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2010年7月 2日 (金)

日比谷公会堂 開設80周年記念 「第九」

日比谷公会堂が開設80周年を迎えたとのことで、その記念演奏会
の第2弾として、井上道義さんの指揮、NHK交響楽団によって
ベートーヴェンの第9交響曲(1曲のみ)が演奏された。
ソリストは(敬称略)
ソプラノ=小林沙羅
メゾ・ソプラノ=福原寿美枝
テノール=志田雄啓(たけひろ)
バス=ジョン・ハオ(Zhong Hao)
合唱団は、戦前からこのホールでの第九にゆかりの国立音楽大学
合唱団、玉川大学芸術学部合唱団、成城合唱団の合同によるもの
で、若い人が中心ではあるがご年配の男女も数名混じっていたし、
選抜というか代表して出演したわけで、人数バランスも
狭いステージにちょうど男女ほぼ半々だった。

予想通り聴衆の中には、この公会堂を懐かしむ世代の男女が
多く見受けられた。
私は年齢的にはこの公会堂を懐かしむ世代ではない。
私がこの演奏会に行ってみようと思った直接的なキッカケは
ソプラノ・ソロの小林沙羅さんの声を久しぶりに聴いてみたかった
から。
もちろん、記念の公演ということ自体にも関心はあったが。

20数年ぶりに入ったこのホールは、相変わらずイスが隣の人との
間隔が狭い(というか間隔が無い)し、ステージの響は悪くデッド
だし、と、悪いところだらけなのだが、
「それでもそれが日比谷なんだよなあ」と懐かしむ60歳代以上、
70歳前後の聴衆の気持ちはそういう私でももちろん容易に拝察
できる。
なにしろ、戦前から1950年代、60年代の東京(関東圏)
におけるクラシック演奏会の中心はここであり「メッカ」であった
のだから。

さて、演奏について
第1楽章はゆったりめのテンポで開始したのでホッとした。
ここ20年くらいのやたら速いチャカチャカした演奏が主流に
なっていることにうんざりしている人も多いだろう。
この楽章のもつロマン的な巨大さを出すのでなく、井上氏は
楷書的なまでに骨格をはっきりさせた古典作品としての演奏を
行った。他の楽章も基本的には同じ。

合唱がとても良かった。特に男声のトーンがきれいだった。
ステージの響がデッドな分、かえってパートごとの響がコアと
なってしかも予想外に柔らかく響いていた。

ソリストは決して贔屓目(ひいきめ)ではなく、小林沙羅さんの
よくとおる美声が頭抜けて素晴らしかった。
この人を初めて聴いた聴衆はたぶん驚いたに違いない。
実際、終演後の拍手で、井上さんがオケの個別奏者らを
スタンディングさせた後、ソリストも1人1人スタンディング
させたのだが、彼女に対する拍手と歓声が一番大きかった。

2月のマーラーの4番の歌唱の際、私はブログで、
「ドイツ語に関して子音が抑制されていた分、ドイツ語の利点、
 美点、特徴がやや弱められてしまっていた」
という主旨のことを書いたが、ウィーン留学中(一時帰国)の
この日の彼女の声は、カタメの母音による強く太い発声と
子音の拡散する流麗な響がうまく相まってひときは聴き映えのする
歌唱となっていて見事だった。

メゾの福原さんは声質自体は魅力あるものだが、このホールでは
利点が生かしきれておらず気の毒だったし、
テノールの志田さんも声量の点でいまいちだった。
バスのジョン・ハウさんは今年3月、神奈川県民ホールでの
「ラ・ボエーム」でのコッリーネの充実した歌唱が印象的だったので
楽しみにしていたが、小林沙羅さんに次いで声は出ていたものの、
このホールの響に戸惑いがあったのか、なんとなく
歌い難そうにしているような印象を受ける歌唱だった。


カーテンコールがひととり終わり、最後に井上道義さんが、
「昭和12年(1937年)に、ここ日比谷公会堂で第九を
 歌ったかたが会場にいるんです。
 92歳、○○さん、どこ?」

聴衆が驚き一斉に周辺を見渡しだしたことは言うまでもない。
2階の一番奥のほうにいらっしゃったようで、1階席後ろの
私の席からは見えなかったが、大きな拍手が起きたことは
言うまでもない。

73年前だから、当時19歳の学生。
プログラムによると現在の国立音大である東京高等音楽学校が
メインで、玉川学園の学生も何人かいっしょだったというから
どちらかの学生だったということだろう。
戦火をくぐり、いや徴兵されただろうから、いずれにしても困難な
時代を生き抜いてこられたことに驚き、感動する。

そして更に井上氏は、
「ステージの合唱団には89歳のかたもいます」
として男声(バス)を指差し、当人が立ち上がり、
同様に大きく温かな拍手を受けたのだった。

大規模な改修工事が予定されているこのホールについて
井上氏が、「日比谷公会堂の未来に拍手」
として聴衆の大きな拍手の中、退場し、演奏会が終了した。

最後に主催者側にひと言
公会堂の歴史についての資料を2000円で販売するのは結構
だが、プログラムにも簡単でいいから触れておくべきだったと
思う。
N響の演奏史が中心になるからその記載でとって代わるということ
だろうが、やや不親切だと思う。
それと、合唱指導者として田中信昭さんがカーテンコールに登場
して紹介されたが、もう1人、知らないかたも登場された。
プログラムに田中信昭さんも含めて合唱指導者の名が記載されて
いない点も良くないと思った。

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