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2019年12月12日 (木)

田部京子さん リサイタル~ブラームスのピアノソナタ第3番で高度な音楽性を披露

12月12日(木)夜、浜離宮朝日ホールで田部京子さんのリサイタルを聴いた。同ホールで2003年から開催しているリサイタルシリーズの、2016年からスタートした「シューベルト・プラス」の第6回目ではあるが、今回のメインはプログラム後半に置かれたブラームスのピアノ・ソナタ第3番ヘ短調Op.5だった。この曲は、田部さん自身、ドイツ留学から帰国した直後1992年のデビューリサイタルで弾いた特別な思い入れのある曲で、日本コロムビアの関係者がその演奏を聴いて、田部さんと録音契約を結ぶに至ったという作品でもある。そのブラームスの、この日の演奏について最初に一言だけ触れておくなら、「一流のピアニストの演奏とはどういうものか?という問いに対する、最高の回答的演奏」と言うべき名演だった。詳細は後述する。

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前半の1曲目はシューベルトのアレグレット ハ短調D915。ベートーヴェンが逝去して約1か月後に書かれた小品を、田部さんは格調高く弾いた。次いで、シューマンの「子供の情景」Op.15。1曲目や「トロイメライ」は別として、総じて子供の世界の描写というより、とても大人な音楽集と言える。田部さんの「トロイメライ」は何度も聴いているが、上行音型で少しアッチェルぎみに進め、落ち着くところでたっぷりと余韻を持たせて進めていくアプローチはいつもどおりだが、毎回新鮮に聴こえるのは、田部さんがその場の感興を大事にして弾いていることの表れだろう。13曲全曲において、大人な演奏、各曲の曲想を丹念に熟成させたアプローチだった。

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前半最後は、田部さんがここ数年、好んで度々弾いているグリーグの「ペール・ギュント」第1組曲Op.46。第1曲「朝」の独特のアゴーギクを用いた清々しさ、第2曲「オーゼの死」の沈鬱さ、第3曲「アニトラの踊り」や第4曲「山の魔王の宮殿にて」のユーモアやグロテクスさにおいても、常に緻密で入念な運びと気品があるから素敵だ。第4曲での不協和音さえ何と言う美しさだろう。

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休憩後は先述のとおり、若きブラームスの傑作であり、ロマン派全体の中でも傑出したピアノ・ソナタの1つである第3番。若い情熱と円熟さえ感じさせる構成力ある5楽章制を採る作品で、とても20歳の作品とは思えない完成度の高い作品。

第1楽章は威厳を持って開始し、終始リズミックなモティーフにより進行するが、最後は長和音で終わる構成。第2楽章での繊細さ、第1楽章の要素を含んだスケルツォ楽章の第3楽章。ベートーヴェンの「運命」の動機を終始連想させ、瞑想的でもある第4楽章。終曲第5楽章では、それまでの各楽章の要素を踏まえながら、楽天的に締めくる。

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田部さんは全体の構成を把握した上で、各楽章の曲想(キャラクター)を入念に、大胆かつ繊細に表現しながら、描き上げた名演だった。

全楽章、長調と短調の明確さはあるが、いわゆる有名な旋律があるわけでもない係る作品であり、しかも頻出する細やかなリズム等、細部の弾き分けが難しいし、全体を見据えた構成感も表現しなければならない、という大曲にして難易度の高い曲。

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技術だけでなく、1つ1つの音が充実した奏者でないと、とてもじゃないが弾きこなせないだろう。要するに、高度な技術に加え、高度な音楽性を有する奏者のみが演奏する資格がある曲であり、真にプロフェッショナルな力量を要求される凄い曲だ。

田部さんはそれを見事にやってのけた。「どこまで進化し続けるのか、想像もできない才能だ」、とあらためて実感した。

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アンコールとして田部さんは ブラームスの6つの小品より間奏曲Op.118-2 イ長調と、シューベルト作曲で、田部さんと吉松隆さんが編曲した「アヴェ・マリア」が演奏された。

どちらも温かく演奏して素晴らしかった。

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なお、現状、残念ながら、このブラームスの第3ソナタと、シューマンの幻想曲ハ長調の録音がなぜか無いので、制作会社には録音を強く希望する。

https://www.facebook.com/kyokotabefc/photos/a.574501929567168/1018840765133280/?type=3&theater

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