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2020年2月17日 (月)

ラ・ボエーム~鷲尾麻衣さん~甲府市

「ラ・ボエーム」in 甲府市~鷲尾麻衣さんのミミ、田尾下哲演出他について

「ラ・ボエーム」を観、聴くたびに「なんというオペラだろう」と思う。わずか2時間ほどの中に、多くの要素が織り込まれて展開する。第1幕の恋の芽生えから一転して全然別の賑やかな展開の第2幕。このオペラの核心にして白眉の第3幕。割と雑多な展開が、急激に悲劇に転じるエンディグの第4幕。最後はどう終わるかなど百も承知で、解りきっているのに、それでも毎回感涙を禁じ得ないエンディング。このファンタジーとシリアスが同居するデリケートなオペラには、仮に気に入らない演出がなされようとも、そんなものには全く動じない「強靭さ」も内在するのだ。

16日午後、甲府市のYCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)でプッチーニの「ラ・ボエーム」を観、聴いた。第1713回トヨタコミュニティコンサートin山梨という公演で、山梨交響楽団特別演奏会という公演でもある。

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聴きに行きたいと思った理由は鷲尾麻衣さんがミミ役を歌うから。2年前、水戸で行われたトヨタコミュニティコンサートの「ラ・ボエーム」は、三ツ橋敬子さん指揮の茨城交響楽団での演奏で、そのときもミミ役は鷲尾さんだったが、私は大学オケの同期会と重なり、その会での演奏の際の指揮と編曲も担っていたので、残念ながら水戸公演を聴けなかったから、今回を楽しみにしていた。なお、今回の公演で水戸公演と同じキャストは鷲尾さんの他、ムゼッタ役の高橋 維さん、マルチェッロ役の加耒 徹さん、ショナール役の近藤 圭さん。

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開始前、音楽監督の三枝成彰さん、山梨出身の作家 林 真理子さん、演出の田尾下 哲さんによるプレトークがあり、今回、田尾下さんが行うオペラにおける、いわゆる「読み替え」を中心に会話がなされた。

オペラ演出の「読み替え」は絶えず批判とリスクを伴いがちだ。オペラの演出は難しい。「オペラ演出家は歌手のレベルアップに追い付いていない」が私の見解。

とりわけ、シンプルさこそ作品が最も生かされると思える「ラ・ボエーム」の演出は、読み替え自体を拒否するかの自立性がドラマ自体に在る。

「ばらの騎士」で見事な成功を収めたホモキでさえ「ラ・ボエーム」では失敗していた。

では、今回の田尾下演出をどう感じたか、は下記順次述べたいが、読み替えの主な点をまず述べておくと、第3幕が終わり、第4幕に入る前、この間は(原作の3か月ではなく)5年間の空白があると設定し、マルチェッロは映画監督として、ロドルフォは脚本家として成功を収めており、映画「ミミ」を完成、上映させた、という挿入劇を入れたこと。

そして、それに関連して、第1幕冒頭に主要なメロディをオケが奏でる中、映画「ミミ」は完成したが、「これまで色々あったな」という感慨にふける中、第1幕が開始される、というもの。

これらの感想は後述する。

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歌手の皆さんについて

鷲尾麻衣さんにミミで今回はっきり気が付いたが、ストレートな歌声だけでなく、歌声自体に「はかなげ感」、哀愁感、寂しさ漂う要素がある、ということだ。ゆえに、ミミのイメージにとても合っていたる、と感じた。言うまでもなく美貌だし、その姿と演技もとても良かった。

とりわけ、第3幕での感情移入、第4幕での(ベッドではなく)ステージに長く横たわりながらの歌唱は、そんな姿勢からとはとても思えないほど、声がよく出ていて見事だった。

写真は終演後の楽屋前。終演直後ではバタバタして大変だろうと思い、だいぶ経ってから楽屋に行ったので、当然ながら既に軽装に着替えられてのツーショット写真。ここ10年ほどの鷲尾さんの「進化」は実に素晴らしい。

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ロドルフォ役の山本耕平さんが絶好調で、これまでガラコンサートでのアリア等、5回以上は聴いていて、必ずしも絶賛したくなるほどの印象は受けなかったのだが、私が拝聴した山本さんの中で、この日の内容が最高に良かった。美声にして、音響の良いとは言えない大ホールのステージにあっても、よく響く豊かな声量を披露されていて素敵だった。

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ムゼッタ役の高橋 維さんも絶好調。山本さん同様、数回聴かせていただいているが、今までの私の印象では、声がやや細く、表現しきれていない感じがした記憶があったが、この役はたぶん彼女を最も魅力的にアピールできる役だな、と思った。鮮やかな歌い回しの技術が冴え、演技も「成りきり感」が見事。第2幕素晴らしかったのは当然だが、第4幕でのミミへの友愛もよく感じさせるセリフと歌唱だった。終演後、楽屋近くで見かけたので、「ブラーヴァでした」と伝えた。

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ありがちなマルチェッロの役柄のイメージと違うような印象を受けた加耒 徹さん。加耒さんはたぶん10回前後拝聴していて、鷲尾さんに次いでたくさん聴かせていただいているが、加耒さんの個性と、マルチェッロの役のイメージが私の中では違っていたが、その違うという面白さが有り、かえってその普通な感じが芸術家を目指す青年というキャラクターをよく伝えていたと言える。

ショナール役の近藤 圭さんもこれまで数回拝聴してきたが、今回が一番感心した。とても良い声。

コルリーネ役の加藤宏隆さんは、第4幕の有名な「外套の歌」で威厳的風格だけでなく、高音が柔らかく素敵だった。

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オーケストラ等について

山梨交響楽団は初めて聴いたが、とても上手いオケ。全く申し分なかった。児童合唱も可愛らしかったし、よく歌っていて、とても良かった。

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演出について

第1幕の冒頭は先述のとおり、オリジナルにない「付け加え」により開始された。しかしこれだと、初めてこのオペラを観た人は、こういう美しくも回想的な音楽と設定で開始されるのか、と誤解するし、本来の冒頭の、起動的、躍動的な開始の斬新さが薄れるので、私は感心しなかった。

良かったのは第3幕。第3幕はこのオペラの核心にして白眉だが、この日の演奏も全体的に素晴らしく、演出もシンプルで美しかった。

第4幕での演出は最後がガッカリ。せっかくの悲劇的設定が、映画に関係した写真撮影(カメラフラッシュ)の多用により「邪魔」されてしまい、劇的要素が希薄になる感がした。

数年前に日生劇場で観た「フィデリオ」を思い出す。あれも(違う演出家だが)、それまではなかなか良い演出で進行して来たのに、最後の最後で子供っぽい設定がなされ、ガッカリしたし、実際、ブーイングも起きた。

この日のカーテンコールでは、なぜか三枝さんがステージに上がったが、肝心の田尾下さんは結局出て来なかった。拍手喝采で迎えられたか、それともブーイングが出たかは、結局判らないまま終わったのは残念だし、「ズルイ」と思う。オペラのカーテンコールで演出家が登場しなかったシーンは私はほとんど記憶が無い。

そうした「中途半端な演出」であっても、プッチーニによる音楽の魅力と原作の見事さに、いつもながら感涙を禁じ得ないラスト10数分ではあった。

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指揮:高井優希

演出:田尾下 哲 音楽監督:三枝成彰

ミミ:鷲尾麻衣

ムゼッタ:高橋 維

ロドルフォ:山本耕平

マルチェッロ:加耒 徹

ショナール:近藤 圭

コルリーネ: 加藤宏隆

ベノア&アルチンドロ:晴 雅彦

パルピニョール:根岸香苗

管弦楽:山梨交響楽団~ゲスト・コンサートミストレス:山下有紗

合唱:梨響コーラス

児童合唱:梨響ジュニアコーラス

合唱指導:依田 浩、雨宮由佳、根岸香苗

バンダ:山梨県立甲府第一高校応援団吹奏楽部

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