新国立劇場~歌劇「ばらの騎士」を鑑賞
新国立劇場にて4月6日夜、R・シュトラウスの「ばらの騎士」を鑑賞した。
指揮は、ウィーン生まれのサッシャ・ゲッツェル氏。オケは東京フィルハーモニー交響楽団。合唱は新国立劇場合唱団と児童合唱の多摩ファミリーシンガーズ。演出は、ジョナサン・ミラー氏。
第1幕
前奏(導入曲)でのホルンがステキ。弦にはもっと響のパワーが欲しいが、「Tranquillo」の部分は、ゆったり、しっとりと歌い、美しかった。
幕が開く。オクタヴィアン役の小林由佳さんが声量も含めて素晴らしい。ズボン役、少年役なので、アルト色の強いメゾより、ソプラノに近いメゾが役に相応しいと思うし、その点でもピッタリだ。由佳さんは2017年7月の二期会公演でも同役を歌われているので、良い意味での余裕を感じさせる。
その公演について、当時、私はブログに、「ばらの騎士~小林由佳さんのオクタヴィアンの素晴らしさ」、と題して書き、由佳さんを絶賛したのだが(添付参照)、そのときの感想が正しかったことを確信した。
結論を先に言ってしまうと、本公演では、小林由佳さん、安井陽子さん、宮里直樹さんが素晴らしく、もちろん後述する妻屋秀和さん、森谷真理さんも、とても良かった。
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元帥夫人役のアンネッテ・ダッシュさんは初めて聴かせていただいた。美人で、本物の貴族のような気品があり、欧州で大活躍中だが、意外にも声量がやや弱い気がした。少なくとも声量に関しては、私は満足できなかった。ラスト近くの有名な三重唱は素晴らしく、「この部分のためにセーブしていたのか?」と思ったほどだが、さすがにそんなことはないだろう。今後も何回か聴いてみたいし、それによって感想も違ってくるだろう。
ただ、今回の内容だけで言うなら、後述のマリアンネ役で出演された森谷真理さんが、2017年7月の二期会公演で元帥夫人を歌われているので、森谷さんで聴いてみたかった、という思いを強く抱いた。
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オックス男爵役の妻屋秀和さんは、さすがの余裕。全幕を通して、量的に最も多くの出番がある、とても重要な役を魅力的に歌い、演じた。先述の2017年7月の二期会公演でも同役で出演され、ブログに私はこう書いた。「オックス男爵の妻屋秀和さんの素晴らしさはこの日も健在で、とりわけ得意とするドイツ語によるオペラの、好色で滑稽な役柄をユーモアたっぷりに歌い演じ、あらためてこのオペラにおけるオックス男爵の存在意義の重要さを感じさせて出色だった」。
今回もこのまま引用できる。「女好きな大柄だけれど小物」を巧みに演じ、第2幕最後の、下の「E」のロングトーンもよく聴こえていた。当たり前だけど。
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特に素晴らしかったのは「テノール歌手役」の宮里直樹さん。
歌い出した瞬間から、それまでの舞台の雰囲気を一変させるほど、明るく、朗々と、伸びやかで素晴らしい歌声。バーンスタイン盤で、ドミンゴがこの役を歌い出した瞬間から、それまでの状況を全てを忘れさせるほど、「持っていってしまった」見事な歌唱を聴かせてくれたが、それに近いと言えるくらい、聴衆が聴き惚れたに違いないと想像、いや確信できるほど、素晴らしい歌唱だった。この役にピッタリだ。
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なお、公証人役の晴 雅彦さんは、2007年以来、なんと過去4回も、この役を新国立劇場で歌われているのが凄い。
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第2幕
ゾフィー役の安井陽子さんも、2011年4月の新国立劇場で同役を歌っているので、得意な役。いつもながらの伸びやかで透き通るような美しい声で聴衆を魅了した。この役に限らないが、安井さんほどの完成度をもって歌われる歌手というのは、決して多くはないように思える。素晴らしい歌手だ。
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マリアンネ役の森谷真理さんは、出番は少ないながら、「さすが森谷さん」と思わせる、生き生きとした歌唱がステキだった。
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ファーニナル役の与那城 敬さんは、歌声の魅力だけでなく、第3幕も含めて、「お調子者のファーニナル」を巧みに(敢えて過剰に)演じ、一人だけ喜劇役者がいた感がして、面白かった。
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アンニーナの加納悦子さんも、この役を得意とされており、新国立劇場での2011年、2015年、2017年と、過去3回、この役を歌われている。さすがの余裕の歌唱。
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第3幕
料理屋の主人役のテノール、青地英幸さんが、とても美しく良い声でステキだった。
先述のとおり、有名な三重唱と、それに続く二重唱が見事で、聴衆を十分魅了して、本公演を終えた。
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演出について
奥行を(縦長に)効率的にセットし、第1幕と第2幕は、ケバケバしく なく、シンプルで美しい舞台だった。惜しいのは第3幕だ。前半のドタバタ部分では、ある種、殺風景なこの設定でも構わないが、途中から、「まさか、このセットのまま、あの美しい三重唱と二重唱をやるのだろうか?」と心配になったのだが、結局、危惧そのままに、照明を抑えた、やや陰鬱な舞台のまま、あの素晴らしい三重唱と二重唱が歌われ、エンディングとなった。
若い二人の恋の成就だけでなく、元帥夫人の寂しさを内包する物語ではあっても、薄暗さと殺風景なセットでのエンディングには、好き嫌い、賛否が分かれるだろう。
私は、感心はしなかった。
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それでもなお、ドタバタ喜劇をベースとしながらも、哀感のある、そして、過剰なまでの音に溢れた豪華絢爛な音楽物語を、十分楽しませていただいたことに感謝したい。
親しくしていただいている小林由佳さんと与那城 敬さん。一度お話しさせていただいたことのある安井陽子さん。先日、あるコンサートで、偶然だが、ご本人に先んじて、お母様とご挨拶する機会があった森谷真理さん、という、ご縁ある4人が出演され、素晴らしい歌声を聴かせていただいたことに、深い感覚を覚えるし、なんか「今まで生きて来て良かった」と思う。
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出演者、スタッフ
【指 揮】サッシャ・ゲッツェル
【合唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】多摩ファミリーシンガーズ
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【演 出】ジョナサン・ミラー
【元帥夫人】アンネッテ・ダッシュ
【オックス男爵】妻屋秀和
【オクタヴィアン】小林由佳
【ファーニナル】与那城 敬
【ゾフィー】安井陽子
【マリアンネ】森谷真理
【ヴァルツァッキ】内山信吾
【アンニーナ】加納悦子
【警部】大塚博章
【元帥夫人の執事】升島唯博
【ファーニナル家の執事】濱松孝行
【公証人】晴 雅彦
【料理屋の主人】青地英幸
【テノール歌手】宮里直樹
【帽子屋】佐藤路子
【動物商】土崎 譲
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/derrosenkavalier/
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