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2018年10月 9日 (火)

合唱団 鯨による第70回定期演奏会メンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」

今年4月に入団させていただいた合唱団 鯨が第70回定期演奏会として、常任指揮者の黒岩英臣先生指揮によりメンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」を7日午後、東京芸術劇場で演奏した。
メンデルスゾーンの最高傑作にして、あらゆる声楽曲の中でも「マタイ受難曲」、「メサイヤ」とともに西洋音楽史上でも屈指の、偉大な名曲。
自分が出演した合唱については美化せず自画自賛せず、客観的に後述するが、今回はまず何といっても、ソリスト陣の素晴らしさを強調したい。
後述するテオ・アダムの名唱を想起させる与那城敬さん、深い情感と端正なフォルムの谷内畝晶子さん。明るいトーンと安定感抜群のテナー与儀巧さん。そして別途書くが、今回初めて知った歌手の清水梢さんによる透明で純度の高い、よく伸び声量のある見事な声。
エリヤの録音ではサヴァリッシュの2種が特に有名で、N響とのライブは貴重だし、ルチア・ポップさんの素晴らしさや、全体としても速めのテンポによる熱気ある推進力が魅力的だが、合唱の録音が遠くにある感じで損をしているなどを考えると、完成度は、録音のクリア度含めて1968年のライプッツィッヒ・ゲヴァントハウスとの録音が最高に素晴らしい。テオ・アダムのエリヤ、ペーター・シュライヤーとエリー・アメリンクを配したこの演奏を凌駕することは容易ではなく、いまだに不滅の名演、名盤と言える。
しかし今回は、このキャスティングに決して負けていない見事な歌唱だったと、自分が聴衆側にいたとしての感想として、そう伝えたい。
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自分が出演した演奏のことを「最高」とかの言葉で喧伝する傾向が一般にあるし、そうした心理は理解はできるが、私はそういう人間でなく、むしろ「自分が聴衆だったらどう聴いただろう?どういう感想を抱いただろう?」という客観的な視点で考えるし、書きたいと思う。問題があったなら、それを直視しないと、今後の成長はないと考えるので。
ということで、合唱についてまずは反省点から客観的に書くと、1つ大きなアクシデントが最後に生じた。終曲である第42曲の短いアンダンテが終わり、アレグロによるフーガ的展開で進行する曲の出だしで、最初にテーマを歌うアルトパートがどんどん先んじてしまい、指揮、オケと完全にズレが生じた。ソプラノ、バスと入っていく中で修正でき、事無を得たが。
黒岩先生は午前のゲネより幾分ゆったりとしたテンポで振ったとはいえ、アルトパートがちゃんと指揮を見ていれば何のことはなかった。ライブである以上、テンポの変化は当然で、むしろそうした変化のない演奏こそ生気に乏しいと言えるのだから、合唱はその場での対応が必要、必須。「いかに指揮を見ていないか」が、いみじくも露呈した瞬間だった。
私は、やみくもな暗譜主義には批判的な立場をとるが、係る自体を回避する意味では、少なくとも、ほぼ暗譜で歌える状況に各人が自身でもっていく必要があるし、私は今回、ほぼそのレベルに到達できていた。
もう1つ。これはレセプション時の新入団者挨拶でも言及したが、第2曲で何度も歌われる歌詞「Herr, höre~」の2つ単語の発音の違いが明瞭でなかった。オーウムラウトが甘い。東京アカデミー合唱団は、発音練習にドイツ人を招いただけに、このHerrとhöreの違いを明確に歌い分けていた。
今回の鯨は、この点での明確な発音の違いを出せていなかった。
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という事はあったが、プログラムに全員の一言が掲載されて、そこにも複数あるように、各人が懸命に長く難しいドイツ語歌詞に取り組み、あるいは1993年のとき以来の感慨で歌う人がいたり、多くの熱い気持ちが練習を重ねる中で高まり、それが発散されたのも事実だった。レセプションのとき、いみじくもソリストの藤崎美苗さんが「ともすれば、合唱がオケに遅れて出ることがあるが、今日の鯨は先んじる事はあっても遅れなかった」とコメントされたことに象徴するメンタリティがこの日のステージ上にはあったかもしれない。
鯨は高齢者が多いが、練習への出席率が良い。足の具合が良くない団員も複数いらっしゃるが、本ステージで象徴的に見れたとおり、団員同士で支えあう精神が強い。これは必ずしも全ての合唱団やオケに共通する文化ではない。
昨年、栗友会に属する2つの合唱団が「50歳以上、お断り」という非常にバカげた、エリート主義だか何だか知らないが、意味不明の愚挙に出た。私はその2つの合唱団を二度と聴く気はない。もちろん「いたわり」だけが組織ではないが、他者への優しさが無い集団組織、合唱団が、他者を慰め、いたわり、癒す音楽を提供できるとはとても思えないのも事実だ。
鯨は会社かと思うほどの組織もできているが、血の通う、柔軟で常に団員各人に気を配る文化がある。
繰り返しになるが、このことは全ての合唱団やオケにあるとは限らない文化だ。
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今回で鯨とは9年連続の共演となるクライネス・コンツェルトハウス管弦楽団はプロゆえ、抜群に上手い。「鯨」と何度も共演を重ねているので、ソリストとのレスタティーボを含め、合唱との合わせも抜群に巧い。コンミスの三戸素子さんのリードも素晴らしい。
今回更に嬉しかったこととして、個人的なことになるが、ヴィオラトップの長谷川弥生さんは、チェリスト陽子さんの姉で、別途書いたように、偶然、前日6日に、陽子さんのファンクラブの集いがあったばかりで、陽子さんには「明日、弥生さんと同じステージで共演させていただく」旨を伝え、弥生さんにも7日、本番を前とした通路でご挨拶し、「昨日、陽子さんに、今日、弥生さんとごいっしょする旨を伝えました」と話した次第。こうしたご縁が重なるステージは喜びが倍加する。
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いずれにしても、これまで未知だった係る偉大な曲を、多くのご縁も重なって、歴史ある合唱団で、学生時代以来38年ぶりに黒岩先生の指揮で、1~2階はほぼ満席の東京芸術劇場で歌えたことに、団と関係者すべての皆様に心から感謝したい。

バス1(エリヤ)与那城敬
ソプラノ1(二人の婦人、天使)清水梢
ソプラノ2(二人の婦人、天使、寡婦)藤崎美苗
アルト1(王妃、天使)谷地畝晶子
アルト2 金田久美子
テノール1(オバデヤ、アハブ)与儀巧
テノール2 高柳圭
バス2 大槻聡之介
管弦楽    クライネス・コンツェルトハウス管弦楽団

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