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2020年1月 3日 (金)

CD1曲目で掴む~砂川涼子さん「ベルカント」と小林沙羅さん「日本の詩」

歌手、器楽奏者等を問わず、音楽家としてCDをリリースする場合、全体の選曲(コンセプト)だけでなく、1曲目と最後に何を持ってくるか、は、とりわけ重大な検討を要することに違いない、と想像する。
砂川涼子さん待望のファーストアルバム「ベルカント」と、小林沙羅さんのサードアルバム「日本の詩(うた)」は、2人が得意とする選曲と充実度であり、それぞれにおいて、1曲目から既にリリースの成功を確信させるに足る素晴らしい歌唱を聴かせてくれる。
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砂川さんの1曲目は、プッチーニ歌劇「ラ・ボエーム」の「あなたの愛の呼ぶ声に」。次の「私の名はミミ」とともに2曲を聴いて私が思う事は、砂川さんは「現代最高のミミ歌いだ」ということ。
敢えてワンオブを付けないでおきたいし、「日本人で」という形容詞も、あまり意味をなさないかもしれない。おそらく、世界でもごく数人に限定されるレベルのミミだと思う。
凛とした麗しさと感情移入。歌声の響の美しさと技術の完成度の高さ。哀愁感あるドラマ性と気品。正に第一級の歌手。

 

アルバム中、得意のリューのアリアに加え、比較的珍しいヴィヴァルディの曲や、ドナウディの3曲、オッフェンバック「ホフマン物語」から「キジは逃げた」という個性的な選曲が続き、ヴォルフ=フェラーリの「さようなら、愛しのヴェネツィア」での圧巻のロングトーンで締めくくっている。

 

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小林沙羅さんの日本歌曲や現代曲の歌唱は既に定評があり、その象徴ともいえる1曲目は武満徹の「小さな空」。多くの合唱団が歌い~私も歌ったことがある~ソリストもソプラノを中心に多くの歌手がリサイタルで歌い、録音も複数あるが、これほど見事なソロによる「小さな空」はほとんど記憶がない。
砂川さんのミミ、小林さんの武満。正に「掴(つか)みは十分過ぎるほどOK」という第1曲=アルバムの開始だ。

 

沙羅さんの選曲も意欲的なもので、盟友 中村裕美さん作曲の「或る夜のこころ」、ラストには、沙羅さんがこのアルバムのために谷川俊太郎さんに作詩を委嘱し、沙羅さん自身が作曲した「ひとりから」で締めくくっている。沙羅さんの作曲の才能も素晴らしい。

 

宮城道雄の選曲も個性的だが、私がとりわけ嬉しいのは武満最高の歌の名曲「死んだ男の残したもには」が収録されたこと。ソロではテナーやバリトンなど、男性歌手がよく歌い、録音も複数あるが、女性歌手は~内容的にメッセージ性が強いためか~あまり歌っていない様に思える。しかし、これを歌い、録音するところが、沙羅さんの沙羅さんたる所以(ゆえん)だ。轟 千尋さんによる編曲も「小さな空」同様、原曲に良さをそのまま伝えることに徹して余計なことを排したシンプルな編曲な点が良い。

 

ほか、山田耕筰や瀧 廉太郎等のポピュラーな曲もあるが、沙羅さんの曽祖父の詩人 林 柳波の詩による「うみ」~あの有名な「うみはひろいな大きな」で始まる歌~や、「お六娘」という面白い曲(作曲は橋本国彦)が聴ける。

 

「或る夜のこころ」、「死んだ男の残したものは」、そして自作の「ひとりから」を最後の3曲に置いて歌い録音されたこのアルバムは、20代のころ以上のエスプレッシーヴォと言える情感豊かに聴く人を魅了する感情移入と、全体のフォルムの安定感に満ち、成長著しい沙羅さんの今が十分堪能できて素晴らしく、見事としか言い様が無い。強く推薦したいサードアルバムCDだ。

 

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