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2018年6月27日 (水)

清水華澄さん初リサイタル

今や押しも押されぬ売れっ子メゾソプラノ歌手
清水華澄さんの初リサイタルを26日夜、
紀尾井ホールで聴いた。
意欲的でユニークなプログラムによる果敢な初リサイタル
だった。初というのも意外だし、初めてなら、
もしや慎重に保守的な選曲することもあり得なくはないだろう
ところを、そうしなかったことにまず敬意を表したい。

私が初めて清水さんを聴いたのは「3.11」の約1か月前、
よって一部崩落する前のミューザ川崎での、
冨平恭平さん指揮オーケストラハモンによるマーラーの
交響曲第3番だった。第4、第5楽章の歌唱が素晴らしく、
「この人、絶対有名になるな」と直感した。
それからほどなく、皆さんご承知のとおりとなった。

ソプラノに比べてメゾは少ないからその分貴重、などと
いうような次元ではなく、活躍するべくして活躍されている歌手。
初リサイタルに際して、白黒のシンプルながら、
複数の写真を入れた印象的なプログラムに、
華澄さん自身がこう寄稿されている。

「新しい一歩であり、スタートでもある私の挑戦。
 一心不乱に前だけを見て走り続けた20代、30代。
 しかし30代の最後に突然「なぜ自分は歌っているのか」を
 考え始め、今までやって来なかったことの中に答えが
 あるかもしれないと思い、リサイタルへ挑戦することを
 決めました」。

ピアノに越知晴子さん、
サクスフォンの鈴木広志さん(終曲の「臨死船」のみ)を
迎えての演目は以下のとおり。

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1.アルマ・マーラー「5つの歌」
 (1)静かな町
 (2)父の庭
 (3)なま暖かい夏の夜
 (4)お前の元では打ち解けられる
 (5)僕は花のもとをさまよう

2.グスタフ・マーラー「さすらう若人の歌」
 (1)愛しい人がお嫁に行く日は
 (2)今朝ぼくは野原を歩んだ
 (3)僕は燃える剣を持っている
 (4)愛しいあの子のつぶらな瞳が)

 (休憩)

3.ストラビンスキー「「エディプス王」より
   ヨカスタが歌う「恥と思わぬか、王子たち」

4.ベルリオーズ「ファウストの劫罰」より
   マルグリートが歌う「激しい愛の炎が」

5.作曲=根本卓也 詩=谷川俊太郎 「臨死船」

アンコール
1.武満徹「うたうだけ」
2.マスカーニ「カヴァレリアルスティカーナ」より
   「ママも知るとおり」

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1曲目。
華澄さんの声は一般的なメゾのイメージより明るく
伸びやかなトーン。この曲では瑞々しい清らかさがあった。

2曲目も丁寧に曲想を歌い分け、若い心情に寄り添う
立派な歌唱だったが、失恋の歌なので、もっと激する
ところがあってもよかったかもしれない。
マーラー特有のある種の「毒」、やるせないまでの感情の
移ろいがあってもよかったかもしれない。

今回は初リサイタルということで、
大胆なプログラムではあっても個々の歌では丁寧に仕上げる
という点に注力されたのは当然のことだ。
今回が「初」でなかったら、
この曲ではもっと「踏み込んだ」表現をされたかもしれない。

なお、彼女自身、前述のプログラムへの寄稿の中では
こう書いている。

「これから歌っていきたいグスタフ・マーラーと彼の妻
 アルマの歌曲から5曲。マーラーの作品は演奏する度に、
 私の声が喜ぶ作曲家」

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休憩後ドレスを着替えた後半こそ彼女の真骨頂と言え、
最初のストラビンスキーではオペラ的、劇的な表現力を
余すところなく表現して素晴らしかった。
プログラムにはこう書かれている。

「学生時代、エディプス王の映像を観て、ヨカスタを歌う
 ジェシー・ノーマンと彼女の立つ舞台に憧れた。
 それから20年が経ち、ヨカスタを歌える時が来つつある
 と感じています」。

十分に「歌えるときが来た」と言えるだろう。

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次のファウストからの曲では、品の良さと後半の声量が
素敵だった。プログラムにはこう書かれている。

「マルグリートは全幕を日本語で歌唱したことがあります。
 いつかフランス語で、そしてスーザン・グラハムのように
 歌いたい!と思い続けて10年。
 まだまだ道半ばですが、私のマルグリートをお届けします」。

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最後の曲は指揮者で作曲家の根本卓也さんが、
谷川俊太郎さんの長い詩に作曲した、語りと歌をほぼ交互に
交えながら作曲作品で、華澄さんの語りが聞けて
面白かったが、歌の部分に比べると語りでの声量が
やや控えめであったこと、
作品自体に大きな抑揚的(転調的)変化が少なく、その分、
私にはやや平坦な作品との印象を受けた。

なお、初演はバリトン、チェンバロ、サックスでなされたという。
この日のサクスフォンは初演でも演奏した鈴木広志さんが
務めた。
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アンコールに際しては小話で客席を笑わせた後、
武満の「うたうだけ」を楽しげに、「ママも知るとおり」を可憐にして
情感たっぷりに歌い、大いに客席を沸かせて終えた。

人気のある人で、2曲目以降アンコールに至るまで、
大きな拍手と歓声が場内に溢れていた。
彼女の友人や共演や指導されている合唱団等が多かった
であろう客層は、彼女の実力はもちろん、
彼女の温かく誰とでも気さくに応じる飾らない人柄の
なせる業でもある。

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最後に受付や終演後の写真撮影も含めて華澄さんを
献身的にサポートした名ソプラノ歌手の藤谷佳奈枝さんに
御礼を込めたい。

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