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2010年10月30日 (土)

エルガー オラトリオ 「生命の光」 日本初演

台風が関東に接近するまっただ中、大友直人さん指揮、
東京交響楽団による東京芸術劇場シリーズ第106回としての
演奏会を聴いた。
注目はなんといってもエドワード・エルガーの
オラトリオ「生命の光」(The Light of Life)作品29
の日本初演である。
1896年9月6日に英国で世界初演された作品。

エルガーといえば私を含めてクラシックファンであっても
「威風堂々」や冒頭が極めて印象的なホ短調のチェロ協奏曲、
あるいは「謎」と呼ばれているエニグマ変奏曲などの有名な
数曲を知っている程度かと思うが、プログラム解説によると
東京交響楽団も大友直人さんにより、これまで
2002年に「神の国」、2004年に「使徒たち」、
2005年に「ゲロンティアスの夢」という3つのオラトリオを
演奏してきたというから、とても素敵な立派な企画と実践を
されてきたと言える。
私はそのどれも聴いていないので今にして不明を恥じる。

それはともかく、「生命の光」の位置付けはその3つの先駆的な
作品であり、作曲を依頼したフェスティバル関係者は彼に
1時間を大きく超えない曲という条件をつけたので、
1900に入ってからの完成順だと
「ゲロンティアスの夢」(1900年)、
「使徒たち」(1903年)、
「神の国」(1906年)に比べて規模的にはこじんまりと
しているとのこと。

さて、演奏会自体について話を戻そう。
プログラムはもう1曲あって、最初にブルッフの有名な
ヴァイオリン協奏曲が演奏された。
では曲順に感想を簡単に書きたい。

まず、その前に団員がステージに登場するに先立って、
大友さんがマイクを手に登場し、
「台風が接近という大変な状況の中、ご来場いただき、
 本当にありがとうございます。僕はどちらかと言えば
 「晴れ男」で、自分が指揮をする演奏会では晴天の日が多い
 のですが~」と話し始め、2曲を簡単に解説した後、
「(台風の接近状況からすると)帰りのほうが天気は心配では
 ありますが、どうか最後までお楽しみください。
 そしてどうぞ気をつけてお帰りください」
と(たぶん異例の)挨拶をした後に演奏会が始まった。


ブルッフ ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
ソロを弾いたローラン・アルブレヒト・ブロイニンガー氏は
初めて聴く人だが、大友氏の解説でも少し触れていて
そのとおりだと思ったのは「演奏がチャーミング」という点だ。
冒頭からゆったりとじっくりとしたテンポで音色がとても魅力的。
「金」というより「いぶし銀」という感じの音色で、表現も
むしろ女性奏者のような繊細な音楽を創る。
流行り言葉は使いたくないが強いて言えば「草食系」という
感じもするが、でもそれは肯定的な意味であり、
「とてもナイーヴでデリケートな演奏」と言える。
そういう奏者なので第2楽章はとりわけ美しい印象的な演奏
だった。
敢えて難を言えば、場面ごとの曲想のフレージング
(あるいはテンポ)を緩急自在に極端に動かすので、
オーケストラとのアンサンブルでややぼやけるというか、
ピシリと合った感が薄れる箇所がときどきあったことと、
第3楽章のソロ冒頭旋律の音量が弱く、迫力に欠けていた点
から言えるように、もう少し場面によっては良い意味で硬質な
スパッとしたフレージングによる部分があればもっと良いのに、
と思った。
でも私を含めて聴衆の多くは「魅力的な演奏をする奏者だ」
と思ったようで、演奏終了後は盛大な拍手やブラヴォーを
受けていた。


休憩後はいよいよエルガー
先述のとおり、私はエルガーのオラトリオには詳しくないし、
オペラや歌曲などの声楽曲自体は大好きだけれど、
オラトリオという形態での作品自体にも詳しくないので、
以下はごく「初心者としての感想」。

まず第一に言わねばならぬ点は、東響の専属合唱団である
辻 裕久氏指導による東響コーラスによる合唱が素晴らしかった
ことだ。
これはソプラノ・ソロを歌った小林沙羅さん自身が彼女のブログ
10月31日付け=演奏会終了後およびそれに先だつ
10月29日付け本番前日での「いよいよ明日!」と題して
合唱の素晴らしさについて2回も書いていらっしゃることでも
判る。

各パートいずれも美しい響きで充実していた。
私は基本的には合唱団は「暗譜で歌う必要は全くない」と
考えている人間だが、今回に関しては暗譜による集中力が
成功の1つの要因であったことは認める。すなわち、
この曲は旋律自体は決して難しい(いわゆる現代曲のような)
ものではないにしても、英語による敬虔なあるいは荘厳な
あるいは劇的な場面を男声だけの場面であっても
女声だけの場面であっても、そして混声の場面においても、
いずれもが美しく統合された正にハーモニーとして響いて
いだだけでなく、作品の内面にある情感も立派に表現できていて
すこぶる感動的な合唱だった。そしてそれは、
たぶんに暗譜による集中力と「日本初演への熱い思い」
によるものだったと想像できる。見事な合唱だった。

前後するが、曲は16曲から成り、第1曲のオケだけによる
序の演奏は別として奇数番号は「ヨハネによる福音書」に
基づくもので、偶数番号がカペル・キュアーという人の創作
による詩から成る。

4人のソリストの役柄は、
ソプラノが主役たる盲人の母親。
アルトが「語り手」。
テノールが盲人(劇中、視覚を得ることになる)。
バルトンがイエス・キリスト。

4人についての感想

ソプラノのソロは小林沙羅さん
もともとこの演奏会を知ったのは沙羅さんのホームページからで、
8月の町田シティフィル合唱団との「メサイア」といい、
彼女のHPを見ていなければ素敵な演奏会を2つも聴き逃して
いたことになるだけでなく、拝聴するたびに
「彼女の歌唱力がいかに素晴らしいか」を実感する。
誤解を恐れずに言うなら、彼女が出ている演奏会に行って
「幸せな気持ちにならなかったことはない」。
これは決して誇張でもミーハー的賛美でもないし、
もちろん「偶然」でもないはずだ。
「メサイア」のときにも感じたが彼女の英語の歌唱は
とても語感が美しい。加えてこの日は
「歌おうと思えばもっと流麗に歌えたはず」だろうが、
そうしたソロイスティックな要素よりも、苦悩を持った青年の母親
という役どころをしっかり認識した、節度あるしかし情感豊かな
歌唱を豊かな声量とともに表出し、ある意味では
「アンサンブルの1人としての歌唱」に徹していて見事だった
と思う。

アルトはベテランの永井和子さん
深い声というより気品のある温かな声の永井さんは
「慈悲ある語り」ともいうような存在感のある見事な歌唱だった。
「さすが」と言うべきだろう。

テノールはクリストファー・ジレットさん
この劇の役柄としての繊細な声としては合っていたとは思うが、
それでも「もっと声量が欲しいなあ」と感じたのは事実。
これが教会の中での上演だったら全く問題無いのだが、
東京芸術劇場の大ホールでの「歌い」の場合、役柄を考慮
しても、聴く側としてはもっと響いて欲しいなあと思った。

バリトンは当初はアシュレイ・ホランドさんという人が予定されて
いたが、「本人の都合により」変更され、
クエンティン・ヘイズさんという人が歌った。
急場なのにとても堂々とした良い意味で歌い慣れた感じがした
ので、エルガーのオラトリオによく通じた歌手なのだろうと想像
できる。

その他、部分的に登場するヴァイオリンのソロもコンミスの
大谷康子さんのソロは控えめにして意味を持たせた素敵なソロ
だった。


会場を出るころは、むしろ行くときよりも雨脚は鈍った感じが
していたので、帰途につく聴衆はその点でも皆ほっとした
だろうし、何よりも素晴らしい演奏会を十分堪能できた喜びを胸に
帰途についたはずである。

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