パシフィックフィルハーモニア東京 ツェムリンスキー「抒情交響曲」ほか
1990年設立の東京ニューシティ管弦楽団が、今年4月に飯森範親氏を音楽監督として、団名も「パシフィックフィルハーモニア東京」に変更。その第150回定期演奏会を7月30日午後、東京芸術劇場で聴いた。ソリストと曲目に興味があったから。指揮は飯森氏。演奏曲は、
1.ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死
2.ベルク:抒情組曲より3つの小品(編曲:ファーベイ)
3.ツェムリンスキー「抒情交響曲」Op.18
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「トリスタンとイゾルデ」~前奏曲と愛の死
イゾルデは森谷真理さん。言うまでもなく、大活躍中のソプラノ。私は今年、既にソロとデュオだけでも3回拝聴している。3月は鳥木弥生さんとのデュオコンサート、5月は、この日と同じ、大西宇宙(たかおき)さんとの圧巻のヴェルディ特集のデュオコンサート。そして、6月は叙情に満ちたソロリサイタル。更に4月の「ばらの騎士」も含めたら、今日で5回目の拝聴となる。今後も年内に数回、聴かせていただく予定だ。
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前奏曲の演奏。木管の柔らかいブレンドトーンが良かった。
森谷さんは、前奏曲が終わる数小節前にソデから登場したのだが、どんなに静かにゆっくり歩いても、靴音は微かに聞こえてしまうので、最初から指揮者とコンマスの間に座っていたほうが良かったと思う。10分程度の曲なのだから。
森谷さんの声は、メゾがかった憂いのあるトーンと、抜群の声量という点で、イゾルデに合っていると思う。強いて言えば、あと30㎝ほど前に出て歌われたほうが、もっと客席にスムーズに届いたと思う。
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指揮で良く思わなかった点は、飯森氏が森谷さんに寄り添ってサポートし、一体感を持って盛り上げる、という「共演感」が薄かった点だ。
例えば、映像でも残されている1987年の、ザルツブルク音楽祭でのジェシー・ノーマンの歌唱。あの演奏では、カラヤンがピタリとノーマンに寄り添い、あたかも1小節ごとにウィーン・フィルの音量を変化させるが如く、綿密、繊細にして、一体感に満ちたサポートによる名演が展開したのだが、あの「寄り添い感」が全く感じられなかった。
「オケだけの演奏なら、立派な演奏」だった。しかし、「Liebestod」の主役はイゾルデなのだ。
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2曲目は、アルバン・ベルクの「抒情組曲」(1925~26)の6つの楽章から、オランダの作曲家、T・ファーベイが、第1、第5.第6楽章の3曲を小編成の弦楽オーケストラ用にアレンジした作品。
1曲目の第1楽章は、明るいトーンで無調とは言えず、比較的聴き易い音楽。
2曲目の第5楽章は、最初と最後はリズミックで、無調を基本としている。中間部での静かな部分では、ヴァイオリンに「スル・ポンティチェロ」奏法を加えるなど、細かな工夫がある。
3曲目の第6楽章は、コントラバスのピッツィカートで開始し、スル・ポンティチェロも含めた多くの要素を入り込めた無調の作品。
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休憩後の後半は、ツェムリンスキーの「抒情交響曲」
アレクサンダー・ツェムリンスキー(1871~1941)の代表的な作品で、1922~23年に書かれた。
大管弦楽と、インドの詩人、タゴールの詩(ドイツ語訳)に基づく、バリトンとソプラノのソロを伴う曲で、7曲からなり、奇数曲をバリトン、偶数曲をソプラノが歌う。マーラーと親しかったツェムリンスキーが、「大地の歌」へのオマージュとして作曲したと言われる作品。7つの曲のタイトルは以下に記載のとおり。
ソリストの一人、大西宇宙さんも、特にここ2年くらいんの活躍が著しく、大西さんも年内、数回聴かせていただく予定。
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「抒情交響曲」は、私は全く詳しくないので、それを逆手に、勝手に印象を述べてみたい。
1「私は不安だ。遥かなものに私は思い焦がれる」
映画音楽のようなオーケストレーション。声量豊かな大西さんをもってしても、音量に埋もれがちなのは、多分、音域が低い部分が多いだけが原因ではなく、「言葉の旋律がオケに乗り、流れ込んで進行する要素が少ないから」のように思えた。「硬さ」を感じるのだ。
ゴージャスなオーケストレーションと、いわば「生真面目な歌」との間に溝が有り、どこかに齟齬があるような、融合していない、シンクロしていない感じがした。イメージとしては、オケはオペラを演奏しているのに、歌手は受難曲を歌っている、という感じ。
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2「お母さま、若い王子様がきっと」
前半はユーモラスで、後半はゴージャスなオーケストレーション。1曲目ほどの違和感はなかったが、それでも、似た印象は覚えた。
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3「あなたは、私の夢の空に漂う夕暮れの雲」
評価の高い美しい曲。確かに格調高く、この曲に来て、俄然、聴き応え感が増したという印象。
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4「愛おしい人よ、お話してください」
オケが終始、弱音を主体とした響きの中で、森谷さんの美しい歌が広がる。7曲中、最高の1曲と感じた。
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5「恋人よ、あなたの甘美ないましめから」
激しく短い曲。
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6「最後の歌を、歌い終えて」
エンディグでの、森谷さんの、高音でのクレッシェンドが印象的。
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7「我が心よ、穏やかなれ」
弱音のオケの中、バリトンが格調高く歌う。第4曲とともに素敵な曲。
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全体として、なかなか演奏されない曲である理由が、なんとなく解った気がしたが、それでも、もっと、ライヴで演奏されてよい曲だと思ったのも事実。ユニークな曲だと思う。
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