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2015年12月 7日 (月)

オペラ金閣寺公演記念~三島由紀夫をめぐって~エピローグその2 終わりに~「娘が今あそこで授業を受けているんだ」

三島と「盾の会」の4人を乗せた車は、市ヶ谷に向かう途中、
学習院初等科の前で止まった。

三島は「今、あそこで娘が授業を受けているんだ…」と、
しばし沈黙して校舎を見つめていたという。

そして、「じゃ、行こうか」と言って再び車は動き出し、
車内は演歌を歌いながらの陽気な雰囲気で市ヶ谷の
陸上自衛隊駐屯地に着いた。後のことは述べるまでもない。

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それにしても、あれほどの美しい美文を書いた天才が、
人生の最後にしたためた「檄文」はひどく陳腐なものだったが、
その愚直さも計算の上だろう。

演説をする三島の姿が悲しく見えるのは、
愛して信じていたはずの自衛隊員たちが、眼下で
口々に三島を批難し、ヤジを飛ばしている姿と対峙している、
という、その露骨なまでの「片思い」の露呈状況だったから
だろうか。

三島は「君たちは武士だろう!」と叫んだが、
多くの隊員は「はあ?武士?いえ、サラリーマンですけど」
という程度だったのかもしれない。

そういう事態はある程度 三島も想像し覚悟していたうえでの孤立
だっただろうし、それゆえの切腹自殺ありきの行動だったわけだ。

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事件後、当時、憲法改正論者という点では同じであったはずの
中曽根康弘は、防衛庁長官という立場ゆえ当然だろうが
「国家秩序を破壊する許し難い行為だ」と言い、
佐藤栄作首相も「狂気の沙汰だ」と語った。

これに呼応し、批判するかのように、三島の長年の友人
林房雄は、泣きながら「何から何まで正気です!」
とコメントしたのだった。

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作家で当時、学習院大学でフランス文学を教えていた辻邦夫は、
学生から三島自決の第一報を聞き、衝撃を受けながらも
教師という立場からうろたえるのをこらえて、こう語った。

「これからも、人生において夜が明けないのではと
 想うような大きな事件が起きるかもしれない。しかし、
 それでも翌朝、何も無かったかのように太陽は昇る。
 そういう生のアイロニーを理解して欲しい」、と。

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後年、小林秀雄と江藤淳が対談している中、ふと、
三島の自殺の話題になった。
江藤は事もなげに「あれは病気(での行為)でしょう」
と言ったので、さすがに小林は感情を露わにし、
「日本の歴史は病気か!」と詰めたのだが、
江藤は卑怯にもすぐに話題を変えてしまったので、
この2人が三島の死について対談する機会は二度と無かった。

「保守」という一見共通項はあるようでも、
江藤が三島をまるで理解していなかったのは明らかだ。
いかに人間は他者を理解することが難しいか、
の表れでもある。
むしろ、リベラル派の鶴見俊輔が後年言った
 「歳をとりたくなかったのでしょう」という発言のほうが、
江藤の「病気」発言より数倍も含蓄ある指摘に想える。

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それでも、三島さんには長生きして欲しかった。
今生きていたら、先般の安保法案について
どう思っただろうか?

王道の改憲論者で自衛隊を愛した三島だから、一見、
賛成したように想う人もいておかしくないが、
私は違うと想う。

王道の改憲論者にして自衛隊を愛した三島ゆえ、
あの法案に対し、
「我が愛する自衛隊の隊員たちに、アメリカの応援という
 名目で外国で血を流させる気か!」
と激怒して反対したと想う。

王道的改憲論者だったら、あの法案の小手先的愚劣さを
嫌悪するのが普通だろう。

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「今、あそこで授業を受けているいるんだ」と感慨にふけった
そのお嬢さんと、後年、目白のキャンパスで同じ時代を
学生として過ごすことになるとは、私は夢にも思わなかった。

以上で三島由紀夫に関するシリーズを終わります。
お読みいただき、ありがとうございました。

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