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2022年5月29日 (日)

合唱団やえ山組~バッハ ミサ曲ロ短調

若く優秀な合唱団に驚く

変わった(個性的な)団名なので興味があったのと、何より、バッハのロ短調ミサを演奏するというので、同団(組)の第10回演奏会を5月29日午後、ミューザ川崎シンフォニーホールで拝聴した。

指揮は、岩本達明さん。

非常に優れた合唱団。プロ合唱団は別として、アマチュアでこのレベルの合唱団は少ない。

合唱団員もオケ団員も皆若く、20代か30代中心と思われる。

ソプラノが17名、アルトが16名、テノールが12名、バスが13名と、バランスも抜群に良い。いわゆる「誰でもウェルカム」ではなく、スタンスとして人数を限定しているのだろう。むろん、それはそれで「あり」だ。

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合唱団結成のいきさつがプログラムにあり、それによると、「2008年、合唱団「青山組」は、「はこね学生音楽祭」で共演した「やえいシンガーズ」に感銘を受け、その後、ジョイントコンサートを重ね、2017年の第7回演奏会において、1つの合唱団とし、団名を「やえ山組」として再スタート。2017年、全日本合唱コンクール初参加にして初全国大会出場。翌2018年には、同コンクール混声合唱部門で2位金賞を受賞」とある。

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今回の「ミサ曲ロ短調」の演奏に関する私の感想概要は下記のとおりだが、このレベルに至ったのは、「数年がかりのプロジェクト」として、何年も準備を重ねてこられた結果であることを、「組長」(団長)の青山俊輔さんがプログラムに書かれている。

青山さんと指揮の岩本さんが、「バッハをやりたいですね」という前提がまずあり、ロ短調ミサをいきなりプログラムに乗せるのは大変なので、「モテット」をプログラムに組み込んだり、2019年以降は、ロ短調ミサの中から、少しずつ練習を重ねてこられたとのこと。そして、「ここ数年の集大成である本演奏会」に臨んだとのことだが、正に「ここ数年の集大成」の演奏であることを、この日、当団(組)を初めて聴いた私でも強く感じられたほど、素晴らしい演奏をされたのだった。

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オケの「やえ山シンフォニエッタ」は、2019年の全日本合唱コンクール時に結成した「やえ山組」専属のオケで、東京近郊のプロオケで活躍するメンバーを中心に構成される、とあり、今回は総勢で25名。いわゆるピリオド奏法による演奏だった。オルガンは山根友紀さん。

ソリストは、

ソプラノ:澤江衣里さん、中山美紀さん

アルト(カウンターテナー):上杉清仁さん

テノール:谷口洋介さん

バス:加耒 徹さん

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なお、ます、マスクについては、女声は6:4か7:3くらいの割合で着装していない人が多く、男声に至っては、着装している人は4名だけで、あとはノーマスク。やっとここまで来たか、と、このこと自体も感慨深い。

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演奏について

Kyrie eleison~は、伸びやかに開始。フレージングに工夫があり、深刻さよりも、丁寧な合唱に徹している。

Christe eleison~ソプラノの二重唱。爽やか。特に澤江さんが素晴らしいし、中山さんの安定感もステキ。

Kyrie eleison~2分の4拍子のKyrieは、速過ぎず、遅過ぎず、安定感ある合唱。

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Gloria in excelsis~キビキビ感がステキ。

Et in terra pax~落ち着いた演奏。Gloria in excelsisのキビキビ感からの変化(対比)の見事さ。

Laudamus te~中山さんによるソロ。テンポは割とキビキビ感があった。ヴァイオリンによるオブリガートも洒脱で良かった。

Gratias agimus tibi~落ち着いたテンポによる整然とした心地良さがある演奏。

Domine Deus~澤江さんと谷口さんによる二重唱。テンポはオーソドックス。

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Qui tollis peccata mundi~もたれない演奏。

Qui sedes ad dexteram Patris~カウンターテナーの上杉さんによる歌唱。

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Quoniam tu solus sanctus~バスによるアリアだが、加耒さんとしては、得意とする音域よりも低いと思われ、いささか苦しそうな歌唱だったが、凛とした感はあった。

Cum Sancto Spiritu~キビキビ感が良かった。

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 (休憩)

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ニカイア信条(Symbolum Nicenum)

Credo in unum Deumも、続くPatrem omnipotentemも、軽やかで爽やかな合唱。

Et in unum Dominum~澤江さんと上杉さんによる二重唱。

Et incarnatus est~もたれない演奏。

Crucifixus~この曲も、もたれない、ノン・レガートによる演奏で、質感としては割とキビキビした感もあった。

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Et resurrexit~キビキビ感があって良かったが、バスのパートソロである「et iterum venturus~」の部分が、加耒さんによるソロとして歌われたのには、ガッカリした。

いや、加耒さんの歌唱はむろん見事だったが、この部分は、ロ短調ミサ全曲の中で、合唱団のバスパートの最大の難所にして、実力を示す最高の部分であり、その合唱団のバスパートが如何に充実した練習を積んできたか(あるいは、そうでないか)を示す(あるいは露呈する)最大最高の聴かせ場所なのだ。

「やえ山組」のバスパートなら、いとも容易に、完璧に歌い終えただろうと想像できるが、それを聴きたかった。とても残念。

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Et in Spiritum Sanctum~この曲の音域は、加耒さんに合っているので、格調高く、素敵だった。

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Confiteor~落ち着いたテンポでの丁寧なフレージング。各パートが明瞭に聞こえているのも素晴らしい。当然の事のようでいて、決して容易なことではない。

Et expect~歓喜をがよく表出された演奏。

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「Sanctus」は、ソプラノだけでなく、アルトも2つに分かれるし、Hosannaは、完全に2つの群に分かれるため、合唱団の配置転換が行われた。

前後するが、後半にソロとしての出番がない中山美紀さんは、「ニカイア信条」から合唱団に加わった。

Sanctus~もたれず、堂々とした瑞々しい演奏。

Pleni sunt coeli~キビキビ感。

Hosanna~とてもキビキビ感ある演奏。

Benedictus~谷口さんのソロ。誠実さを感じさせる歌唱。

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Agnus Dei~上杉さんのソロ。カウンターテナーによる、この曲も魅力的だが、名曲中の名曲ゆえに、アルトでも聴きたい、と思ってしまう。

Dona nobis pacem~Gratias agimus tibiと同じ音型、展開(再現)による曲を、落ち着いたテンポにより、堂々とした格調高い演奏で締めくくった。

2022年5月28日 (土)

新海康仁さん&高橋健介さん~Duo Concert

多くのオペラ公演で(カヴァーも含めて)活躍をされているテノールの新海康仁さんのリサイタルを、5月28日午後、駒込のソフィアザール・サロンで拝聴した。ピアノは、高橋健介さん。

ストレートで混じりけのない美声を集中して聴かせていただいた。

プログラムは下記のとりで、前半では、チマーラの「郷愁」が曲も歌唱もステキだったほか、「魔笛」の「なんと美しい絵姿」は、新海さんの声に合っていると思う。

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後半が特に素晴らしく、全て良かったし、曲に関しても、「暁は光から」、「ああ、父の手は」、「快楽の宴、ガラスのような眼をしたキメラ」が印象的。そして、「心に炎が燃える」を聴くと、「シモン・ボッカネグラ」が如何に魅力的なオペラであるかが理解でき、新海さんも、この日の総仕上げ的な、充実の歌唱だった。

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プログラム

第1部

1.スカルラッティ:「陽は既にカンジス川から」

2.ベッリーニ:「3つのアリエッタ」より

 (1)激しい希求

 (2)フィッリデの悲しげな姿よ

 (3)優雅な月よ

3.チマーラ:「郷愁」

4.レスピーギ:「最後の陶酔」

5.レオンカヴァッロ:「朝の歌」

6.ピアノのソロで~ブラームス:「五月の歌」

7.R・シュトラウス:「万霊節」

8.モーツァルト:歌劇「魔笛」より

  「なんと美しい絵姿」

 (休憩)

9.トスティ:「暁は光から」

10.ヴェルディ:「哀れな男」

11.ヴェルディ:歌劇「マクベス」より「ああ、父の手は」

12.ピアノのソロで~マスカーニ:

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」~間奏曲

13.プッチーニ:歌劇「エドガール」より

  「快楽の宴、ガラスのような眼をしたキメラ

14.ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」

  「心に炎が燃える」

アンコール

1.カタリカタリ

2.シチリア民謡「Abballati(さあ、踊れ)」

2022年5月27日 (金)

森谷真理さん&大西宇宙さん~Viva Verdi! Ⅱ中期

正に圧巻だった。こういう大仰な表現は極力控えたいが、特にプログラムの後半は、そうとしか言い様のないデュオ・ステージだった。

トッパンホールにおける森谷真理さんの“ヴェルディ・プロジェクト”第2弾は、「Viva Verdi! Ⅱ中期」と題され、武蔵野音楽大学の後輩で、「先輩、真理さんを追いかけて、留学先をアメリカに決めた」というバリトンの大西宇宙(たつおき)さんとのデュオ公演。5月27日夜、同ホールで拝聴した。

2人の共演は今回が初めてとのこと。

プログラムはタイトルどおり「オール・ヴェルディ・プログラム」で、ピアノは、河原忠之さん。

以下、短い感想を記しながら、プログラムをご紹介したい。

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1.森谷さんのソロ~エレーナ役

歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より

(1)「アリーゴよ!ああ、心に語れ」

(2)「ありがとう、愛する友よ」

森谷さんの低音の厚みと、高音のキラキラ感がステキだ。

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2.大西さんのソロ~レナート役

歌劇「仮面舞踏会」より

(1)「希望と喜びに満ちて」

(2)「立て!~お前こそわが魂を汚す者」

HakujuでのTRAGIC TRILOGY「椿姫」のときも書いたが、大西さんは、とにかく声量が凄い。こんなに声量のある日本人バリトンは稀かと思う。ただただ聴き惚れてしまう。

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3.アメーリア:森谷さん、シモン:大西さん

歌劇「シモン・ボッカネグラ」より

「貧しい一人の女に~娘よ、その名を呼ぶだけで」

森谷さんは、この二重唱では、繊細さも感じさせてくれた。

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(休憩)

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4.ヴィオレッタ:森谷さん、ジェルモン:大西さん

歌劇「椿姫」より

「神様は私に、天使のような娘を~美しく清らかなお嬢さんに」

森谷さんは、メゾのような情感豊かな表現力による、正に「泣き」「泣かせ」の歌声。哀感と繊細。

「ドラマティックな森谷さん」というイメージとは全く異なるトーンと表現力で、別の森谷さんを聴かせてくれて見事で、素晴らしかった。表現力、感情移入の素晴らしさという点で、この日の白眉。

大西さんも声量を抑え、役どころの、クールながらも揺れる心を示された歌唱だった。

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5.レオノーラ:森谷さん、ルーナ:大西さん

歌劇「トロヴァトーレ」より

(1)「君の微笑みの妙なる輝きは」

この曲で、大西さんは、声量を戻して、「らしさ」を感じさせる歌唱。

(2)「聞いたかな、朝ともなれば~命は助かったと」

2人による求心力あるデュオ。

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6.ジルダ:森谷さん、リゴレット:大西さん

歌劇「リゴレット」より

「いつも日曜に教会で~娘よ、お泣き~復讐だ」

大西さんは、前半では声量を抑え、しかし、ジェルモンのときのようなクールさではなく、情感豊かに歌い、大西さんとしては、この日、「一番の美声」だった。正にベルカント。素晴らしい。

後半では、声量を戻し、森谷さんともども、情感と伸びやかさで魅了した。

2人とも、十分な感情移入にあっても、2人が冷静に自らをコントロールしているのも解る。その完成度の高さ。

2人とも、前半から後半の「トロヴァトーレ」までの各曲において示された様々な良さ、トーン、表現等の集大成のようなデュオだった。

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アンコール

1.森谷さんのソロで、ヴェルディ「マクベス」より

 「早く来て、あかりをつけておくれ~今こそ立て、皆のもの」

  迫力、トーンの魅力、圧巻。

2.大西さんのソロで、ヴェルディ「椿姫」より

「プロヴァンスの海と陸」

温かく、格調高く、素敵。

3.ヴェルディ「椿姫」より「花から花へ」

まず、森谷さんがステージで歌い出し、大西さんによるアルフレードの呼応は、客席の後扉から入って来て、驚くほどの声量で歌われた。この日、最大の声量かもしれない。

もちろん、森谷さんも素晴らしく、この圧巻フィナーレに会場は興奮し、スタンディングオベーション。

素晴らしいデュオ公演に感謝し、最大の賛辞贈りたい。

 

2人へのインタビュー

https://www.toppanhall.com/archives/voice/bn_085.html

2022年5月26日 (木)

宮地江奈さん~ミニコンサート

今年2月の「フィガロの結婚」で、スザンナ役を歌われ、その「役にハマリ感」が印象的でファンになり、翌3月、東京オペラシティでの「明日を担う音楽家による特別音楽会」では、情緒的で個性的なヴィオレッタを聴かせてくれた宮地江奈さんのミニ・コンサートを、5月25日夜、大塚の「音楽堂 anoano」で拝聴した。ピアノは作曲家として活躍著しい宮本正太郎さん。

演奏曲は下記記載のとおりで、「ミニ」なので、休憩なしの約1時間のコンサートだったが、至近距離で、聴けて良かった。

歌声に艶と温かな厚みがあり、何より、感情移入による情感が、ストレートに聴衆に届く感じがして、とても魅力的。

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残念だったのは、コンクールの本選が近いとのことで、主催者の「大事をとって」という判断により、「終演後の挨拶(会話)はナシ(NG)」とされたこと。やっと直に、スザンナとヴィオレッタの賛辞を伝え、初対面の挨拶ができると思って会場に行ったので。

宮地さんも、「こんなにオシャベリな私が、皆さん、お一人、お一人とお話できなくて残念で、申し訳ない」と挨拶された。事情が事情なのでやむを得ないので、ご挨拶する機会は後日の楽しみとしておきたい。

それでも、数メートルの距離で、宮地さんを聴けて嬉しかったし、とても魅力的な歌手であることを確信し、益々ファンになった次第だった。曲目は以下のとおりで、短い感想を添えさせていただく。

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1.プッチーニ:歌劇「つばめ」より「ドレッタの夢」

ユーチューブでも拝聴していたが、情感豊かな声の魅力と完成度の高さがステキ。

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2.武満 徹:「小さな空」

同じく、ユーチューブでも拝聴していたが、直に、大好きな曲を聴けた喜びを感じた。

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3.小林秀雄:「落葉松」

同じく、ユーチューブでも拝聴していたが、直に聴けて良かった。

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4.宮本正太郎:「窓のとなりに」

宮本正太郎さんの合唱曲、混声合唱のための《となり》の第2曲「「窓のとなりに」を、今回、宮地さんのためにソロ用に書き下ろされたとのこと。初演。

谷川俊太郎さんの詩とともに、印象的な、叙情的なステキな歌だった。

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5.三善 晃:「四つの秋の歌」より「林の中」

これも、三善さん独特の「絶対抒情」と言えるような印象的な曲。

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6.中田喜直:魚とオレンジ」より

(1)第1曲「はなやぐ朝」

(2)第7曲「祝辞」

(3)第8曲「らくだの耳から」

宮地さんによる、歌う前の解説が印象的だったし、確かにハッピーとは別物の意味深さを「祝辞」のエンディグや、「らくだの耳から」から感じられた。印象的という意味では、この日の白眉とも言える選曲。

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アンコール

プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」より

「私が街を歩くと」~ムゼッタのワルツ

数日前に、島根県で歌われた曲でもある。とても魅力的なムゼッタだった。

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主催者も、「いつか、大きなホールで、ミニでない(2時間の)リサイタルを検討したい」とのことなので、今から心待ちする次第。

ウクライナ応援コンサート

5月25日午後、三鷹芸術文化センターの風のホールで、ウクライナ出身のオペラ歌手、オクサーナ・ステパニュックさんを「徹底的に」「集中して」聴かせていただいた。

オクサーナ・ステパニュックさんは、2003 年に初来日して以来、日本国内で500 回以上のソロ・リサイタルを行い、現在は日本に居住し、藤原歌劇団団員。2011年には、ウクライナ功労芸術家受賞を受賞されている。東日本大震災後後は、各地で多数のチャリティーコンサートを開催されている。

その、オクサーナさんによるリサイタルのような内容で、ウクライナ応援コンサートが開催された。

ピアノは、比留間 千里さん。

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多くの曲のエンディングで、高音のロングトーンをクレッシェンドして劇的に歌い終えるのが、セールスポイント(ウリ)のようで、実際、見事で素晴らしかった。

プログラムは以下のとおりだが、2曲目以降は、歌う前に、流暢と言ってよいレベルの日本語で、曲の概要を伝えてから歌われた。

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第一部

オクサーナさんが赤いドレスで登場。

1.ウクライナ国歌

ウクライナ国歌は、純粋に音楽としても哀感と格調高さある。

2.スクーリク作曲「メロディー」

歌詞のないヴォカリーズで、情熱的な曲。最後のロングトーン&クレッシェンドが見事だった。

3.ヴェルメニチ作曲「金色の花」

この曲も、最後はロングトーン&クレッシェンド。

4.コスアナトリスキ作曲「私の魂」

叙情的な曲で、最後はロングトーン&クレッシェンド。

5.シャモー作曲「ニュプロスキーワルツ」~情熱的な歌。

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6.ピアノソロで、マンシーニ作曲「ひまわり」

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オクサーナさんは、黒系統のドレスに着替えて登場。

日本語による歌唱。どれも立派な(違和感のない)日本語による歌唱だった。

7.成田為三作曲「浜辺の歌」

「日本に来て、最初に覚えた日本の歌」とのこと。

8.新井 満 作曲「千の風になって」(編曲:鈴木豊乃)

「今回、どうしても歌いたかった」とのこと。理由は最後に分かった。

9.いずみたく作曲「見上げてごらん 夜の星を」

「日本(語)の曲で、一番好きな歌」とのこと。

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(休憩)

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第二部の開始に先立って、オクサーナさんの夫(キーウ生まれ)と、ウクライナを支援している加藤さんとう男性によるトーク。

加藤さんは、先日まで、ウクライナおよびポーランドに、支援物資を持って行き、帰国して間もないとのこと。ウクライナ国内のシビアな状況が聞けた。

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第二部

オクサーナさんが黄色(クリーム色系)のドレスに、スカートのようにまとった青の着衣で登場。言うまでもなく、ウクライナの国旗の色だ。

1.「Grazie」

編曲と、この曲のピアノ伴奏は鈴木豊乃さん。

2.シューベルト作曲「アヴェ・マリア」

3.ヴァヴィロフ作曲「カッチーニのアヴェ・マリア」

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4.ピアノソロで、ショパン作曲「ノクターン」遺作

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オクサーナさんが金色のドレスで登場。

5.ベッリーニ作曲 歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」より

   「ああ、幾たびか」~叙情的な曲。

6.ベッリーニ作曲 歌劇「ノルマ」より「清らかな女神よ」

しっとりと聴かせてくれた。

7.ベネディクト作曲「ヴェネツィアの謝肉祭」

長大で、コロラトゥーラ技巧を盛り込んだ難しそうな、でも素晴らしい曲を、見事に歌い、圧巻だった。正に、この日の白眉。

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客席は、スタンディングオベーション状態。

オクサーナさん~「会場に、秋川雅史さんがいらっしゃいます。どうぞ、ステージに来てください」。

会場は驚き、更に沸く。

秋川さん~「後ろで、ずっと聴かせていただき、イチ聴衆として感動していました。ウクライナは今、大変な状況ですが、ずっと応援していきます。オクサーナさんとは、年内に、何回か共演する予定もあります」と挨拶。「2人で何か歌いますか」として、

2人で、

1.カンツォーネ「忘れな草」

2.Time To Say Goodbye

会場は沸きに沸いた状況で、コンサートが終了した。

2022年5月24日 (火)

ソフィー・デルヴォー~ファゴット・リサイタル

ステージに出てきて直ぐ思ったのは、「カッコイイ」。

吹いている顔も可愛い。

って、いきなり外見かぁ~(笑)

話題のファゴット奏者、ソフィー・デルヴォーさんのリサイタルを5月24日夜、紀尾井ホールで拝聴した。5会場で行われた来日リサイタルツアーの最終回でもある。

ピアノは1992年フランス生まれのセリム・マザリ氏。

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フランス人のデルヴォーさんは1991年生まれの若さにして、2015年からウィーン・フィルとウィーン国立歌劇場管弦楽団の首席ファゴット奏者を務めており、その前は、ベルリン・フィルの首席コントラファゴット奏者を務めていた、という仰天するような経歴の持ち主。

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優秀なことは間違いないが、ウィーン・フィルもベルリン・フィルも、女性に対して門を閉ざしていた時代が長くあり、ベルリン・フィルが先んじて、徐々に女性団員が増えていったが、そのころでも、ウィーン・フィルは依然として閉ざしており、某幹部など、「女性奏者は要らない」と公言していたくらいだ。

デルヴォーさんが、そうした時代に成人にならずに、本当に良かったと思う。優秀でも、女性というだけで入団できなかったのだから。

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2020年1月、コロナ禍直前に来日したフィルハーモニア管弦楽団の首席ファゴット奏者も美人で、しかも「春の祭典」を演奏したから、否応なく話題になった。

男女を問わず、器楽、声楽を問わず、今は若く優秀な音楽家が多い時代だし、日本のアマオケでさえ、「春の祭典」の冒頭のハイCを「別に、普通に吹けます」というファゴット奏者は多くいる時代だ。

そうした状況の中においても、ベルリン・フィルとウィーン・フィルに首席で入団し、外国でソロ・リサイタルを開けるファゴット奏者は、稀なほどの実力と幸運の持ち主に違いない。

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客入りは、7~8割くらいだったが、若い人を中心に、それも女性が多く来場していた。管楽器をやっている人も少なからず来場していたと想像する。

なお、デルヴォーさんは、1曲が終わると、ユジャ・ワンと同じように、深々とお辞儀するステージマナーにも好感が持てた。

前置きが長くなったが、以下、曲順に短いコメントを添えて記載したい。

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1.モーツァルト:ファゴット・ソナタK.292

原曲は、チェロとファゴットのためのソナタ。

ソフトな音色と安定感抜群の演奏。難しい楽器のハズだが、そんなことは全く感じさせない。

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2.テレマン:ファゴット・ソナタ へ短調 TWV 41:f1

テレマン(1681~1767)のこの曲は初めて聴いたが、とても魅力的な曲なので、驚き、嬉しくなった。

まるで「演歌」のように始まる第1楽章と、同様にメランコリックな第3楽章がステキで、キビキビ感だる第2楽章と第4楽章の対比も面白かった。

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3.ピアノソロで、シューマン:「ウィーンの謝肉祭の道化」より

間奏曲、フィナーレ

自然な流動感と果敢な演奏ではあったが、基盤にはエレガントさも感じた。

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4.シュレック:ファゴット・ソナタ 作品9

グスタフ・シュレック(1849~1918)が1880年代に書いたと言われる3楽章制の作品で、後期ロマン派らしく、第1楽章と第2楽章は、とてもロマンティックで素敵だった。

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 (休憩)

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5.ドビュッシー:月の光

2人にとって、いわば「お国もの」を、しっとりと聴かせてくれた。

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6.ビッチュ:コンチェルティーノ

マルセル・ビッチュ(1921~2011)は、コンセルヴァトワール(パリ音楽院)に学んだ人。この曲は1948年に作曲。前半はメランコリックな感じだが、後半はラプソディのような曲想で、とても技巧的な曲。今回のプログラム中、最も技巧的な曲だったと思う。

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7.ピアノソロで、プーランク:3つのノヴェレッテ

特に3曲目が、和音も含めて、いかにもプーランクらしくて、素敵だった。

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8.サン=サーンス:ファゴット・ソナタ ト長調 作品168

洒脱な第1楽章。スケルツォの第2楽章。第3楽章は、のんびりと独り言を言うかのように始まり、基本的には同様なテイストが続いた後、最後はテンポアップして終わる、親しみ易い曲だった。

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アンコール

1.アーン:「クロリスへ」(編曲:C.コロンボ)

有名な歌曲をしっとりと聴かせてくれて、編曲も含めて素晴らしかった。

2.ドビュッシー:「美しき夕暮れ」(編曲:S.デルヴォー)

静かな余韻により、この日の、そしてデルヴォーさんの来日リサイタル最終日のコンサートが終わった。

 

https://www.amati-tokyo.com/performance/2204181953.php

 

レコーディングについての語りと演奏シーン有

https://www.hmv.co.jp/artist_Bassoon-Classical_000000000058550/item_Impressions%E3%80%9C%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%A8%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86-%E3%82%BD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%80%81%E3%82%BB%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%B6%E3%83%AA_11879489

2022年5月22日 (日)

「イル・デーヴ」IL DEVU~「Hakuju場所」公演

男声ユニット「IL DEVU」(イル・デーヴ)が、2011年のデビュー以来、満10年が経ち、11年目に入るこの時期のコンサートを5月22日午後、Hakuju Hallで堪能した。

重量級クラシック・ボーカル・グループ「IL DEVU」は、テノールの望月哲也さんと大槻孝志さん、バリトンの青山 貴さんとバスバリトンの山下浩司さんという、それぞれが大活躍されているオペラ歌手4人と、これまた歌手の伴奏を中心に大活躍のピアニスト河原忠之さんとによる「巨漢衆アンサンブルユニット」で、「体重が90kgを割ったら強制退団」という「内規」があるらしい(笑)。ユニット名は、海外で人気の「IL Divoイル・ディーヴォ)」をモジってのネーミング(に違いない)。

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この10年間に、全国で77の公演をされたとのこと。私はデビュー時から応援していて、今回は5回目くらいの拝聴かと思うし、リリースされた3つのCDも、もちろん持っている。

終わり近く、「You are so beautiful」を紹介するときに、大槻さんが語られたように、デビューされたころは、オペラ歌手によるアンサンブルユニットは珍しい存在だったし、それだけユニークだったが、10年経過した今、ファンからすると、この形態自体、むしろ「自然」であり、空気の如く「存在するのは当たり前」であり、「重要で、貴重で、楽しみな音楽活動をされる存在」と言いたい。

以下、プログラムを記載し、短いコメントを添えさせていただく。

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幕開けは、「愛すべき歌」と題してのソロステージ

1.望月さん~レオンカヴァッロ:「朝の歌」

   伸びやかで豪快な歌唱。

2.大槻さん~ラフマニノフの12の歌(op.14)より

  第8曲「ああ、悲しまないで」

   バリトンのような厚みと哀感のある格調高い歌唱。

3.青山さん~信長貴富:「ヒスイ」

   温かな美声。最後のロングトーンも素晴らしい。

4.山下さん~マーラー「リュッケルト歌曲集」より

   第5曲「私はこの世に捨てられて」

   詩の語りがそのまま歌になっている見事さ。

5.河原さんのピアノソロで、

  「赤とんぼ~ノスタルジア」(編曲:戸田 愛)

   アレンジがユニークで素敵。

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4人による「ア・カペラ」~音出しと指揮=河原さん

1.「埴生の宿」

2.「アメイジング・グレイス」

3.「ソーラン節」

この3曲では、とりわけ「ソーラン節」が豪快で楽しめた。

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(休憩後)

「アルバム・ステージ」

1.ファーストアルバム「DEBUT」より

(1)シューベルト:「シルヴィアに」

(2)ロイド=ウェバー:「ピエ・イエズ」

2.セカンドアルバム「NUKUMORI」より

(1)木下牧子:「さびしいカシの木」

(2)BEGIN:「涙そうそう」(編曲:森田花央里)

3.サードアルバム「LOVE CHANGES EVERYTHING」より

(1)菅野よう子:「花は咲く」(編曲:森田花央里)

(2)三木たかし:「アンパンマンのテーマ」(編曲:内門卓也)

どれもステキだったが、とりわけアレンジが見事だったのが、「花は咲く」と「アンパンマンのテーマ」。

それにしても、ロイド=ウェバーの「ピエ・イエズ」は本当に素晴らしい曲で、いつ聴いても「ジーン」と来る。

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「私のとっておき」~各人1曲を選び、全員で歌う

1.山下さんの選曲で~木下牧子:「鷗」(カモメ)

   ステキな曲。

2.河原さんの選曲で~中島みゆき:「糸」(編曲:信長貴富)

   アレンジが良かった。

3.大槻さんの選曲で~「You are so beautiful」(編曲:森田花央里)

   しっとりとして、素敵だった。

4.望月さんの選曲で~松村崇継「いのちの歌」

   名曲。歌詞も良いですね。

5.青山さんの選曲で~ルヴォー:「マイ・ウェイ」

   この曲で締めくくって正解。会場を温めた。

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アンコール

1.「パセラ」

「イル・デーヴ」と言えばこの曲。素晴らしい。

2.「ケ・セラ・セラ」

アレンジも含めて素敵。

 

https://hakujuhall.jp/concerts/detail/3162

 

ファーストアルバム

https://www.amazon.co.jp/DEBUT-DEVU/dp/B00F4R1L34

 

セカンドアルバム

https://www.amazon.co.jp/NUKUMORI-DEVU/dp/B011PK8JMO

 

サードアルバム

https://www.amazon.co.jp/LOVE-CHANGES-EVERYTHING-DEVU/dp/B08CWG63MH

 

ご参考ユーチューブ

「パセラ」

https://www.youtube.com/watch?v=gIiCat2u8tg

 

ご参考ユーチューブ

「見上げてごらん夜の星を」

https://www.youtube.com/watch?v=XCupgJ2ccPw

 

2022年5月21日 (土)

アンサンブルセバスチャン&岡田 愛さん室内楽コンサート~混声合唱団「ベーレンコール」との初共演

昨年に引き続き、「アンサンブルセバスチャン」によるコンサートを5月21日午後、長野県塩尻市のレザンホール(中ホール)で拝聴した。

「アンサンブルセバスチャン」は、ピアニストの木内 栄さんを中心に、1995年に結成された弦楽アンサンブルで、長野県内外で活躍するプロの音楽家、県内オーケストラの団員から構成される。毎回、演奏曲により、管打楽器を加えた室内管弦楽団としてのコンサートを2008年から、このホールで開催している。

指揮は、音楽監督の山田哲男さん。

私が拝聴するのは3回目で、きっかけは、長野市出身のソプラノの岡田 愛さんを知ってからだが、塩尻市は、私の亡き両親の故郷でもある、という嬉しい偶然が重なり、レザンホールでのコンサートを楽しませていただいている。

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プログラムは下記のとおりだが、今回は、混声合唱団「ベーレンコール」との初共演があり、後述のとおり、これが素晴らしい内容だった。

<演奏曲>

1.ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調 RV.213

   第1ヴァイオリン:平波智映、第2ヴァイオリン:平波華映

2.バッハ:ミサ曲 ヘ長調 BWV.233

   合唱:ベーレンコール

   ソプラノ:岡田 愛  バリトン:松島誠治

3.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV.1050

   チェンバロ:木内 栄  フルート:丸山貴菜 Violinソロ:平波智映

 (休憩)

4.モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」より

 (1)序曲 (2)「三尺、四尺~」 (3)「奥方様からお呼びの時は」

(4)「もう飛ぶまいぞ この蝶々」 (5)「恋とはどんなものかしら」

  フィガロ:松島誠治 スザンナ、ケルビーノ:岡田 愛

5.モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299

   フルート:丸山貴菜  ピアノ:木内 栄

アンコール~合唱、ソリストを含む出演者全員で

モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス

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1曲目の、ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調は、初めて聴いたが、明るくて、とてもステキな曲。塩尻市在住の平波姉妹~姉の智映さんは桐朋学園大学卒、妹の華映さんは武蔵野音楽大学卒~による演奏は、トーンの違いも含めて楽しませていただいた。

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2曲目が、バッハ:ミサ曲 ヘ長調 BWV.233

先述のとおり、合唱団「ベーレンコール」との初共演で、女声が12名、男声が8名の計20名の合唱団。この曲の指揮は、「ベーレンコール」の音楽監督である中村雅夫さん。

特にテノール4名とバス4名による男声のトーンがソフトで、音量バランスが良く、無理のない発声にして、完璧な音程で素晴らしかったし、女声も特にソプラノ(たぶん6名、ないし5名)の伸びのある歌声がステキだった。アルトも安定感が良かった。

また、少人数とはいえ、マスク無しでの合唱は、聴くだけでなく、見ているだけでも~久々なので~嬉しくなった次第。

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「ベーレンコール」は1984年、中村雅夫氏を中心に結成され、現在は松本市を中心に活動。古典から現代まで全般的な合唱音楽に取り組み、特にプーランクをはじめとする近代フランスの合唱曲、武満徹、三善晃をはじめとする現代邦人作品を多く取り上げているとのことで、昨年は、全日空合唱コンクール中部大会で金賞を獲得されているから、なるほど、と納得のレベルと演奏内容だった。

私が、もし長野県在住者なら、ぜひ入団させていただきたいと思うくらい、この合唱団が好きになった。今後、またいつか、聴かせていただける機会を楽しみにしたい。

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ミサ曲 ヘ長調 BWV.233は、初めて聴いたが素晴らしい曲で、合唱による「Kyrie」、「Gloria」、バリトンソロの「Domine Deum」、ソプラノソロの「Qui tollis」、アルトソロの「quoniam」、合唱の「Cum Sancto Spiritu」から構成される。

「Gloria」は明るくて快活で素晴らしい合唱曲。

バリトンの松島誠治さんによる「Domine Deum」での端正な歌唱、岡田 愛さんによる「Qui tollis」も瑞々しい歌唱だったが、驚いたのは、アルトのソロとされる「quoniam」も愛さんが歌われたことで、ヴァイオリンのソロと通奏低音のみの伴奏による曲を、正に情感深いメゾの声で歌われて見事だった。これは、後述するケルビーノでのテイスト感と共通する。

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前半最後は、バッハのブランデンブルク協奏曲第5番

長い間合いをとった入念なチェンバロ調律の後に演奏された。

チェンバロの木内 栄さんによる長大なカデンツァ部分や、終始、愉悦間ある丸山貴菜さんのフルート演奏。

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後半の最初は、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」特集。

見事なアンサンブルを示した抜群な演奏による「序曲」

フィガロ役の松島誠治さんによる「三尺、四尺・・・」。愛さんが加わっての「奥方様からお呼びの時は」。フィガロの「もう飛ぶまいぞ この蝶々」。

とりわけ印象的だったのが、ズボン姿に着替えてのケルビーノのアリア、「恋とはどんなものかしら」を岡田 愛さんが歌われたことだ。いつもながらの清らかなソプラノの声とは違って、先述のミサ曲での「quoniam」同様、ヴィブラート多めの、この役に相応しいトーンによる歌唱は、とてもステキだった。

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プログラム最後は、

モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲 ハ長調

ハープではなく、木内 栄さんのピアノと丸山貴菜さんのフルートによる演奏だが、なるほど、ハープとピアノには、アルペジオという共通した要素があるので、違和感は全く無かった。

丸山貴菜さんのフルートが、温かく明るいトーンで、実に魅力的だった。優秀なフルート奏者。名演だと思う。

それにしても、素晴らしい曲だ。様式的なユニークさも含めて、モーツァルトの最高傑作の一つだと思う。

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アンコールは、「ベーレンコール」が再登場され(今度はマスクをされたままだったのは、休憩時間での着装のまま、ということだろう)、岡田 愛さん、松島誠治さんも加わって、出演者全員での、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。

これまた、正に天国的な曲という点で、単純な和声と進行ながら、モーツァルトの最高傑作の一つ。

「全て、偉大なものは単純なのだ」。

これからも、毎年この時期の、このシリーズが楽しみだ。

2022年5月19日 (木)

長谷川陽子さん~デビュー35周年記念公演 ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲演奏会

長谷川陽子さんのデビュー35周年記念リサイタルを5月19日夜、東京文化会館小ホールで拝聴した。

ファンクラブでは、私を含めた会員は皆、「陽子さん」と呼ばせていただいているので、この投稿文でも、以下そうさせていただく。

会場は満員御礼状況。もちろん、1~2年前のような「一席空け」ではなく、通常入りでの、ほぼ満席。さすが、人気チェリストによる記念リサイタルで、その状況自体も、とても嬉しかった。

曲目は、なんと、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ5曲全曲を一夜で演奏する、という意欲的なプログラムであり、今月25日のCD発売に先駆けてのリサイタルでもある。会場ロビーでは、あらかじめ陽子さんがサインしたフォト付きのCDが先行販売されており、当然、私も購入した。

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ピアノは名手、松本和将(かずまさ)さんで、私は、情熱的な演奏をする松本さんも昔から大好きで、CDにサインをいただいたこともある。最近の松本さんは、前橋汀子さんなど、多くの奏者と室内楽を演奏されているし、多くの歌手のリサイタルでも共演するなど、ソロ活動以外でも、とても活躍されている。その点でも期待できたし、後述のとおり、期待に違わず、素晴らしい演奏だった。

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前半は、第1番、第2番、第4番を演奏されたが、1曲が終わると、2人は拍手に応えてお辞儀を1回するだけで、すぐに~軽く調弦(音程を確かめる程度)をして~次の曲に移る、という進行。各曲、特別に長くはないとはいえ、精神的集中力と体力面でも、決して楽ではない構成と展開だった。

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1曲目のソナタ第1番 ヘ長調 作品5の1

気負いのない、自然体で丁寧なアプローチによる演奏には、常に若々しさと大らかさと「詩」があり、その安定感から、ベートーヴェンの初期の作品にもかかわらず、まるで中期の作品のような、作品自体の完成度と佇まい(たたずまい)を感じる演奏だった。

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第2番 ト短調 作品5の2

冒頭の「悲」の思い入れなど、1曲目同様、自然体のアプローチを基本としながらも、短調と長調でのトーンの変化の見事さを感じたし、特に第1楽章のアダージョの部分は、後述する第5番のアダージョとともに、とても印象的な秀演だったと思う。

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第4番 ハ長調 作品102の1

この後期の作品では、前2つの曲で表出した伸びやかさが一段と際立ち、優しさとスケール感をも感じさせる演奏だった。

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陽子さんは普段、とてもアグレッシブな演奏もされる奏者なのだが、前半の3曲で感じたのは、松本さんが情熱的な面を打ち出す分、陽子さんは、むしろ冷静に、客観性と叙情性を主体とするような演奏で、その対比というか、棲み分けと言うか、2人の絶妙なバランスが見て取れ、聴けるような気がして、とても面白かった。

そしてもちろん、後半の曲では更に別の要素が加わる。

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後半について

休憩時、お客から、ケイタイ音に関するクレームが運営サイドにあったようで、後半に入る前、2人の係員が、プラカートを持ち歩きながら、「携帯電話は、お切りください」と念押しアナウンスされた。

それにもかかわらず、陽子さんと松本さんが入場され、いざ演奏、というとき、ケイタイ音がして、いったん収まったかと思ったら、また響く、というハプニングがあり、会場中のヒンシュクを買ったのだが、その間、冷静で明るい性格の陽子さんは、松本さんと苦笑している程度で、ケイタイを持って女性が出て行くと、何事も無かったかのように、「A~E~Fis~」と、第3番の第一主題を弾き始めた。

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第3番 イ長調 作品69

ベートーヴェンの5曲の中だけでなく、あらゆるチェロ・ソナタの中でも最も有名で、優れた曲の1つで、私も大好きな第5番。

前半での自然体な伸びやかさに加え、曲想的からも、陽子さんのアグレッシブ度は~特に第3楽章では~増したし、松本さんも当然、豊かな音と表現力で演奏された。

大好きな第2楽章。極めて印象的な音楽で、ベートーヴェンの全作品の中でも傑作の一つだと思う。この日も、第2楽章が終わった瞬間に思った。「これぞ、ベートーヴェンだ」。

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第5番 ニ長調 作品102の2

プログラム最後の第5番は、陽子さんの落ち着きを基盤とした、精神的余裕とフレッシュさが同居し、精神の充実度と格調の高さで、すこぶる素晴らしい演奏だった。

とりわけ、第2楽章の詩的で、内省的な独白と瑞々しさが素晴らしく、この日の白眉だったと思う。

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この日、全体を通じて感じたことは、気取らない、気さくな性格の陽子さんのお人柄が、そのままストレートに出てくるような、丁寧で誠実な、温かくピュアな演奏、ということ。

ベテランの余裕と、いつまでも若々しい、フレッシュな感性が、そのまま表れてくるような新鮮な演奏が、とても魅力的だった。

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最後に、松本さんについても、再度、記載したい。

終始、頻繁に陽子さんを見ながら、アンサンブルに全身を注ぎつつ、いつもながらの情感溢れる演奏が見事だった。

「陽子さんを見る」、と言っても、演奏位置からして、陽子さんと松本さんは、アイコンタクトはできないのだが、松本さんは、陽子さんの右腕=弓使いと、左手(指盤で)の動きに注力し、あるいは、背中の動き具合、あるいは、息遣い等を確認しながら(であろうところ)のアンサンブルは素晴らしかったし、もちろん、陽子さんを支えるだけでなく、場面においては、自ら牽引してアグレッシブに進行、展開するなど、名手同士の名コラボが遺憾なく発揮された演奏だった。

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全曲が終わり、何回目かのカーテンコールで、陽子さんがマイクを手に挨拶された。

「デビューから35年が経ち、今日、弾いていて思ったことは、もっと上手くなりたい、ということです。ですので、40周年にご期待ください」、と会場を笑わせた後、アンコールとして、CDにも収録されている、ベートーヴェンの<マカベウスのユダ>の「見よ、勝利の英雄の来るのを」の主題による変奏曲の「超抜粋」を演奏されたが、それに先立っても、「(抜粋で演奏するので)ちゃんと全部お聴きになりたいかたは、お帰りにCDをお土産としてください」と、再度、聴衆を笑わせてから演奏し、21時23分ころ、記念リサイタルが終演した。

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演奏曲

いずれも、ベートーヴェンのチェロ・ソナタで

1.第1番 ヘ長調 作品5の1

2.第2番 ト短調 作品5の2

3.第4番 ハ長調 作品102の1

 (休憩)

4,第3番 イ長調 作品69

5.第5番 ニ長調 作品102の2

アンコール

<マカベウスのユダ>の「見よ、勝利の英雄の来るのを」の主題による変奏曲(抜粋)

2022年5月 8日 (日)

ウクライナ人道支援チャリティー・コンサート

オデーサの姉妹都市である横浜市にある神奈川県民ホールで5月8日午後、

「ウクライナ人道支援チャリティー・コンサート」を聴いた。

主催は「ウクライナ人道支援チャリティー・コンサート実行委員会」という名称だが、構成は、神奈川県、横浜市、同県内市内の財団法人等なので、事実上、神奈川県知事の主導により企画、開催されたチャリティー・コンサートと言えるだろう。その他、後援や協賛等を最下段に付記する。

内容が内容ゆえ、チケットは事前に完売しており、1階から3階までの定員=2,493人の席は~ウクライナからの避難者等の招待客を含めて~満席だった。公演の収益は、全てウクライナ避難民等に対する人道支援のために寄附されるとのこと。

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冒頭、神奈川県知事の黒岩祐治氏が挨拶。それによると、以前より、県内にはウクライナ出身者が200名居住されており、今回の緊急対応として、現在、ウクライナからの避難民57名を受け入れているとのこと。

次いで、ウクライナの隣国で、300万人の避難民を受け入れているポーランドの駐日ポーランド共和国大使館大使、パヴェウ・ミレフスキ氏が挨拶(通訳者有)。

そして最後に、駐日ウクライナ大使館の特命全権大使、セルギー・コルスンスキー氏が挨拶した(通訳者有)。

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コンサートに移る。

オケは神奈川フィルハーモニー管弦楽団で、指揮は、この4月に第4代音楽監督に就任したばかりの沼尻竜典さん。

ゲストのソリストとして、前半登場は、ポーランド出身でクラシックだけでなく、ジャズのピアニストでもあり、作曲家として在日が長く、福島学院大学教授や昭和音楽大学講師でもあるミハウ・ソブコヴィアクさん。

後半が、ウクライナ出身で在日が長く、藤原歌劇団団員でもあるソプラノのオクサーナ・ステパニュックさんが出演、共演された。

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1.ドリーヴ:バレエ「コッペリア」より前奏曲とマズルカの後は、

2,ソブコヴィアクさんとオケで、ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22が、終始、美しく、流麗に演奏された。

演奏後、ソブコヴィアクさんが流暢な日本語で挨拶。

3.そして、自身が編曲した伝統的なウクライナ民謡「Oh, in the Cherry Orchard」をソロ演奏して、前半が終了した。この民謡は哀愁だけでなく、最後の和音など、いかにもジャズ演奏と作曲もされるピアニストらしい、オシャレな和音で面白かった。

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休憩後の後半は、

4.シベリウス:交響詩「フィンランディア」

5.現在84歳のウクライナ人作曲家、V.ヴァシリョヴィチ・シルヴェストロフさんの「ウクライナのための祈り」。オーケストラ用に編曲したのは、チェリストで作曲家のエドゥアルド・レサッチさん。

弦主体の、静かで美しい作品だが、面白かったのは、2人のフルート奏者が、時折、「音を出さない」で、「ふーっ」と息だけを聞かせる合いの手のような効果音を入れていたことだ。ため息みたいでユニークな「技法」だった。

6.ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲。

7.オクサーナさんが登場し、プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」。

演奏後、オクサーナさんが流暢な日本語で挨拶された。

8.続けてオクサーナさんとオケで、アナトリー・コス=アナトルスキー(1909~1983)の「Oh, I’ll go among the mountains」。後半~エンディングなど、コロラトゥーラ技巧とも言える高音による歌唱が見事で素晴らしく、オクサーナさんの実力の高さを示され、聴衆は大いに沸いたのだった。

9.最後は、ウクライナ国歌を、まずオケだけで、堂々と雄大に演奏し(編曲は大橋晃一さん)、続けてオクサーナさんが再度登場して、ソロで歌われた。

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カーテンコールでは、オクサーナさんはウクライナ国旗をまとって登場され、その姿での2回目以降のカーテンコールは、沼尻さんとソブコヴィアクさんと、3人での3回だかの盛大なカーテンコールがあり、このコンサートが終了した。

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参考事項

主催:ウクライナ人道支援チャリティー・コンサート実行委員会(神奈川県、横浜市、 公益財団法人:かながわ国際交流財団、公益財団法人:横浜市国際交流協会、 一般社団法人:神奈川県商工会議所連合会、神奈川県商工会連合会)

共催:神奈川県立県民ホール、神奈川県立かながわアートホール

後援:神奈川県市長会、神奈川県町村会

協力:駐日ポーランド共和国大使館、ポーランド広報文化センター

2022年5月 3日 (火)

清水理恵さん&神田将さん~アクシデントを超えた公演

本来なら、「清水理恵ソプラノリサイタル」~Il suon di gioia e amor~喜びと愛の響き~と、プログラムどおり記載すべきだろうけれど、後述のとおり、特殊事情が生じたコンサートで、素晴らしいエレクトーンの演奏により、清水さんとコンサート自体を支えた(救ったとも言える)神田将(ゆき)さんも、この感想文のタイトルに加えて記載し、神田さんに敬意を表したい。

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5月3日午後、ソプラノの清水理恵さんのリサイタルを、東京文化会館(小ホール)で拝聴した。盛況で、8割、いや、9割近くは客席が埋まっていたと思う。

ピアノ伴奏ではなく、神田将(ゆき)さんによるエレクトーンによる伴奏で、神田さんは進行役も務め、ソフトで落ち着いた、誠実さを感じさせる美声によるトークもステキだった。

お2人は、各地で数回共演されてきたそうだが、東京での共演は、この日が初めてとのこと。なお、このコンサートは本来、昨年の7月31日に同ホールで予定されていたが、コロナ禍拡大時期とあって、この日に延期されたのだった。

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レオンカヴァッロの「朝の歌」で軽やかに開始。

続く、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」では、冒頭からエレクトーンが美しく、「下手な弦顔負け」の美しく、見事な前奏と伴奏だった。スカルラッティの素敵な曲「すみれ」。

プッチーニの「私のお父さん」も、冒頭の管楽器による不協和音を、ほとんどそのままの音で奏するなど、エレクトーンの機能、音色、技術が見事。

続く、神田さんのソロで、ビゼーの「ファランドール」も圧巻と言えるほど素晴らしかった。

伴奏も歌も、あまりにも美しくロマンティックなカントルーブの「バイレロ」にウットリとした後は、プログラム第1部の最後の曲、J・シュトラウスの「春の声」が歌われるはずだった。

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ところがここで、清水さんがマイクを持ってこう語りだした。

「今日、実は調子が悪くて、次は、後半の最初に予定していた、ロッシーニの「優しい竪琴よ、あなたはいつも変わらぬ友」を歌わせていただき、そして、大変申し訳ないのですが、これで今日は歌い納めさせていただきます。後は、神田さんの素晴らしい演奏をお楽しみいただく、ということで、どうぞよろしくお願います」。

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私を含めた全ての来場者が驚いた。そして「体調が悪いのか?大丈夫なのか?」と心配になった。

後半冒頭の神田さんの話によると、声(ノド)の調子が悪く、これ以上歌うことに不安(というか危険)を感じられたのだと言う。

ここまで拝聴していた限りでは、特別な変調や不調さは感じなかったが、「春の声」の他、後半では、「ドレッタの夢」や、ヴィオレッタの「ああ、そはかの人か~花から花へ」などの、コロラトゥーラ系の難曲が控えていることから、「このままだと、恥ずかしい歌唱を聞かせてしまうかもしれない」、と感じられたのかもしれないと想像する。

それでも(完成度は高くなくとも)、このまま、「理恵さんの歌声が聴きたい」と思った聴衆も多かっただろうが、そこは、演奏者の判断に委ねるしかない。調子度合い、リスク度合いは、ご本人しか解らないのだから。とても残念だがやむを得なかった。

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休憩時、後半を聴かずに帰る人が出てもおかしくはない状況だったが、帰られた人はほとんどいなかったのは、ある意味、嬉しい驚きだった。これは、正に前半において、エレクトーンの神田さんに感じていた魅力故のことに間違いなかった。

聴衆は、理恵さんの状況に驚き、ガッカリしながらも、休憩に入ったときには気持ちを入れ替え、「よし、では、神田さんの素晴らしいエレクトーン演奏を、じっくり聴かせていただこう」、にモードチェンジしたに違いない。

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前半の感想でも少し触れたが、神田さんの演奏と、それ以前に、エレクトーン自体の機能は驚嘆に値する。

現代のエレクトーンの凄さ、素晴らしさ、如何に、オーケストラ(の各楽器)さながらのような優れた機能と多彩な音色等を持っているかについては、私は以前から、清水のりこさんの演奏でよく知っているが、今回、このコンサートで、そのことを初めて知った人、体験した人が多かったのではないか、と想像する。弦の高音と低音、金管楽器、木管楽器、ティンパニやシンバル等、様々な模倣音による演奏ができるのだ。

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後半=変更された第2部について

「急なことで」と言いながらの演奏曲は以下のとおりだが、演奏だけでなく、後半早々、理恵さんについて語った内容も、人柄が滲み出るような、紳士的にして、誠実さと理恵さんを思いやる温かな気持ちに満ちていて、人柄が滲み出るような、紳士的にして温かな心根を感じさせ、素晴らしかった。色々語られたが、特に以下の主旨の発言が心に沁みた。

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「歌手は声、肉体が楽器だから大変です。私などは、「あなた、体調が悪くても弾けるから良いわね」などと言われたこともあるし、実際そうですが、歌手は、喉に異変が生じたら、そうはいかない。演奏に支障をきたしてしまうわけですから」

「理恵さんには、頑張って、後半もプログラムどおり歌う選択肢もないわけでなかったと思いますが、今後のことを考えての判断だと思うので、ご理解ください」

「音楽家にとって、ステージは神聖なもので、会場が大きかろうと小さかろうと、お客様が多かろうと少なかろうと、(臨むスタンスは)同じです。昨年は、コロナ禍で延期となり、今回、やっと迎えたリサイタルの舞台から、途中で降りなければならないというのは、断腸の思いであるはずで、先ほど、慰めてはおきました」

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そして、急遽、神田さんソロステージとなった第2部は、以下の曲に変更されて演奏された。

1.プーランク:「愛の小径」

2.ラヴェル:「ボレロ」(短縮あり)

3.ラヴェル:「亡き王女の為のパヴァーヌ」

4.プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」

5.ホルスト:「惑星」より「木星」

6.スメタナ:「モルダウ」

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「愛の小径」のロマン性、圧巻の「ボレロ」。「亡き王女の為のパヴァーヌ」の繊細さ、優しさ。

「誰も寝てはならぬ」では、女声合唱が混じる部分でも、女声コーラスに模した音で奏したし、ホルスト「木星」では、弦の高音と低音、木管、ホルン、そして有名な変ホ長調によるテーマでは、一瞬、女声コーラスのような響を交えるなど、様々なトーンで魅了した。そのテーマの直後は少しカットしてエンディングに持って行った。

「モルダウ」でも、弦や木管だけでなく、シンバルやティンパニの音なども効果的に使用しながらの、見事な演奏だった。

会場が大きく沸いたことは言うまでもない。

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カーテンコールでは、理恵さんも再登場し、神田さんの演奏の素晴らしさを称え、感謝を伝えたのち、「オー・ソレ・ミオ」を歌われて、この印象強いコンサートが終わった。

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そう、思わぬアクシデントが生じたとはいえ、かえって結果的には、強烈な印象と、温かな心象を覚えたコンサートとなった。

確かに、神田さんが理恵さんとコンサート自体を救ったとも言えるのだが、こうした音楽パートナーを有する2人の関係性は、音楽家として幸福なものだと思うし、それを~想像外の展開ではあったが~確認できたこの日の聴衆も、「予想しなかった幸福感」を結果的に受け止めた、と言えるだろう。

そして、今回のアクシデントを理由に、「今後、清水理恵さんのコンサートには行かない」とする人は、一人もいないだろうと想像する。いや、確信している。応援する気持ちを更に強くして、コンサート会場に向かうファンがたくさんいると確信する。

最後に、本来予定されていた曲目も記載しておく。

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予定されていた演奏曲

第1部

1.レオンカヴァッロ:「朝の歌(マッティナータ)」

2.ヘンデル:「オンブラ・マイ・フ

3.スカルラッティ:「すみれ」

4.プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」

5.エレクトーンのソロで、ビゼーの「アルルの女」より

   「ファランドール」

6.カントルーブ:「オーヴェルニュの歌」より「バイレロ」

7.J・シュトラウス:「春の声」

 (休憩)

第2部

1.ロッシーニ:歌劇「ランスへの旅」より

  「優しい竪琴よ、あなたはいつも変わらぬ友」

2.プーランク:「愛の小径」

3.プーランク:「パリへの旅」

4.エレクトーンのソロで、

ラヴェル:「亡き王女の為のパヴァーヌ」

5.プッチーニ:歌劇「つばめ」より「ドレッタの夢」

6.ヴェルディ:歌劇「椿姫」より

  (1)エレクトーンのソロで前奏曲

  (2)「ああ、そはかの人か~花から花へ」

2022年5月 1日 (日)

春の天皇賞~健気に「騎手なし」で駆けたシルヴァーソニックに拍手

天皇賞・春が5月1日、阪神競馬場で開催され、昨年の菊花賞馬、タイトルホルダーがG1通算2勝目を挙げた。馬券を買った人には勝ち馬こそが重要だろうが、見て楽しんだ者としては、今回、優勝馬以上に驚嘆した馬がいた。「騎手なし」でゴールインしたシルヴァーソニックだ。
ゲートが開き、スタートした直後、シルヴァーソニックに騎乗していた川田将雅(ゆうが)選手が落馬してしまったのだ。しかし、なんと、馬は立ち止まらず、そのまま他馬と一緒に走り続けた。まるで、「騎手がいなくても、僕は君たちと走るからね、競争するからね」、と言うかの様に。
しばらくは、6番手前後にいたが、最終コーナーではなんと2番手に来た。そしてそのままゴール。騎手の落馬という「中止」(いわば失格)扱いだから、正式な2着馬にはならないが、事実上の2着だ。
騎手がいないままの「カラ馬」状態で、1着のタイトルホルダーに迫る姿は、異様ともいえるシーンで、私は初めて見た。そしてその健気ともいえる走行シーンに感動した。
同時に、「騎手がいなくても、2着になれるのか?騎手って何だ?」という不思議な気持ちも生じた。もちろんこれは「騎手否定」ではなく、いわば、馬の自立心、自立力を知り、感心し、感動したということ。
優勝したタイトルホルダーも、もちろん素晴らしいが、「一人旅」により「2着」に入ったシルヴァーソニックに対して、心からの拍手を送る。
https://news.yahoo.co.jp/articles/17d70d0765550b7fbb119f101221a63fa2ad58f8/images/000
https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=202624

タイトルホルダー(牡4=栗田)が制し、昨年の菊花賞に続くJRA・G1通算2勝目を挙げた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3de6543c2f46f6aa621c12bd0e2c652b60692ef5

https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2022/05/01/gazo/20220501s00004048450000p.html

ゲートが開いた直後に17番・シルヴァーソニックの騎手・川田が落馬。その後はカ
https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2022/05/01/kiji/20220501s00004048436000c.html
【天皇賞】スタート直後に落馬“無人”のシルヴァーソニックがゴール後、転倒で場内騒然
https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=202624
シルヴァーソニック、落馬の川田騎手ともに異状なし カラ馬で“2着”も…ゴール後転倒【天皇賞・春】
https://news.yahoo.co.jp/articles/17d70d0765550b7fbb119f101221a63fa2ad58f8
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