森 麻季さんリサイタル in フィリアホール レクイエム 異色のコンサート
想像もしないプログラムだった。
謙虚さと力強さに満ちた森 麻季さんのメッセージを、
私たち会場の聴衆はしっかりと受け取ったのだった。
21日、森 麻季さんのリサイタルをフィリアホールで聴いた。
麻季さんは13日(金)にも同ホールで「日本とドイツの作品」
と題して公演を行っているので、この日は2日目の公演という
位置付け。この日のタイトルは「イタリアとフランスの作品」。
13日の公演は拝聴していないが、冒頭にモーツァルトの
「レクイエム」から「涙の日=Lacrimosa」という合唱で
歌われる曲をソロで歌っているように、今回の2公演は
それぞれタイトルはあるものの、先の大震災を強く意識した
もので、特にこの21日のプログラムはそれが顕著だった。
震災前に予定されていたものとは大幅に、特に前半は
たぶんほとんど総入れ替えの変更をされたようで、
以下のとおりプログラムを記載するが、その前に、
プログラムに記載された麻季さんのメッセージが
今回のリサイタルの根幹に在るスピリッツであり感情感慨
であることから、以下、引用記載させていただきたい。
ごあいさつ
このたびの東日本大震災でお亡くなりになられた方々に
心よりご冥福をお祈りいたします。
また被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
未曾有の大地震、猛威を振るった津波、大火災、そして
原発の影響と、折り重なる大きな試練に耐え、困難を乗り越える
ために、日本中が心をひとつにしていなければならない時です。
今回はそんな思いを込めてプログラムを変更させて頂きました。
私は音楽の力を信じています。音楽は人の心を結び、
心をひとつにします。一人一人の力は小さいかもしれませんが、
思いを共有すれば、希望へとつながることでしょう。
会場全体で被災地の方を思い、心を一つにして
祈りを捧げられるよう、精一杯歌います。
森 麻季
プログラム前半
1.ヴェルディ : レクイエムより 「涙の日」
2.フォーレ : レクイエムより 「ピエ・イエズ」
同 「天国にて」
3.ピアノソロでラヴェル : 「クープランの墓」より「メヌエット」
4.ヴェルディ : レクイエムより
「その日こそ怒りの日、災いの日、大いなる悲嘆の日
~主よ、永遠の休息を彼らに与えたまえ
~天地が震い動くその日、主よ、かの恐ろしい日に
我を永遠の死から解放したまえ」
後半が
5.グノー : 歌劇「ファウスト」より 「宝石の歌」
6.ピアノソロでラヴェル : シャブリエ風に
7.リスト : 夢に来ませ
同 ペトラルカの3つのソネットより
「平和は見いだせず」
8.ピアノソロでサン=サーンス/ゴドフスキー編:白鳥
9.ヴェルディ : 歌劇「椿姫」より
「ああ、そはかの人か~花から花へ」
アンコール
10.越谷達之助 「初恋」
11・山田耕筰 「からたちの花」
12.久石譲 「坂の上の雲」より 「Stand Alone」
13.バッハ&グノー「アヴェ・マリア」
前半は黒地に白のガラの入った色調としては地味目のドレスで
登場。もちろん曲の内容を考慮してのものだ。
そして麻季さんのリサイタルでは彼女のMC入りというのは
私は初めてで、マイクを使ってはいるものの、
「蚊の泣くような小さな声」で語り始めた。
もちろん、歌う直前なので声に負担をかけないためだ。
本当はMCはしたくないだろうけれど、特別な思い入れによる
リサイタルということだろう。
以降も、9のヴィオレッタのアリアとアンコール曲を例外として
最後まで解説と、特に実際にそれぞれの歌の歌詞を相当量
読んでからの歌唱。
前半はMCのネタノートだけでなく、通常ソロでは歌わない曲
がメインとしていることもあり、当然だが楽譜を持っての歌唱。
1は長大な第2曲「怒りの日」の中からスコアの624小節から、
合唱のパートを含めて、少しのカットはあったと思ったが、
第2曲の最後までを歌われた。
2の「ピエ・イエズ」はしばしば単独でソプラノ歌手がとりあげる曲
なので驚かないが、「天国にて=イン・パラディスム」をソロで
歌うことはまずないので驚くとともに、麻季さんの誠実な思いが
ひしひしと伝わってきた。
4は、会場でプログラムを見たとき、
「どうつなげてどの部分を歌うのだろう?」と期待が高まった。
終曲=第7曲「リベラメ=Libera me」の冒頭から合唱パートも
歌いながら~例えば7~9小節のアカペラ合唱の部分も歌ったし
なんと「怒りの日」のテーマが再現される45小節目からも
歌ったし、合唱としてのクライマックである382~400小節も
388小節からのソロの部分に先立って382小節目から
歌ったし、もちろんソロとしての聴かせどころも当然カットを
加えながらも、132小節から170小節までの変ロ短調による
感動的な部分(最後の和音は長和音)を歌い、そこから
先述の部分を含めて正にエンディングであるCの音のよる
「libera me,Domine,demorte aeterna,in die illatremenda」
「libera me」 「libera me」
という最後まで歌う、という極めて異例なリサイタルとなった。
すこぶる感動的なシーンであり、これまで麻季さんの公演は
リサイタルだけでも5回以上拝聴しているが、
最もインパクトの強い、前半だけでも忘れられない
感動的な演奏会となったのだった。
さて、後半(5、7)はドレスも水色に変えて、いつもの、
敢えて言えばきらびやかな歌技法の歌唱をメインとする内容。
有名な5はもう見事な歌唱で、聴衆を沸き立たせた。
7のリスト。リストの曲は管弦楽曲にしてもピアノ曲にしても
「技巧だけはやたら派手だが内容がいまいち」の曲が多いが、
この2つの歌曲は叙情性といい技法といいとても見事で
聴き応えがあった。素敵な歌曲だし、歌唱だった。
そして、前半は別格とすれば、いわば本日のメインである9では、
ドレスを白(クリーム)色系に変え、
オペラの役=ヴィオレッタになりきっての名唱。
自在で完璧な声のコントロール、流麗なトーン、
哀愁と享楽さの表現等々、
全ての点で魅力十分の素晴らしい歌唱だった。
この歌唱のレベル、完成度は、森 麻季というより、
日本人歌手がとうとうここまで到達したのだという
最高レベルの歌唱とも言うべきものだったと思う。
そして当然アンコール。
10は、普通、しとやかに歌うスタイルが多いと思うが、
麻季さんはやや意外なアプローチをとり、
良い意味で裏切られたというか、実にドラマティックに、
まるでオペラのアリアのように切々と歌いあげた。
実に見事。
11も何度も拝聴しているが、清々しく素敵。
12.そして、とうとう「生 Stand Alone」
リサイタル開始前から実は密かに期待していた曲を
とうとう聴けた。
とうとう、待望の「生」「Stand Alone」。
17日のNHK歌謡コンサートでも生放送の中で歌われた
とのことだが、その番組は見逃していたし、何よりも
ステージから4列目の席での「生 Alone」は感激極まれり
だったことは言うまでもない。
麻季さんはリサイタルのアンコールでの、「この曲が最後です」
ということを示すとき、たいてい、「最後に」と言って
客席を笑わすことが多いのだが、この日は、
「ずっと歌っていたいのですが…」
(会場;笑。誰かから「歌っていて」との声あり) として、
13.バッハ、グノー編曲の有名な「アヴェ・マリア」により、
この日の公演を閉めたのだった。
ピアノの山岸さんはいつもながらの素晴らしい演奏で、
リサイタルの成功の大きなパーセントを握っている。
ソロでは3つのうち、演奏としては6、曲としては
ゴドフスキーの編曲が面白かったという点で8が印象に残る。
森 麻季さんのリサイタルは毎回毎回本当に素敵な感慨、
温かな感情を生じさせてくれるのだが、
今回は前半の熱い感動を含めて、本当に忘れがたい
素晴らしいリサイタリルだった。
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