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2019年7月21日 (日)

田部京子さんピアノ・リサイタル~宗次ホール

今月26日の浜離宮朝日ホールでのリサイタルに先立つ、20日夜、名古屋の宗次ホールで田部さんのリサイタを拝聴した。宗次ホール自体初めてだったので、ホール自体の興味も当然あっての拝聴。なお、ファンクラブの事務局員としてではなく、あくまでもプライヴェートな行動なので、事前に田部さんに宗次に行くことはお伝えしていなかった。

 

310席(1232席、278席)という、こじんまりとしたサロン風のホールで、響き過ぎるくらいよく響く。田部さんは芯の強い、音量も相当あるピアニストなので、STEINWAY&SONSの周辺を中心とした音の渦は、ホール中に響き渡り、駆け巡る、といった感のあるホール。

 

選曲が素晴らしく、ベートーヴェンのソナタ第8番「悲愴」に始まり、シューベルトの美し過ぎるソナタ第13番イ長調、そして休憩後は待望のシューマンの幻想曲ハ長調、という充実したもの。

 

1.ベートーヴェンの「悲愴」

 

1楽章の冒頭の和音から強烈。入念で思索的な運びからアレグロに転じての果敢な展開。主題が戻ってくる経過フーレズでも田部さんは入念に意味を持たせて繋いで行く、こういうところが一流奏者ならではかもしれない。

 

2楽章は、ゆったりした曲や楽章での田部さんの特徴でもある独特のアゴーギクがこの楽章でも多用される。ゆえに、素朴な歌を求める人には少し抵抗があるかもそれないが、これこそ田部さんの感情移入からの率直な「歌」であり、決して表面的で恣意的な表現ではないのだ。

 

3楽章がとりわけ素晴らしかった。モーツァルト的な流麗な流れに、シューマン的なデモーニッシュさが加わった、とでも言えるような迫力と迫真に満ちた進行、展開、推進。この曲は録音、ライブ、外人、日本人を問わず、たぶん30人以上の演奏を聴いていると思うが、これほど感動的な第3楽章はちょっと思い当たらない。これまで聴いた最高の第3楽章と言いたい。

 

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2.シューベルトのソナタ第13

 

冒頭からなんというロマンティックな曲想の曲だろう。田部さんはシューベルトの歌を歌いながら、シューベルトと対話しているかのような、終始穏やかで温かなフレージングとアプローチを続ける。客観的でもあり、主観的でもある、そのバランスが絶妙と感じる。無垢な曲想をそのまま表出すると同時に、自らの構成力と入念な譜読みでシューベルトに問いかけ、対話する演奏。美しい2つの楽章の後の、軽快な第3楽章での切り替えも見事。やはり田部さんにとって、シューベルトは特別な存在なのだろう。

 

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3.シューマンの幻想曲ハ長調

 

たくさんのCDをリリースしてきた田部さんだが、なぜか、録音されていない曲。それゆえコンサートでの実演は貴重だ。過去の録音の印象などの情報が無い分、聴く側もまっさらのまま聴ける。

 

1楽章。冒頭のGの音をテヌートしての華麗な開始。しかし、基本的にはむしろ内省的で、繊細にして内省的な演奏と言えるように思える。同時に曲想が変わり、雄弁に語るところでの追い込みと迫力が素晴らしい。

 

私が大好きなEs durの第2楽章。冒頭の広い和音からして充実した音量と格調の高さ。リズミックで、独特のフレージングが多用される、いかにもシューマンらしい楽章は、きっと田部さんも好きなんだろうな、と感じさせてくれる快活にして果敢な演奏だった。それにしても、第1楽章と第3楽章がハ長調を基調としているのに、この楽章が変ホ長調を採っていること自体ユニークだと、あらためて感じる。

 

3楽章の穏やかで思索的な曲想と展開は、ベートーヴェンの第32番の第2楽章を連想したりもする。あるいは、リストのソナタを予見している、とも言えないこともないかもしれない。この楽章での田部さんは、前2つの楽章の流れにあって、それとはまた違う独立した曲想であり、同時に全体を締めくくる楽章でもある、そういうことを演奏の場面の変化等、構成的にも提示されていたと思う。充実の演奏だった。

 

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アンコールは2つ。

 

グリークのノクターン。なんという美しい演奏だろう。この曲を、こんなに神秘的にしてロマンティックに演奏する奏者はそれほど多くないように思う。どこかエロティックな~もちろん気品もある~演奏でもあった。

 

2曲目はシューマンの「トロイメライ」。この曲を田部さんがどう弾くかはよく知っている。イメージどおりに弾かれたが、それは決してマンネリではなく、あたかも、今ここで生まれた曲であるかのように弾かれた。美しかった。

 

26日の浜離宮では田部さんはどう弾くのか、ホールの響きも含めてどう違った演奏となるのかが、楽しみだ。

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