マリコとオペラ
後日記載します。
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東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の第357回定期演奏会を1月28日午後、東京オペラシティで拝聴した。
指揮は、常任指揮者の高関健さん。
話題再燃の小林愛実さんが出演するとあってか、3階まで満席に近い入りだった。
多くのコンサートが重なるこの日、私がこの公演を聴こうと思った理由は、第一には小林愛実さんだった。ただし、例の話題は関係ない。早い段階でチケットは購入済だった。
もう1つは、以前このオケを聴かせていただいたとき、とても素晴らしいオケと感心し、そのオケが、「英雄の生涯」を演奏する、ということが第2の、というか、愛実さんと同じくらい関心を抱いたことによる。
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1曲目は、ベートーヴェンの「献堂式」序曲Op.124
リズムが単純な場面が多いが、中間部から後半、エンディングという展開と構成感は、「さすが、ベートーヴェン」と感じ入った曲と演奏。
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2曲目は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.37
愛実さんは、赤く長いコート風の上と赤いズボン、胸元は黒、という衣装で登場。ちょっと「ヅカガール」ぽくって格好良かった。
ピアノ協奏曲第3番は、技術的には難しくなく、国内の中学生でも弾ける人は少なからずいるだろう。
逆に言えば、そうした曲で、聴衆を納得させなければならいという点では、シビアな曲かもしれない。
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第1楽章
ハ短調のキリリとした格調だけでなく、愛実さん特有のまろやかな音と、ソフトなタッチ、フレージングが随所にあり、特に違う曲想に移行する部分などに、それが顕著だった。
カデンツァがとても印象的で、ショパン的な流動感に加えて、アグレッシブ感ある追い込みあり、聴き応え十分だった。
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第2楽章
愛実さんの個性からして、演奏前から期待できたし、実際、素敵な演奏だった。
ただし、深遠でシリアスなアプローチというのではなく、自然体による抒情性と詩的な歌が続き、日本庭園的な美観を想像したりもした。
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第3楽章
当然、アタッカで入る。愛実さんは特定の音~例えば「As」~を強調したりすることはほとんどなく、全体としての流動感、躍動感、チャーミングさを基調とする演奏。音量のある人ではないが、ソフト感、キリリ感、流動感と抒情性など、彼女の魅力が随所に表れた好演だった。
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万雷の長い拍手と、4回だかのカーテンコールだったが~当然、アンコールを期待しての拍手でもあったが~なぜか、愛実さんはアンコールを弾かなかった。体調ということは関係ないだろう。
「ベートーヴェンが2曲続いた後で、ショパンというのも」と思ったのかもしれないが、聴衆が少しガッカリしたのは事実だろう。
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昨年は、愛実さんを協奏曲で3曲、リサイタルで1回と、4つのライヴを聴かせていただいた。
今年は出産を控えているから、ライヴの回数は減るかもしれないが、今後も楽しみなピアニストであることは言うまでもない。5月には、ラヴェルのピアノ協奏曲を聴かせていただく予定だが、安定期だろうから、キャンセルは無いと想像している。
日本人のオペラ歌手、ピアニスト、ヴァイオリニスト、チェリスト等の器楽奏者、プロ合唱団員等を問わず、ママさん音楽家は、当たり前の様に沢山いらっしゃる時代だし、外国では、古くは、クララ・シューマンを始め、現代においても、アルゲリッチを含めて、当然、大勢いる時代だ。
個人的には、ご主人にも増して、愛実さんのピアニズムが好きなので、今後の活躍を益々期待したい。
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休憩後の後半は、R・シュトラウスの「英雄の生涯」
期待に違わず、いや、期待以上の素晴らしい演奏だった。
戸澤哲夫さんのヴァイオリンソロが完璧なのは言うまでもなく、エレガント感があり、とても良かった。コーダでのソロでは、もう少し音量があれば、更に良かった。
金管の全てのパート、パーカッションの全てのパートが充実。「英雄の戦場」での場面も迫力十分。聴き応え十分の連続だった。
首席フルートは竹山愛さん。先月、水戸で、「東京六人組」の上野由恵さんの代演として、至近距離で拝聴したばかりだから、親近感が増した。
高関さんも、随所で微妙なテンポ変化を付けながら、ストレートな演奏にして、ふくよかさと余裕のある演奏に導いていた。
万雷の長い拍手が続いたのは言うまでもない。
優秀なオケ。今後も聴かせていただくのが楽しみだ。
フライハイト交響楽団の第50回記念演奏会を1月22日午後、すみだトリフォニーホールで拝聴した。
ただし、プログラム前半の、バッハ(シェーンベルク編曲)の「前奏曲とフーガ 変ホ長調BWV552『聖アン』」は、所用の関係で間に合わず、後半のマーラー交響曲第9番のみの拝聴。指揮は、これまでこのオケを何度も指揮している森口真司さん。
初めて聴かせていただいたフライハイト交響楽団は、1996年4月に結成。1つの大学OBとか地域的な要素を基盤とするオケではなく、かつて存在した「ジュネス」でお馴染みのJMJ(青少年日本音楽連合)で知り合った人たちにより結成されたとのこと。
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「ジュネス」は、各一般大学のオケに所属する人の中から、オーディションで選抜された学生により毎年、臨時に結成され、年1回、「青少年音楽祭」として「春の祭典」を含めて色々な曲を演奏し、NHKでも放送されていた。よって、スタートの時点で、ハイレベルな奏者たちが集まった団体と言える。なお、「ジュネス」は、2001年7月8日の「第74回 青少年音楽祭」を最後に、活動を終えた。
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このオケの第1回の演奏会は、結成年の1996年7月で、この日と同じ、マーラーの交響曲第9番。その後、これまでに、マーラーは、1番、2番、3番、5番、6番、7番を演奏しており、1、6、7番のときの指揮も森口さん。
他、演奏履歴を見ると、R・シュトラウスの「英雄の生涯」や、バルトークの管弦楽のための協奏曲、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲などがあるから、自ずとハイレベルなアマオケだと分かる。
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この日の演奏も、確かに優れた立派なアンサンブルによる演奏だった。ただ、「上手かったのだが」と、私はどうしても「だが」を付けたくなる演奏でもあった。
象徴的な部分を言うと、第4楽章の、というより、全曲の最後、終わりから2小節目のヴィオラによる2分音符での3連符の表情付けが、素っ気なく弾かれて終わったこと。確かに「PPP」だが、各2分音符にはアクセントがある。ここは、たっぷりと、テヌート+アクセントのように余韻をもって演奏する例が多いし、私はそうすべきだと思う。
この、良く言えば「自然体」だが、悪く言うと「表情付けの薄さ」が、各楽章全体に共通して感じたことだ。
敢えて「演出」をしない演奏としたのかもしれないが、マーラーの様々な思いが内包された、最晩年の偉大な傑作なのだから、マーラーの「強い思い入れ」に深く感じ入り、もっと「演出」して然るべき曲だと私は思う。
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もう少し具体的なイメージで言うと、強弱の振り幅(ダイナミクスレンジ)が、「FFF~PPP」ではなく、「F~mP」という印象を受けたし、細かな緩急の変化も、もっとあったほうが良かった。
少し厳しい表現をすると、全体的に、「堅実だが、リスクを避けた安全運転過ぎる演奏」、「冒険のない、優等生的演奏」。もっとスリリングな、リスクのギリギリを攻めたマーラーを私は聴きたい。
係る点から、「とても巧い演奏だったのだが」と、「だが」を付けたくなる演奏だった。
以上の点は、当然、指揮者の個性に関わる点なので、オケ自体に関しては、とても優秀な、立派なオケであり、演奏であったことは明記しておきたい。
臨時編成のオケでなく、常設の単体のアマオケで、このレベルで、この曲を演奏できる団は、決して多くはないだろう。立派なオケだと思う。
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田部京子さんが浜離宮朝日ホールで展開してきた「シューベルト・プラス」のシリーズ第10回を12月4日午後、同ホールで拝聴した。
プログラム最後にシューベルトのソナタ第21番を置くリサイタルは昨年もあったし、前半のブラームスも含めて、最下段に記載の演奏曲やその構成は、「以前、見たような、似ているような」という印象を受けるが、それもそのはず。この日は、「シューベルト・プラス第10回・最終回特別編」と銘打ち、来年CDデビュー30周年を迎える田部さんが、これまでのシューベルト・プラスのシリーズの中からアンコール・セレクションとして組まれたプログラムだった。
田部さん自身がその思いをプログラムに寄稿されているので、それは最後にご紹介します。
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1曲目は、ブラームス「4つの小品」Op.119
第2曲ホ短調、第3曲ハ長調の「間奏曲」、第4曲変ホ長調の「ラプソディ」は、いずれも「動き」が顕著な曲で、特に「ラプソディ」では集中力と熱量のある演奏で聴衆を魅了したが、最も田部さんらしい美点を示していたのは、第1曲のロ短調の「間奏曲」かもしれない。
開始から詩情と夢想があり、即興的でもあると同時に、入念で確固たる譜面の読み込みから来る格調の高さがあって、素晴らしかった。
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2曲目は、ベートーヴェンのソナタ第32番 ハ短調Op.111
第1楽章は、最後のピアノ・ソナタだからと言って、冒頭から特別な気負いを全面に出すのではなく、譜面の音を丹念に、そして情熱的に奏していく中で、田部さんの個性とベートーヴェンの曲に込めた思いが繋がっていくような、律儀にして揺るぎない構成感のある演奏だった。
第2楽章がとりわけ充実の名演。
静寂さとダイナミズム。場面ごとの曲想に応じたニュアンスの変化とその多彩さ。クライマックスに至るドラマと、その静寂にして気品あるエンディグへの着地。
ライヴ録音(リリース)に値するにとどまらず、控えめに言っても、過去の巨匠たちの名演にも伍する、ベートーヴェン最後のピアノ・ソナタの最良の表現としての見事な演奏だった。
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休憩後の後半は、
シューベルトのソナタ第21番 変ロ長調D960
最晩年にして大作、傑作であり、田部さんと言えばこの曲、と言えるほど、曲と演奏者の強い関係性を感じさせる曲でもある。
第1楽章
田部さん特有の、冒頭にたっぷりとしたテヌートを置いての、しかし、さりげない開始。まるで1分くらいで終わるかのような曲を、即興的に開始したのだが、小節を追うごとに、譜面の中に散りばめられた複数の逸話やドラマを丹念に描く出すことで、喜びや安寧や不安を表現し、清らかさやドラマティックな盛り上げ等により、様々な曲想、シューベルトの感情を描き出して行く。
田部さんがこの曲で示したのは、最晩年の曲というよりも、シューベルトはまだこれからも沢山、傑作を書いていくのだ、という「希望」を根底に置いた演奏だったと感じた。
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第2楽章
短調による哀しみの曲想においては、控えめなペダリングによる低音の丁寧な打鍵と、落ち着いた祈りの表出も素敵だったが、中間部の長調による場面が特に印象的だった。平穏な日常の静かな喜びと未来に繋がる希望。その表出と対比が見事だった。
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第3楽章
シューベルトがまるで、「大丈夫。僕は元気だよ」、とでも言っているかのような、嬉々とした表現がとても魅力的だった。
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第4楽章
さりげなさを基盤においている点で、先日聴いたピリスに似た印象を覚えたが、田部さんは、流麗なフレージングやダイナミズムの強調により、積極果敢に喜びを打ち出している感があった。
音の美しさも含めて、多彩な曲想を弾き分けて描いて行く力量の見事さ。全体としての格調の高さ。
この曲全体、いや、プログラム全体において言えることは、音の粒立ちの密度の濃さと多彩なニュアンス。それにもかかわらず、「ブレ」の無さ。気品と格調の高さ。
あらためて世界的なレベルの、日本を代表するピアニストであることを強く実感できた演奏だった。
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デビュー間もないことからの、ご年配となられた多くの常連集を含めて、客席の9割近くは埋まった会場からの盛大な拍手に応えてのアンコール1曲目は、
シューベルトの即興曲 第3番 変ト長調。
エレガントな長調の部分における魅力だけでなく、短調の場面における感情移入とその起伏が素晴らしく、アンコール・ピースとしての演奏ということを忘れ(超えて)、この1曲を聴けただけでも価値のあるリサイタルだったと言えるほどの充実した演奏。
最高のお手本としての演奏とも言える。
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2曲目(この日、最後の曲)は、この日も(いつもどおり)来場されていた吉松 隆さん編曲による、シューベルトの「アヴェ・マリア」。
この時期に、係る世界の状況の中にあって、田部さんが弾くこの曲の清らかさと熱い祈り、思いのこもった演奏を聴く喜びは格別なものがあった。
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田部京子さんの寄稿文
「今回は、これまでのシューベルト・プラス・シリーズの中で取り上げた作品の中から、最終回に聴いていただきたい特別な3曲でプログラミングしました。「生涯にわたり敬愛したクララ・シューマンに贈られ「灰色の真珠」と評されたブラームス最後のピアノ曲「4つの小品」op.119、革新と共に変遷を遂げたベートーヴェン最後のピアノ・ソナタとなった第32番op.111、そのベートーヴェンを崇拝し、自ら松明を持って葬儀に参列した翌年、後を追うように生涯を終えたシューベルトが死の直前に遺した最後のピアノ・ソナタ第21番D.960。ピアノ音楽の中でも金字塔ともいえるこの3つの晩年作品には、それぞれに人生の濃密な時を経て至った境 地が広がり、孤独、苦悩、焦燥、絶望すら時に超越しているかのような静かな諦観、崇高な祈り、希望、慈愛、そして魂の救いを感じます。遺された傑作に刻まれた楽聖最後のメッセージに耳を澄ませ、皆様にお届けしたいと思います」
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演奏曲
1.ブラームス:4つの小品Op.119
2.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番Op.111
3.シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調D960
アンコール
1.シューベルト:即興曲 第3番 変ト長調Op.90-3 D 899
2.シューベルト:「アヴェ・マリア」(編曲:吉松 隆)
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