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2022年2月26日 (土)

藤沢市民オペラ~ヴェルディ「ナブッコ」公演

昨今のウクライナ情勢も連想させる歌詞と物語

第24回藤沢市民オペラ、ヴェルディの歌劇「ナブッコ」を2月26日午後、藤沢市民会館で鑑賞した。

本来は2020年11月に予定されていたが、状況により延期された公演で、今月26,27日と、3月5日、6日の4回をダブルキャスト(各組2回)で行う公演。その初日組を拝聴した次第。

指揮は、2015年のシーズンから芸術監督を務めている園田隆一郎さん。

管弦楽が、藤沢市民交響楽団。

合唱は、複数の団体から構成された藤沢市民合唱連盟。

演出は、岩田達宗さん。

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藤沢市民交響楽団は、合唱ファンにはお馴染みの故・福永陽一郎さんが1959年に創設したアマオケ。

藤沢市民オペラは、1973年の藤沢市民会館 開設5周年に際して、地元に根ざした、アマチュアのオケと合唱、プロの歌手によるオペラ公演として開始された、ということは知っていたが、実際に同会館に行き、拝聴、鑑賞したのは今回が初めて。

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「ナブッコ」は、作品全体としては「アイーダ」や「オテロ」程の知名度や評価に至らないまでも、あまりにも有名な合唱曲

「行け、我が思いよ、金色(黄金)の翼に乗って」で知られたオペラ。

「ナブッコ」とは、古代バビロニアの王の名で、正式にはナブコドノゾール。そのバビロニア王国に征服されたユダヤ人たち。そして、ナブッコが就く座をめぐる親子の争いがからむ物語なのだが、歌詞や物語が、偶然にも昨今のロシアによるウクライナ侵攻を連想させる。

これについては後述する。

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私が以前観たライヴ公演は、2012年2月の東京二期会公演で、ナブッコが青山 貴さん、アビガイッレが岡田昌子さん、フェネーナが清水華澄さん、といったキャスト。

指揮は、当時24歳のバッティストーニ。あの頃は未だ、今みたいに太ってはいなかった。

余談だが、アビガイッレ役の岡田昌子さんが、あまりにも素晴らしかったので、フェイスブックのメッセから自己紹介とファンレターを書き、今では、親しくさせていただいている。

また、7年後の2019年1月に、バッティストーニの指揮で、マーラーの「千人」を歌わせていただく機会が来るとは、当時は夢にも思わなかった。

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さて、本公演。

序曲を聴くと、園田さんは、細部を磨くことや、色付けすることよりも、全体の自然な流れを大事にしている感じがした。

序曲直後から合唱や、終盤の「行け、我が思いよ~」を含めた全体の合唱は、とても良かった。藤沢市民合唱連盟は、全員ダーク系のマスクをしてはいたが、今回、8つの団体と個人参加など、男女合計56名を要していることもあり、劇場も大きくはないので、声量は全く問題なかった。

有名な「行け、我が思いよ~」は、やや丁寧過ぎる感じがして、もっと大らかに歌って欲しい気はした。こういう「知情意のバランス」は、とりわけ合唱では、どんな曲でも、常に課題として存在していると思う。

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ナブッコ役の今井俊輔さんは、いつもながらの威厳ある格調高い歌声でステキだった。

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大活躍中の もはやベテラン、アビガイッレ役の小林厚子さんと、

若手で活躍著しいフェネーナ役の山下裕賀(ひろか)さんを、じっくり聴かせていただけたので、嬉しかったし、素晴らしかった。

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3人に共通する印象を抱いたのは、劇的な場面もさることながら、しっとりと歌う場面、ナブッコだったら、フェネーナを助けて欲しいとアビガイッレに懇願するシーンや、フェネーナは処刑(されないけれど)直前の歌、アビガイッレはラスト、絶命する直前の歌などが、とりわけステキで印象的だった。

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イズマエーレ役の工藤和真(かずま)さんは、初めて聴いたテノールで、伸びやかな美声で素晴らしかった。音コン2位、日伊声楽コンコルソ1位は納得の受賞歴。

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ザッカリーア役の伊藤貴之さんは、もう少し声量と低音の深さが欲しい気がしたが、初めて聴かせていただいた歌手なので、良さが未だ判らないだけかもしれない。今後も色々聴かせていただこう。

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アブダッロ役の新海康仁さんは、ピュアで伸びやかな歌声で、聴衆を魅了したと思う。出番が少ない役なので、もっと聴きたかった。イズマエーレももちろん歌えるテナーで、実際、今回、そのカバーもされている。

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ベルの祭司長役の後藤春馬さん、アンナ役で予定されていたイ・スンジェさんから、事情で替わり、代演された谷 明美さんも、存在感をよく示されていた。

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先述した、「歌詞や物語が、偶然にも昨今のロシアによるウクライナ侵攻を連想させる」点。例えば、第1幕第3場で、イズマエーレの、

「アッシリアの王が攻めて来るぞ。彼は全世界を敵にしているようだ。その傲慢な大胆さで」や、

ザッカリーアの、

「天は終わらせるであろう。彼の悪しき大胆さも。このシオンの遺跡に、侵略者が休むことはできないのだ」、などは、まるで、ロシアのボスと軍のことを言っているかのようだ。

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また、改心(回心)する前の暴君ナブッコが言う、

「わしの怒りは一層激しく爆発するのだ。震えるのだ、愚か者ども。わが怒りの前に、みな生贄となるのだ。不敬なるシオンは浸されるのだ。おお敗者どもよ、地に頭をつけよ。勝者はわしなのだ。略奪せよ、神殿を燃やせ」は、まるで、ロシアのボスのセリフであるかのようだ。

そして、ザッカリーアとヘブライ人たちが歌う、

「人々から拒絶されるが良い。兄弟を裏切った者として、貴様の名は忌わしきものとして罵られるのだ。あらゆる時に」は、直接的にはアビガイッレに対する歌詞かもしれないが、そのまま、ナブッコ=ロシアのボスに向けられているかの様でもある。

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決定的に違う(だろう と予想される)点は、ナブッコは、なんと劇中、改心(回心)するのだ。

演出の岩田達宗さんがプログラムに寄稿した文から借りるなら、「ナブッコは、ユダヤやバビロンの垣根を越えて、暴力を使わずに、人々を戦争から解放し、その生命と精神を救う」。

今回、残念ながら、ロシアのボスには全く期待できそうもない相違点だ。

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偶然とはいえ、オペラを楽しむだけでなく、昨今の状況と、劇中の歌詞などをリンクしながら、色々と考えさせられる公演鑑賞だった。

最後になってしまったが、岩田達宗さんの演出は、広いとは言えない舞台を効率的に使いながら、格調高い舞台と進行で、とても良かった。

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出演:    2月26日と3月5日  2月27日と3月6日

ナブッコ:   今井 俊輔       須藤 慎吾

イズマエーレ: 工藤 和真       清水徹太郎

ザッカリーア: 伊藤 貴之       ジョン・ハオ

アビガイッレ: 小林 厚子       中村 真紀

フェネーナ:  山下 裕賀       中島 郁子

ベルの祭司長: 後藤 春馬       杉尾 真吾

アブダッロ:  新海 康仁       平尾 啓

アンナ:    イ・スンジェ      谷 明美

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