東京二期会公演「フィガロの結婚」~印象的なスザンナ
この日は、本来は「影のない女」が上演されるはずだったが、中止となり、本当に残念だった。その代わりの演目として「フィガロの結婚」が公表されたときは、「行かない」と思ったが、Wキャストの1組の伯爵夫人が大村博美さん、ケルビーノが小林由佳さんと知り、「もちろん行く」に即変更した。
2月9日から13日までのダブルキャスト公演の初日にして、そのお2人が出演される9日夜、東京文化会館で拝聴した。
依然として厳しい社会状況の中、18時30分開演、25分の休憩を挟んで、22時の終演が行われたのは何よりで、客の入りも、平日の夜にもかかわらず、7割くらいは来場されていたと思う。
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フィガロ役の萩原 潤さんは、ソフトなトーンなので、「良い人。善人なフィガロ」の印象を受ける。
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アルマヴィーヴァ伯爵役の大沼 徹さんも、ソフトなトーンで、役的にはもう少し「厚化粧的な厚かましさ」も欲しい気もしたが、嫉妬深い「小物」のキャラをよく出していて、良かった。
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ケルビーノ役の小林由佳さんは、外見も宝塚の男役みたいにカッコイイし、この役に似あう魅力的なトーンによる歌声で、聴衆を大いに魅了した。とても良かった。
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そして、伯爵夫人役の大村博美さん。
大村さんも大柄な美人なので、その外見からして既に気品が漂っており、潤いと純度の高い歌声による、見事な伯爵夫人を演じ、歌われた。
単に気品だけでなく、女心の移ろいとか寂しさ、戸惑い、孤独感も表出が見事で、第3幕の有名なアリア「どこにあるのかしら。恋に生きた、楽しかった日々は」が終わったとき、この日、最長にして最大の拍手は起きたのは当然のことだった。
伯爵の謝罪に対して、ト長調アンダンテで歌い応える、「私は、あなたよりも素直ですから、ハイ、と申しますわ」の場面での高貴さといったら、例えようのないほど美しく、素晴らしかった。
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そしてこの日、大村さんに負けないくらいの存在感を示したのは、スザンナ役の宮地江奈さんだった。
私は初めて聴かせていただいた歌手。
キュートでコケティッシュさが有り、利発な、「お調子者」のようなスザンナを表出していてステキだった。たぶん小柄で、失礼ながら特別な美声というわけではないが、スザンナ役のマッチ度、ハマリ度、いや、「独特のフィット感」がすこぶる魅力的だった。
それにもかかわらず、傑出した、とか、衝撃的、とかいう大袈裟な言葉は似あわず、鮮烈な、という言葉も的確ではないかもしれないが、敢えて言えば「鮮烈なスザンナ」だった。でも、決して派手ではないのだ。むしろ、その素朴さから滲み出てくる可愛らしさ、愛されキャラ的な演技と歌唱が、極めて印象的だった。
コケティッシュさだけでなく、第3幕終わり近くでの有名なアリア、「早くおいで、美しい喜びよ」では、しっとりと歌って聴衆を魅了し、大村さんに負けないくらいの盛大な拍手を受けていた。
今後、とても楽しみな歌手だと思う。
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出番は少ないながら、第3幕で素晴らしいアリアを聴かせて「持っていく」得なキャラに設定されているバルバリーナ役の雨笠佳奈さんも初めて聴かせていただいたが、役を楽しんでいる感じも含めて、なかなか良かった。
それにしても、あの、ヘ短調のアリアは、「魔笛」のパミーナのト短調のアリアとともに、「短調のモーツァルト」を堪能させてくれる素敵なアリアだ。この曲が有るのと無いとでは、「フィガロ」の印象はだいぶ変わってくるかもしれない。
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マルチェリーナ役の石井 藍さんは、演技も含めて秀逸だったし、バルトロ役の畠山 茂さんも良かった。
なお、ドン・クルツィオ役で出演されるはずだった渡邉公威さんが、何らかの事情で出演されなかったのは残念だった。もう一組の児玉和弘さんが代演された。
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物語はバカバカしくとも、「魔笛」とともに、ステキなアリアのオンパレードのフィガロ。「コジ・ファン・トゥッテ」とともに、アンサンブルオペラとしても、とても充実した「フィガロの結婚」は何と魅力的な、傑出したオペラだろう、音楽だろう、と、あらためて、モーツァルトの偉大さを思い知らされた公演でもある。
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なお、オケは最小限での演奏だったのか、歌手を邪魔しない点では良かったが、「ここは、オケを聴かせたい所でしょ」という場面では、物足りなさも感じた。
舞台を効率的で効果的に使っていたし、第3幕の始めでの色彩を抑えた舞台は、アルマヴィーヴァ伯爵と伯爵夫人の、独白的心境の吐露たる歌唱とよくマッチしていた。
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指揮: 川瀬賢太郎
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
合唱: 二期会合唱団
演出: 宮本亞門
配役 2月9日&12日 11日&13日
アルマヴィーヴァ伯爵 大沼 徹 与那城 敬
伯爵夫人 大村博美 髙橋絵理
スザンナ 宮地江奈 種谷典子
フィガロ 萩原 潤 近藤 圭
ケルビーノ 小林由佳 郷家暁子
マルチェリーナ 石井 藍 藤井麻美
バルトロ 畠山 茂 北川辰彦
バジリオ 高柳 圭 高橋 淳
ドン・クルツィオ 渡邉公威 児玉和弘
バルバリーナ 雨笠佳奈 全 詠玉
アントニオ 的場正剛 髙田智士
花娘1 辰巳真理恵 金治久美子
花娘2 横森由衣 長田惟子
http://www.nikikai.net/lineup/figaro2022/index.html
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