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2022年3月 2日 (水)

武満 徹 弧(アーク)コンサート

武満 徹 「弧(アーク)」 と題された、オール武満プログラムのコンサートを3月2日夜、東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアルで聴いた。指揮者はシンガポール出身で、若くして とても評判の良いカーチュン・ウォンさん。オケは東京フィルハーモニー交響楽団。

ピアノが大ベテランにして、武満さんと縁の深かった高橋アキさん。高橋さんの出演というだけでも、武満ファン、現代音楽ファンにはたまらない魅力、待望のコンサートと言えるだろう。

東京オペラシティの1階から3階、ほぼ満員と言える盛況。

オール現代作品で~しかも、作曲者は故人で~このホールをほぼ満席まで集客できる作曲家は、武満さんくらいだろう。

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いきなり余談だが、故・岩城宏之さんが札幌交響楽団と「オール武満プロ」を企画、提案すると、札響事務局から「札響をつぶすきですか」、と猛反対された。岩城さんは「僕が全責任を負いますから」と初志貫徹で実施。蓋を開けたら「満員御礼」。「聴衆をナメルナよ」と言うところだろう。

この日も、その「武満を聴きたい」という聴衆の思いが充満する会場だった。

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タイトルの「弧(アーク)」を後半に置いたプログラムだが、前半を含めて、まず演奏曲を記載し、私も感想も付記したい。

曲目曲

1.地平線のドーリア(1966)

2.ア・ウェイ・ア・ローンⅡ(1981)

3.弦楽のためのレクイエム(1957)

 (15分休憩)

4.弧(アーク)(1963―66、76)

 (1)第1部

 (15分休憩)

 (2)同曲の第2部

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1.地平線のドーリア

この曲は、武満さんの親友、大江健三郎さんが珍しく批判したことで、武満さんが激怒し、しばらくの期間、2人は絶縁状態が続いた、という、いわく付きの曲。

また、小澤征爾さんも、「この曲だけは、よく解らないや」と、レコーディングに消極的だった唯一の曲で、武満さんの「ぜひ録音を」との、たっての願いで収録された、と、これまた「マイナス的な逸話」のある曲だ。

私は、スコアも持っているので、だいぶ以前、それを見ながら、CDだかLPだかで初めて聴いたとき、武満さんの曲の中では、私も「はあ?」、と思った唯一の曲だった。

でも、この日のように、初めて実演に接してみると~変わった曲で、面白いとは言えないまでも~、「西洋楽器(群)を、よくもここまで「素材」として分解しながら、独特の音で構成し得たな」、という点で、興味深く、好意的な感想は抱いた。

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2.ア・ウェイ・ア・ローンⅡ

この日、唯一の80年代の曲で、初演は1982年6月27日、岩城宏之さん指揮の札幌交響楽団。

弦楽四重奏曲による「ア・ウェイ・ア・ローン」の弦楽合奏アレンジ版なので、「Ⅱ」。

武満さんにしては、アグレッシブな曲で、音量の頻繁な増減に特徴があり、波の様に揺れる音の交差も印象的。

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3.弦楽のためのレクイエム

「もはや古典だ」、と聴きながら思った。「なんと美しく、哀しく、個性的にして普遍的なのだろう」、とも思った。「二つのレント」を別とすれば、実施的なデビュー曲にして、ストラヴィンスキーに激賞されたことで、曲も武満も有名になったわけだが、ストラヴィンスキーより前に(もっと早い段階で)、日本人の中で、もし褒める人が全くいなかったとしたら(いただろうけれど)、なんだか寂しい。有名外国人作曲家から褒められなくたって、これは見事な作品だ、と、この日もあらためて思った。もちろん、私はスコアも持っている。

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最初の休憩後は、弧(アーク)(1963―66、76)の第1部と(もう一度休憩を挟んで)第2部。いずれも15分(ずつ)くらいの曲。ピアノとオケによる、二部構成(全6曲)から成る曲で、私は全曲としては初めて聴いた。もちろん、ライヴも初めて。

第1部が、(1)「パイル」、(2)「ソリチュード」、(3)「ユア・ラヴ・アンド・ザ・クロッシング」。

第2部が、(1)「テクスチュアズ」、(2)「リフレクション」、(3)「コーダ シャル・ビギン・フロム・ジ・エンド」。

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高橋アキさんは、「私がこの曲を弾いたのは1990年、武満 徹さんの 還暦祝いコンサートだから、もう31年前になります。10月8日がお誕生日で、その翌日に、サントリーホールで大々的に、岩城宏之さん指揮でやりました。武満さんもお元気で、つきっきりでリハーサルもいらして。すごく印象に残っています」と語っているが、加えて、「1960年代(を感じる)の曲」とも語っている。

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私も、「これは、作曲年代的にも、内容的にも、実験的要素を基盤においた、意欲作、野心作だな」、と感じた。決して、「ギーッ、ガッチャン、バッタン」、などの無機的な音の羅列ではないが~むろん完全無調~後年のような抒情性は皆無。凄い作品で、とても面白かった。

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この作風を含めて、戦後の無調、偶然性等を含めた実験的試みを「誤解」した若者が、1970年代、80年代に、日本音楽コンクールの作曲部門応募作で頻出した、「ギーッ、ガッチャン、バッタン」だけのような、「無機的で、変わった音の構成と合成のみで終始し、二度と演奏されないブザマなゲンダイオンガク」を生んでいったとしたら、残念なことだ。

実際、肝心の、当の武満さんは、後年、この「弧(アーク)」で聴かせた、実験的作風とは、全く別の道に進んで行った。

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70年代、80年代以降の武満さんは、「グリーン」のエンディングに象徴されるような、ドビュッシー的な抒情を含みながらも、独特の「タケミツトーン」を創造していった。調性を含んだ、と言う様な、決して単純なものではないにしても、

「誰が聴いても、最初の1音、1小節で、『タケミツだ』と解る音色と音楽」。

その領域にまで行ったのが武満で、これは「日本人の中で」では無論なく、「世界で唯一無二のタケミツトーン」を、多くの、しかし1曲1曲は決して長くない作品を創って行く中で、その領域に達したのが武満 徹さんだった。

そこに転じて、深化して行く前の、実験的にして、野心的な試みに満ちた凄い作品である「弧(アーク)」をライヴで聴けて、本当に良かった。

満員のお客さんも、きっと同じく幸福なひとときを過ごせたことだろう。

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指揮者のカーチュン・ウォンさんは、私は初めて聴いたが、現代音楽も振り慣れている感さえあり、驚いた。「もしや、初演魔の岩城宏之さんが、現代曲を振る映像を全て見ているのではないか?」と思うほど、良い意味で要領を得た、「プロの指揮」。もう何十年も現代曲を振ってきたかのような、あるいは、「岩城さんの30代って、こんな感じだったかも」と想像させるような指揮ぶりだった。

曲が終わるごとに、両手でスコアをかざして、聴衆に見せていたのも、武満に対するリスペクトと、ウォンさんの人柄を想像できるステキなパフォーマンスだった。

全曲終演後の数回のカーテンコール後、聴衆に語りかけもしたが、マスク越しの小さな声だったので~日本語を交えていたとしても~彼の近くの人にしか聞こえなかった点は残念だったが、彼の人柄が滲み出たシーンだった。

岩城宏之さん亡き後、現代音楽を積極的に指揮する指揮者の登場が危惧されたが、山田和樹さんといい、この、カーチュン・ウォンさんといい、現代作品にも積極的に挑む優れた指揮者が出て来ているのは嬉しいことだ。

 

https://ebravo.jp/archives/110304

 

高橋アキさんインタビュー

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30811

 

武満徹の音楽を、次代をリードするカーチュン・ウォンと一緒に学ぼう

https://ontomo-mag.com/article/event/toru-takemitsu-arc/

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