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2019年10月 4日 (金)

アンジェラ・ヒューイットさんのバッハを聴いて~紀尾井ホール

4日夜、アンジェラ・ヒューイットさんの演奏を紀尾井ホールで聴いた。演奏曲はもちろんバッハ。10月1日と4日の2回にわたり、イギリス組曲全曲+αを演奏するというもので、私が聴いた4日の演目は第4番ヘ長調、第5番ホ短調、休憩後にソナタニ長調BWV963の後、イギリス組曲に戻って第6番ニ短調、というもの。なお、1日の初回の演目はイギリス組曲第1番、2番、3番と組曲ヘ短調、前奏曲とフーガイ短調だった。

「バッハ弾き」はこれまでも何人かいたし、今も他にいるかもしれないが、少なくとも21世紀初頭において、もっとも知られた奏者となったのはアンジェラ・ヒューイットさんだろう。バッハの鍵盤楽器による曲だけのコンサートで、聴衆を飽きさせないどころか、大いに満足させてくれるピアニストはそれほど多くないかもしれない。

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ファツィオリ=FAZIOLIピアノから奏でられるヒューイットさんの音、音楽は、ソフトな音ながら、音の厚みと粒立ちが常に安定していることを土台として、様々なニュアンスを繰り広げていく。右手と左手のそれぞれにおいて、p、mp、mf、f、クレッシェンド、ディミヌエンド、fpフォルテピアノ、スタッカート、テヌート、スフォルツァンド、レガート、マルカート、強さ、繊細さ、しなやかさ、剛毅さ、厚い音、薄い音等々がそれぞれ二乗、三乗という倍化された数で繰り広げられていく、その見事さ。

そして何よりも「私はバッハをこう弾きたい」というコンセプトが明確なのが素敵だ。厳格で真面目な音楽ともとられかねないバッハの音楽は、ここまで愉悦に満ちた音楽であることを自然体で提示してくれる音楽家。素晴らしいピアニストだ。

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「イギリス組曲」については詳しくないので、今後もっと勉強するが、この日の第4番、5番、6番のどれも素敵で、特に5番、とりわけ6番が感動的な曲と演奏だった。

それにしても、バッハの作品の奥深さ、凄さ、素晴らしさをあらためて強く実感する。1つの楽器を使用した音楽でありながら、教会音楽、世俗音楽、ポリフォニー、対位法等々を存分に駆使し、伽藍の如く壮観であり、細やかな工芸品の如く繊細で有機的、論理的にして情感ある音楽。

厳格で峻厳でさりながら、未来志向的であり、モーツァルトを十分に予感させるし、ベートーヴェンさえも予感させる情念すら内在している音楽。それでいて常に気品とモラルが存在する音楽。もはや天国的で天体的な音楽としか言い様のないほど魅力に満ちた音楽。それがバッハの音楽だ。

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アンコールとして、クープランのクラヴサン曲集第3巻より第14組曲第1番「恋するナイチンゲール」という楽しく興味深い曲。

全体として、良いバッハ演奏を聴いた、というより、本当に良い音楽、良い演奏を聴いた、そういうコンサートだった。

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なお、最後になったが、今回のコンサートは、2016年にバッハ・オデッセイプロジェクトを発表され、2017年から2020年にかけて、ロンドン、ニューヨーク、オタワ、東京、フィレンツェの各都市でおのおの12回公演を持ち、それにより、バッハの鍵盤楽器作品の全てを演奏するというものの一環としてのコンサートだった。

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