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2011年4月24日 (日)

二期会の若い仲間たちによる          東日本大震災被災地復興支援コンサート  行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って

30歳代の歌手が中心になって、自ら企画しての
チャリティ演奏会が開催された。
企画者はテノールの高田正人さん。氏のブログを読むと、
大震災当初はこうしたことに対しては高田氏本人こそが
もっとも否定的な考えだったが、しだいに心境が変化して
いったことが率直に飾らずに書かれている。
読む側も率直にその心情の変化と結果に共感し、感動する。

そしてその成果としての「にわか」であるが、
それにもかかわらず多くの同期や後輩の歌手たちの参加賛同を
得て開催に至ったのだ。

今の30歳前後の歌手のレベルは非常に高い。
40年前はもちろん、30年前だって、当時のこの世代に
これほど優秀な人はそれほどいなかったと思う。
その今活躍中、売出中の人気若手が一堂に会しての演奏会は、
今後も滅多にないだろうと想えるだけに、
純粋に声楽の演奏会としてもとても貴重な体験だった。

「高田さんが思いついてから1ヶ月も経過しないうちの演奏会」
ということ自体もちろん異例中の異例。

これに賛同した津田ホール(の運営関係者)は無償で貸し出す
ことを決定したことも開催、成功の大きな原動力となった。
出演者に払われるのは交通費代ほどで実質「ノーギャラ」だが、
チケット代が1000円に抑えられたのは
正に津田ホールさんのおかげだろう。

また、後述のとおり、若い歌手の皆さんの先生方=二期会の
大御所からも賛同を得たことももちろん大きな力となったこと
だろう。


プログラムと歌手名は以下のとおり。

第1部
1.モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 全員

2.小林秀雄「すてきな春に」 三宅理恵(ソプラノ)

3.プッチーニ「アヴェ・マリア」 高田正人(テノール)

4.ヴォルフ「郷愁」  初鹿野 剛 (バリトン)

5.ラフマニノフ「歌わないでおくれ、美しい人よ」
    大槻孝志(テノール)

6.モーツァルト「フィガロの結婚」より
  「ついにその時が来たわ~さあ、おいで素敵な喜びよ」
    嘉目真木子(ソプラノ)

7.モーツァルト「魔笛」より「パパパ」 山下浩司&鷲尾麻衣

8.マイアベーア「ディノーラ」より「影の歌」 臼木あい

9.プッチーニ「ラ・ボエーム」より
  四重唱「さよなら甘い目覚めよ」
  醍醐園佳(ミミ:ソプラノ)&志田雄啓(ロドルフォ:テノール)
  鷲尾麻衣(ムゼッタ:ソプラノ)
  &初鹿野 剛 (マルチェッロ:バリトン)

10.マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より二重唱
 「ああ、アルフィオさん、主があなたをよこされたのですわ」
   青山 貴(バリトン)+清水華澄(メゾ・ソプラノ)

11.ケルティック・ウーマン「ユーレイズミーアップ」
   三宅理恵、高田正人、長谷川 忍、与那城 敬


第2部
12.サン=サーンス「サムスンとデリア」より
   「あなたの声は心に開く」 小林由佳(メゾ・ソプラノ)

13.ビゼー「カルメン」より「闘牛士の歌」
    与那城 敬(バリトン)

14.プッチーニ「トゥーランドット」より「誰も寝てはならない」
   大槻孝志、高田正人、望月哲也、志田雄啓

15.いずみたく「見上げてごらん夜の星を」
    臼木あい、醍醐園佳、長谷川 忍、清水華澄

16.アンドリュー・ロイド・ウェバー「ピェ・イェーズ」
   大槻孝志、望月哲也、青山 貴、山下浩司

賛助出演の二期会の大御所
17.大中 恩「いぬのおまわりさん」、「さっちゃん」
    中村 健(テノール、79歳)

18.畑中良輔「秋の空」、小林秀雄「落葉松」
    嶺 貞子(ソプラノ、年齢は?)永遠の30代

19.ビゼー「カルメン」より「ハバネラ」
    伊原直子(メゾ・ソプラノ、年齢は?)永遠の30代

20.ブルージ「ヴェニスの幻想」、古歌「光さす窓辺」
    栗林義信(バリトン。77歳)

21.ヴェルディ「ナブッコ」より
  「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」 歌手全員

最後に会場とともに 「ふるさと」


純粋に歌唱についての感想
2の三宅理恵さんは初めて聴いた歌手だが、声の潤いといい、
 歌っているときの表情の明るさといい、実に素晴らしい。
 この人の歌から演奏会を開始したことは「正解」だったと思う。

3の高田さんはこの有名な曲をスケールの大きな曲として
 歌いあげた。もっとも、当初より決まっている他の演奏会の
 ための練習が込み入っている中での急な演奏会ゆえだろう、
 声にやや疲れがあったかもしれない。

4の初鹿野 剛さんによるヴォルフは端正で温かな声質が
 良かった。ヴォルフの歌曲は魅力的。

5の大槻孝志さんによるラフマニノフ。実に素晴らしかった。

6の嘉目真木子さんは近々開催の二期会公演の「フィガロ結婚」
 からのアリアをもってきたのは当然と言えば当然。
 本番直前にこうした臨時の場に出ることは大変なはずで、
 本来は集中したいところかもしれないが、今回の震災に
 対して心痛めているのは歌手も同じであり、それは
 彼女や他の人も含めてブログを読めば判る。
 だから、高田さんからの依頼に皆出演を即答されたのだ。
 嘉目さんとしてはここでは良い意味で「事前チェック」も
 兼ねての歌唱と言えただろう。
 以前から何度も書いているが、彼女の声にはある種の
 「強さ」があり、それがホールに豊かに響く声を支えていて、
 この日も当然それがよく確認できる歌唱だった。

7の山下浩司さんと鷲尾麻衣さんのデュオは
 モーツァルト「魔笛」より「パパパ」。
 「フィガロ」でタイトルロールを歌う山下さんはここでは
 「魔笛」を持ってきた。
 これはこれで「フィガロ」は本番当日で、という感じで
 面白かった。
 鷲尾さんは後述するムゼッタが特に素晴らしかったので
 感想はそちらに回す。

8の臼木あいさんはマイアベーアという知る人ぞ知るいわば
 マイナーな作曲家の「ディノーラ」より「影の歌」という
 コロラテューラの難曲をもってきた。
 以前フィリアホールでも歌われたはずだが、この日は
 更に強烈なインパクトをもった歌唱で、歌い終えた直後、
 会場からは拍手とともに驚嘆の「どよめき」が起きたほど
 だった。
 こういう歌を歌わせたら、年齢(キャリア)に関係なく
 日本人歌手では他の追随を許さないかもしれない。
 
 あいさんが歌い終わると司会も務めた高田さんが出てきて
 「凄いですよねえ。今の歌だけでも(チケット料金の)
  1000円の価値はあるでしょう?」と会場に語りかけ、
 会場も「うんうん(Yes)」という反応があった。
 厳密に言えば、1000円どころでなく、
 それ以上の価値がある、と言うところだろう。

9.プッチーニ「ラ・ボエーム」よりの四重唱
 醍醐さんのミミは美人ということもあるが非常に魅力的。
 さらに驚き嬉しい「発見」は鷲尾さんのムゼッタ。
 これは見事。実に素晴らしかった。
 声も外見的にも彼女にぴったり合っていると思う。
 これほどムゼッタの「はまり役」と感じる人は国内では
 あまり思い浮かばない。
 鷲尾さんは休憩時間に募金で出てらっしゃったので、
 もちろん本人に伝えた。
  「ムゼッタ、すごくいいです。
   鷲尾さんに合ってると思います。
   最高にいいです」と。
 今後、鷲尾さんの得意キャラとしてオーディションがあったら
 必ず受けられたらと良いと思う。絶対成功すると思う。

10.マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より二重唱
 青山 貴さん(バリトン)+清水華澄さん(メゾ・ソプラノ)の
 圧巻のデュオ。2人とも凄い声量。
 ホールの後までビンビンに響きわたった。
 本当に度肝を抜かれるほど素晴らしかった。
 清水さんは2月5日のオーケストラ ハモンによる
 マーラーの第3交響曲のソロを拝聴し、そのときも感動
 したことをブログに書いたが、この人は今後ますます
 活躍されること間違いなし。

 このときも歌の後、高田さんがMCで
 「(浮気を責める)内容なんかどうでもいいでしょう?
  声だけで(歌だけで)素晴らしいですよねえ!!」
 全くそのとおり。

音楽の技術的な点では、臼木あいさんの技巧、青山貢さんと
清水華澄さんの圧巻の声量によるデュオにおいて、
この3人が今の若い世代の優秀さを証明し、象徴していた、
と言えるだろう。

第1部の終わりは
11.ケルティック・ウーマン「ユーレイズミーアップ」を
 三宅理恵さん、高田正人さん、長谷川 忍さん、
 与那城 敬さんの4人がしっとりと歌って素敵だった。
 臼木さんや清水さんの「あまりにも凄い歌唱」はもちろん
 何度でも聴きたいし、素晴らしいのだが、
 こうしたしっとりと声のアンサンブルを聴かせてくれる
 ことも実に嬉しい。「贅沢な瞬間」なのだ。
 なお、三宅さんの位置に、田上知穂さんがいると、
 彼らのアンサンブル「千駄ヶ谷スタイル」になるのだが、
 田上さんはイタリア留学中なので残念ながら
 急なこの演奏会参加はできなかった。
 もちろん三宅さんとの合わせもとても素敵だった。


第2部
12の小林由佳によるこの素晴らしいアリアは
 ダイナミックな歌唱で聴衆を魅了した。

13は与那城 敬さん得意の歌。申し分ない。
 ちょっと「カッコ良過ぎる」くらい。

そして14こそが、エンタ性という点においてはこの日
 最大の聴きものだったかもしれない。
 なんと、4人のテナーのよる「誰も寝てはならない」。
 普通「有り得ない」パターンだ。
 「俺が歌うんだ」というユーモアジェスチャーにより
 1人1人が少しずつフレーズを歌っていき、
 最後の3小節を2人、そして4人全員で「Vincero!」と
 思いっきりD→H→Aの音を歌いあげて圧巻だった。
 もちろん聴衆は大喜びで盛大な拍手とブラヴォーや
 ブラヴィが飛び交った。

次の15は「見上げてごらん夜の星を」を
 臼木あいさん、醍醐園佳さん、長谷川 忍さん、
 清水華澄さんという、まず通常では(今後もたぶん)
 いっしょに歌う機会はあり得ないような豪華メンバー。
 日本語の歌詞を個々の歌手がどういう声やフレージングで
 歌うか、という点も含めて興味尽きないアンサンブルだった。
 こういう若い歌手が気を楽にしてアンサンブルを
 楽しむ機会、それを私たち聴衆が楽しませていただく
 機会がなんとかたまにはあって欲しいと思う。

16がこれまた面白かった。
 国際的イケメンユニット「IL DIVO」に対抗して(?)の
 「IL DEVU」(デブ)。もちろん「太め」の4人組からの
 「おふざけジョーク的ネーミング」なのだが、
 いやいや実に良かった。「ピェ・イェーズ」を
 しっとりと聴かせてくれて素晴らしかった。
 国内の話題の男声ユニット「The JADE」にも
 対抗したいのだろうが、いずれにしても今後に期待だ。


そして最後に、特別ゲストの二期会の大先輩たち
4人がご出演。
中村 健さんはユーモアたっぷり、
永遠の妖艶さの伊原直子さん、
栗林義信さんの「温かさ」。
とりわけ嶺 貞子さんの気品ある繊細にして
優しさに満ちた「落葉松」には涙が止まらなかった。
  「これぞ歌、これぞ人生」。

出演者全員により、今回の演奏会にも掲げたヴェルディの
 「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」

そして本当に最後は「ふるさと」を会場を含めた全員で合唱。


この日の義援金総額については高田さんが自身のブログで
報告しているほか、鷲尾さん、臼木さん、清水さんなど
何人かの出演者も自身のブログで報告されている。
 義援金=73万2573円にチケット収益の一部を
 併せて合計=101万4938円。
日本赤十字社を通じて被災地に送金される。

最後に、冒頭に書いたとおり、若い歌手たちの急な発案に
よる演奏会にもかかわらず、彼らからホール使用料を
受け取らずに無償で貸与してくれた津田ホール関係者に、
私からも心からの敬意と感謝を捧げたい。

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