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2021年12月19日 (日)

田部京子さん~ピアノ・リサイタル

田部京子さんが浜離宮朝日ホールで展開しているシリーズ「シューベルト・プラス」の第8回公演を、12月19日午後、同ホールで拝聴した。

田部さんがシューベルトの第21番を弾くこと。平日の夜ではなく、日曜日の午後ということもあってか、満員に近い客入りだった。

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1曲目はモーツァルトのピアノ・ソナタ 変ロ長調K.570。

旧モーツァルト全集では第16番、新モーツァルト全集では第17番とされる曲。

田部さんのモーツァルトは、いわゆるロココ調のアプローチとは違う。気品ある古典的フォルムの中において、音には常に温もりがあり、それはそのままロマン派の音楽にも通じるもので、このテイストは、第1、第3楽章のそれぞれ冒頭から感じさせるものだし、当然ながら、アダージョの第2楽章はそれが顕著だ。

全曲において、微妙で絶妙な強弱の変化と、ニュアンスの変化を織り込みながらの、モーツァルトの演奏だった。

田部さんの演奏にある格調高い気品と温かさは、次のブラームスと最後のシューベルトにおいても、基盤として常に存在する。

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2曲目は、ブラームスの「6つの小品」Op.118

前述のテイストは、特に第2曲のイ長調の間奏曲や第5曲のロマンス ヘ長調で引き継がれる。

優しさと温かな慈愛あふれる、情感豊かな音楽と演奏。

そして、第1曲イ短調の間奏曲や第3曲バラードト短調、第4曲ヘ短調の間奏曲においては、激しさを伴う曲想であっても、外的でドラマティックな演奏ではなく、内在する情念を炙(あぶ)り出すかのような演奏を聴かせてくれた。

第6曲の間奏曲 変ホ短調は、音楽も演奏も とりわけ印象的で、繊細で独白的な詩情を湛え、内的な劇性も交えた感動的な演奏だった。

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後半はシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960

第1楽章。誰よりも ゆったりと開始し、テヌートやアゴーギクを用いながら、それでも自然体にして、思い出を懐かしむかの様に進行する。

穏やかさ、諦念、煩悶。静寂と劇性。清らかさとグロテスクさ等々、複雑で矛盾するかのような様々な要素に満ちた長大な曲想を、田部さんは丁寧に描き出すが、それは説明していくというのではなく、あくまでも、シューベルトの心あるいは人生に寄り添うようにして奏して行くのだ。

デリケートにしてスケール感のある、懐の深い演奏。これは田部さんにしかできない演奏だと思う。

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第2楽章が、曲としても演奏も、とりわけ感動的だった。

冒頭から間もなくのクレッシェンドの深さ。直後の温かなテイストへの変化。孤独と悲しみ。希望と喜び。ニュアンスの変化と情感豊かな、温かさと愛のある演奏。

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第3楽章と第4楽章は、前半の2つの楽章とは全く質感を異にする。

そのギャップに驚くし、シューベルトのユニークさを象徴している、と言えるかもしれない。

第3楽章の、開き直ったかの様な、楽天的な解放感。

第4楽章での、短調と長調が入り混じり、行き交う中での悲しみと愉悦。しかし、田部さんは、それらをことさら強調するのではなく、場面における入念なニュアンス変化を示す中での、自然体にして流動感と説得力のある演奏で見事だった。

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アンコールの1曲目は

シューベルト 4つの即興曲D899より第3曲 変ト長調。

ゆったりと、たおやかな世界が優しく広がる。終わり近く、低音の響を丁寧に強調されたのが印象的で、瞬間的に、第21番の第1楽章で、何度も奏される、あの低音のトリルを連想した。

この曲が、単にロマンティックな、穏やかな曲というのではなく、低音を大事にしている曲であることを示されたように思える。こういうことを気づかせてくれるシューベルトの演奏するピアニストは、田部さんくらいしかいないかもしれない、と思った。

アンコールの2曲目は、今回も含めて浜離宮には毎回来場される吉松 隆さんの編曲によるシューベルト「アヴェ・マリア」。

クリスマスに近い時期もあるが、気品と慈愛のある美しい響と歌がホール一杯に拡がって、感動的な演奏により、コンサートが終わったのだった。

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演奏曲

1.モーツァルト ピアノ・ソナタ 変ロ長調K.570

2.ブラームス:6つの小品 Op.118

 (1)間奏曲 イ短調、(2)間奏曲 イ長調、

(3)バラード ト短調(4)間奏曲 ヘ短調、

(5)ロマンス ヘ長調、(6)間奏曲 変ホ短調

3.シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960

アンコール

1.シューベルト 4つの即興曲D899より第3曲 変ト長調

2.シューベルト「アヴェ・マリア」~編曲=吉松 隆

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