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2017年3月19日 (日)

魔笛~セリフカットのナレーション進行という演出に強い不満と憤りを覚える

神奈川県民ホール オペラシリーズ2017の「魔笛」公演を
19日同ホールで聴いた。
今までオペラを観てきて、これほど強い失望感を感じたことはない。
大きな不満(失敗と言ってもよい)の原因は歌手ではない。
全て演出にある。

演出に不満を感じるオペラは数限りなく有るが、セリフをカットして
女性ダンサーがナレーションを兼ねて進行した今回の演出は
論外極まりない。
ドイツ語によるレスタティーヴォはイタリア語のそれに比べて、
日本人歌手には難易度が上がるのかもしれないが、ならば
セリフ(語り)は日本語でいいので、やはり歌手によるやりとりで
進行して欲しかった。

弁者とタミーノとの場面を唯一の例外として、他の全ての部分で
セリフをカットしての演奏は、クレンペラーが録音した名演名盤
とは全く意味が異なる。
録音ではなく実際の上演でセリフをカットし、学芸会みたいに
ナレーションでやるとどういうことが生じたか?
いや「生じなかったか?」と言うほうが正確だが、こうだ。

例えば、タミーノとパパゲーノが沈黙を強いられる中、
パパゲーノはそれに耐えきれず、いろいろタミーノにけしかける
のだが、そういう愉快なやりとりが飛んで(消えて)しまう。
それをナレーションで、
 「パパゲーノは悪態をついていました」
などと説明したところで、何の面白みもない。

また、肝心なタミーノとパミーナの再会シーンに至る流れ
でのドラマ性が全く無くなり、平坦平凡な再会となってしまう。
この点こそ致命的だ。

あるいは、パパゲーナが老女ではなく、
本当は若い女性ですよ、とする場面でも、
セリフによるやりとりが無くナレーションだけだと、
何のインパクトも生じないことになる。

等々、とにかく「物語」の「進行にならない」のだ。
「進行の中でドラマが生じない」のだ。

今回オペラを初めて観る人々を集めての入門講座的上演
ならともかく、一般公演でこういうことが行われるのは
多くの聴衆にとって大きな失望を禁じ得なかっただろう。
実際、終演後のカーテンコールで、
演出の勅使河原三郎氏が登場したときは
数人からブーイングが出たし、
ロビーに出ると初老のご夫婦が
「ナレーションはないよねえ~」
と不満げに会話していた。

今回の内容は、演出の勅使河原三郎氏が彼と縁が深い
ダンサー佐東利穂子氏のために行ったような内容だ。
東京バレエ団とのコラボは良かったが、メインダンサーに
慣れないナレーターとしての役を負わせ、
終始小さな暗い声で進行したのは、
「魔笛」の公演としては明らかに失敗だった。

オペラは演出家の自己満足のためにあるのではない。
これはここ20年位、海外も含めて広がったところの
「演出がオペラにとって最も重要」などという
「演出家の勘違い」の最たるものが
今回ステージで行われてしまった。

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指揮とオケの演奏について~「古典的」演奏がモーツァルトか?

序曲から筋肉質の演奏。小さなホールはともかく、
このアプローチではどうだろう?と最初に感じた疑問点は
最後まで払拭できなかった。

例えば「夜の女王」の最初のアリア(第1幕)で、
中間部のゆったりした部分が終り、一転してEs durのアレグロ
に移る場面で、オケはごく平凡な「古典的な」和音の演奏に
留まる。
次の新しい場面へ「勢いをつけて」夜の女王にバトンを
投げないといけないのに、そういう和音の音がしていない。

これでは、オペラの伴奏として合格とは言えない。
こうした点は色々な場面で感じた。
要するに「つなぎ」にエネルギーが感じられないのだ。

これを「古典的アプローチの結果」というなら、
私はもっと「ロマン的アプローチが欲しい」と思ってしまう。

神奈川フィル自体は、ここでのオペラシリーズ常連とあって
立派な演奏。フルートソロが部分的にかすれた点はあった。
ティンパニの音を敢えて硬めにしていたが、
バロック感が出過ぎで、もう少し柔らかい音でもよかったと
想う。あと、有名なコミカルな合唱での
グロッケンシューピーゲルの音が電子楽器のような音が
していたのは気になった。
担当コンマスは﨑谷直人さん。

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 歌手の皆さんについて

パミーナを演じた幸田浩子さんが何と言っても素敵だった。
声の伸びやかさは群を抜いていて、広いホールに
可憐な声が行き届いていた。
有名なト短調のアリアやパパゲーノとのデュオ、
タミーノとのデュオ等全てにおいて贔屓目抜きに、
ベテランの実力を如何なく発揮されていた。

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タミーノを演じた金山京介さんは、序曲直後のアリアでは
声が出ておらず心配したが、第1幕後半の3人の童子との重唱
からは伸びやかになり、「パミーナを救うのが私の使命」と
歌うシーン以降すべて清らかな声で美しく歌った。

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「夜の女王」は最近活躍が著しい高橋維さん。
第2幕の「復讐」のアリアでは、オケより先に行きがちになる
(というこの曲にありがちな難しさ)部分もあったが、
正確でキリッとした迫力のある歌唱で立派だった。
もっとも、これが20年前なら、スター誕生的に大絶賛される
だろうけれど、今の時代、若い優秀なコロラトゥーラは
たくさんいるので、このくらい歌えるのは「普通」の時代
になっているのかもしれないが。

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「魔笛」では3人の侍女が重要な役所。
北原瑠美さん、磯地美樹さん、石井藍さんは、
最初のタミーノを「いい男ね」とやる場面では
アンサンブルを意識し過ぎてコジンマリとした感があった。
この場面はむしろ1人1人の個性が出てよいはずで、
いわば「ハジケテ欲しい場面」だが、それは無かった。
ただし、第2幕での「夜の女王が近くまで来てますよ」
とする三重唱は正にアンサンブル歌唱としてとても良かった。

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パパゲーノ役の宮本益光さんは、
ユーモラスに演じれば演じるほど、なぜかかえって
真面目な教師のように感じがしてしまったが、終わり近く
「自殺しちゃうよ」の場面での3回目の笛のロングトーンが
愉快だった。

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ザラストロは清水那由太さんで、威厳は無かったが、
優しそうなザラストロという感じで歌われた。
低音域での声量がもっとあるといいなと感じた。

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弁者の小森輝彦さんは立派。

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モノスタトスの青栁素晴さんは真面目過ぎで、
パミーナに対する下心(欲望)が感じられない。

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出番という点では3人の侍女に負けないくらい重要なのが
3人の童子。
安齋里江さん、宮下あずみさん、櫻井日菜子さんらは
とても端正に歌っていて良かった。
新人歌手にとって、パミーナはともかく、まずこの役で抜擢
されることが、将来の自信につながるのではないか?
と想像する。

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終わり近くで出る武士役の渡邉公威さんと加藤宏隆さんも良く、
特に渡邉さんのピュアな声が会場によく通っていた。

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パパゲーナ役は醍醐園佳さん。今回は演出が演出なので、
いたって出番が少ないのに更に存在感が薄れてしまい
可哀そうなくらいだったが、最後近くの有名な二重唱は
可愛らしく流麗に歌われた。

醍醐さんは、私が所属するオケがヴェルディの「レクイエム」
をやった際、ソロを歌っていただいたので縁があるが、
2015年12月の「金閣寺」を観にこのホールに来た折りも、
日本大通り駅でバッタリお会いしたので、
県民ホールまでいっしょに歩いたのだが、
その醍醐さんが今度はステージに出演されたという
個人的な感慨はあるし、今後も活躍を期待したい。

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二期会合唱団はとても良かった。充実のデキ。
ナレーション以外の演出は、シンプルを基盤としたもの。
3人の童子の、ゆるキャラのような白くダボダボの着ぐるみが
愉快で可愛いらしかった。
先述のとおり、武士の役の存在感を浮かび上がらせていた点も
印象的で好ましく想えた。
http://www.kanagawa-kenminhall.com/mateki/cast

キャスト

指揮  川瀬賢太郎

管弦楽 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

合唱  二期会合唱団(指導=大島義彰)

演出  勅使河原三郎

舞台監督 八木清市

バレエ  東京バレエ団

          3月18日      3月19日
ザラストロ   大塚博章    清水那由太

夜の女王   安井陽子     高橋 維

タミーノ     鈴木 准      金山京介

パミーナ    嘉目真木子    幸田浩子

   (以下は、両日とも)

パパゲーノ   宮本益光

パパゲーナ   醍醐園佳

侍女Ⅰ     北原瑠美
侍女Ⅱ     磯地美樹
侍女Ⅲ     石井 藍

弁者&神官   小森輝彦
モノスタトス  青栁素晴
神官Ⅱ     升島唯博

武士Ⅰ     渡邉公威
武士Ⅱ     加藤宏隆

童子Ⅰ     安齋里江
童子Ⅱ     宮下あずみ
童子Ⅲ     櫻井日菜子

ダンス&ナレーション 佐東利穂子

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