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2018年3月 9日 (金)

田部京子さんブラームスのピアノ協奏曲第1番を弾く

12月のファン懇親会の折、 「以前から一度弾いてみたかった曲」
と語っていた田部京子さんが9日、公では初めて
ブラームスの第1コンチェルトを演奏された。
広上淳一さん指揮 日本フィル。大宮ソニックシティ。

曲自体、私は高校生から大学生にかけては2番よりも
CDいや当時はLPレコードでよく聴いていたが、
全曲を通して聴くのは久しぶり。

冒頭からオケはオーソドックスなテンポ。これを聴いているうちに
私は、「田部さんは絶対にこのテンポでは開始しないだろうな」
と想像した。いや確信していた。実際そうだった。

すなわち、たっぷりとした間合いで、テヌートとアゴーギクを
用いて開始したのだ。もちろん、弾き出して10小節も行くころ
にはオケとテンポ感のうえでも同化していたのは当然だが。

田部さんのこの冒頭のアプローチはもちろん指揮者や
オケを無視したものということではない。
あくまでもピアノのソロ開始としての表情付けという、いわば
2段構えのアプローチであり、当然、指揮者と合意のものだろう。

交響曲と違う協奏曲の面白さは、こうした協奏とともに
共闘、対決的な要素が含まれることだ。

オケは後半の第4交響曲ではコントラバスは7人だったのに
対して、コンチェルトでは4人、ということが象徴している
とおり、全体的に室内楽的な志向を感じた。
若書きの粗さを否めないオーケストレーションだが、
晩年の諦観と異なる、まだまだ熱い感情がほとばしる
青年ブラームスの情熱的な曲。

特にピアノパートは音域の広さ(高低の行き来)を伴う
相当な難度を有する曲。

田部さんのこの曲、あるいはブラームスのソロ曲をふくめての
演奏の特徴の1つは、フレーズにたっぷりとテヌートアクセント
を効かせる点にある。

先述のソロ開始冒頭の他にも例えば、第1楽章の中間部、
弦と木管とで静かに移行して、それが止んだ直後、
226小節の「C→F、C→F」(タターン、タターン)の部分。
田部さんはここを「タッ・ターン、タッ・ターン」とたっぷりと
間合いをとって決然と提示した。象徴的な部分と言える。

第2楽章は繊細さが見事だったが、それだけでなく
例えば80小節から8小節の低音に軸を置いた
アルページョの、その低音の充実感が見事だった。

第3楽章はノリに乗っての熱い演奏。
全く申し分ない見事な演奏。
ほぼ満員の客席から大きな拍手と歓声を得たのは
言うまでもない。

ブラームスの持つ、古典とロマンのぞれぞれにおいて
佇(たたず)む情感、古典とロマンのそれぞれで漂い
行き交う構成感と情感のいずれをも、
田部さんは見事に弾き分けていた。

女性的という表現は適切ではないにしても、田部さんは
テヌート、アゴーギク、ルパートを多用しながら、
アプローチとしてはフレーズに重みを付けても、
田部さん本来の上品で繊細な美観が常に保たれる。

どっしりと構えても重たい音でなく、繊細さと緻密さが
常にあり、堅固さも同時に存在するのだ。
独特の個性的なブラームス演奏と言えるかもしれない。


想うに、田部さんはブラームスこそ(弾く時が)
一番「自由に」演奏できるのかもしれない。
これはある意味意外だ。
堅牢な構成感のあるブラームスの音楽を、
テヌートとアゴーギクを多用してたっぷりドッシリ
構えながらも、実は自由に伸び伸び思うがままに
しなやかに演奏する。
それが田部さんのブラームスのように想える。

使用したピアノはヤマハ。終演後、田部さんにうかがうと、
ホール内のスタインウィの状態がイマイチということも
あり選んだという。
よく響いてはいたが、何せ、ホールがバカでかい
大宮ソニックシティという点で、
2階席ではどう聴こえていたのだろう?という懸念点は
ある。これはご本人も述べていた。

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休憩後の交響曲第4番。
冒頭から平凡に普通に開始された第1楽章。
丁寧だが、終始アンサンブル志向の演奏で、
ドラマが生じることは無い。
過去のマエストロたちのアプローチはここには皆無だ。
この第1楽章の演奏は私の好みではない。

室内楽的なアンサンブル志向という点で、曲想的に
第2楽章は向いているが、それでも前半は物足りない。
例えば30小節からのヴァイオリンの歌はもっと瑞々しさが
欲しい。
楽譜の曲弱指定は「P」であっても、清らかなというより
艶やかなまでの美観が欲しい。
それでもこの楽章の後半では熱さを帯びてきて、
良い盛り上がりを見せた。

熱さという点で第3楽章が一番良かった。

室内楽的アンサンブルが生きた楽章が最終楽章。
第4楽章の後半では前半とは違うアプローチも見せた。
広上氏が大きく体と腕で132小節の3拍目
(133小節アウフタクト)からのヴァイオリンとヴィオラ
による「ff」を求めたし、ほとんど初めて大きくテンポを
動かしたのは、253小節からで、確かに楽譜には
「ピュウ アレグロ」とある。
広上さんは完全1つ振りで進め、273小節からや281小節
からはそれぞれの音型に従い微妙に戻しながら進め、
最後は一気にたたみ込んで終えた。
アンコールは定番のハンガリア舞曲第1番。

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追記
ブラームス ピアノ協奏曲第1番のピアノソロ開始の
表情づけについて
他の奏者の演奏をいくつか確認してみた。

普段わりと「こってり弾く人」でも、この曲の開始では、
ほとんどの人がインテンポで弾いているのが判った。
グールト(バーンスタイン)、ツィメルマン(バーンスタイン)、
バレンボイム(チェリビダッケ)、グリモー(ギーレンおよび
ネルソンスのいずれも)など。ポリーニは言うまでもない。

なるほど、ルービンシュタインが田部さんに近い。
しかしそれでも開始冒頭(91小節)から4小節間は
田部さんのほうがもっとたくさんテンポを動かしていたと思う。

5小節(95小節)から104小節くらいまでは似ている(いた)
とは思うが。
ということは、田部さんはこの曲開始においては
最強の表情付け開始者ということになる。

田部さんは外見は地味にクールに見えるかもしれないが、
実は誰よりも「熱い演奏」をする人なのだ。

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