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2012年1月31日 (火)

会社法の改正案をめぐって

会社法の改正に向けて、法務省 法制審議会 会社法制部会が
 「会社法制の見直しに関する中間試案」に対して、
昨年12月14日からこの1月31日を締切りとして意見を募集
した。
今後そのいわゆる「パブリック・コメント」をどの程度踏まえる
かは別として、会社法改正に向けて具体的な改正案が
出てくると思われる。

主な点は、
「監査役(会)設置会社」における社外取締役の選任の義務付け
と、
「監査・監督委員会 設置会社制度(仮称)」の創設
の2点であるが、

その他にも、支配株主の異動を伴う第三者割当増資や株式の併合、
親子会社における多重代表訴訟を可とする制度の創設、
親子会社間での株式譲渡、特別支配株主による株式譲渡請求、
あるいは株主名簿の閲覧請求に関することなど多岐に及ぶが、

前段の2点以外は個別事案的にして実務的内容に係る要素が
強いので以下では省略し、前段の2点のみについて現状や
基本的な問題点について書いてみたい。

今、法務省で進められている会社法の改正案では、
①「監査役(会)設置会社」における社外取締役の選任の
  義務付けと
②「監査・監督委員会設置会社制度(仮称)」
 の創設の2点が主要なものである。

それぞれ、出てきた背景というものが当然あるのだが、まずは、
あらためてわが国の監査役、監査役会の状況について整理する。
ただし、以下は論点を拡散させないために、敢えて上場会社に
限定してのものとする。
よって、厳密には「監査役(会)設置会社」として
「監査役設置会社」のことも述べなければならないが、
この限定により以下、「監査役会設置会社」とする。

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現状、わが国においては「監査役会設置会社」と
「委員会設置会社」の2つの制度が主要な制度として存在
している。長らく上場企業で取り入れられてきた従来からの
制度が「監査役会設置会社」で、監査役の選任すべき人数や
社外の比率と年数、取締役会の設置義務等々、設定されて
いる。また、監査役会を設置したとしても、各監査役は
それぞれ独自に監査を行うことができる。

 法改正の背景に在るもの
 ~形骸化という多くの会社の実態について

   取締役の場合

今回の改正は、昨今の有名上場企業における相次ぐ不祥事
 ~それも経営者の長たる代表取締役を含む取締役が関係し、
監査役も何をしていたのか?と問われるような事件~
の多発に無関係であるわけはない。

ポイントは、本来、取締役および取締役会に求められている
機能の不全、形骸化ということに深くかかわる改正ということだ。

現実社会の、企業の実態としての取締役会と取締役、
取締役(会)と監査役の間に横たわるもの、という、
いわば情緒的な問題とも言える。
すなわち取締役と言っても「経営陣の1人としての取締役
というよりも出世の証としての取締役」が多く存在している
という現実があり、また、同じ取締役と言ってもいわゆる
「序列」があるから、取締役会などで「偉そうに」は
発言できないという取締役会の実態
 ~ピラミッド体制(構造)における権限格差~という
「取締役会の形骸化」が今回の改正の内容の背景にある
問題だ。


   監査役の場合

監査役についても同様のことが言える。
ひと昔前、いやつい最近までは、監査役は口さがない人々
によって「閑散役」と呼ばれていたように、
サラリーマン社会においては役員になったという意味では
「出世」している部類には入るものの、取締役を別とすれば
いわば終わりの役職とも言えることもあるのだろうし、
取締役が~実際は個々様々であるとしても~本来的には
取締役会において積極的に発言し、決議できる権限を有する
ことで会社経営を担う一員という重責の立場であるのに対して、
監査役はその取締役の職務の妥当性、違法性を監督審査
するという~本来は極めて重要な職責にもかかわらず~
いわばバックオフィス的な面をいわば「自嘲的な最終ポスト」
と考える監査役の存在、それが言い過ぎなら、
本来的な重責として行動している人、あるいはそう行動
できる会社という状況が圧倒的に少数派であるという現実
が問題ということだ。

監査役に就いた人の中には
 「取締役になれず (取締役の手前としての)監査役に
  なったという人」 もいれば、
 「取締役退任後のいわば名誉職的なポジションとして
  監査役になった人(横すべり)」もいる、
などの現実の状況があり、よって監査役会も実質的に
とりたてて取締役の監視などしなくても、よほどの不祥事が
 「発覚」しない限り、社内で悠々自適に近いかたちで
任期を務める(というより通勤できる)という形骸化が存在
している、ということが法改正の背景に存在していると言える。

また、純粋に法的形式論においても、例えば取締役の
業務執行に対する監査権限はあっても取締役の選任や
解任に関する権限(独自、あるいは投票権等)が無い
という従来から「限界論」として議論されているところの
 「取締役会で議決権を持たない監査役」
という欧米社会からは理解され難い日本企業の法的状況
も現実に存在している。

逆説的に言えば、日本型経営がうまくいっていた時代
には、「閑散役」でも良かった、ということだろう。
しかし、今は「違う」のだ。

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   「委員会設置会社」

こうした、いわば「取締役(会)のサラリーマン社会化」
ということを背景とし、それに対するいわばショック療法的
なものとしてアメリカのシステムを参考に導入されたものが、
「委員会設置会社」制度だ。

2003年4月にいわゆる商法特例法の改正により
大会社(みなし大会社含む)を対象に導入され、
2006年5月の会社法施行により引き継がれた際は、
会社の規模を問わず設置を可とした。

大雑把に言うなら、監査役という職種はなく、
議案決議権を持つ取締役のみで構成され、その中で、
①指名委員会、②報酬委員会、③監査委員会という機能に
分かれ、この監査委員会が議決権を持つ監査ポジション
になるというものだが、導入にもかかわらず、
現実に「委員会設置会社」を選択している会社は、
昨年の8月9日現在87社(協会調べ)と非常に少なく、
また、いったん「委員会設置会社」に移行しながら、
再度「監査役(会)設置会社」に戻る会社も毎年続出
しているという事実がある。

すなわち「より好ましい」として圧倒的大多数の会社が
選択している制度は、わが国の従来からの伝統的な
システムである「監査役会設置会社」なのだが、
先述のとおり、監査役には取締役会における
議決権が無いなどの問題点が存在することなどから、
今回、法務省が第3の制度として出してきたのが
 「監査・監督委員会設置会社」
であるのだが、「監査・監督委員会設置会社」に行く前に、
「委員会設置会社」なるアメリカ模倣型システムが
ほとんど支持されなかったかについても簡単に整理して
おく必要があるだろう。

取締役会と執行役がおかれ、取締役会の権限は、
業務意思決定と個々の取締役及び執行役による
職務執行の監督。
取締役会の中には指名委員会、監査委員会、および
報酬委員会がおかれる。
なお、別個の委員会(例えば訴訟委員会や顧客対応委員会
など)を追加してもよい。

監査役(監査役会)を設置することはできない。
会計監査人の設置が必要。
ひとつの委員会は3名以上の取締役で構成され(400条1項)
どの委員会にも属さない取締役をおいても差し支えない。

各委員会の決定は拘束力を持つ。

アメリカのように取締役会構成員の過半数を社外取締役
とする必要はないが、委員会を構成する取締役の過半数は
社外取締役でなければならない。

取締役全監査委員会を除き、執行役が委員を兼任できる。

指名委員会…取締役の選任および解任に関する議案内容を決定
報酬委員会…取締役および執行役の個人別の報酬内容、または
         報酬内容の決定に関する方針を決める。
監査委員会…取締役および執行役の職務が適正かどうかを監査し、
         株主総会に提出する会計監査人の選任および
         解任・不再任に関する内容を決定する。

取締役を業務執行から分離し、執行役による業務執行を監視監督
する、という「執行と監督の分離」、モニタリング・モデル。

執行役…執行役は、委員会設置会社ではない株式会社における
      業務執行取締役に、代表執行役は代表取締役に、
      それぞれ相当する。

監査委員会以外は、取締役と執行役を兼任できるし、
指名委員会と報酬委員会のメンバーを兼任できることから、
選任や報酬に関してさえ、自分自身(に関すること)を決定
できてしまう、という欠陥があるし、人間関係において、
 「同じ取締役の中で」指名委員会委員になる人や、
報酬委員会委員になる人に対する微妙な関係性も生じうる
という、現実的な要素も否定できない。

先述のとおり、
現在、3500社余の上場会社のうち委員会設置会社は
80社前後。日本を代表する企業でこの制度を採用している
傾向がみられるものの、10年が経過した段階でこの数字
である以上、制度導入としては失敗といえるかもしれない。

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  今回の改正案

このように、日本的とはいえない「委員会設置会社」に対し、
「より好ましい」として圧倒的大多数の会社が選択している
制度は先述のとおり「監査役会設置会社」なのだが、
これまた先述のとおり、監査役には取締役会における議決権
が無いなどの問題点が存在することなどから、今回、
法務省が提言を進めているのが第3の制度である

  「監査・監督委員会設置会社」

である。

「監査・監督委員会設置会社」案の是非について

「監査・監督委員会設置会社」案の内容だが、
「委員会設置会社」における指名委員会と監査・報酬委員会
を置かずに、3人以上で構成される全員が取締役かつ
過半数が社外取締役とする監査・監督委員会が監査を行う
というもの。

取締役会の中に「監査・監督委員会」を作って、
現在の監査役の仕事を行わせ、その委員には社外取締役
らが就く。

監査・監督委員会は、委員に選任された取締役3人以上で
組織し、その過半数を社外取締役とする。
その他の取締役とは別に株主総会で選任され、
任期は(委員会設置会社において他の取締役が1年で
あるに対し)2年。
業務執行をしない社外取締役を複数置くことで執行と
監督の分離を図り、取締役会の監督機能を充実させる。


監査・監督委員は取締役と位置づけられるが、その実態は
現在の取締役と監査役を合体させた存在である。
他の取締役とは別に株主総会で選任され、
その選任議案には監査・監督委員会の同意が必要。

制度設計次第では、我が国の上場企業の社外取締役を
格段に増やし、その取締役会の機能を大きく変える可能性
を秘めたもの。

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なお、日本監査役協会は、1月31日付で「会社法制の見直し
に関する中間試案に対する意見」を法務省に提出した旨
2月1日にホームページでその内容ともども公表している。

それによると、まず、「社外取締役の選任義務付け」に
関しては有価証券報告書提出会社を対象とすることで賛成
としている。また、経過措置(猶予期間)が必要とし、
社外取締役の欠員・欠席を理由に取締役会決議が
ただちに違法・無効とはならないことも要求している。

次に、「監査・監督委員会設置会社」の制度については
創設すること自体に反対する理由はないとしているものの、
現状に監査役が取締役会において議決権を行使することが
できる旨を定款で定めることができるように現行法を改正
することも検討すべき、として、実際は後者を望んでいる
ことが判るように表明している。

また、もう1つ重要なこととして、(現状の)監査役(会)
及び監査委員会は、会計監査人の選解任等に関する
議案等及び報酬等についての決定権を有するもの
とする案に賛成している。

その他では、
 「専任か兼任かを問わず、各社に最低一名の監査役の
  補助使用人設置を義務付けること」に賛成
しているほか、「内部統制システムの運用状況の概要等を
事業報告の内容に追加すること」についても賛成している。

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日本労働組合総連合会いわゆる「連合」は改正案を
基本的には支持する旨 表明しているほか、
日本証券業協会も社外取締役の選任義務付けについて、
企業の成長段階において選択の幅や柔軟性を伴う
仕組みが望ましいとして条件付きながら支持表明している。

これに対し、日本取締役協会は、
現行の委員会設置会社制度を維持しつつ、
新たに「柔軟設計型 委員会設置会社制度」というものを
提言している。
これは取締役会の過半数が「独立取締役」で構成されて
いることを条件に、
 「委員会設置会社制度における3つの委員会設置を
  義務化せず、会社が必要と考える任意の委員会を
  設置できる」
とするものだが、監査役会設置会社が圧倒的に多い現状
では、特別効果的で全体的な改革案とは言えないだろう。


「ビジネス法務の部屋」のブログでお馴染みの
山口利昭弁護士は、日本監査役協会が意見表明したことを
受けて、
 「社外取締役と監査役の機能の違い(明確にできるか?)」
と題して意見を述べている。

 「私もとりわけ社外取締役と社外監査役との役割が明確に
  区別できるか?という点は大いに悩むところ。
  法務省としては、経営監督機能と利害相反機能を
  社外取締役に期待される役割として整理されているが、
  それで明確な区別ができるかどうかは議論のあるところ」

 「やはり監査役と社外取締役とは(期待されている役割か
  どうかは別として)、大いにその機能は異なるものと考えて
  いる」とし、

 「監査役が不正や不備(いずれも取締役の職務執行の
  適法性にかかわるもの)を発見した場合、監査役は
  これを報告し、またその「重大性」に関する意見を述べる。
  監査役が感じる「重大性」はあくまでも監査役固有のもの
  であり(監査役それぞれが感じ方が異なる場合もある)、
  この意見をもとに取締役が経営上の判断を行うわけで、
  その監査役の意見の重みを感じるのも個々の取締役で
  異なるわけで、そこに社外取締役への期待がある」

 「社外取締役は「人の監査」をするわけではなく、あくまでも
  企業価値を向上させる仕事の過程で「組織の監督」をする
  わけで、監査役の意見の重みを認識しつつも、監査役が
  期待する経営判断とは全く異なる判断に与することも
  十分ありえると考える。重大なコンプライアンス違反が
  指摘されたとしても、これとは別に重大な経営問題が
  あればその優先順位を検討しなければならないし、
  経営資源の配分についても配慮しなければならないと思う。

  オリンパス事件や大王製紙事件のインパクトが強かった
  ために、不正抑止という視点ばかりが強調されているが、
  取締役の違法行為を指摘するという監査役の役割と、
  株主からの信認義務を取締役が尽くすという視点から
  経営判断の健全性を確保するという社外取締役の役割は
  異なるものであり、ときには監査役と異なる判断をするのも
  当然のことと思う」

 「あくまでもコンプライアンスの視点に限っての話だが、
  経営判断に対して「人の監査」を通じてブレーキをかける
  のが監査役の仕事であり、社長と一緒に業績を上げることに
  没頭しながら、つまりアクセルを踏みながら最良の選択を
  模索するなかでコンプライアンス経営を実現するのが
  社外取締役の仕事。会社が大きなカーブに差し掛かった
  ときには監査役の機能が生きるだろうし、
  長いストレートをアクセル全開で駆け抜けるときには
  社外取締役の機能が生きる。このたびの決算発表を
  みていても、会社は生き物であり、良い時もあれば
  悪いときもあるわけで、事業継続に向けて、
  どちらの機能が生かされるのかは企業の置かれた環境に
  よって異なるものと思う。事故を回避するためには
  ブレーキを踏むことだけではなく、巧みなハンドルさばきも
  必要だと考える」

としている。

以上です。

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