合唱団やえ山組~バッハ ミサ曲ロ短調
若く優秀な合唱団に驚く
変わった(個性的な)団名なので興味があったのと、何より、バッハのロ短調ミサを演奏するというので、同団(組)の第10回演奏会を5月29日午後、ミューザ川崎シンフォニーホールで拝聴した。
指揮は、岩本達明さん。
非常に優れた合唱団。プロ合唱団は別として、アマチュアでこのレベルの合唱団は少ない。
合唱団員もオケ団員も皆若く、20代か30代中心と思われる。
ソプラノが17名、アルトが16名、テノールが12名、バスが13名と、バランスも抜群に良い。いわゆる「誰でもウェルカム」ではなく、スタンスとして人数を限定しているのだろう。むろん、それはそれで「あり」だ。
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合唱団結成のいきさつがプログラムにあり、それによると、「2008年、合唱団「青山組」は、「はこね学生音楽祭」で共演した「やえいシンガーズ」に感銘を受け、その後、ジョイントコンサートを重ね、2017年の第7回演奏会において、1つの合唱団とし、団名を「やえ山組」として再スタート。2017年、全日本合唱コンクール初参加にして初全国大会出場。翌2018年には、同コンクール混声合唱部門で2位金賞を受賞」とある。
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今回の「ミサ曲ロ短調」の演奏に関する私の感想概要は下記のとおりだが、このレベルに至ったのは、「数年がかりのプロジェクト」として、何年も準備を重ねてこられた結果であることを、「組長」(団長)の青山俊輔さんがプログラムに書かれている。
青山さんと指揮の岩本さんが、「バッハをやりたいですね」という前提がまずあり、ロ短調ミサをいきなりプログラムに乗せるのは大変なので、「モテット」をプログラムに組み込んだり、2019年以降は、ロ短調ミサの中から、少しずつ練習を重ねてこられたとのこと。そして、「ここ数年の集大成である本演奏会」に臨んだとのことだが、正に「ここ数年の集大成」の演奏であることを、この日、当団(組)を初めて聴いた私でも強く感じられたほど、素晴らしい演奏をされたのだった。
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オケの「やえ山シンフォニエッタ」は、2019年の全日本合唱コンクール時に結成した「やえ山組」専属のオケで、東京近郊のプロオケで活躍するメンバーを中心に構成される、とあり、今回は総勢で25名。いわゆるピリオド奏法による演奏だった。オルガンは山根友紀さん。
ソリストは、
ソプラノ:澤江衣里さん、中山美紀さん
アルト(カウンターテナー):上杉清仁さん
テノール:谷口洋介さん
バス:加耒 徹さん
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なお、ます、マスクについては、女声は6:4か7:3くらいの割合で着装していない人が多く、男声に至っては、着装している人は4名だけで、あとはノーマスク。やっとここまで来たか、と、このこと自体も感慨深い。
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演奏について
Kyrie eleison~は、伸びやかに開始。フレージングに工夫があり、深刻さよりも、丁寧な合唱に徹している。
Christe eleison~ソプラノの二重唱。爽やか。特に澤江さんが素晴らしいし、中山さんの安定感もステキ。
Kyrie eleison~2分の4拍子のKyrieは、速過ぎず、遅過ぎず、安定感ある合唱。
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Gloria in excelsis~キビキビ感がステキ。
Et in terra pax~落ち着いた演奏。Gloria in excelsisのキビキビ感からの変化(対比)の見事さ。
Laudamus te~中山さんによるソロ。テンポは割とキビキビ感があった。ヴァイオリンによるオブリガートも洒脱で良かった。
Gratias agimus tibi~落ち着いたテンポによる整然とした心地良さがある演奏。
Domine Deus~澤江さんと谷口さんによる二重唱。テンポはオーソドックス。
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Qui tollis peccata mundi~もたれない演奏。
Qui sedes ad dexteram Patris~カウンターテナーの上杉さんによる歌唱。
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Quoniam tu solus sanctus~バスによるアリアだが、加耒さんとしては、得意とする音域よりも低いと思われ、いささか苦しそうな歌唱だったが、凛とした感はあった。
Cum Sancto Spiritu~キビキビ感が良かった。
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(休憩)
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ニカイア信条(Symbolum Nicenum)
Credo in unum Deumも、続くPatrem omnipotentemも、軽やかで爽やかな合唱。
Et in unum Dominum~澤江さんと上杉さんによる二重唱。
Et incarnatus est~もたれない演奏。
Crucifixus~この曲も、もたれない、ノン・レガートによる演奏で、質感としては割とキビキビした感もあった。
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Et resurrexit~キビキビ感があって良かったが、バスのパートソロである「et iterum venturus~」の部分が、加耒さんによるソロとして歌われたのには、ガッカリした。
いや、加耒さんの歌唱はむろん見事だったが、この部分は、ロ短調ミサ全曲の中で、合唱団のバスパートの最大の難所にして、実力を示す最高の部分であり、その合唱団のバスパートが如何に充実した練習を積んできたか(あるいは、そうでないか)を示す(あるいは露呈する)最大最高の聴かせ場所なのだ。
「やえ山組」のバスパートなら、いとも容易に、完璧に歌い終えただろうと想像できるが、それを聴きたかった。とても残念。
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Et in Spiritum Sanctum~この曲の音域は、加耒さんに合っているので、格調高く、素敵だった。
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Confiteor~落ち着いたテンポでの丁寧なフレージング。各パートが明瞭に聞こえているのも素晴らしい。当然の事のようでいて、決して容易なことではない。
Et expect~歓喜をがよく表出された演奏。
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「Sanctus」は、ソプラノだけでなく、アルトも2つに分かれるし、Hosannaは、完全に2つの群に分かれるため、合唱団の配置転換が行われた。
前後するが、後半にソロとしての出番がない中山美紀さんは、「ニカイア信条」から合唱団に加わった。
Sanctus~もたれず、堂々とした瑞々しい演奏。
Pleni sunt coeli~キビキビ感。
Hosanna~とてもキビキビ感ある演奏。
Benedictus~谷口さんのソロ。誠実さを感じさせる歌唱。
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Agnus Dei~上杉さんのソロ。カウンターテナーによる、この曲も魅力的だが、名曲中の名曲ゆえに、アルトでも聴きたい、と思ってしまう。
Dona nobis pacem~Gratias agimus tibiと同じ音型、展開(再現)による曲を、落ち着いたテンポにより、堂々とした格調高い演奏で締めくくった。
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