知られている。
東京藝術大学の博士後期課程修了論文は、「演奏解釈の流行と盛衰、繰り返される『読み直し』:18世紀から現在に至るベートーヴェン受容の変遷を踏まえて」、というタイトルによる論文で博士号を取得。
その後、2017年には、論文「『ソナタ形式』からの解放」で、第4回柴田南雄音楽評論賞(本賞)を受賞され、なんと翌年も、「演奏の復権:『分析』から音楽を取り戻す」で、第5回同本賞を連続受賞されている。
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また、先述のとおり、2020年4月から桐朋学園の大学院(富山県)の専任講師をされているのだが、ここの教授陣の一人が、田部京子さんだ。
本コンサート終演後、「えん」の恒例行事として、鐵さんと聴衆で集合写真を撮った後、同じ場所で、ちょっとした「お茶会」も開催されたので、私は持参した~別掲済の~CDにサインをいただき、ツーショット写真を撮らせていただいた際、鐵さんが、富山で講師をされているのを知っていたので、「田部さんがいらっしゃる富山にある大学院ですよね?」、「ハイ」、「私は、田部さんのファンクラブの会員で、事務局の一員なんです」、「え、そうなんですか」。
ということで、田部さんの話題だけで数分間、盛り上がった次第。
「今度、田部さんにお会いしたら、鐵さんのことを話します。今後のご活躍を楽しみにしています」、として、次に待っている人にバトンタッチした次第。
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