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2022年6月12日 (日)

田部京子さん~~宗次ホール~充実のリサイタル

田部京子さんのリサイタルを、6月12日午後、名古屋の宗次ホールで拝聴した。

演奏曲は、ブラームスの3つの間奏曲、シューベルトの3つのピアノ曲(即興曲)、シューマンのピアノ・ソナタ第1番、というプログラム。

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1曲目のブラームス:3つの間奏曲 Op.117

第1曲の変ホ長調

宗次ホールは、浴室のような「ムワ~ン」と響く空間なのだが、その空間においても、田部さんの音は、全く動じることなく、いつもながらの「芯」のある充実した音で奏でられる。

この有名な温かな歌を、田部さんは曲想を誠実に表現しているだけでなく、あたかも、「ブラームスさん、私は今、この曲をこうして感じています」と語りかけ、対話をしているような温かい雰囲気を創り出していたと感じた。

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第2曲の変ロ短調

音の量と神秘感の増したこの曲を、今度は瑞々しい流れをもって表現して行く。アルペジオ的な、あるいはショパン的とも言える音の波状と螺旋。一種、アラベスク風な曲想を、雄弁な左手を含めた「両手による音楽」として、魅了的な演奏をされた。

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第3曲の嬰ハ短調

ユニゾンによる内省的な物語が開始する。中間部では、美しい高音を含めた、開放的で流動感ある、全く別の物語が始まり、そして最後に、再び内省的な曲想に戻る。これらの対比、色分けの見事さ。

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総じて、ブラームスは「新古典派」などと言う観念的な言葉とは無縁の、豊かなロマン派としての音楽であることを、田部さんは見事に示された。

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プログラム2曲目は、シューベルトの3つのピアノ曲(即興曲)D.946

第1曲の変ホ短調

パッションある開始から、喜び、そして穏やかな曲想、パッションある曲想の再現、等々、多くの要素に彩られた曲で、正に即興曲であることを証明するとともに、この曲が如何に優れた曲であるかを、田部さんは強い説得力を持って聴衆に伝えた。

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第2曲の変ホ長調

独白的な明るい歌から開始し、暗く揺れる心理変化を表す曲想に変わり、再び独白的な歌に戻るが、長調旋律では、より大らかな歌となり、短調部分では激しい心理を映し出す。このように、この曲も第1曲同様、多くの要素に満ちた曲なのだが、それらの場面に応じた表現と音の充実感が素晴らしかった。

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第3曲のハ長調

リズムによる躍動感と流麗さ。ゴージャスさも感じさせるスケール感。「アウフタクトの音楽」であることの強調と、シンコペーションの強調により、豪快ともいえる音楽を創り出した。

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3曲全体で感じたことは、「田部さんにとって、シューベルトは特別なものだ」、ということ。そして、「田部さんのシューベルトは、他の誰とも違う、田部さん独自の、特別なものだ」、ということだった。

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休憩後の後半は、シューマンのピアノ・ソナタ 第1番 嬰へ短調 Op.11

第1楽章

冒頭。「これぞシューマンの音」と思える深くて濃い音。ほどなく、曲想がガラッと変わり、いわば、「ちょっと変わった曲」になるのだが、田部さんはその変化に誠実に付き合う。いや、付き合うというより、まるで「あなたは変ではない。個性的なだけだ」、と言うかの如く、情熱的に、意思的に、献身的なまでに、この複雑で、情念に満ちた曲想を解きほぐして行く。

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第2楽章

「トロイメライ」を連想させもする曲想だが、もっと爽やかで瑞々しい曲想を美しく聴かせてくれた。

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第3楽章

スケルツォ楽章におけるリズム処理の見事さ。雄大なダイナミズムが素晴らしかった。

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第4楽章

リズム的要素とメロディアスな要素。その行き交い。複雑で多様な要素を、果敢に汲み上げ、掘り下げて行くアグレッシブ感が素晴らしい。多彩で複雑な構造を解き明かしていくのだが、それは、数理的な解析とかではなく、曲に内在する情念に寄り添い、情熱的なドラマに果敢に入り込んで行った結果としての、田部さんの内面からの解答であり、表現の提示なのだ。

しかも、ドラマの中に入って、情念を抉(えぐ)り出しつつも、同時に、常に、作品の構造全体を俯瞰して、理知的なコントロールを踏まえて演奏しているのが素晴らしい。

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ポリーニのことを「求道者のようなピアニスト」と評した人がいたが、質感は全く違うけれど、田部さんにも「求道者」という言葉を感じる。係る哲学的な表現を使用することが好ましいかどうかは別として、田部さんの演奏の底辺には、常にストイックな精神を感じる。

ストイックと言っても、聴衆に冷たさを感じさせることは皆無で、常に温かな音楽を届けてくれる、そういうストイックさなのだ。

この日に演奏されたシューマンのソナタ第1番は、世界中のどのホールで演奏しても絶賛されるに違いない、最高レベルという意味での第一級のシューマン演奏だったと確信する。

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アンコールの1曲目は、シューマンの「交響的練習曲」Op.13変奏4(遺作)。

哀感と幻想性のある、実に魅力的な曲。

この曲が終わって、いったんソデに下がり、再登場したとき、なんと、田部さんがステージで話し始めたので驚いた。

公開レッスンなら、シャベらなければ始まらないし、メゾの林美智子さんとの共演の際は、林さんからトーク(コメント)を振られ、シャベらない訳にはいかなかった、ということはあったが、ソロのリサイタルにおいて、アンコールタイムの中とはいえ、田部さんが、ステージで自ら客席に話しかけるのは、今まで、ほとんど無かったのではないか、と推測する。

田部さんは次のような内容の挨拶をされた。

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「本日はご来場いただき、ありがとうございます。今日は前半に、ブラームスとシューベルトを、後半は、シューマンの若いときの作品である、ソナタ第1番を弾きました。今、アンコールとして弾いた曲は、シューマンの「交響的練習曲」の変奏4、遺作という作品です。もう1曲、シューマンの歌曲をリストが編曲した「献呈」を弾かせていただき、本日の最後とさせていただきたいと思います。本日は、お越しいただき、ありがとうございました」。

そして、「献呈」の演奏。素晴らしい編曲による曲を、ロマン溢れる演奏によって、充実のリサイタルを締めくくられた。

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演奏曲

1.ブラームス:3つの間奏曲 Op.117

2.シューベルト:3つのピアノ曲(即興曲)D.946

3.シューマン:ピアノ・ソナタ 第1番 嬰へ短調 Op.11

アンコール

1.シューマン:「交響的練習曲」Op.13 変奏4(遺作)

2.シューマン:リスト編曲「献呈」

 

https://munetsuguhall.com/performance/general/entry-2950.html

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